part 23 宇宙のひねくれ者

文字数 665文字



 娘は眉根を寄せ、再び厳しい顔になった。
「実は何もかもわかっていたと? ならば私が今日来る意味などなかったんですか。信じられない、それならそうと」
「まさか、そうじゃないよ。あんたの正体をさっきようやく悟ったのは本当だ」
 しばし考える間に娘は何度かその表情を変え、手探りしながらの慎重さでやっと口を開いた。
「では、コマンドを認識した上で逆らい、自己複製不能なように人形を作ったとでも? 私の誕生は思惑違いでしたか」
 剣崎はにやにやして答える。
「わざと足りなく作るほどひねくれちゃいない。ただ、知りもしない仲間のために働くより、好きなことをしたまで。私は、人形を作りたかっただけ、それを自己複製と結びつけたことすらなかった。そりゃあ、自分が他の人間と違うようだと気づきはしたさ。だが気づいたからといって、この姿でこの星に生まれたことは変わりゃしない、呪いじみた話じゃないか。あんたが思い至らなかったのは、姿が似てたって中身は違うってこと、コマンドや他の情報が多少読めたところで、知ったことかと蹴飛ばすやつもいるってことさ」
 娘はさながら泣き出す寸前の子供の、大きな丸い目になって聞いていたが、全身の力と引き換えに満ち満ちた諦念を一気に吐き出すように、深く嘆息した。
「何てことだ、盲点だったには違いないけれど、それで崩壊しないあなたの自己構造がわからない」
 怒りも呆れも放り捨てた顔には、迷い子の心許なさが、もう隠しようもない。
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登場人物紹介

剣崎顕(けんざき あき)

人工臓器造りの名手。特級生体技能者に認定され、制作物のあまりの精巧さに、「狂女王」と呼ばれ恐れられるほど。臓器造りを始めるには、あるきっかけがあったようで……

剣崎望 (けんざき のぞみ)

剣崎顕の双子の妹。顔は姉と瓜二つ。造形家で、動物・植物のほか密かに抽象立体も作っている。本物そっくりの動物が評価されてかつては超・売れっ子だったが……?

宮ヶ瀬球(みやがせ たま)

現在多くの人が恩恵を受ける画期的な再生医療技術の礎を築いた天才医師。剣崎姉妹とは浅からぬ因縁があるように見える。

謎の客

「新しい体」を持つ、剣崎より若い人物らしい。剣崎姉妹と宮ヶ瀬球の話を聞きたいと訪ねてくるが、何の目的があるのかは不明。

人形たち

剣崎顕は数多くの人形(人工体)を制作してきた。人間にそっくりだけれど動かないことで死体に見えてトラブルになったこともあるというが……

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