第25話 ロザリアの初デート手助け大作戦

文字数 3,569文字

 大通りを歩くアウラとロザリア。
 変に意識してしまっているロザリアは普段のように話せずにいた。
 少しの気まずさを感じる二人の前に思いもよらない人物が現れる。
 かわいらしいピンクのふわふわのワンピースを着た少女。
 恰好はアレだが、間違いなくこの国の女王陛下ヘスティだった。
 歩行者が足を止めてしまうほど、その服装は異彩を放っており皆が注目している。
「手をにぎって。この魔法で二人は手を離せなくなる」
 ヘスティはそういうと無理矢理二人の手を動かし恋人繋ぎをさせ、手を離せない魔法を発動する。
 アウラとロザリアの姿に通行人の皆が微笑ましい笑顔を向けていた。
 そんな周りの目にロザリアの顔は真っ赤になりパンクした。
 咄嗟に手を引こうとするが魔法でロザリアの手はアウラから離れない。
「こんな恰好で!そのままの姿で出ないでください」
 後ろから走ってやってきたジョバンナが恥ずかしそうにヘスティを片手で抱えそそくさと走っていく。
 何が起きたかよくわからないアウラだったが、ロザリアはアウラの手を引き俯きながらそそくさと歩いていく。
 二人の姿を遠くから見ていたロメオの元にヘスティを抱えたジョバンナがたどり着く。
 ロメオはきりっとした顔で頷きながらいう。
「ヘスティ、完璧だ!」
 ジョバンナに抱えられているヘスティは心なしか鋭いまなざしで小さくうなずいた。
「せめて、着替えてからでお願いします!」
 ジョバンナが恥ずかしそうに顔を真っ赤にして言うが二人は一切気にしていない。
 少し離れたところで三人のやり取りを見ていたイシアルは不安を漏らす。
「私よりも付き合いが長いからお願いしてみたけど……、あれで大丈夫かな」
「おお!上手くいきそうだね!」
 隣では能天気なユラが目を輝かせているがツッコミを入れられるものは誰もいない。
「よし、ここにいるみんなで僕の妹。ロザリアの初デート手助け大作戦を開始しよう!」
 ロメオの掛け声にカルクおじさん、商人レナード、エルギンが拳を上げる。
 男性陣ほうが乗り気なのはなぜだろうと思っていたイシアルだったが、よく見れば未だに片手で抱きかかえられているヘスティも真顔で右手を上げていた。

 お店が立ち並ぶ大通り。
 恥ずかしそうに、でも少しうれしそうにアウラの手を握って歩くロザリア。
 彼女の背に丘を下り落ちていく荷台が迫っていた。
 うわのそらになっているロザリアは気づかない。
「すみませーん!よけてください!」
 商人レナードの叫び声が大通りに響く。
 アウラは急いでロザリアを抱き寄せる。
 ロザリアの後ろを通り過ぎていった商人レナードは大きな音を立て荷台と一緒に飛び散った。
「ありがとう、アウラ」
 ロザリアがアウラの胸の中でお礼を言う。
 顔を赤くし、恥ずかしそうに上目遣いで小さな声でささやくロザリア。
 普段の横暴で乱暴なロザリアとは違い弱々しく、儚いその姿にアウラは少しドキッとした。
 手をつないで歩く二人はしばらくすると絵師のエルギンに声をかけられた。
 驚く二人、それを見守っていたロメオ達も驚いた。
「知っていたか?エルギンにあんな特技があったこと」
 ロメオの問いにジョバンナは答える。
「ええ。まぁ、私は」
 少し照れくさそうにいうジョバンナを見てユラは歓声を上げる。
「ほぉおお~、もしかして~」
 ロザリアはエルギンの描いた二人の似顔絵を嬉しそうに受け取り見つめる。
 自然と二人の間に笑顔が溢れ始め、その絵を見ながら会話も盛り上がった。
 二人はしばらく歩くと思いもよらない人と出くわす。
「そこのお似合いのお二人さん」
 路上でアイスを売っているその人はカルクおじさんだった。
「カルクおじさん?」
 ロザリアの問いかけにカルクおじさんはただ笑い、アウラに手を差し出す様に求める。
 差し出された手にアイスを渡したカルクおじさんは笑顔を向ける。
「じゃあ、楽しんで」
 後ろにお客さんが並んでいるため、アウラとロザリアはその場を後にした。
 アウラには味覚がない。
 そんなアウラが持っていても仕方がないため、羨ましそうにアイスを見つめるロザリアに手を伸ばす。
「食べるか?」
「べ、別に。……いらないなら、貰ってあげてもいいわよ」
 そこでロザリアは気づく。
 両手がふさがっていた。
「ほら」
 そう言って口元までもって来たアイスをロザリアはパクリと食べ、にんまり笑った。
「おいしい」
「そうか。ならよかった」
 アウラも満足そうなロザリアの顔を見て笑った。
 アイスを食べ終わったアウラとロザリアは服屋に入る。
 そこにいたのはジョバンナだった。
「ジョバンナ!」
「あら、いらっしゃい」
 驚くロザリアにジョバンナはいつもの様にように返す。
「こんなところでも働いてたの!」
「まぁ服好きだからね」
 ジョバンナの目線が手に向かうところでロザリアは慌てた様子で手を前にかざす。
「これには深い意味はなくて」
「俺はちょっとこっち見るから。ロザリアも好きに見て」
 アウラはそう言って握っていた手を離しロザリアに手を振る。
「え?あ。え?」
 ロザリアは自由になった自分の手に戸惑いながらアウラの背を追いかける。
「ちょっと、どういうことよ。何で手、魔法で」
「何言ってんだ?俺に魔法が効かないのは知ってるだろ」
「え?あっ」
「服は両手が空いてたほうが見やすいだろ」
 手を握っていたとき時々不思議そうな顔で見つめていたアウラの顔の意味を今理解した。
 今までずっと手が離せないと思い込み、ロザリアがアウラの手を握っていたのだ。 
「そ、そうね。ジョバンナ、なんかおすすめな服ないかしら!」
 今までの勘違いを悟られないようにロザリアは必死に平常心を装った。
 ロザリアは何着か試着をし、アウラはその度に感想を求められた。
 たっぷりと時間をかけて選んだ一着に大変満足したようで、その服で店を出る。
 夕方に差し掛かり人通りが多くなってきた。
 アウラとロザリアは人混みを避けるように路地に逃げる。
 するとそんな二人をフードと仮面をつけた二人の盗賊が出迎える。
 剣を持った男は言う。
「やっぱり、噂のロメオの妹じゃないか。帰ってきてたんだな、これは大金になるぞ」
「ええ」
 短く同意する女。
 二人の会話を聞いていたロザリアは威勢よくアウラの一歩前に出る。
 ロザリアはこういうケンカを全て買う。
 嬉しそうに手のひらに拳を打ち付け悪い笑みを浮かべるロザリア。
「いい度胸ね!その威勢は認める!だから、ぶっころしてあげるわ!」
 ロザリアは本当に殺しかねない。これじゃあどっちが悪者かわからない。
 アウラはロザリアの手を引き空に飛び出した、リントブルムのあの時と同じように。
「ちょっと!」
「せっかく買った服を汚したらもったいないだろ」
 アウラの両手に抱えられたお姫様は素直に言葉を聞いた。
 以前とは違い、より体をアウラに寄せた。
 人気のない高台に降り立ったアウラとロザリア。
 賑わう町の様子がよく見えた。
「ロザリア」
 アウラが名前を呼ぶ。
 振り返るとアウラがロザリアの左手を取った。
「今までありがとう。これはほんの些細な感謝の気持ちだ。これからもよろしく頼む」
 そう言ってアウラの右手から綺麗な指が現れた。それはロザリアが気付かない間に、先ほどの店で買ったものだった。
 ロザリアも知っている、左手の薬指。それが愛した人に送るものだと。
 アウラはロザリアの左手にそっと指をはめる。その指は中指だった。
 それがアウラの気持ちを表している。
 ロザリアは目頭が熱くなるのを感じていた。こぼれてしまいそうな思いを隠す様に、そっと下唇をかむ。
 ――今、諦めてどーすんのよ!どこまでもまっすぐに突き進みなさいよ。それでこそロザリアでしょ。
 イシアルに言われた言葉を思い出したロザリアはポケットからお揃いのイヤリングを取り出した。
「これ。私からも渡したいものがあったの。リントブルムで買ったんだけど、なかなか渡せるタイミングがなかったから遅くなったけど、私からのプレゼント」
 アウラも知っている有名な縁結びのイヤリング。
 ロザリアは片方をアウラの耳に付け、もう片方を自分の耳に付けた。
 二人はもう一度町を見つめる。
「私は絶対に諦めないから。この世界が滅んでも、例え死んだとしても、絶対に……絶対に。ぜった、いに……。」
 そこで遂にロザリアは堪えきれなくなった。
 溢れ出す涙が、思いが、嗚咽となって溢れ出す。
 アウラはそんなロザリアを抱き寄せ頭を撫でた。
 何が正解かはわからない。けど絶対にあきらめる事なんかしないとアウラは知っていた。
「……なんで。何で、あんたに。アンタなんかに」
 震える声でぐちゃぐちゃになった感情を漏らす。
 止まらない涙を両手で拭うロザリアはアウラから離れようとはしなかった。
 ロザリアは感情のまま声を上げて泣き叫んだ。
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