第31話 転生

文字数 1,663文字

 上春レオン。
 それが日本に住んでいた時の名前だった。
 両親に徹底的に管理される生活を送っていた俺は中学生の頃、自分の家が普通ではないことに気づき自由を求め非行に走った。
 人との付き合い方がわからなかった。
 喧嘩をすることが増え、警察に捕まり、停学となった。
 高校にはいかず家に引きこもるようになった。
 時間はあっという間に過ぎていく。
 数十年がたったある日から、食事が運ばれなくなった。
 年老いた両親は死んでいた。
 久しぶりに見た生きた人間は親戚だった。汚物を見る目を見て自分の価値を改めて理解した。
 家にあった紐で首を吊って死んだ。
 
 目を覚ますとそこは森だっった。
 剣を持った俺に生きる意志などなかった。
 首を吊ったあの時の感覚を鮮明に覚えている。
 苦しさは死ぬまでの一瞬だ。生きていれば一生だ。
 生きるとは苦しいことだ。その苦しみを知っているレオンは躊躇いもなく喉を切った。
 アドレナリンが痛みを和らげる。眠りにつくように意識が飛んでいく。
 レオンは首を切って自殺した。

 不死身になったマタダムはおちている石を蹴り飛ばすように人を殺した。
 無くなっていく感覚の中、より強い刺激を求めて暴虐な限りを尽くした。
 それでも慣れてくる刺激。
 国を滅ぼしたことがないマタダムは刺激を求め、エレイン王国を滅ぼしてみることにした。
 自分の持てる最大限の力を試すように。
 自爆魔法エンドと全ての魔力を消費して発動する超魔法、ビックバン。
 マタダムの血を混ぜ込に、その2つの最強の魔法を複合する。
 互いの魔法の核が核反応を引き起こし、共鳴するように魔力が膨れ上がっていく。
 マタダムはうっぷんを晴らすように活気づく世界最大の国、エレイン王国を一撃で滅ぼした。



 ——もういいんだ。終わりだ。これで俺も死ねる。死んで終わりにできる。もう頑張っただろ。いいんだ。最悪の事態は去ったんだ。って、もう関係ないだろ。死ねばすべて終わりなんだから。
 ロザリアは必死にオノクリアに抗っていた。
 勝てるはずがない。固有スキルで初めから負けが決まっている。その戦いに意味はない。
 ——なにしてるんだよ。無駄だろ。意味がない。ここで俺に何ができる。無敵だったから何とかなっただけだ。力が亡くなった俺に何をしろっていうんだ。もう十分だろう。終わり終わり。あー、清々する。これでやっと解放されるのか。
 そんな自分の中にもう一人の自分が問いかける。
 ——本当にいいのか?皆は?ここまでやってきたのにか?
 必死にその考えを捨てようとするとなぜかユラの笑顔を思い出す。
 もう会えるからだろう。そう思おうとしても、その顔に胸がもやもやする。
「アウラ!もう死ねるんでしょ!最後なんでしょ!!!なら戦いなさいよ!!あがきなさいよ!!!歴史に書ききれないほどの悪行を今までやってきたんでしょ!!最後ぐらい真剣にその罪を償いなさいよ!!!マタダムなんでしょ!そのマタダムの目録に恥のないような最後にしなさい!!!!!!」 
 ロザリアの怒鳴り声がアウラの背中を叩く。
『後悔なんてしないでね』
 ユラの最後の言葉を思い出したアウラは自分の本心を理解する。
 あの引きこもっていた自分から代わりたい。皆に認められるようなそんな人間になりたい。自分の意志に打ち勝てるような強い人間になりたい。
 この思いを最後の力に変える。
 ユラの思いを、皆の思いを、今までの人生を、感情を、咆哮に変え叫ぶ。
 最後に立ち向かうべき相手。
 立ち上がりながら名前を叫ぶ。
 絶叫する。
「ヘルトォォォォォオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」
 お腹に刺された剣を引き抜くようにアウラは体を上げる。
 更に肉が裂け血が飛び散るがアウラは止まらない。激痛を咆哮に変える。
 ヘルトはアウラのあがきに嬉しそうに顔を歪ませ、新たな剣を生成しながら名前を叫ぶ。
「アウラァァアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
 二人の感情が、咆哮が、剣が激しく交錯する。
 マタダムの目録に記された最後の戦いの火蓋が切って下ろされた。
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