part 3 剣崎の思い出話 数百年の昔のこと
文字数 987文字
「昔は姿かたちが似るのは不思議な、時にそれを通り越して、禍々しいことでした。私たちのような双子も、もっと古い時代には不吉とされ、片方は棄てる習わしだったというから恐ろしい。でも、私たち姉妹も生後間もなく揃って棄てられていた子です。親が古い俗信で双子を嫌ったとすれば、これでもまだ、早く生まれ過ぎたのでしょうか」
客は聞き手に回るなり押し黙り、わずかに首をかしげたまま微動だにしないのは、人工体のひとつかと思わせるほどだった。剣崎は腕組みをして下目遣いに相手を伺うと、そのまま遠くへ目を移し、言葉を継いだ。
「
ちらりと見やった若い来客の顔には依然、まるで表情の変化がない。剣崎の瞳には、不審げな、逆に得心したとも取れる、複雑な色差しがあらわれた。だがそれも、小さな果実がソーダ水に沈み、すぐに気泡をまとって浮かび上がるほどの、ほんのひとときの移ろいだった。
「まだ世界が国に分かれていた最後の頃です。『国』が今の『地区』とは似て非なるもの、主に地理的に濃縮された遺伝子を共有する、原始的な集団だったのはご存じでしょう。私の育ったジャパンは黒髪に黒い瞳の人ばかりが住み、私の――あなたも同じですね――灰がかった緑色の瞳などは、誰もが外国の血と疑わず、珍しがるような国でした。ええ、おっしゃる通り、生きていた言葉も、公用語でもあった古いものがひとつきり。その後共通話を覚えたおかげで、こうして神経同期に頼らず話せますが……何ですって、ジャパニーズをお話しになる? ええ、私はその方が不自由がないくらいですが」
客の突然の提案がよほど思いがけなかったか、蝋のように白かった剣崎の頬にかすかに赤みが差した。持ってまわった口調の「連邦共通話」をやめ、くだけたジャパニーズを口に乗せると、自然と剣崎の舌はなめらかに、表情も多少の起伏と変化を得てゆくようだった。