第21話 お風呂

文字数 4,577文字

 アウラたちはイシアルを連れてユシカ島をでることにした。
 ユラはニルタリアスの魔力に捕らえられていたようで、実際に触れられていたわけではないようだった。だからそのまま攻撃しても問題なかったが、それをニルタリアスはわかっており急いで魔法で音を消した。口に突っ込まれていたのはあくまで触れることができているというカモフラージュだったらしい。
 それを聞いて安心したアウラは先ほどの魔族との戦闘で一部削れたロザリアの繭を修正した。その際にユラに顔や性別も変えられるのかと聞かれ、自由自在に変えられると答えた。
 それから、ロザリアは自ら自身の過去と現状をイシアルに打ち明けた。
 イシアルはアウラにお願いし、代わりにアウラがイシアルのことを説明した。
 船に乗った4人はリントブルムに向かった。マタダムの目録は島に残したまま。
 リントブルムは警戒状態を強めているようで、来た時よりも警衛軍の見回りの数が増えていた。
 あの時のロザリアが原因かはわからないが、念のためにアウラの魔法で一旦容姿の全てを変えることとなった。
 赤髪のイケメン男子に生まれ変わったロザリアに二人は興奮するが、アウラにはよくわからなかった。
 ユラが自分もとお願いしてきたが、魔法が効かないのだからできるわけがないと断った。アウラももちろん、自分には使えない。
 イシアルはこの魔法を使えないようで、とっても悔しがっていた。
 街に出れば逆に目立ってしまっていたロザリアだったが、誰もあの赤髪の少女だとは思わなかった。
 ただイシアルはたくさんの人の目線にひどくおびえていた。変にロザリアがイケメンとして注目されてしまい逆効果になっていた。
 それをロザリアも感じたのか、ロザリアで身を隠せるように常に隣に寄り添っていた。
 ただその光景はアウラから見ても恋人同士に見える。
 透き通る程白い肌の美少女のイシアルと兄のロメオにまったく引けをとらない美男子のロザリア。
 私たちも負けてられないね!とユラがアウラの腕を抱き寄せる。ユラは誰にも見えないのだから意味がなかったが、腕に触れるやわらかい肌に嫌な気分はしなかった。
 カルクおじさんの家に付いたアウラたち。
 家から出てきたカルクおじさんはイシアルの姿に驚き喜んだ。
 二人の話の邪魔をしたくなかったアウラたちはイシアルとカルクおじさんに別れを告げた。
 今日は一日リントブルムで休み、明日ここを旅立つことが決まった。
 宿をとったアウラ達は荷物を下ろし一旦解散となった。
 ロザリアは久しぶりのお風呂に胸を躍らせながら風呂屋に向かった。
 ユシカ島にはシャワーしかなく、以前ここに来たときは体の変化のせいでお湯につかれなかった。お風呂が大好きだというわけではなかったが、また長い旅に出る前に入っておきたかった。
 今は見た目が変わったおかげで安心してお風呂を楽しめる。
 お金を払い脱衣所に入ったところで悲鳴が鳴る。
 着替えている女性たちがロザリアを見て、声を上げた。
 一瞬何が起こったかわからなかったが、直ぐに脱衣所を出た。今の自分の見た目は男なのだ。体の作りも例外ではない。こんなに焦ったのは初めてだった。
 風呂屋の店員さんにも目くじらを立てられ怒られる。
 自分の落ち度を理解していたロザリアは、案内されて男湯に恐る恐る足を踏み入れた。
 当たり前だが男しかいない。眼のやりどころに困りながらロザリアは隅の戸棚に荷物を置いた。
 心臓が大きな音を立てて脈打っている。戸棚に手をかけ、下を向きながら呼吸を落ち着かせた。
 周りには男性がたくさんいるが、ロザリアの今の外見は完全に男なので気にする者はいない。
 お金を無駄にできないため入りなおす事も叶わない。
 気づかなかった自分に落ち度があった。
 このまま服を着たまま立っていても変な人に思われてしまう。ロザリアは覚悟を決め服を脱ぎ、周りと自分の体が変わらない事を確認してから風呂場に入る。
 見た目は男でもどうしてもその整った容姿で注目を集めた。
 不安なロザリアはそそくさとお湯の中に顔をうずめる。
「大丈夫ですか?」
 そんなロザリアに若いお兄さんが声をかけてくる。
「あ、……。はい、なんとか」
 なんといえばいいかわからないロザリアにお兄さんは笑顔で問いかけてくる。
「普段見かけない顔ですね?風呂屋は始めて?」
「はい。初めてで」
「それは最初は不安ですよね。ルールがよくわからないですし。私はここの常連で、近くの町工場で働いていて、その疲れをここで癒してるんですよ」
 気持ちよさそうに浸かる若いお兄さん。
 ロザリアは緊張で全然気が気でなかった。こんなに気が休まらないお風呂は初めてだった。
「お兄さんは何を?」
「た、旅人を」
「へー。芸団とかですか?お兄さんめちゃくちゃイケメンですもんね。めっちゃうらやましいな」
「あ、本当にただの旅人です」
「え?じゃあ普段から魔物とかとも戦ってるんですか?」
「ええ、襲われた時は」
「へー凄いなぁ。魔物と戦えるなんて、憧れますよ。あ、そういえば私はサイって言います。今年で19になります。あなたは?」
「私はロ……オです。16ですね」
「ロオさん?改めてよろしく!」
 何とかカバーしたロザリアはサイと握手すると目の前に全裸の男が現れる。
「ロザリア」
 その声に驚いたロザリアは顔を上げる。
「ロザリア?」
 隣で不思議そうにその名を口にするサイ。
 ロザリアは慌ててアウラを引き寄せ耳元で囁く。
「アンタ、名前。ロオって名乗ってんの!」
「ロオ?」
「咄嗟だったの!てかなんで、ここにアンタがいんのよ!」
「ユラから聞いて急いできたんだ」
「ほんとに大変だったんだから!」
 きょとんとしているサイにロザリアが言葉をかける。
「ごめんなさい。この人は一緒に旅をしているアウラ」
「始めまして、アウラだ」
「ああ。はじめまして。私はそこの町工場で働いているサイです」
 気が疲れたロザリアはこの機にさっさと上がってしまおうと後ろで話している二人をよそに湯船から上がった。
 その背を目で追うサイにアウラは言う。
「旅先だと風呂に入れないことも多くて、ロオは今までこういった公共浴場を使ったことがないんだ。だから人目が結構気になるみたいで」
「ああ。そーだったんですね!……なら私が」
 アウラが湯船につかり自分の体を確認している間にサイはロザリアの背を追いかける。
 隅で身を隠す様に体を洗おうとするロザリア。
 するとすぐ後ろから小さな声でサイが囁いた。
「お背中流ししますよ」
 そう言ってサイの手が背中に触れる。
「大丈夫ですよ。緊張しないで」
 耳元で囁かれる優しい声にロザリアの体が思わず反応してしまう。
「ロオ」
 慌てた様子で後からやってきたアウラ。
 真っ赤な顔で少ししんどそうに体を丸めているロザリアは助けを求めるようにアウラに手を差し伸べた。
「サイさん。初めてなんで、ロオは俺が洗いますよ」
「全然大丈夫ですよ」
 ロザリアの初めてを奪いたいのか、サイは一向にひかない。
 アウラはサイに対抗するようにロザリアの体の正面に座った。
 ロザリアは男の感覚を知らない。
 異性に全身を触られるというなれない感覚に、恥ずかしさのあまり何も喋れなくなってしまった。
 代わりに甘い声を漏らしてしまう。
 慣れない感覚に堪らず小さな言葉を漏らす。
「ねぇ……いたい……」
 ロザリアがアウラの耳元で弱々しく囁いた。
「ああ。任せろ、はじめは刺激が強いが……次第に落ち着く」
 小さな声で耳元でささやくアウラ。
 その反応を隠すようにロザリアは体を丸めるが、次の瞬間あまりの刺激の強さに顔を思わず前に突き上げた。
 出してしまいそうな甘い声を抑えるように咄嗟に両手で口を抑える。
 しかし、終わらない強烈な刺激に抑え込んでいた声と一緒に体の奥から飛び出した。
 ヘトヘトで放心状態のロザリアに後ろにいるサイが優しく声を掛ける。
「初めてだったんですね。それにまだ収まってない、このままじゃ辛いすから出し切っちゃいましょう」
「いや、この子は俺に任せてください」
「いえいえ。大丈夫ですよ」
 なぜか言い争いをする二人。ロザリアの意思を伝える隙間などなかった。
 二人は勝手に対抗し、盛り上がっていく。
 ロザリアの意志に関係なく伸ばされていく手は休憩する暇など与えてはくれなかった。
 慣れない刺激がより強くなって襲う。
 抵抗することも叶わず、ロザリアは抗い互い快楽の中に堕ちていった。

 子鹿のように膝を震わせながらなんとか宿についたロザリアは力尽きたように布団の中で寝た。
「いくらなんでもやり過ぎ」
 宿の中でユラがアウラを問い詰める。
「ああ。でも、あればかりは。それにあいつが」
「言い訳しない」
「ああ。ごめん。また明日謝るよ、でもユラもだいぶ慣れた手つきで男風呂に入ってなかったか?」
「き、気のせいよ。きのせい」
 そう言ってユラは壁を隙抜けどこかへ消えていった。

 次の日、目を覚ましたアウラ。
 ロザリアはベットをきれいに整え荷造りを既に終えていた。
 ユラはというと何者かに打ち付けられた様に大の字で天井にくっついていた。
 いつも通りの朝だ。
 アウラはロザリアに昨日の事を謝罪すると、一切話題に持ち出すなと警告された。
 宿を出て三人で歩いていると思いもよらない人物に声をかけられる。
「アウラさんですよね」
 振り返ると王都デネボラの英雄試練でロザリアと戦ったエルギンがいた。
 隣の赤髪のイケメンがロザリアだと伝え簡単に内容を聞いた。
 勇者レペンスが魔王ヘルトと名乗っていること、その魔王ヘルトが戦争を始める事、それを伝えるためにリントブルムに来た事、ヘスティ女王の魔王の力はほとんど残っておらず戦争を止められないこと、魔王ヘルトに渡り合えるのはアウラしかいないこと。
「どうか魔王ヘルトを倒してくださいませんか」
 そう言って頭を下げるエルギン。
 アウラは頭を上げるようにいい、了承する。
 アウラはふと勇者の事をを思い出した。勇者レペンスはある日この地に現れ聖剣エクスカリバーを引き抜いたという。そんな彼はどこまでも優しく、道行く人々を人族と魔族を区別なく助けた。悪くある者の道を正し、皆の進むべき道を示した。
 そんな彼は仲間の過去を効かず、自らの過去も思いも打ち明けることはなかった。
 勇者レペンスは常に正しくあろうとした。
 皆の英雄になろうとしていた。
 魔王討伐の旅の中、その背中を見てアウラは変わろうと思った。アウラの道を正し、示してくれたのだ。
 唐突に空を見上げ固まったアウラ。
 皆が戸惑いつつもアウラの目を追った。 
 リントブルムの上空に立つ一人の男。その男の上空に大きなどす黒い魔法陣が影を落とす。
 突如、薄暗くなった空に皆が困惑し、注目した。
「私は魔王ヘルト。その名を胸に刻み死に絶えるがいい」
 その言葉と同時に城を大きな光が包み込んだ。
 次の瞬間、大爆発がその街を襲う。
 アウラは急いで二人を魔法結界で囲う。爆風が建物を吹きとばし、アウラの周りにあった建物が次々になぎ倒されていく。
 一瞬にして水上都市リントブルムが地図から消えた。
 アウラはエレイン王国のあの日を思い出す。
 そして魔王ヘルトと目が合った。
 彼の顔にあの時のような強い志はなく、悪魔のように醜くこの光景を見てただ笑っていた。
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