part 4 妹は滅びゆく動物たちの姿をそのままに

文字数 731文字



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 ああ、驚いた、日本語ができるなんて。へえ、親が日本の出と聞いて習ったの。決まった親がいるのも珍しい、今は遺伝上の親が誰とも言えず大勢いる人が多いのに。それがセントラルで習うジャパニーズね、癖がなくて水みたいだ。私は東京で育ったんです、遷都前の。そのへんの方言が一応、日本標準語だった頃で、まだ海に沈む兆候もなかった。後の混乱と遷都とですっかり変わって、私たちも養い親と家をなくしましたが。あの頃の東京は、J地区の長老どもに言わせれば随分壊れて汚れて、もう古い良いものなんぞないから捨てた方が良かったそうで。なるほどごもっともだが、壊れて汚れた言葉で育った後、これからは共通話だ、すぐに次は言葉なんか要らない世の中だ、なんてことになって捨て置かれたら、いつまでもその汚れた刻印が消えずに残る。私の言葉はそういうもんです。
 望が造形作家になったのは遷都の後。もう珍しかった猫や犬、栗鼠や鹿や鳥なんかを本物そっくりに作った。動物が減ってきた頃は、その説そのものの妥当性を含めて、どうするべきか、せざるべきかと論争の種だったと聞きますね。でも、明らかに取り返しがつかないほど減ってしまえば、誰もが安心して滅びゆく生き物を懐かしむ。そんな段階に入った時代でした。今から思えば、まだ余裕があったんでしょう。ともかく、望はたちまち、注文者が列をなす売れっ子になって、二人分の生活を支えてくれてた。残念ながら、望の了解が取れたとしても、当時の作はもう大して手元には……おや、違う? では見たいものというのは……?
 そうですか。私の話を先に聞きたいならば続けましょう。
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登場人物紹介

剣崎顕(けんざき あき)

人工臓器造りの名手。特級生体技能者に認定され、制作物のあまりの精巧さに、「狂女王」と呼ばれ恐れられるほど。臓器造りを始めるには、あるきっかけがあったようで……

剣崎望 (けんざき のぞみ)

剣崎顕の双子の妹。顔は姉と瓜二つ。造形家で、動物・植物のほか密かに抽象立体も作っている。本物そっくりの動物が評価されてかつては超・売れっ子だったが……?

宮ヶ瀬球(みやがせ たま)

現在多くの人が恩恵を受ける画期的な再生医療技術の礎を築いた天才医師。剣崎姉妹とは浅からぬ因縁があるように見える。

謎の客

「新しい体」を持つ、剣崎より若い人物らしい。剣崎姉妹と宮ヶ瀬球の話を聞きたいと訪ねてくるが、何の目的があるのかは不明。

人形たち

剣崎顕は数多くの人形(人工体)を制作してきた。人間にそっくりだけれど動かないことで死体に見えてトラブルになったこともあるというが……

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