part 18 この星の人は知らない苦労

文字数 818文字



「そうは言ってもあんたが球の子供かどうかは別の話だ。私と望があんたの同類かってのも、さらに違う問題だろう。仮にそうだとして、なぜ望だけがそんな能力に目覚めなきゃいけない? 私は三百年、何事もなかったのに。それが予定されたプログラムだとあんたは思うのか。それとも事故だと」
 詰問する口ぶりに、半可に諦めたといった煮え切らなさが漂った。客はどこか寂しげに微笑んで答える。
「わかりません。ただ、三百年という年月は、我々種族の四次元的なサイズからすれば、ほんの僅かな距離のようですよ」
 じっと見返したまま聞いていた剣崎が、にやりと笑った。
「えらく厄介な生き物じゃないか。少なくとも地球人にとって厄介すぎる敵だ。連邦政府に知れたらどうなることやら。もっとも、四次元を自由に渡れる便利な生き物の側から見れば、知られたところでどうもないのか」
 客もまるで動じることなく笑い返したかに見えた。だが、そのまま口元を引き締めて話し出すと、目に浮かべた表情が果たして笑いを意味していたのだか、すぐに定かでなくなる。
「そうでもありません、不便なものですよ。自分自身を作り動かす情報へのアクセスの困難こそが、地球人の本質のようです。自分が何者だかわからないというね。かれらに適合させるためだか何だかで情報への道を塞がれて、環境にも、自分の体にさえも馴染めない境遇で放り出されては、やみくもに生きることの波風の過酷さは、地球人を上回る」
 その顔は紫がかった夕日の最後のひとすじに照らされ、鉱物的に白く滑らかな目のふちにも、疲れの色が見て取れた。剣崎はふん、と鼻を鳴らした後、やや平静に戻ると座り直した。
「小出しにでも情報を手に入れて、本来の能力に目覚めればその波風も収まるというわけか。私ならばそんな情報や能力をありがたいとは感じないが、あんたは違うんだな」
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登場人物紹介

剣崎顕(けんざき あき)

人工臓器造りの名手。特級生体技能者に認定され、制作物のあまりの精巧さに、「狂女王」と呼ばれ恐れられるほど。臓器造りを始めるには、あるきっかけがあったようで……

剣崎望 (けんざき のぞみ)

剣崎顕の双子の妹。顔は姉と瓜二つ。造形家で、動物・植物のほか密かに抽象立体も作っている。本物そっくりの動物が評価されてかつては超・売れっ子だったが……?

宮ヶ瀬球(みやがせ たま)

現在多くの人が恩恵を受ける画期的な再生医療技術の礎を築いた天才医師。剣崎姉妹とは浅からぬ因縁があるように見える。

謎の客

「新しい体」を持つ、剣崎より若い人物らしい。剣崎姉妹と宮ヶ瀬球の話を聞きたいと訪ねてくるが、何の目的があるのかは不明。

人形たち

剣崎顕は数多くの人形(人工体)を制作してきた。人間にそっくりだけれど動かないことで死体に見えてトラブルになったこともあるというが……

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