part 9 最愛の妹は今

文字数 700文字



 望がおかしいって、噂くらいは聞いてるんだろう。実はもう死んでて、私が一人二役やってるなんて、昔の悪だくみと正反対の、傑作なのもある。それとも、もっと出所のまともな話にあたってきたのか。言っておくが、それだって事実じゃない。なぜ断言できるかって、事実なんか私にもよくわからないからさ。別に隠してるわけじゃない、説明のしようがないだけなんだ。望は突然、奇病を患ってね。時々前触れもなく倒れて、鼓動も呼吸もピタリと止めて何日もそのままになる。最初は死んだかと思って泣いたけど、球になだめられて様子を見てると、そのうち何もなかったように動き出す。聞いたことのない話だろう。球も調べてくれるが原因がわからない。命の危険はなさそうだと言うが、専門家の意見とはいえ推測の領域だ。望は好きなものも思い通り作れず、よく混乱したり塞ぎ込んだり辛そうだった。私も、長生きしたいなんぞと思いもしなかったくせに、望が早死にすると想像しただけで気が狂いそうだった。
 そんな時、生体技能者の認定制度が始まって、特級に私を推薦したいと(たま)が言い出したんだ。球自身も認定者に内定したから、球の診療が特級技能とみなされ、もう一般の人間を勝手に診られなくなる事情もあった。私も認定者ならば自由に診られるし、私の技能を維持するため、望の健康状態が私と同じ必要があると認められれば、望も治療できる。今ならばそう話を通せると。現代に球以上の医者はいないよ。決して身内びいきじゃなく、実際そうなんだ。この時点で、話を受ける以外、考えられなかった。
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登場人物紹介

剣崎顕(けんざき あき)

人工臓器造りの名手。特級生体技能者に認定され、制作物のあまりの精巧さに、「狂女王」と呼ばれ恐れられるほど。臓器造りを始めるには、あるきっかけがあったようで……

剣崎望 (けんざき のぞみ)

剣崎顕の双子の妹。顔は姉と瓜二つ。造形家で、動物・植物のほか密かに抽象立体も作っている。本物そっくりの動物が評価されてかつては超・売れっ子だったが……?

宮ヶ瀬球(みやがせ たま)

現在多くの人が恩恵を受ける画期的な再生医療技術の礎を築いた天才医師。剣崎姉妹とは浅からぬ因縁があるように見える。

謎の客

「新しい体」を持つ、剣崎より若い人物らしい。剣崎姉妹と宮ヶ瀬球の話を聞きたいと訪ねてくるが、何の目的があるのかは不明。

人形たち

剣崎顕は数多くの人形(人工体)を制作してきた。人間にそっくりだけれど動かないことで死体に見えてトラブルになったこともあるというが……

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