8。
文字数 2,937文字
病室の天井は、見慣れた景色だ。
白くて清潔で、蛍光灯の明かりは優しくて、カーテンでしきられた空間は落ち着く。窓側のベットにしてくれたのは梨緒 先生の配慮かな?とはいえ、病棟は内科病棟で、今回、初めての病室だった。
検査入院って言われたけど、やっぱり弱ってるのかな…私の心臓。
窓の外に視線を持っていきながら、ボーッと空を見る。
尚惟 が、辛そうだったな……
【回想】
「……ごめん」
「え……?」
ポラリスを出て、談笑しながら病院へ向かった。歩きながら、少し息苦しさを覚えて、休憩をしながら到着し、心配そうな尚惟を待合に置いて受診をした。結果は、そのまま入院になった。
ぼーっと医師 の話を聞いていたから、なんだかはっきり理由は覚えていないけれど、肺の音がおかしかったんだったかな?同行人が呼ばれ、尚惟が診察室に入室したときには、私は点滴を受けていた。入ってきた尚惟の表情は驚いていて…。
うー…ごめん、変な心配させた…
私が点滴を受けている間、尚惟は兄たちに電話をしてくれた。点滴処置が終わり、待ち合いに戻ってくると、尚惟はベンチから少し離れたところで電話をしていた。ちらりと見て、椅子に座る。病室を準備する間、待っていてくれといわれたのだ。
「ふう…」
点滴をしたせいなのか、少し眠たい…というか、だるいような…。
そうして座って待っていた私の横に、いつの間にか尚惟が戻ってきていた。一言も話さずにふたり並んでいたのだが。ぽつりと尚惟が呟いた。
「ごめんね…」
ちょっと疲れていた私は、少しうとうとしかけていたから、突然隣から聞こえた尚惟の声をぼやっと聞いていた。私に言ったんだと理解するのにちょっと時間がかかったため、すこし間があいてしまった。
「どうして尚惟が謝るの?」
ようやく出てきた言葉は少し間が抜けていた。
「二美子さん…体調良くなかったのに喫茶店寄っちゃって……」
ああ…この人はもう……
「出てくるまではほんとに大丈夫だったんだけど…」
「……今朝発作があったのにね…すぐに来なきゃいけなかったよね」
「尚惟…」
どうしよう、尚惟は自分を責めているよね。
「ごめん、俺のミスだ…」
彼はまるで自分の胸をかきむしられたような顔をしている。尚惟のせいではないのに。
目をそらす尚惟の横顔。こんな時でも、私はあなたの顔も表情もその苦し気な吐息でさえも、愛しく感じる。
「尚…」
「……!」
思わず尚惟の手を握ってしまった。
あまりに切なく視線を揺らすから、手が勝手に動いてしまった。彼が驚いて私を見る。
その行動で自分の行動がなんと大胆なことかと振り返ってしまって…一気に顔が火照り始める。
「ごめっ、思わず…」
手を放そうとすると、今度は尚惟が握り返してきた。大好きな人の手の中で私の手が幸せな時を刻む。どきどきして、体温が高くなっていくのが分かる。
「手…つないでて、いい?」
「…う、うん」
「二美さん、ごめんね。俺、面倒くさいね」
「…そんな言い方しないで。私は尚惟が好き」
「二美子さん……」
「好きだから言えないこともあるんだ…」
「え…?」
「…と思う…」
「……うん」
「もう…こんな私を見られたくないって感じ…」
「……うん」
消しちゃいたいって…過 ぎることも…、あるんだ…とは言えない。
言葉にできない思いが多くなってきている。尚惟に言えなくなってきている。そんな私に気づかれたくない…。こんなにふらふらしている私を知られたくない…。
病院の音が周りにあふれている。自分の周りに機械的な音とか人が会話している声とか、看護師さんに呼ばれている放送とか、病院の音があふれかえっているのに、なぜか私の周りはちょっと静かで、私の心臓の音だけが大きく響いている。
ぎゅっ…ー
繋がれている手に尚惟が力を少し入れる。
キュー……ん……
まるで、何も言わなくても尚惟にこのまま言葉が伝わっていっているような…そんな錯覚を覚える熱…。
ちらりと彼の方を向くと、視線が合う。優しいまなざしと包み込まれてしまうような柔らかいオーラ。つないだ手をもう一方の手がそっと添えられるように置かれていて、まるで守られているような…。
やめて、尚惟。どこでそんな仕草を覚えてくんのよ……。ほんとに死んじゃうでしょ。
二美子、かろうじて意識が遠くなりそうなのを堪えると、手を握り返す。
「可愛すぎるよ、尚惟」
「だって、好きっていうから」
「もう……溺れちゃう」
「だから、そうしてって言ってんじゃん」
添えられていた手がすっと私の頭をなで、自分の肩へと誘う。
「先生がね、ちょっと熱があるようだって言っていたよ。俺に寄っかかって」
「うわー…ダメだ…嬉しすぎる」
「ほんとに?いつもそうやって言ってよ」
「ふふ、うん。わかった」
ゆっくりと目を閉じて息を吐く。とても落ち着く。
「あのね、尚惟」
「うん」
「今日のデート…すごくドキドキしたの」
「ん?」
「私の彼って紹介して、私、ドキドキしたの…」
いやー…、思わず本人に伝えちゃって。私ってば、恥ずかしい…。
こういうのって胸に秘めておくもので、ほいほい言うものではないよね?
自分の行動思い出して赤くなったり、白くなったりと何してんだろう、私は…。
ゆっくりと上半身を起こす。
検査入院で何がわかるんだろ?……
尚惟はさっきまでいてくれたが、帰ってもらった。明日のこともあるし、いつまでも元気な人がいる場所ではない。兄たちが入院セットを持って来てくれるそうだが、たぶん遅いだろう。
どうせなら自分で準備して、もう一回来れば良かったんだよね。
なんか言いそびれちゃったんだよね。懸命に動いてくれてる尚惟を見たら、申し訳なくて……。せっかくのデートが…。
家に帰るまでがデートじゃんね……。
家に帰るまでが遠足だのノリで言ったところでよ…。
「…小学生じゃないんだから」
なに言ってるんだか。
「ごめん、俺のミスだ…」
そんな風に思ってほしくない。だってほんとに尚惟は何もわるくないのよ。調子が悪くなる私が悪いのよ。疲れがほんとにダメなんだなって感じる。体力がなくなってきているのかなと。
いつからだろう…?こんなになったの。私も明確にはわからないんだよね。でも、ずっとしんどかったかもしれないって思いたくないし、絶対そんなことはないって思うことで保っているところはあるんだよな…。でも、それって、その時点でずっとしんどいじゃんって…自分で否定しちゃって…。
フェスの時、これで最後って思って終点をつくった時。なんだか、これが最後だから頑張ろう、それまでは、みたいな気持ちの持っていき方をしていた気がする。それがそのときは私のベストだった。今回は…
なんか…どうでもよくなった瞬間、本当に一瞬だったと思うけれど、「もういいや」って思った時に力がふーっと抜けて楽になった瞬間が確かにあったんだよね。でも、兄の顔が浮かんで、3人の可愛い後輩の顔も浮かんで…もちろん、愛しい尚惟の顔が浮かんで…。
夜が怖いって…まだ 誰にも言えないんだよね…。
朝…が来るのかな?なんて過ぎっちゃってからは、結構頻繁に思うことがあって…
「はは……、やっぱりちょっと、辛いな……」
どうしたらいいか…わからなくなってきた…。
白くて清潔で、蛍光灯の明かりは優しくて、カーテンでしきられた空間は落ち着く。窓側のベットにしてくれたのは
検査入院って言われたけど、やっぱり弱ってるのかな…私の心臓。
窓の外に視線を持っていきながら、ボーッと空を見る。
【回想】
「……ごめん」
「え……?」
ポラリスを出て、談笑しながら病院へ向かった。歩きながら、少し息苦しさを覚えて、休憩をしながら到着し、心配そうな尚惟を待合に置いて受診をした。結果は、そのまま入院になった。
ぼーっと
うー…ごめん、変な心配させた…
私が点滴を受けている間、尚惟は兄たちに電話をしてくれた。点滴処置が終わり、待ち合いに戻ってくると、尚惟はベンチから少し離れたところで電話をしていた。ちらりと見て、椅子に座る。病室を準備する間、待っていてくれといわれたのだ。
「ふう…」
点滴をしたせいなのか、少し眠たい…というか、だるいような…。
そうして座って待っていた私の横に、いつの間にか尚惟が戻ってきていた。一言も話さずにふたり並んでいたのだが。ぽつりと尚惟が呟いた。
「ごめんね…」
ちょっと疲れていた私は、少しうとうとしかけていたから、突然隣から聞こえた尚惟の声をぼやっと聞いていた。私に言ったんだと理解するのにちょっと時間がかかったため、すこし間があいてしまった。
「どうして尚惟が謝るの?」
ようやく出てきた言葉は少し間が抜けていた。
「二美子さん…体調良くなかったのに喫茶店寄っちゃって……」
ああ…この人はもう……
「出てくるまではほんとに大丈夫だったんだけど…」
「……今朝発作があったのにね…すぐに来なきゃいけなかったよね」
「尚惟…」
どうしよう、尚惟は自分を責めているよね。
「ごめん、俺のミスだ…」
彼はまるで自分の胸をかきむしられたような顔をしている。尚惟のせいではないのに。
目をそらす尚惟の横顔。こんな時でも、私はあなたの顔も表情もその苦し気な吐息でさえも、愛しく感じる。
「尚…」
「……!」
思わず尚惟の手を握ってしまった。
あまりに切なく視線を揺らすから、手が勝手に動いてしまった。彼が驚いて私を見る。
その行動で自分の行動がなんと大胆なことかと振り返ってしまって…一気に顔が火照り始める。
「ごめっ、思わず…」
手を放そうとすると、今度は尚惟が握り返してきた。大好きな人の手の中で私の手が幸せな時を刻む。どきどきして、体温が高くなっていくのが分かる。
「手…つないでて、いい?」
「…う、うん」
「二美さん、ごめんね。俺、面倒くさいね」
「…そんな言い方しないで。私は尚惟が好き」
「二美子さん……」
「好きだから言えないこともあるんだ…」
「え…?」
「…と思う…」
「……うん」
「もう…こんな私を見られたくないって感じ…」
「……うん」
消しちゃいたいって…
言葉にできない思いが多くなってきている。尚惟に言えなくなってきている。そんな私に気づかれたくない…。こんなにふらふらしている私を知られたくない…。
病院の音が周りにあふれている。自分の周りに機械的な音とか人が会話している声とか、看護師さんに呼ばれている放送とか、病院の音があふれかえっているのに、なぜか私の周りはちょっと静かで、私の心臓の音だけが大きく響いている。
ぎゅっ…ー
繋がれている手に尚惟が力を少し入れる。
キュー……ん……
まるで、何も言わなくても尚惟にこのまま言葉が伝わっていっているような…そんな錯覚を覚える熱…。
ちらりと彼の方を向くと、視線が合う。優しいまなざしと包み込まれてしまうような柔らかいオーラ。つないだ手をもう一方の手がそっと添えられるように置かれていて、まるで守られているような…。
やめて、尚惟。どこでそんな仕草を覚えてくんのよ……。ほんとに死んじゃうでしょ。
二美子、かろうじて意識が遠くなりそうなのを堪えると、手を握り返す。
「可愛すぎるよ、尚惟」
「だって、好きっていうから」
「もう……溺れちゃう」
「だから、そうしてって言ってんじゃん」
添えられていた手がすっと私の頭をなで、自分の肩へと誘う。
「先生がね、ちょっと熱があるようだって言っていたよ。俺に寄っかかって」
「うわー…ダメだ…嬉しすぎる」
「ほんとに?いつもそうやって言ってよ」
「ふふ、うん。わかった」
ゆっくりと目を閉じて息を吐く。とても落ち着く。
「あのね、尚惟」
「うん」
「今日のデート…すごくドキドキしたの」
「ん?」
「私の彼って紹介して、私、ドキドキしたの…」
いやー…、思わず本人に伝えちゃって。私ってば、恥ずかしい…。
こういうのって胸に秘めておくもので、ほいほい言うものではないよね?
自分の行動思い出して赤くなったり、白くなったりと何してんだろう、私は…。
ゆっくりと上半身を起こす。
検査入院で何がわかるんだろ?……
尚惟はさっきまでいてくれたが、帰ってもらった。明日のこともあるし、いつまでも元気な人がいる場所ではない。兄たちが入院セットを持って来てくれるそうだが、たぶん遅いだろう。
どうせなら自分で準備して、もう一回来れば良かったんだよね。
なんか言いそびれちゃったんだよね。懸命に動いてくれてる尚惟を見たら、申し訳なくて……。せっかくのデートが…。
家に帰るまでがデートじゃんね……。
家に帰るまでが遠足だのノリで言ったところでよ…。
「…小学生じゃないんだから」
なに言ってるんだか。
「ごめん、俺のミスだ…」
そんな風に思ってほしくない。だってほんとに尚惟は何もわるくないのよ。調子が悪くなる私が悪いのよ。疲れがほんとにダメなんだなって感じる。体力がなくなってきているのかなと。
いつからだろう…?こんなになったの。私も明確にはわからないんだよね。でも、ずっとしんどかったかもしれないって思いたくないし、絶対そんなことはないって思うことで保っているところはあるんだよな…。でも、それって、その時点でずっとしんどいじゃんって…自分で否定しちゃって…。
フェスの時、これで最後って思って終点をつくった時。なんだか、これが最後だから頑張ろう、それまでは、みたいな気持ちの持っていき方をしていた気がする。それがそのときは私のベストだった。今回は…
なんか…どうでもよくなった瞬間、本当に一瞬だったと思うけれど、「もういいや」って思った時に力がふーっと抜けて楽になった瞬間が確かにあったんだよね。でも、兄の顔が浮かんで、3人の可愛い後輩の顔も浮かんで…もちろん、愛しい尚惟の顔が浮かんで…。
夜が怖いって…まだ 誰にも言えないんだよね…。
朝…が来るのかな?なんて過ぎっちゃってからは、結構頻繁に思うことがあって…
「はは……、やっぱりちょっと、辛いな……」
どうしたらいいか…わからなくなってきた…。
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