アンナとオノクリア

文字数 1,808文字

 首を切った上原レオンは強烈な痛みで目が覚める。
 なにか白いドレスのようなものを着ているレオンは知らない男に剣でお腹を突かれていた。
 口から唾をはくレオンは可愛らしい自分の声に驚いた。
 同時に眼の前の男に意識を向ける。まるで作り物のように整った顔立ちの高身長の男は目頭を真っ赤にして嬉しそうに笑っていた。
「アンナ……生きててよかった」
 その言葉を最後にレオンの意識は途絶えた。
 今まで感じたこともないふかふかなベッドで目を覚ました。
 体を起こすと鏡に自分の女の子らしい可愛いい姿が映る。
 すると、例の男が部屋に入ってきた。
「アンナ。すまない……大丈夫か?私のことがわかるか」
 悲しそうな顔で問いかけてくる先程の男にレオンは首を振った。
 どうやらこの体の持ち主はアンナというようだった。
 話からするにレオンはアンナの中に転生した。アンナと呼ばれていた者の意識を奪ってしまったこと、決して体が切れることがないということ、アンナは魔法という特別な力を持っているということ、そして城主オノクリアの婚約者だということを知った。
 平民の中でさらに下の貧困層で育ったアンナは選ばれた人間ではないとご令嬢たちに落とし込まれたようだった。
 婚約者の城主オノクリアはそれが嫉妬と妬みによるものだとわかっていたが、王の命令に抗うことができず無実の証明も叶わず最愛のアンナに切りかかったそうだ。
 しかし、無傷な姿を見せたアンナ。王はアンナが特別だと疑うことはなくなった。 
 生気のない目に記憶が消えてしまったということを疑わなかった。
 レオンはその名を捨て、アンナとしての三回目の人生が始まった。
 しかし、アンナは生きたいとは思っていなかった。人の人生を奪ってしまったが、それでも生きていたいとは思わなかった。
 また一から常識や作法、人間関係、魔法といった者の練習をする気など起きない。
 数時間前まで苦しくて、しんどくて、辛くて、それから開放されるために死んだんだ。今もただ死にたかった。
 恵まれている生活を送っていた自覚はあったが、アンナは城から飛び降りた。
 しかし、激痛を伴うだけで外傷は一切なかった。
 そんな姿をオノクリアに見られたせいで城から出れなくなってしまった。
 記憶を思い出すまで部屋での謹慎を言い渡されたアンナは死ぬために魔法を練習した。
 魔法が使えるのは世界でアンナだけだったため、その研究は全世界へとまたたく間に広まっていった。
 その姿を見たオノクリアはアンナを守るために力を求めた。
 側でオノクリアの努力を見ていたアンナは死ぬ前に彼の願いを叶えたいと思った。気がつけば、死ぬためだけではなくオノクリアのために魔法を学んでいた。
 そして2つの魔法陣を完成させた。
 王の命令でオノクリアの城を中心に2つの魔法陣が描かれ、アンナが魔力を流した。
 巨大な魔法陣が赤と青で輝くと世界が暗く染まった。
 アンナの体は崩壊を始めた。
 同時にオノクリアを敵視していたこの国の関係者全員の体が魔物のように醜く変形していく。それは家畜や鳥、虫、魚、魔法陣の中にいるすべての生き物の形を変形させていった。
「アンナ!」
 オノクリアの悲しそうな叫び声にアンナは笑う。
「私はあなたの知っているアンナじゃない。私は死にたかった。これでやっと死ねる。今までありがとう。……それから、この世界はきっとあなたを中心に回っていく。もうあなたを止めるもの、貶す者、馬鹿にする人は誰もいない」

 アンナは目を覚ました。
「お兄ちゃん?早く起きて!学校始まるでしょ、今日は私も同じ魔法学院に人学するんだから」
 布団から出て自分の容姿を確認する。今度は中性的な整った顔立ちの男だった。
 また誰かの人生を奪ったのだろうか。
 また初めから人間関係を構築しないといけないのだろうか。
 今までの経験が頭に残っているせいか、めんどくさくて仕方がない。
 魔法学院に付くと自分のファンクラブが出迎えてくれる。
 ここスエム魔法学院は魔族の使う魔法を学ぶ人族最先端の施設。
 魔法演習の授業で習っていた炎の魔法。
 どうしても同じ世界の人間に感じないアンナは同級生に炎の魔法を使い焼き殺した。
 アンナからしたらここでNPCを倒したらどうなるのだろうという感覚に過ぎなかった。
 アンナの処刑が決まった。
 炎で人を殺したアンナは火あぶりの刑。
 魔法も物理も効かないアンナは体を縛られ焼き殺された。
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