第3話 二人の世界
文字数 2,645文字
幽霊と言うぐらいなのだから恐らく夜に出るのだろう。
アウラは夜の山を上る。道から外れ側面に広がる生い茂る森の中に入ればそこはもう‘‘呪いの森”だ。
行きたい気持ちも山々だったが、ひとまずリコット村の住民にも話を聞くために道のりを進む。
話によればそろそろ付く時間だ。
すると奥の方から明かりが見え始めた。恐らく村の入り口だろう。
そう思っていたが、何処か様子がおかしいようだ。
嫌な予感がしたアウラは急ぎ向かうと村の建物は焼け落ち、地面には農具や狩猟具を持った村人が血を流し倒れていた。
急いで村人たちを確認するがみんな死んでいる。
山賊か?
「おい!生きてるものはいないか!誰かいないのか!」
アウラの声に反応するものはいない。なら山賊でもないらしい。
もっと早く向かっていれば助けられたかもしれない命、変わってやりたいこの状況にただただ虚しさを感じる。
何のために生きてるのだろうか。早く死んでしまいたい。
地面に横たわる村人を見つめながらアウラは悲壮感に飲み込まれる。
「まだいたか」
その言葉に力なく振り返る。
身長は五メートルを超える巨大な魔族。
身に感じるプレッシャーから魔王軍幹部クラスの実力はあるだろう。なぜそんな魔族がこんな人里の村にいるのか。呪いの森ができた理由をなんとなく理解した。
また何もできなかった。誰も助けられなかった。自分だけが孤独に生き残る。
アウラは気力のない声で魔族に問いかける。
「何人こ……!?」
アウラは驚きのあまり言葉に詰まった。
それは魔族の問いかけが恐らく自分に対してではなかったからだ。
魔族の手前にいる黒上の少女。腰まで伸びる艶やかな髪が炎の光で照らされる。
まだ一人生き伸びていた。
アウラにとって彼女は絶望の中に現れた一筋の光に見えた。
彼女だけでも助けないと。
そう思った時には勝手に体が動いていた。
「逃げろぉぉぉおおお!」
まるで絶叫するように叫びながら飛び出していた。もう失わないため、何かに魂を捕らわれたかのように、一心不乱に飛び出した。
「なにを言っている貴様ぁぁぁああ!!」
魔族の咆哮と同時に魔族の中心に膨大なエネルギーが集まっているのが見える。右腕に生成される巨大な黒い斧が全てを切断すると伝えている。
恐らく虹の紋章を持った戦士を一撃で屠れるほどの威力はあるだろう。ただ、そんなもので息絶えれるのであれば喜んで食らう。そんなもので自分が傷一つ付かないことをアウラは知っている。
しかし、目の前にいる彼女は違う。自分以外の人間はみんなそうだ。
アウラは魔族に背を向け少女をぎゅっと抱きしめた。
「お前がただものではないことはわかっている。お前の実力を認めよう。だからこそ思い知るがいい!古の神の右腕を切り落とした悪魔の力を‼しねぇぇぇえええ!レクイア・ラーズ‼」
宿のコテージで夜風にふかれているロザリア。
酔い冷ましの水を飲みながら、酒場であった旅人と名乗ったアウラのことを考えていた。
自分と大して変わらない年齢に見えるが、直感から感じる底知れない力。
自分が最強だと思ってはいないが、勝てるビジョンがまるで見えないアウラという存在が嬉しくてたまらなかった。
更なる高みへと自分を磨くことができる相手が現れた事がロザリアにとっては何よりも嬉しかった。
「アウラ」
そんな胸の高鳴りから気が付けば彼の名を口にしていた。
そんな自分の行動が恥ずかしくなり照れくさそうに笑った。
「……ふふふ。今夜は気持ちよく寝れそうね」
嬉しそうに布団に向かおうとしたロザリアの足が止まった。
全身から一気に溢れ出す鳥肌。
今まで感じたこともない邪悪で強力な魔力に恐怖を感じる。
死ぬ。
本能的にそう感じた。
「なに……これ。山の方からだ」
今まで一度も感じたことのない衝撃にアウラの意識は捕らわれていた。
「うぉぉぉおおおおおおお!!!!」
魔族の咆哮は、アウラの耳には届かない。
そんなことよりも衝撃的なことがアウラの目の前で起きている。
体に触れる少女の感触。手のひらに確かに感じる少女の着る布の繊維。そして、彼女の温もり。
あまりの衝撃に開いた口が塞がらない。
呆気に取られていた次の瞬間、魔族の斬撃が背中を襲う。
アウラに触れると同時に衝撃波が山に響き回りの木々や民家を吹き飛ばした。
しかし、アウラは目の前の少女に意識を持っていかれ攻撃を受けたことに気づかない。
「はっはっは。これが私の最強の一撃。貴様、誉めてやろう。まだ生きているようだが流石にただで済んで入るまい」
砂煙の中からアウラの魔力を感じ取った魔族はもう一度斧に力を籠める。
「な!なんだと!ふざけるなぁぁぁぁぁああああああ!」
煙が晴れた中から現れたアウラは魔族に背を向け呆けていた。何よりも最大の一撃を無傷で耐えているアウラの姿にプライドが傷つけられる。
振り下ろされる斬撃はアウラに当たるが一切傷がつかない。まるで相手にされていない。
「馬鹿にするのもいい加減にしろぉぉぉおおおおおお!」
怒りに身を任せひたすらに連撃をアウラに見舞わせる。
しかし、アウラはそのことに気づいてはいなかった。
衝撃の中、やっと意識を取り戻したアウラはやっと声を漏らす。
「なんで……なんで。今まで、一度も……。え、俺。ずっと……忘れてた」
遠い昔に忘れていた人のぬくもり。肌に触れる感触。
声が震え涙が溢れ出す。アウラのことを不思議そうに見つめていた少女も驚いたように声を震わせ、涙を浮かべる。
「私の……私の姿が。……見えているんですか?そんな……私の、姿。私は……幽霊で、何年も……誰にも」
アウラはこの少女が噂の幽霊だと理解した。そして、言葉の節々から自分と同じようなものを感じたアウラは泣きながら震える少女の正面に両手を伸ばす。
少女も同じようにアウラの両手に手を伸ばし両手を握りあいながら、嬉しそうに涙を流す。
アウラは涙を流しながら笑顔で何とか思いを口にする。
「ちゃんと……聞こえてる。君の声。……ちゃんと聞こえてるし、見えてるから」
「……よかった。貴方に……あえて。本当に……」
「俺もだよ……」
その間、二人の後ろでは必死に魔族の攻撃が行われていた。
しかし、物理攻撃を無効化するアウラには攻撃は効かず、そもそも幽霊の少女に攻撃は当たらない。
この二人の感動の出会いを邪魔するものは誰もいない。いや、邪魔できるものは誰もいなかった。
そこには、ただ二人の世界が広がっていた。
アウラは夜の山を上る。道から外れ側面に広がる生い茂る森の中に入ればそこはもう‘‘呪いの森”だ。
行きたい気持ちも山々だったが、ひとまずリコット村の住民にも話を聞くために道のりを進む。
話によればそろそろ付く時間だ。
すると奥の方から明かりが見え始めた。恐らく村の入り口だろう。
そう思っていたが、何処か様子がおかしいようだ。
嫌な予感がしたアウラは急ぎ向かうと村の建物は焼け落ち、地面には農具や狩猟具を持った村人が血を流し倒れていた。
急いで村人たちを確認するがみんな死んでいる。
山賊か?
「おい!生きてるものはいないか!誰かいないのか!」
アウラの声に反応するものはいない。なら山賊でもないらしい。
もっと早く向かっていれば助けられたかもしれない命、変わってやりたいこの状況にただただ虚しさを感じる。
何のために生きてるのだろうか。早く死んでしまいたい。
地面に横たわる村人を見つめながらアウラは悲壮感に飲み込まれる。
「まだいたか」
その言葉に力なく振り返る。
身長は五メートルを超える巨大な魔族。
身に感じるプレッシャーから魔王軍幹部クラスの実力はあるだろう。なぜそんな魔族がこんな人里の村にいるのか。呪いの森ができた理由をなんとなく理解した。
また何もできなかった。誰も助けられなかった。自分だけが孤独に生き残る。
アウラは気力のない声で魔族に問いかける。
「何人こ……!?」
アウラは驚きのあまり言葉に詰まった。
それは魔族の問いかけが恐らく自分に対してではなかったからだ。
魔族の手前にいる黒上の少女。腰まで伸びる艶やかな髪が炎の光で照らされる。
まだ一人生き伸びていた。
アウラにとって彼女は絶望の中に現れた一筋の光に見えた。
彼女だけでも助けないと。
そう思った時には勝手に体が動いていた。
「逃げろぉぉぉおおお!」
まるで絶叫するように叫びながら飛び出していた。もう失わないため、何かに魂を捕らわれたかのように、一心不乱に飛び出した。
「なにを言っている貴様ぁぁぁああ!!」
魔族の咆哮と同時に魔族の中心に膨大なエネルギーが集まっているのが見える。右腕に生成される巨大な黒い斧が全てを切断すると伝えている。
恐らく虹の紋章を持った戦士を一撃で屠れるほどの威力はあるだろう。ただ、そんなもので息絶えれるのであれば喜んで食らう。そんなもので自分が傷一つ付かないことをアウラは知っている。
しかし、目の前にいる彼女は違う。自分以外の人間はみんなそうだ。
アウラは魔族に背を向け少女をぎゅっと抱きしめた。
「お前がただものではないことはわかっている。お前の実力を認めよう。だからこそ思い知るがいい!古の神の右腕を切り落とした悪魔の力を‼しねぇぇぇえええ!レクイア・ラーズ‼」
宿のコテージで夜風にふかれているロザリア。
酔い冷ましの水を飲みながら、酒場であった旅人と名乗ったアウラのことを考えていた。
自分と大して変わらない年齢に見えるが、直感から感じる底知れない力。
自分が最強だと思ってはいないが、勝てるビジョンがまるで見えないアウラという存在が嬉しくてたまらなかった。
更なる高みへと自分を磨くことができる相手が現れた事がロザリアにとっては何よりも嬉しかった。
「アウラ」
そんな胸の高鳴りから気が付けば彼の名を口にしていた。
そんな自分の行動が恥ずかしくなり照れくさそうに笑った。
「……ふふふ。今夜は気持ちよく寝れそうね」
嬉しそうに布団に向かおうとしたロザリアの足が止まった。
全身から一気に溢れ出す鳥肌。
今まで感じたこともない邪悪で強力な魔力に恐怖を感じる。
死ぬ。
本能的にそう感じた。
「なに……これ。山の方からだ」
今まで一度も感じたことのない衝撃にアウラの意識は捕らわれていた。
「うぉぉぉおおおおおおお!!!!」
魔族の咆哮は、アウラの耳には届かない。
そんなことよりも衝撃的なことがアウラの目の前で起きている。
体に触れる少女の感触。手のひらに確かに感じる少女の着る布の繊維。そして、彼女の温もり。
あまりの衝撃に開いた口が塞がらない。
呆気に取られていた次の瞬間、魔族の斬撃が背中を襲う。
アウラに触れると同時に衝撃波が山に響き回りの木々や民家を吹き飛ばした。
しかし、アウラは目の前の少女に意識を持っていかれ攻撃を受けたことに気づかない。
「はっはっは。これが私の最強の一撃。貴様、誉めてやろう。まだ生きているようだが流石にただで済んで入るまい」
砂煙の中からアウラの魔力を感じ取った魔族はもう一度斧に力を籠める。
「な!なんだと!ふざけるなぁぁぁぁぁああああああ!」
煙が晴れた中から現れたアウラは魔族に背を向け呆けていた。何よりも最大の一撃を無傷で耐えているアウラの姿にプライドが傷つけられる。
振り下ろされる斬撃はアウラに当たるが一切傷がつかない。まるで相手にされていない。
「馬鹿にするのもいい加減にしろぉぉぉおおおおおお!」
怒りに身を任せひたすらに連撃をアウラに見舞わせる。
しかし、アウラはそのことに気づいてはいなかった。
衝撃の中、やっと意識を取り戻したアウラはやっと声を漏らす。
「なんで……なんで。今まで、一度も……。え、俺。ずっと……忘れてた」
遠い昔に忘れていた人のぬくもり。肌に触れる感触。
声が震え涙が溢れ出す。アウラのことを不思議そうに見つめていた少女も驚いたように声を震わせ、涙を浮かべる。
「私の……私の姿が。……見えているんですか?そんな……私の、姿。私は……幽霊で、何年も……誰にも」
アウラはこの少女が噂の幽霊だと理解した。そして、言葉の節々から自分と同じようなものを感じたアウラは泣きながら震える少女の正面に両手を伸ばす。
少女も同じようにアウラの両手に手を伸ばし両手を握りあいながら、嬉しそうに涙を流す。
アウラは涙を流しながら笑顔で何とか思いを口にする。
「ちゃんと……聞こえてる。君の声。……ちゃんと聞こえてるし、見えてるから」
「……よかった。貴方に……あえて。本当に……」
「俺もだよ……」
その間、二人の後ろでは必死に魔族の攻撃が行われていた。
しかし、物理攻撃を無効化するアウラには攻撃は効かず、そもそも幽霊の少女に攻撃は当たらない。
この二人の感動の出会いを邪魔するものは誰もいない。いや、邪魔できるものは誰もいなかった。
そこには、ただ二人の世界が広がっていた。