part 14 生命とは、と客は語る

文字数 742文字



「わからないね。どうも私たちが、地球を征服にきた宇宙人だとでも言ってるように聞こえるが」
「そう言ってるんですよ。わかっているじゃないですか」
 挑む眼差しを向けつつ、客は生真面目に頷いた。半眼で睥睨する剣崎だったが、ふっと苦笑いに息を吐く。
「よく無防備に言うもんだ、そんなことを」
「予告なく訪ねて、神経同期を介さず話す。あなたが監視録画や録音をお嫌いなおかげで、記録に残らず安全な方法が見つかって助かりましたよ」
「なるほどね。で、取り敢えずあんたが地球外から送り込まれた生命体だとしてだ。大人の体で卵の殻を破って生まれた時から、何もかも覚えているって? 使命とやらを」
「私の、いえ我々の設計図、コマンドの一部を私は読めます」
 若い訪問者は人差し指で自分のこめかみを指し、とうとうと述べ出した。
「生命とは、自律する規則に従いながらも周辺環境に応じて変化する、半分閉じた情報のこと。我々はそう定義します。地球人による定義も、極端に物質に囚われ過ぎているとはいえ、さほどかけ離れたものではありません。ただ地球人は、情報と、自身を形作る物質との繋がりを解明するにも、遺伝子の構造と働き止まり。未だにろくに理解できていませんが」
 ある種の催眠状態を思わせる流暢さである。剣崎は、まだ余裕を残した面持ちでひとまず聞くに徹したものの、時々苛立たしげに眉を上下させ始めた。ついに、息を継ぐ隙をついて口を挟む。
「ほう、地球人など及びもしない知恵を持つあんたたちは、その情報をコマンドと呼ぶと」
「まだ、生命が情報だという見解をお伝えしただけです」
 慌てるなと制する一言で、客は剣崎を黙らせた。
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登場人物紹介

剣崎顕(けんざき あき)

人工臓器造りの名手。特級生体技能者に認定され、制作物のあまりの精巧さに、「狂女王」と呼ばれ恐れられるほど。臓器造りを始めるには、あるきっかけがあったようで……

剣崎望 (けんざき のぞみ)

剣崎顕の双子の妹。顔は姉と瓜二つ。造形家で、動物・植物のほか密かに抽象立体も作っている。本物そっくりの動物が評価されてかつては超・売れっ子だったが……?

宮ヶ瀬球(みやがせ たま)

現在多くの人が恩恵を受ける画期的な再生医療技術の礎を築いた天才医師。剣崎姉妹とは浅からぬ因縁があるように見える。

謎の客

「新しい体」を持つ、剣崎より若い人物らしい。剣崎姉妹と宮ヶ瀬球の話を聞きたいと訪ねてくるが、何の目的があるのかは不明。

人形たち

剣崎顕は数多くの人形(人工体)を制作してきた。人間にそっくりだけれど動かないことで死体に見えてトラブルになったこともあるというが……

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