29。
文字数 4,312文字
久しぶりの自宅…!自分の部屋!
「ベッド~」
見慣れてる、馴染みのある布団にダイブする。ボフンっとベットのコイルがきしむ。一瞬にして「私」の匂いに包まれる。
クルンと上布団にくるまれる感覚…。
はぁ……。帰ってこれた。
自分ちの香りが私の心を落ち着かせる。
最後にここで眠った時には、自分の終わりを考えて妙に焦っていたなぁ…。随分、昔のことのようだ。ほんの2週間ほど前だったのに…。
そっと胸の辺りに手をおく。
私には…冷静に考えられる時間が…、どの程度あるのだろう?
私は…愚直に日々を過ごせるのだろうか……?
尚惟 から聞いた話は……
私に睡眠薬をかがせた女性 は、R国立病院で私を襲った男性を雇った人だろうとの事だった。
あの時の、彼女から発せられたひとつひとつの言葉は、啓 さんへの
= コンコン… =
扉をノックする音に体を起こす。
「はい…」
「二美ちゃん、下に来れる?」
光麗 さんの声がドア越しに届く。
「はい。行きます」
ベットから起き上がり、髪をかきあげる。
頭の隅に残る罪悪感のような重い感情。ぼやっと過る……。私は…どうしてこうも色々と引き起こしてしまうのか…、
私がいるからいけないのか…
考えてしまうイガイガした結論……。一度よぎると消えなくなる。
二美子、ゆっくり立ち上がり部屋を出た。
居間には思ってもいない人物がいた。
「え…啓 さん…?」
我が家にいるのがとても不思議な感じがした。porarisで見る彼とは格好が違うからなのかもしれないけれど、なんだかちょっと違う雰囲気の彼が座っていた。そして、その隣には……
「翼希 くん?」
これも奇妙な組み合わせだ。っていうか、どうしてここにいるの?っていう2人だ。
「良かった!二美子さんは幻影ではなかったっ!」
え……。げ…んえい……?
「……二美ちゃん、まず座ろうか。翼希くん落ち着こう…」
光麗さんの声かけに、ハッとして座り直す翼希くん。
2人を前にして、私は光麗さんの横に座る。自分ちではないようなちょっとした違和感。
あ、れ…?
「あの……壽生くんは……」
ここに到着したときはいたはずの壽生。だけれど、今は姿が見えない。
「うん。買い出しに行ったよ。今日は先輩たちも、もう少ししたら帰ってくるからね。尚惟 と合流して一緒に帰ってくる」
光麗さんが、すごく落ち着いて話をしてくれている。視線が…「大丈夫」って言ってくれている。
私、そんなに不安そうにしていたのかしら?
「……えっと、啓さんと翼希くんがここにいるのは…」
「僕がね、お願いしたんだ」
啓さんがいつもと変わらない優しいトーンで話し始める。
「ワタシはそれについて来たんです」
「え…っと……」
「まずは…体調はどう…かな?」
「えっ…と、大丈夫…です」
こういうシチュエーションはこの2人を相手に、ないことである。その上、なんだか台本にあるような台詞…。型通りの返答しか出てこない。
「うん…そうだよね。退院したんだから…。だよね…。ああ…気の利いたこといえなくて……ごめん」
言いにくそうに言葉を選んでいる啓さんを見て、漠然とだけど、気が付いた。
…啓さんは、私に、負い目を感じているのかもしれない……。
少し困ったように瞳を伏せがちなのは、そういう気持ちがあるのかも知れない……。咄嗟に思い浮かんだ思考は、スルリと馴染んだ。
「啓さん」
「え?」
「私、ほんとに大丈夫です」
「……あ」
私の思い上がりかもしれないけれど…、これは啓さんが罪悪感を感じることではない。そうであってはいけないと思うから…。
「私の方こそ…気の利いたこといえないですけど、啓さんのせいではないですよ」
「二美子さん…」
「謝ろうと…しないでください。そういうの…私はどうしていいか分かりません……」
とくん、と鼓動が全身を巡ってく。上手な会話ができればいいのに。私は思いを伝えるのがなんて下手なことか。心配してくれているのかな?と思っても、そんなに心配しなくてもいいですよ、なんてことを言っていいものかどうか…
出来たら、誰も傷つかない回答ができれば良いけれど、私は、うまくない。
「じゃあさ、二美子さんもそんな顔、しちゃだめだとワタシは思う」
「え……」
啓さんの隣で聞いていた翼希くんが口を開いた。その言葉はとても澄んでいて、ストレートな物言いだった。
「言いにくいじゃんか、辛そうな顔してたら」
「翼希くん!」
啓、言葉を急いで挟むが、翼希は不思議そうに言葉を続ける。
「え?何で?啓さんが、自分が関わってた事で二美子さんに矛先が向いちゃったことに罪悪感を抱くのって…ワタシは普通だと思うから。謝りたいってそうだろうなって思う。啓さんのせいではないけど、それはわかってるけど、それでも謝りたいよね。ワタシもそうしたいって思う。まあ、受ける方は複雑だと思うけど。でも、謝罪するよ。だから、分かんなくても、拒否する顔はダメだと思う」
拒否……してたのか……私……
「翼希くん!いや、いいんだ。どういう反応でも。翼希くんが言うように、僕が謝りたかったんだ……。申し訳なくて……」
啓さんが喉を絞ったような声で、言葉を紡ぐ。しっかりと言葉が聞き取れるような口調で……それは、私に対しての配慮なのだと思った。顔が見れないが空気感でそんな感じがする。
言葉がうまく出てこない。
「私……ごめんなさい。自分の事で頭が一杯なのだと思う。啓さんの思いに……気付けませんでした。ただ、謝らなくていいって言いたくて。私…こうしていることがダメなんだと思っちゃってて……」
「「「え……」」」
3人の口から戸惑いがこぼれた。
絡まっている感情がより引っ掛かってく。どこがほつれ目なのか…わからない……。
「私が…、私が関わると、何か……うまくいかない……」
「ちょっと、二美ちゃん……!」
「私がいなかったらって……思ったり、それは考えたくないって…思ったり…」
ああ、考えが落ちてく……
何が言いたいのか分からなくなってきた。
「えと…ごめんなさい。うまく言えない…」
私は、落とした視線をあげることができなかった。
ああ…、結局、私はどうしたいのだろう? 誰も悪くないといいたいのかな? でも本当にそう思っているのかといわれると…私はそこまで思慮深くはなれない…。ただ今は…何もかもが億劫だというか、考えたくないというか…。
「……二美子さんは、すごいですね……」
そんな、ワガママな思いをつらつらと頭の中で巡らせていた私に、思いもよらない言葉が降ってくる。
それが翼希くんの言葉だと認識するのにちょっとだけ時間がかかった。
「…えっ…?」
「二美子さんって、そうやって…全部受け止めてきたんですか?ワタシは怖くて出来なかったです」
受け止め……てるのかな……
「ワタシは、思ったことは言えない人で…っていうか、まあ、別にどうでもいいと思っていたと言うか……」
椅子がカタンと音がした。
「二美子さん、こっち向いてもらっていいですか?」
二美子、そっと顔を上げる。
さっきより少し背筋を伸ばし、前のめりに座り直した翼希くんが視界に入ってきた。カタンと鳴った音は、少し椅子を動かした音だったのか。
緩やかに彼の言葉が私の耳に届く。
「ワタシも謝りたかったんです。ワタシは二美子さんが倒れるとこを見てしまって、どうすることもできなくて、隠れてしまいました。何もできなくて…ごめんなさい。二美子さんはワタシを助けてくれたのに、ワタシは何も出来なかった…。それが辛かったんです」
え……
あまりのストレートな言い方と、ぶれることなく真っ直ぐ見つめてくるその瞳に、一瞬、吸い込まれた。
「うん、やっぱり。ワタシ、二美子さんには言えるんです。気持ち」
「……あ……っと……」
私の言葉を制するように、スッと右手のひらを私に向けて、ストップの姿勢をする、翼希くん。
「お気遣いなく。ワタシ、自己満足なとこ、あるので」
え……っと……?
「ワタシはそんな人なのですが、啓さんはワタシのような解釈ではないかもしれないです。これもワタシの主観ですが……あなたは人を無防備にさせるっていうか…、二美子さんの特技っていうか…“良さ”?うん、そんな感じです」
「良さ?」
「フィルターを外されてしまう感じ?」
フィルター……
翼希くんが発する単語がポコン、ぽこんと頭の中で現れて、ふわりと漂う。うまくまとまらないけど……ちょっとホッコリする心地になる。
「翼希は二美ちゃんが好きなんだな」
唐突に、“ああそうか”っていう雰囲気で、光麗さんが言葉を発した。
「「え」」
それに、今度は私と啓さんが反応する。
翼希くんは、パチッと大きな瞳を数回開閉させた。
「ああ……」
なるほど……と納得したように言葉がこぼれる。
「そうか……、うん、ですね。そう…ですね。うん…。一緒にいられる人ってワタシにとって貴重ですから。言いたいことがすらすら出てくる二美子さんとの空間…好きですね」
ニコリと微笑んだ彼は、照れくさそうに頭をかいた。そんな彼を横で見ていた啓さんも、緊張がほどけたのか、いつもの柔らかい表情になった。
「ああもう…。素直な言葉ってのには敵わないな」
啓、改めて二美子に向き合う。
「あのね、二美子さん。僕は佐脇さんの行動を止めることが出来なかった。好意をもってくれていることにちゃんと対応できなかった。その結果、こんな風に二美子さんも巻き込んだ。すまなかった。これは僕の気持ちの整理と懺悔だよ。付き合わせてほんとにごめん」
私は…胸に込み上げてくるものを感じていた。どういう気持ちからなのかは、ちゃんと説明できない。辛くて…?悲しくて…?悔しくて…?それとも…嬉しくて…?
人のストレートな言葉って…とにかく、感情を顕にしてしまうようだ。
情けない弱音をいつまでも引きずっている…、そんな自分にスポットライトが当てられた気がしたのは間違いない。
「え、い、いや…二美子さん…」
「わっ、えっ?何?!なんで?」
目の前の2人がギョッとして慌てる。
「わっ、泣かないで!二美子さんが泣いたらワタシどうしたら……」
「翼希くん、落ち着いて。光麗さんティッシュどこですか?」
「えっ?えっとね、僕、モノの場所まではわからないって!」
= ガチッ! =
「いってっ…!」
急いで椅子から立ち上がりテーブルの足に小指をぶつける光麗だった。
「ベッド~」
見慣れてる、馴染みのある布団にダイブする。ボフンっとベットのコイルがきしむ。一瞬にして「私」の匂いに包まれる。
クルンと上布団にくるまれる感覚…。
はぁ……。帰ってこれた。
自分ちの香りが私の心を落ち着かせる。
最後にここで眠った時には、自分の終わりを考えて妙に焦っていたなぁ…。随分、昔のことのようだ。ほんの2週間ほど前だったのに…。
そっと胸の辺りに手をおく。
私には…冷静に考えられる時間が…、どの程度あるのだろう?
私は…愚直に日々を過ごせるのだろうか……?
私に睡眠薬をかがせた
あの時の、彼女から発せられたひとつひとつの言葉は、
思い
があった。熱があった。確かにそれは行きすぎであるのかもしれないが、私はただただ、すごいな…と、思ってしまった。後半はほとんど覚えてないけれど、もしかしたら、的はずれなのかもしれないけれど、私よりもずっと「人」らしいなと…思った。= コンコン… =
扉をノックする音に体を起こす。
「はい…」
「二美ちゃん、下に来れる?」
「はい。行きます」
ベットから起き上がり、髪をかきあげる。
頭の隅に残る罪悪感のような重い感情。ぼやっと過る……。私は…どうしてこうも色々と引き起こしてしまうのか…、
私がいるからいけないのか…
考えてしまうイガイガした結論……。一度よぎると消えなくなる。
二美子、ゆっくり立ち上がり部屋を出た。
居間には思ってもいない人物がいた。
「え…
我が家にいるのがとても不思議な感じがした。porarisで見る彼とは格好が違うからなのかもしれないけれど、なんだかちょっと違う雰囲気の彼が座っていた。そして、その隣には……
「
これも奇妙な組み合わせだ。っていうか、どうしてここにいるの?っていう2人だ。
「良かった!二美子さんは幻影ではなかったっ!」
え……。げ…んえい……?
「……二美ちゃん、まず座ろうか。翼希くん落ち着こう…」
光麗さんの声かけに、ハッとして座り直す翼希くん。
2人を前にして、私は光麗さんの横に座る。自分ちではないようなちょっとした違和感。
あ、れ…?
「あの……壽生くんは……」
ここに到着したときはいたはずの壽生。だけれど、今は姿が見えない。
「うん。買い出しに行ったよ。今日は先輩たちも、もう少ししたら帰ってくるからね。
光麗さんが、すごく落ち着いて話をしてくれている。視線が…「大丈夫」って言ってくれている。
私、そんなに不安そうにしていたのかしら?
「……えっと、啓さんと翼希くんがここにいるのは…」
「僕がね、お願いしたんだ」
啓さんがいつもと変わらない優しいトーンで話し始める。
「ワタシはそれについて来たんです」
「え…っと……」
「まずは…体調はどう…かな?」
「えっ…と、大丈夫…です」
こういうシチュエーションはこの2人を相手に、ないことである。その上、なんだか台本にあるような台詞…。型通りの返答しか出てこない。
「うん…そうだよね。退院したんだから…。だよね…。ああ…気の利いたこといえなくて……ごめん」
言いにくそうに言葉を選んでいる啓さんを見て、漠然とだけど、気が付いた。
…啓さんは、私に、負い目を感じているのかもしれない……。
少し困ったように瞳を伏せがちなのは、そういう気持ちがあるのかも知れない……。咄嗟に思い浮かんだ思考は、スルリと馴染んだ。
「啓さん」
「え?」
「私、ほんとに大丈夫です」
「……あ」
私の思い上がりかもしれないけれど…、これは啓さんが罪悪感を感じることではない。そうであってはいけないと思うから…。
「私の方こそ…気の利いたこといえないですけど、啓さんのせいではないですよ」
「二美子さん…」
「謝ろうと…しないでください。そういうの…私はどうしていいか分かりません……」
とくん、と鼓動が全身を巡ってく。上手な会話ができればいいのに。私は思いを伝えるのがなんて下手なことか。心配してくれているのかな?と思っても、そんなに心配しなくてもいいですよ、なんてことを言っていいものかどうか…
出来たら、誰も傷つかない回答ができれば良いけれど、私は、うまくない。
「じゃあさ、二美子さんもそんな顔、しちゃだめだとワタシは思う」
「え……」
啓さんの隣で聞いていた翼希くんが口を開いた。その言葉はとても澄んでいて、ストレートな物言いだった。
「言いにくいじゃんか、辛そうな顔してたら」
「翼希くん!」
啓、言葉を急いで挟むが、翼希は不思議そうに言葉を続ける。
「え?何で?啓さんが、自分が関わってた事で二美子さんに矛先が向いちゃったことに罪悪感を抱くのって…ワタシは普通だと思うから。謝りたいってそうだろうなって思う。啓さんのせいではないけど、それはわかってるけど、それでも謝りたいよね。ワタシもそうしたいって思う。まあ、受ける方は複雑だと思うけど。でも、謝罪するよ。だから、分かんなくても、拒否する顔はダメだと思う」
拒否……してたのか……私……
「翼希くん!いや、いいんだ。どういう反応でも。翼希くんが言うように、僕が謝りたかったんだ……。申し訳なくて……」
啓さんが喉を絞ったような声で、言葉を紡ぐ。しっかりと言葉が聞き取れるような口調で……それは、私に対しての配慮なのだと思った。顔が見れないが空気感でそんな感じがする。
言葉がうまく出てこない。
「私……ごめんなさい。自分の事で頭が一杯なのだと思う。啓さんの思いに……気付けませんでした。ただ、謝らなくていいって言いたくて。私…こうしていることがダメなんだと思っちゃってて……」
「「「え……」」」
3人の口から戸惑いがこぼれた。
絡まっている感情がより引っ掛かってく。どこがほつれ目なのか…わからない……。
「私が…、私が関わると、何か……うまくいかない……」
「ちょっと、二美ちゃん……!」
「私がいなかったらって……思ったり、それは考えたくないって…思ったり…」
ああ、考えが落ちてく……
何が言いたいのか分からなくなってきた。
「えと…ごめんなさい。うまく言えない…」
私は、落とした視線をあげることができなかった。
ああ…、結局、私はどうしたいのだろう? 誰も悪くないといいたいのかな? でも本当にそう思っているのかといわれると…私はそこまで思慮深くはなれない…。ただ今は…何もかもが億劫だというか、考えたくないというか…。
「……二美子さんは、すごいですね……」
そんな、ワガママな思いをつらつらと頭の中で巡らせていた私に、思いもよらない言葉が降ってくる。
それが翼希くんの言葉だと認識するのにちょっとだけ時間がかかった。
「…えっ…?」
「二美子さんって、そうやって…全部受け止めてきたんですか?ワタシは怖くて出来なかったです」
受け止め……てるのかな……
「ワタシは、思ったことは言えない人で…っていうか、まあ、別にどうでもいいと思っていたと言うか……」
椅子がカタンと音がした。
「二美子さん、こっち向いてもらっていいですか?」
二美子、そっと顔を上げる。
さっきより少し背筋を伸ばし、前のめりに座り直した翼希くんが視界に入ってきた。カタンと鳴った音は、少し椅子を動かした音だったのか。
緩やかに彼の言葉が私の耳に届く。
「ワタシも謝りたかったんです。ワタシは二美子さんが倒れるとこを見てしまって、どうすることもできなくて、隠れてしまいました。何もできなくて…ごめんなさい。二美子さんはワタシを助けてくれたのに、ワタシは何も出来なかった…。それが辛かったんです」
え……
あまりのストレートな言い方と、ぶれることなく真っ直ぐ見つめてくるその瞳に、一瞬、吸い込まれた。
「うん、やっぱり。ワタシ、二美子さんには言えるんです。気持ち」
「……あ……っと……」
私の言葉を制するように、スッと右手のひらを私に向けて、ストップの姿勢をする、翼希くん。
「お気遣いなく。ワタシ、自己満足なとこ、あるので」
え……っと……?
「ワタシはそんな人なのですが、啓さんはワタシのような解釈ではないかもしれないです。これもワタシの主観ですが……あなたは人を無防備にさせるっていうか…、二美子さんの特技っていうか…“良さ”?うん、そんな感じです」
「良さ?」
「フィルターを外されてしまう感じ?」
フィルター……
翼希くんが発する単語がポコン、ぽこんと頭の中で現れて、ふわりと漂う。うまくまとまらないけど……ちょっとホッコリする心地になる。
「翼希は二美ちゃんが好きなんだな」
唐突に、“ああそうか”っていう雰囲気で、光麗さんが言葉を発した。
「「え」」
それに、今度は私と啓さんが反応する。
翼希くんは、パチッと大きな瞳を数回開閉させた。
「ああ……」
なるほど……と納得したように言葉がこぼれる。
「そうか……、うん、ですね。そう…ですね。うん…。一緒にいられる人ってワタシにとって貴重ですから。言いたいことがすらすら出てくる二美子さんとの空間…好きですね」
ニコリと微笑んだ彼は、照れくさそうに頭をかいた。そんな彼を横で見ていた啓さんも、緊張がほどけたのか、いつもの柔らかい表情になった。
「ああもう…。素直な言葉ってのには敵わないな」
啓、改めて二美子に向き合う。
「あのね、二美子さん。僕は佐脇さんの行動を止めることが出来なかった。好意をもってくれていることにちゃんと対応できなかった。その結果、こんな風に二美子さんも巻き込んだ。すまなかった。これは僕の気持ちの整理と懺悔だよ。付き合わせてほんとにごめん」
私は…胸に込み上げてくるものを感じていた。どういう気持ちからなのかは、ちゃんと説明できない。辛くて…?悲しくて…?悔しくて…?それとも…嬉しくて…?
人のストレートな言葉って…とにかく、感情を顕にしてしまうようだ。
情けない弱音をいつまでも引きずっている…、そんな自分にスポットライトが当てられた気がしたのは間違いない。
「え、い、いや…二美子さん…」
「わっ、えっ?何?!なんで?」
目の前の2人がギョッとして慌てる。
「わっ、泣かないで!二美子さんが泣いたらワタシどうしたら……」
「翼希くん、落ち着いて。光麗さんティッシュどこですか?」
「えっ?えっとね、僕、モノの場所まではわからないって!」
= ガチッ! =
「いってっ…!」
急いで椅子から立ち上がりテーブルの足に小指をぶつける光麗だった。
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