part 12 謎の客が語り始める、人と大きく違う出生
文字数 736文字
む、と剣崎は声を飲み込んだ。
目をすっと細め、そのまま心をどこかへやってしまったようだった。蝶の羽ばたきに似た夢想的な間合いでまた目を開き、細め、を繰り返す。目前の客を透かして途方もない遠くを眺めているかに見えた。
単調な砂漠の景色を映し慣れた窓は、一日で最も劇的な夕刻の訪れに浮き立って輝き、沈黙に奇妙に音楽的な濃淡を与えている。剣崎は、その細部に引かれたように、ゆっくりと今ここにある世界に目を戻すと、ぶつぶつと小さく呟き出した。
「だったらやはり、生身の体のわけがない。それにしても、ついに新しい体で生まれた子供がいるって噂は聞いたが、はじめから大人ってのはいくら何でもまだ……もっとも、それもあんたが、我々と同じ人間だったらの話だが」
どこか夢見るような変拍子ながら、その声には不敵な落ち着きが戻っていた。客はそれを事もなげに聞き流すと、おもむろに立ち上がった。上着のポケットを探り、掌ほどの、わずかに反った白い薄片を取り出す。遠くで残照の熱を受けた砂土の放つ赤い光が、白にほのかな暖かみを添えている。
一方、手渡された剣崎の顔は、蒼白に転じた。
「これは……しかし、なぜ」
剣崎は勢いよく直立したきり、手の中の、花弁のかたちの白い物体に見入ったまま凍りついている。
「あなたになら、ありふれた品でないのがおわかりでしょう。でも材質まではどうですか。有機物と見紛う多孔質の構造ながら、主成分はこの地上によくある鉱物と同じ、珪素化合物です。最も特異な点は、ある金属を微量に含むことで、人体には影響を及ぼさないとされていますが、実は特定の構造下で意外な働きをする……」