第2話 酒場のジョバンナ

文字数 2,301文字

 幽霊の情報を求めレイバーという店に付いた。
 ここに来るまでに人気は減り光も差し込まない暗い路地を通り、人柄の悪そうな人も増えてきた。
 だからこそ、気を引き締める。
 ゆっくりと酒場の扉を開けると若い女性の怒号がアウラを出迎えた。
「ふざけんな!」
 そして飛んでくる男の体。
 かわすか迷ったアウラだったが一応、彼を受け止める。
 正面を見るとテーブルの前に胸元まで伸びている赤髪ツインテール少女がいた。
 酔っているのか、少し顔が赤くなっている。そしてだいぶいらだっているようだ。
「報酬の硬貨は公平に山分けしようって話し合ったじゃないか」
 眼鏡をかけた少年の言葉に気の強い彼女は食って掛かる。
「それは成果報酬でしょ、任務内で得た賞金は手に入れた人のものよ!実際私がいなかったらこの任務は成功しなかったでしょ!頼まれたから付き合ったのよ!」
 アウラは受け止めた男を立たせてから、強情な彼女をよそにカウンターにいる女性のもとに向かう。
 恐らく店長のジョバンナだろう。
 アウラがカウンター席に腰を掛けると胸のネームプレートにジョバンナと書かれた女性が早速声をかけてきた。
「すまないね。騒がしくて」
 後ろでもめている男二人女一人のパーティーを見つめながら謝罪する女性。
 アウラは同じようにその三人組を見つめながら言葉を返す。
「大丈夫です。若いのは元気があっていい」
 正面に向き直ると同時に酒が出される。
「そうかい。所で見ない顔だね、何かようかい?」
「ああ。リコット村の近くに出る霊について教えてほしい」
「なんだい、そんなことかい。アンタずいぶん変なものに興味を持つんだね」
「ああ」
「あそこの村の近くには大きな密林があるんだよ。昔はよく魔物が潜んでいた。しかし、霊の出没情報が出てからは魔物はおろか動物も出なくなってね。村の間では‘‘呪いの森”なんて呼ばれてもいるんだよ。なんたって動物も魔物も出ないなら、行くだけ無駄だからね。誰も足を踏み入れなくなった。結果、噂だけが残ったって話だよ。一人で行くと行方不明者も出ているそうだが、リコット村の村人には何の被害も出てないそうだからあくまでただの噂だね」
「そうか」
 分かりやすく落ち込むアウラにジョバンナが問いかける。
「そんな落ち込むことかね?あんた、何でそんなこと知りたがるんだい。見た感じ戦士ってわけでもなさそうだけど、さっきの大男を軽く受け止めてた所を見るとただもんじゃないみたいだ」
「それを言ったら、大男を飛ばしてきた彼女もただものじゃないだろう」
「ああ、あの子は性格があれで酔うともっとあれだけど、実力は本物でね。次の英雄試練に参加するつもりらしいのよ。この辺りでは有名な戦士よ。性格はだいぶ難ありだけどね」
「そうだったのか。……俺はただの旅人だ。シェオールを目指して旅をしてる」
 何かを感じたのかジョバンナの声色が優しくなった。
「聞いたこともないねー。すまないね、あまり力になれなくて」
「いや、十分だよ。ありがとう。一応見に行ってみることにするよ」
「そうかい。アンタの求めてるものに出会えるといいね」
 ジョバンナと別れを告げ席を立つと、例の彼女が仁王立ちで出迎える。
「私はロザリア。戦士で二刀流をしているわ!」
「はあ」
 唐突の自己紹介にアウラはそんな言葉しか出てこなかった。
「貴方は何者なの!自己紹介しなさいよ!」
 助け舟を求めるようにジョバンナを見つめるが、まるで何も起こっていないかのように背を向けお酒の手入れをしている。
 どうやらあの時間で得た友情は大したことなかったらしい。
「俺はアウラ。ただの旅人だ」
 変なのに絡まれたと思ったアウラは早々に挨拶を澄ませ、この場を立ち去ろうと足を一歩前に踏み出すと、彼女が直ぐに進行方向を塞ぐ。
「ちょっと何?ふざけてんの?私のこと舐めてる?貴方の実力が私に見破れないとでも?あんた、相当の手練れでしょ。なんのジョブ使いか見当もつかないわ。こんな人を見るのは初めて」
 その言葉にアウラは驚いた。視覚から相手の力量をはかるには相当の戦闘経験とセンス、その両方が求められる。彼女は見た目によらず、アウラが思っていた以上に実力があるようだ。
 だからこそ、見た目は美少女だが横暴な態度にもったいなさを感じる。神は二物を与えずというが、事実かもしれない。彼女の胸元に目線を向けながらアウラはうなずいた。
「なによ!」
「いや、その……もったいないなと」
 ロザリアはアウラの目線を感じ取ってか、赤い顔がさらに赤くなるのを感じると同時に素早く繰り出される回し蹴り。
 そのまま甘んじて受け入れるか、かわすか、受け止めるか悩んだアウラだったが想定よりも早い動作に反射的に左手が動く。
 アウラの顎を的確に狙ったロザリアの足を左手で受け止める。大体の戦士なら、顎に一撃をもらい脳震盪で一発ダウンだろう。
 同時に衝撃波が建物全体を襲い一部のコップが砕けた。受け止めたアウラは辺りの物の状況から更に彼女の蹴りの力を思い知る。
 ロザリアは驚きと同時に笑みを浮かべる。恐らく闘争本能からの強者に対しての喜びだろう。彼女の力は本物だ。恐らくこの先相当な大物になるだろう。
「ロザリア!」
 後ろから聞こえるジョバンナの怒鳴り声と同時にロザリアの顔はみるみるしぼんでいき、涙目を浮かべている。どうやらジョバンナには勝てないようだ。
 なら助けてよ。
 ずいぶんと縮こまってしまったロザリアと言う名の少女は震えた声で小さく謝った。
「ごめんなさい」
 アウラはそそくさと酒場を後にする。
 そんなアウラの後ろから大きなジョバンナの怒号がまた聞こえる。
「声が小さい!なんて!!」
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