part 1 砂漠の一軒家 剣崎姉妹の工房
文字数 906文字
「世の中にはそっくりな人間が五人はいる、などと昔は言ったものです――おや、何のことかというお顔、お若い方には無理もないですが――これはいわば世界の広さの言い換えで、狭い世間で暮らせば、似た人にそうは会わなかった。今は外見など好きに変えられるのだから、奇抜なご面相で百花繚乱、溢れかえってもいいはずが、どうしたことか、かえって同じ顔が五人どころでないときている。人類の退化の表れなのか――確かにそんな頃合いでしょう――それとも、地球外知的生命の秘密裏の干渉を真剣に怖れる時代だけに、人間同士似せておけば、よそ者をあぶり出せて安心とでもいうのだか。フフフ……益体もない話をしました、『新しい体』の若い方がわざわざ訪ねてくださるなど初めてなので新鮮で、つい」
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その生身の手で万を超える精巧な人工臓器を作った特級生体技能者、
奥行きのある細長い部屋には、剣崎の生み出した半生命とでもいうべきものたちがひしめいている。入口に近い側の壁を覆う棚には、これも手製の、大小様々な透明セルが並び、満たされた琥珀色の液体に浮かぶのは、臓器をはじめあらゆる人体の部品――眼球、耳殻、骨や歯、手足の指など。セルの歪んだ膜壁は、何世紀も前の手吹きガラスに似て、わずかな視線の動きに応じ、中のものがゆらりと動いたかのように、あるいは、囚われの深海生物じみた暗い目で見つめ返すかのように錯覚させ、前に立つ人を幻惑するという。
おびただしいセルの棚を抜けると、奥の一角には、スタンド型の台に身を預けた人工体が居並ぶ。それらは何ひとつ欠けたところのない完全な人体としか思われない一方、命を持たないと一目でわかるという矛盾を平然とまとって立つ。濁りのない瞳の浮かべる光はどこか虚ろで、しかし見つめられるうち、やがてついえる命を哀れまれる心地になると言う人もいる。生きた体として何かが足りないというより、むしろ過剰であるしるしかもしれない。