part 20 古くて新しい出会い
文字数 737文字
「あんたが、あの……いや、確かにそうだ、そうじゃないか」
見知らぬ訪問者であることだけは、今に至るまで疑いもしなかったのだろう。その相手の肌の上に、自分だけが知る秘密の痕跡でも見出したのか、剣崎の目の色が変わった。瞳の奥から、これまでにない銀色の光が浮かび上がる。あたりを焼灼しそうに強烈で、人の感情など超えた何かとしか見えないのに、体温と湿り気を感じさせて生々しい閃光だった。それはぎらりと短い輝きを放つと、無の空白のような残像を置いて駆け抜けて行った。
「ええ、あなたが作ったのは人間でも、死体でもなかったんです」
剣崎は放心したように、はたまた高次元を跳躍するかのように静止していたが、やがて低く声を殺して笑い始めた。客の表情はそれに反し、水底に沈みゆく石の重さを感じさせてますます冷えてゆく。
「これしきで理解を超えて気が変になりましたか、人間でもあるまいに」
どこか虚勢の覗く冷笑を浴びて、剣崎はようやく仏頂面を作って笑いを抑えたが、
「いや、むしろ合点がいった、悪くないね。変だと思ってたこと全部に説明がつくじゃないか」
と、言葉に出すうち堪え切れなくなったのらしく、かがんだ腰に両手を当てた格好で椅子から立つと背を向けた。肩を震わせ、乱れた息を整えている。
「……球のやつ、あの死体人形を、私に内緒でね」
ひとしきり笑いと格闘した後、まだおかしそうに言うと、入口の扉と窓との間へ目をちらちらと往復させ、またくるりと客へ向き直る。
「その球だけど、今夜来る予定なんだ。会うかい。もうそろそろだ」
ひどく唐突な誘いだった。だが客は顔色も変えず、辞去の構えである。