part 17 あなたはどこか別の星の人
文字数 690文字
「望が何も言わないのはおかしいだろう。新しい能力を得ただけなら、あれほど気に病むこともないし、私や球がどれほどの思いで望の病状を見守っているか、十分以上に知った上で、黙っているなど」
「ただならぬこととが起こっているとわかるだけで、まだ能力を得た自覚がないのかもしれません」
睨みつける剣崎から目を逸らし、客は困惑げに肩をすくめた。気の進まない道を黙々と進む、その歩みまで邪魔されるのは心外だという顔だ。
「言いたくても言えないということもあります。言えない事情があるという意味ではなく、言うのが不可能または困難という意味で」
「そんなことがあるものか」
「ありますよ。初めからこの、地球人の言う『成長した』心身に生まれついたからわかります。表現能力と経験の歯車が噛み合わなければ、自分に対してすら表せないものがあると。今時の神経同期では起こり得ないですが、あなたならば、共通話で体得した新しい概念をもはや日本語で伝えられないという経験はおありでしょう。同じことですよ」
静かな声が、次第に子供の悪事でも諭す調子を帯びて、剣崎の頑なさをいくらか和らげた。この怪しげな客の周到さの中に、どんな些事にも新しい気持ちで向き合わねばならない無垢な若さがほの見えたからかもしれなかった。
「初めからそうじゃないかとは思ってたが」
弱いため息とともに、剣崎は独り言めかして呟いた。
「あんたは本当に、どこか別の星の人かもしれないな」
と、言い終わらぬうちにまた、灰緑色の瞳に粘りのある光が戻る。