part 6 今明かされる剣崎姉妹、秘密の悪だくみ

文字数 814文字



 大っぴらにしてない話だが、今となっては些細なことだしもう時効だ。それにあんたは事情があってここへ来たようだし。調べられる限りのことは尽くしてきたんじゃないのか。何のためだかは知らないが、新しい話が聞けなきゃ無駄骨だろう。
 さっきの話で納得? するわけないだろ。それでも話していいのかって? さあ、ただ、なぜかあんたの企みがそう悪いことの気がしなくてね。出会った頃の球を思い出す。なんだ、簡単すぎて裏があるんじゃないかって顔だね。気持ちはわかるが、そう警戒しなさんな。今日という日に何か、あの時と重なるものを感じてならないんだ。たぶん、あんたが思う以上の意味で。

 そう、(たま)の話だった。
 どうせ騙すなら死体に慣れてて、ちゃんと調べる人間の方が面白いだろう。死んだ殺したの騒ぎが人に及ぶのも夢見が悪いから、作るのは自然死か病死をした、自分そっくりの死体人形。となると騙すのは医者。二人で立てた計画はこうだ。まず私が瀕死を装って病院へ担ぎ込まれ、回復したがまだ不安だと言い張って入院する。どうにか一般病棟の個室に移れたら次の段だ。人形を望が密かに荷物に紛れさせて病室に運び、私が態勢や体温を調整してかわりにベッドに寝かせ、入れ替わる。
 そこまでが難しいと思ったのに、やってみると案外順調だった。あとは私が隠れた後、望が医者に急変を知らせて、さあ会心の作が本物の死体に見えるか、お立ち会いだ。細胞やDNAまで調べられるとさすがにまずいが、それも医者が不審死や希少病例と判断しなきゃ勝ちだ。ここまでくればうまく行くと思った。その時は、死亡届は出さずに逃げるか、いっそ出して死人の自由を手にし、生者としては望と二人一役でひっそり生きるか、どっちも悪かない気でいた。真夜中の暗がりで、その最後の相談中だったよ、あいつが入ってきたのは。
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登場人物紹介

剣崎顕(けんざき あき)

人工臓器造りの名手。特級生体技能者に認定され、制作物のあまりの精巧さに、「狂女王」と呼ばれ恐れられるほど。臓器造りを始めるには、あるきっかけがあったようで……

剣崎望 (けんざき のぞみ)

剣崎顕の双子の妹。顔は姉と瓜二つ。造形家で、動物・植物のほか密かに抽象立体も作っている。本物そっくりの動物が評価されてかつては超・売れっ子だったが……?

宮ヶ瀬球(みやがせ たま)

現在多くの人が恩恵を受ける画期的な再生医療技術の礎を築いた天才医師。剣崎姉妹とは浅からぬ因縁があるように見える。

謎の客

「新しい体」を持つ、剣崎より若い人物らしい。剣崎姉妹と宮ヶ瀬球の話を聞きたいと訪ねてくるが、何の目的があるのかは不明。

人形たち

剣崎顕は数多くの人形(人工体)を制作してきた。人間にそっくりだけれど動かないことで死体に見えてトラブルになったこともあるというが……

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