第23話 勇者を導く者
文字数 6,021文字
「私は勇者イシアル」
「面白い。対処してみろ勇者!」
イシアルの魔法によって操られた剣が一直線に空を飛び一点を切り裂いた。
「見つけた」
空中に現れる黒い魔力の塊。
どんな魔法にも核となるものが存在する。
魔法を極めたイシアルだからこそ、空間に隠れた魔法の核を見つけることができた。
体の修復を終えたロザリアがイシアルの前に出る。
「イシアル。行くわよ!」
「ええ」
飛び出したロザリアは魔法の核を切り裂いた。然し一撃では全ての膜をそぎ落とすことができない。
イシアルの剣が続けて膜を切り裂き魔法の核を丸裸にする。
最後の一撃を放つところでヘルトの魔法がロザリアを吹きとばした。ヘルトの攻撃でイシアルも結界を展開せざる終えず、聖剣が消える。
魔法陣がより強い輝きを放った。
もう時間がないことは明白。
二人を攻撃するヘルトの一瞬をついて、魔法核に向かって飛び出した。
しかし、ヘルトはアウラが動くことをわかっている。悪魔のような微笑と同時にアウラに伸ばされる腕。
これにつかまれば魔法が発動し皆が死ぬ。
アウラの本気の加速にヘルトは追いつけない。しかし、その踏み込みよりも先にヘルトの腕が伸びて来ていた。
アウラのスタイルを完全に理解しているからこその笑み。ヘルトは分かっているのだ、アウラの加速が間に合わないということを。
アウラは不死だ。死ぬことがない。だから今まで仲間と一緒に行動するのは控えていた。自分の戦いに巻き込まれて仲間が死んでいくのを見たくなかった。
死んでしまう可能性がある仲間という存在が、アウラにとって足かせとなる。旅の足手まといとなる。
アウラの身につけた仲間を死なせないためのタンクの力も、賢者の力も、速さも、不死身とは違い絶対的なものではない。
――ああ。やっぱり、仲間なんていらない。こうなるなら一人で良かった。一人のほうが楽だった。
アウラの心の中に暗い影が落ちる。
意識しないようにしようと思っても、眼の前の現実に嫌でも意識させられる。『お前こそ、なぜそんな足手まといと一緒にいるんだ。お前には守りきれんだろう』と魔王ヘルトの言葉が頭に蘇る。
――やめろ、やめてくれ。
もうそう願うことしかできない。
しかし、アウラは一人の少女の存在を忘れていた。
こういう時。
どうしようもない時、いつだってアウラを引っ張っていってくれた少女。
そんなアウラの背中を押してくれたのはユラだった。
「アウラ!」
そう言ってユラがアウラに体当たりをしてくる。
ユラの体に押されたアウラは物理的に不可能な動きでヘルトの腕から遠のいていく。
何が起きたか理解できず呆気にとられた様子のヘルト。
ユラも一瞬呆けていたが、直ぐに気を戻し叫ぶ。
「アウラ行って!」
大きく踏み込んだアウラは加速する。人を助けるためにアウラが身に付けた最速の力。
速度が早ければ早いほど、ぶつかったときのエネルギーは跳ね上がる。
魔法の核は物理攻撃に弱い。
アウラの拳が魔法の核を抑え、上空の魔法陣が決壊した。
立ち上がったヘルトに向かい合うように、アウラの後ろにロザリアとイシアルが並んだ。
「もう魔力をすべて失っただろ。まだ続けるのか」
「そうだな。楽しみはまだ取っておこう。戦争を止めたければ私の元にこい、魔王城で待つ」
同時に黒いゲートが開く。
この力をアウラは知っている。
第12魔神の一人。次元の使者、黎明のバラン。
ヘルトは黒いゲートと共に消えた。
戦い終えたアウラ一行は生存者を探したが、この国で生きていたのはカルクじいさんだけだった。
たまたまイシアルと一緒にいたおかげで、結界の中で何とか生き延びたようだった。
生存者はアウラとロザリアとイシアルとユラとエルギンとカルクおじさんの5人。
アウラはロザリアのもう一度外見を変える魔法をかけなおし出発する。
目的地は王都デネボラ。元魔王から今の魔王軍について知るため、ロザリアの体に流れる魔族の進行を止めるため。そして、ヘスティに使ったアウラ自身の最強の技を回収するため。
王都デネボラ
女王陛下に挨拶を済ませたアウラたちは一度解散する。
アウラとロザリアとイシアルはヘスティに地下室へと案内された。
ロメオとジョバンナも地下室に同行した。
目的はロザリアの魔族への進行を止める事。
アウラはヘスティの魔法の成功率を上げるために一歩前に出る。
ヘスティは魔王デネボラとしてミラルフと一緒にこの地に来た時、アウラが念の為に付けた制限を説明する。
一人にしか発動できないがアウラの最強スキル、敵視固定。触れた相手の攻撃対象を自分に固定するその技は、タンクがメインとして持つアウラの最強スキル。
この力で今までヘスティは自分から相手に意識を持っては攻撃をできなかった。身を守るための行動しかできない、そのスキルが何らかの意識に影響している可能生もあった。
ヘスティにかかるスキルを解除してから、次はロザリアの前に立ち魔法を解除する。
アウラの魔法で隠していた本来の姿があらわになり、ロメオは絶句した。
首から下はもう人間ではなくなっていた。魔族特有の赤黒い肌へと変わっている。
より酷使している体が魔族特有の変化の仕方をしている。
ヘスティは魔力を込めながら感情もなく答える。
「魔族は魔力に影響を受け少しずつ、自分の求める力に合わせて体を変化させていく。だから首から上は変化しずらい」
ロザリアの首に魔法の紋様が浮かび上がり裸が白く焼ける。
痛がるロザリアのロメオは苦しそうに見ていた。
紋様の上から魔力のこもった宝石が浮かび上がり、ネックレストなってロザリアの首にかかる。
「宝石がある限り完全に魔族になることはない。けど、首より下は魔族としての変化は続いていく」
「どうにかならないのか」
アウラの言葉にヘスティは答える。
「今はまだ」
「ってことは可能性はあるのか?」
「完全に魔族になってしまわなければ可能性はあるかもしれない」
「なら!」
安堵するようにロメオが言葉を漏らすがヘスティが続ける。
「あくまでも可能性。宝石が壊れたら、無理」
城を出たアウラとユラとロザリアとイシアル。
ロザリアは言った。
「別に気にしなくていいわよ。初めから覚悟してたことだし、可能性が見えただけで満足よ。そんなことよりも今は魔王との戦いに供えるべきよ。あんなのでもヘスティは私にとっては母親代わりだからね。あの人が私を守ってくれた、私もあの人が守ってくれたものを守らないと」
「ロザリア!私、付き合う。私も勇者といての役目を果たすために」
イシアルの言葉に少し驚いたロザリアだが、直ぐに笑みを浮かべイシアルの手を引く。
「そう。なら本気で付き合って貰うわよ!」
「望むところ」
かけていく二人の背を見届けたアウラとユラ。
「若いっていいね」
「まぁ、そうだな」
ユラの言葉にアウラは笑った。
ヘスティの話によると大陸の最西端にある魔王城から魔王軍10万は西央王国スエムに向かって進撃を開始したようだ。魔王ヘルトの目的はあくまでも楽しむことで勝つことなど気にしていない。長引けば長引くほど、楽しめれば楽しめる程いいと考えている。
言い換えれば楽しめれば負けてもいいと考えているのだ。どれだけ魔族が死のうがどうでもいいと。
魔界から西央王国スエムへの道は一番人界に近道だが道は狭く数百人程度しか同時に通れない。
人界軍はいかに被害を減らすかが重視されることとなる。
中でも警戒しないといけないのが魔王ヘルトに選ばれた第四魔族。一人はユシカ島で倒したニルタリアス。ヘスティによると彼は最弱だということだ。最も彼の徳逸すべき点は戦うことではなく情報収集力と生存力だ。時間をかけれあかけるほど、戦力も増していく最も厄介な相手。ヘスティによると始めに倒しておけたのは好都合とのことだった。
残りは三人。サエルとバランとオノクリア。中でも、後者の二人バランとオノクリアを警戒したほうがいいだろう。
なぜなら、魔王デネボラと同じ第12魔神だからだ。
サエルは魔王ヘルトの配下に自らくだった魔族で、鉄壁のサエルと言われていたらしい。アウラはあったことがない。
バランはアウラも知っている第12魔神の一人。次元の使者、黎明のバラン。敵や味方といった概念はなく、記憶や思い出といった代償を払えば好きな場所に繋げてくれる。ヘスティによると厳密には魔王ヘルトに付き従っているのではなく、オノクリアの命令で付き従っているようだ。
オノクリア。第12魔神の一人、魔界の覇者オノクリア。アウラも知っているその魔族は魔王の側近だった。勇者一行として一度対峙したことがあったが、その時は三人で戦っても敗走した苦い思い出がある。魔界の覇者という異名を持つオノクリアは自身が魔王と認めたものに付き従うという。その実力は魔王デネボラをも凌駕している。
そして最後の問題が魔王ヘルト。アウラと同じく全てを無効化する力。封印しようにも彼の力は強大なために封印しきれないだろう、仮にできたとしてもいつまでも封印が続くわけではない。封印が解ければまた世界に脅威が迫る。
「さあ、魔王ヘルトをどうするか考えないとな」
アウラとユラは町に向かう。何か思いつくかもしれないと目的もなく歩き出した。
「無敵なんでしょ、無理じゃん」
「なんかあるはずだ。無敵なヘルトを倒せれば、俺自身の死に方も分かるかもしれないしな。弱点がないなんて当てあり得ない」
「アウラは弱点があるの?」
「……俺自身にはない」
「だよねー。ってかなんでヘルトも不死身なの?物理無効や魔法無効の固有スキルもちがいるのはわかるよ?ニルタリアスが物理無効だったもんね。だけど、寿命無効って意味わかんなくない?幽霊じゃないのに」
「幽霊って寿命ないのか?」
「さぁ?」
「お互いにさっぱりだな」
「アウラがきっかけだったりしないのかな。ヘルトからアウラと同じ感覚がしたの。これをきっと魔力とかいうんだろうけど私には分かんないから」
「俺がきっかけか」
「魔王ヘルトは勇者だった時から不死身だったの?」
「いや、怪我はしていた。俺が治していたからな。だが、めちゃくちゃたふだったよ」
「んー。そっかー」
王通りを歩く二人に声をかけてくるものがいた。
「アウラさん!」
「ああ!レナード!」
アウラは英雄試練の時に来た商人レナードとの再会にテンションが上がる。
「元気でしたか!」
「ああ。俺はもちろん元気だよ」
アウラの前に出たユラが問いかける。
「誰ー?」
「ああ。彼はレナードこの町に来るとき一緒に来たんだ」
戸惑うレナードにアウラは見えないユラを紹介する。
「幽霊のユラだ。見えないし触れれないし、聞こえないと思うが確かにここにいるんだ」
笑顔で答えるアウラにレナードは言った。
「そうですか。死の国シェオールには行けたんですね!。以前よりもずいぶん明るくなられたみたいで良かったです」
満面の笑みでほほ笑むレナード。きっと死の国シェオールでユラとあったと思ったのだろう。少し勘違いしているようだが、アウラは訂正しなかった。
「そういえばアウラさんに見せたいものがあるんです!」
いわれるがままについていくと雑貨屋に着いた。
どうやら王都デネボラに自分の店を持ったようだった。
家に入りテーブルに案内される。
二人分の椅子を用意するレナードに甘え、席に座りしばらく待った。
すると重たそうな荷物を持ってくるレナード。
テーブルの上に置かれた黒いケースは断結晶と呼ばれる高価な結晶で作られたケースだった。断結晶は魔力を断つ性質を持つ結晶で、防具として用いられることが多い。
「凄いな。こんなものどこで」
アウラの言葉にレナードは嬉しそうに答えた。
「ええ。頑張りましたよ。問題は中身なんですよ」
魔力を断つ結晶で作られたのだから何か魔力の溢れるものが入っているのだろうが、そんなたいそうなものが入っているのだろうか。
いくら魔力を断つ結晶でもその効力はたかが知れていた。強大な魔力を持つものはこんなものでは隠せない。
自信満々のレナードにアウラは問いかける。
「空けても?」
「ぜひ、マタダムさん」
ケースを開けようと手を伸ばしたアウラは驚いた。だから先ほどの幽霊の話をすんなり信じたのだともう一度理解する。
中から出てきたのはマタダムの目録だった。
本を触り記憶を蘇らせる。ほとんどがくだらない、しかしどこか楽しそうな勇者一行の旅の話だった。そして、後半は勇者が生まれる前の覚えている範囲記録があった。日本に住んでいた時の事、それから転生を繰り返した先の記憶。死ねなくなっていく過程と記憶を失っていく過程。
自分勝手に生き、悪に手を染めていたマタダムが、興味本位で、些細な気分転換で、ただの気まぐれで一人の少年を救った話。
生まれたばかりの男の子はあざのせいで煙たがられ、いじめられていた。傷だらけの彼は明るく優しかった。
そんな少年にアウラはスキルを使った。肩代わり、それは受けたダメージの半分を肩代わりするもの。一人にしか発動できない技だったが、常に一人のアウラには関係がなかった。
そんな少年のことなど忘れ、数十年後に勇者となった彼と再会した。
子供の時に言っていた夢を叶えていた勇者と出会った。彼はマタダムのことを覚えており、冒険に誘った。断ろうと考えていたマタダムだったが、あの時と同じようにほんの気分転換で、暇つぶしのつもりで彼の冒険に同行した。
マタダムにとってそれは体験したこともない刺激的な冒険で、気が付かば彼の背中を追っていた。
彼はどこまでも優しく誠実でまっすぐだった。英雄となった後も彼は勇者としての責務を果たすため、人々を救うたびに出た。
アウラは理解した。
魔王ヘルトが不死なのは自分のスキルのせいだと。本来、半分を肩代わりするスキルは進化し、次第に全ての情報を肩代わりするようになっていたのだ。
永遠の寿命が彼をおかしくさせた。勇者を魔王へと変えてしまった。
普通の人間なら60年程度でその生涯の殆どを終える。勇者レペンスはどこまでもまっすぐな男だった。その真っ直ぐさは普通のものでは突き通すことができない。正義を掲げ貫き通すことなどできないのだ。
しかし、勇者レペンスは違った。だからこそ、勇者だったのかもしれない。
だが、それも一般的な寿命の範囲だ。200年もの月日は勇者レペンスの心を黒く染め上げるには十分過ぎたのだろう。アウラと違い勇者レペンスは真っすぐで休むことを知らない。人々が当たり前に出す、醜く傲慢な欲求をずっと抑え込んでいた。
そんな心に溜まった悪意が勇者レペンスを真っ黒に染め上げ、今の魔王ヘルトを生んだのだろう。
「アウラさん。今度は貴方が導く番です。この戦争を止められるとしたら貴方だけです。勇者レペンスを救ってあげて下さい」
「面白い。対処してみろ勇者!」
イシアルの魔法によって操られた剣が一直線に空を飛び一点を切り裂いた。
「見つけた」
空中に現れる黒い魔力の塊。
どんな魔法にも核となるものが存在する。
魔法を極めたイシアルだからこそ、空間に隠れた魔法の核を見つけることができた。
体の修復を終えたロザリアがイシアルの前に出る。
「イシアル。行くわよ!」
「ええ」
飛び出したロザリアは魔法の核を切り裂いた。然し一撃では全ての膜をそぎ落とすことができない。
イシアルの剣が続けて膜を切り裂き魔法の核を丸裸にする。
最後の一撃を放つところでヘルトの魔法がロザリアを吹きとばした。ヘルトの攻撃でイシアルも結界を展開せざる終えず、聖剣が消える。
魔法陣がより強い輝きを放った。
もう時間がないことは明白。
二人を攻撃するヘルトの一瞬をついて、魔法核に向かって飛び出した。
しかし、ヘルトはアウラが動くことをわかっている。悪魔のような微笑と同時にアウラに伸ばされる腕。
これにつかまれば魔法が発動し皆が死ぬ。
アウラの本気の加速にヘルトは追いつけない。しかし、その踏み込みよりも先にヘルトの腕が伸びて来ていた。
アウラのスタイルを完全に理解しているからこその笑み。ヘルトは分かっているのだ、アウラの加速が間に合わないということを。
アウラは不死だ。死ぬことがない。だから今まで仲間と一緒に行動するのは控えていた。自分の戦いに巻き込まれて仲間が死んでいくのを見たくなかった。
死んでしまう可能性がある仲間という存在が、アウラにとって足かせとなる。旅の足手まといとなる。
アウラの身につけた仲間を死なせないためのタンクの力も、賢者の力も、速さも、不死身とは違い絶対的なものではない。
――ああ。やっぱり、仲間なんていらない。こうなるなら一人で良かった。一人のほうが楽だった。
アウラの心の中に暗い影が落ちる。
意識しないようにしようと思っても、眼の前の現実に嫌でも意識させられる。『お前こそ、なぜそんな足手まといと一緒にいるんだ。お前には守りきれんだろう』と魔王ヘルトの言葉が頭に蘇る。
――やめろ、やめてくれ。
もうそう願うことしかできない。
しかし、アウラは一人の少女の存在を忘れていた。
こういう時。
どうしようもない時、いつだってアウラを引っ張っていってくれた少女。
そんなアウラの背中を押してくれたのはユラだった。
「アウラ!」
そう言ってユラがアウラに体当たりをしてくる。
ユラの体に押されたアウラは物理的に不可能な動きでヘルトの腕から遠のいていく。
何が起きたか理解できず呆気にとられた様子のヘルト。
ユラも一瞬呆けていたが、直ぐに気を戻し叫ぶ。
「アウラ行って!」
大きく踏み込んだアウラは加速する。人を助けるためにアウラが身に付けた最速の力。
速度が早ければ早いほど、ぶつかったときのエネルギーは跳ね上がる。
魔法の核は物理攻撃に弱い。
アウラの拳が魔法の核を抑え、上空の魔法陣が決壊した。
立ち上がったヘルトに向かい合うように、アウラの後ろにロザリアとイシアルが並んだ。
「もう魔力をすべて失っただろ。まだ続けるのか」
「そうだな。楽しみはまだ取っておこう。戦争を止めたければ私の元にこい、魔王城で待つ」
同時に黒いゲートが開く。
この力をアウラは知っている。
第12魔神の一人。次元の使者、黎明のバラン。
ヘルトは黒いゲートと共に消えた。
戦い終えたアウラ一行は生存者を探したが、この国で生きていたのはカルクじいさんだけだった。
たまたまイシアルと一緒にいたおかげで、結界の中で何とか生き延びたようだった。
生存者はアウラとロザリアとイシアルとユラとエルギンとカルクおじさんの5人。
アウラはロザリアのもう一度外見を変える魔法をかけなおし出発する。
目的地は王都デネボラ。元魔王から今の魔王軍について知るため、ロザリアの体に流れる魔族の進行を止めるため。そして、ヘスティに使ったアウラ自身の最強の技を回収するため。
王都デネボラ
女王陛下に挨拶を済ませたアウラたちは一度解散する。
アウラとロザリアとイシアルはヘスティに地下室へと案内された。
ロメオとジョバンナも地下室に同行した。
目的はロザリアの魔族への進行を止める事。
アウラはヘスティの魔法の成功率を上げるために一歩前に出る。
ヘスティは魔王デネボラとしてミラルフと一緒にこの地に来た時、アウラが念の為に付けた制限を説明する。
一人にしか発動できないがアウラの最強スキル、敵視固定。触れた相手の攻撃対象を自分に固定するその技は、タンクがメインとして持つアウラの最強スキル。
この力で今までヘスティは自分から相手に意識を持っては攻撃をできなかった。身を守るための行動しかできない、そのスキルが何らかの意識に影響している可能生もあった。
ヘスティにかかるスキルを解除してから、次はロザリアの前に立ち魔法を解除する。
アウラの魔法で隠していた本来の姿があらわになり、ロメオは絶句した。
首から下はもう人間ではなくなっていた。魔族特有の赤黒い肌へと変わっている。
より酷使している体が魔族特有の変化の仕方をしている。
ヘスティは魔力を込めながら感情もなく答える。
「魔族は魔力に影響を受け少しずつ、自分の求める力に合わせて体を変化させていく。だから首から上は変化しずらい」
ロザリアの首に魔法の紋様が浮かび上がり裸が白く焼ける。
痛がるロザリアのロメオは苦しそうに見ていた。
紋様の上から魔力のこもった宝石が浮かび上がり、ネックレストなってロザリアの首にかかる。
「宝石がある限り完全に魔族になることはない。けど、首より下は魔族としての変化は続いていく」
「どうにかならないのか」
アウラの言葉にヘスティは答える。
「今はまだ」
「ってことは可能性はあるのか?」
「完全に魔族になってしまわなければ可能性はあるかもしれない」
「なら!」
安堵するようにロメオが言葉を漏らすがヘスティが続ける。
「あくまでも可能性。宝石が壊れたら、無理」
城を出たアウラとユラとロザリアとイシアル。
ロザリアは言った。
「別に気にしなくていいわよ。初めから覚悟してたことだし、可能性が見えただけで満足よ。そんなことよりも今は魔王との戦いに供えるべきよ。あんなのでもヘスティは私にとっては母親代わりだからね。あの人が私を守ってくれた、私もあの人が守ってくれたものを守らないと」
「ロザリア!私、付き合う。私も勇者といての役目を果たすために」
イシアルの言葉に少し驚いたロザリアだが、直ぐに笑みを浮かべイシアルの手を引く。
「そう。なら本気で付き合って貰うわよ!」
「望むところ」
かけていく二人の背を見届けたアウラとユラ。
「若いっていいね」
「まぁ、そうだな」
ユラの言葉にアウラは笑った。
ヘスティの話によると大陸の最西端にある魔王城から魔王軍10万は西央王国スエムに向かって進撃を開始したようだ。魔王ヘルトの目的はあくまでも楽しむことで勝つことなど気にしていない。長引けば長引くほど、楽しめれば楽しめる程いいと考えている。
言い換えれば楽しめれば負けてもいいと考えているのだ。どれだけ魔族が死のうがどうでもいいと。
魔界から西央王国スエムへの道は一番人界に近道だが道は狭く数百人程度しか同時に通れない。
人界軍はいかに被害を減らすかが重視されることとなる。
中でも警戒しないといけないのが魔王ヘルトに選ばれた第四魔族。一人はユシカ島で倒したニルタリアス。ヘスティによると彼は最弱だということだ。最も彼の徳逸すべき点は戦うことではなく情報収集力と生存力だ。時間をかけれあかけるほど、戦力も増していく最も厄介な相手。ヘスティによると始めに倒しておけたのは好都合とのことだった。
残りは三人。サエルとバランとオノクリア。中でも、後者の二人バランとオノクリアを警戒したほうがいいだろう。
なぜなら、魔王デネボラと同じ第12魔神だからだ。
サエルは魔王ヘルトの配下に自らくだった魔族で、鉄壁のサエルと言われていたらしい。アウラはあったことがない。
バランはアウラも知っている第12魔神の一人。次元の使者、黎明のバラン。敵や味方といった概念はなく、記憶や思い出といった代償を払えば好きな場所に繋げてくれる。ヘスティによると厳密には魔王ヘルトに付き従っているのではなく、オノクリアの命令で付き従っているようだ。
オノクリア。第12魔神の一人、魔界の覇者オノクリア。アウラも知っているその魔族は魔王の側近だった。勇者一行として一度対峙したことがあったが、その時は三人で戦っても敗走した苦い思い出がある。魔界の覇者という異名を持つオノクリアは自身が魔王と認めたものに付き従うという。その実力は魔王デネボラをも凌駕している。
そして最後の問題が魔王ヘルト。アウラと同じく全てを無効化する力。封印しようにも彼の力は強大なために封印しきれないだろう、仮にできたとしてもいつまでも封印が続くわけではない。封印が解ければまた世界に脅威が迫る。
「さあ、魔王ヘルトをどうするか考えないとな」
アウラとユラは町に向かう。何か思いつくかもしれないと目的もなく歩き出した。
「無敵なんでしょ、無理じゃん」
「なんかあるはずだ。無敵なヘルトを倒せれば、俺自身の死に方も分かるかもしれないしな。弱点がないなんて当てあり得ない」
「アウラは弱点があるの?」
「……俺自身にはない」
「だよねー。ってかなんでヘルトも不死身なの?物理無効や魔法無効の固有スキルもちがいるのはわかるよ?ニルタリアスが物理無効だったもんね。だけど、寿命無効って意味わかんなくない?幽霊じゃないのに」
「幽霊って寿命ないのか?」
「さぁ?」
「お互いにさっぱりだな」
「アウラがきっかけだったりしないのかな。ヘルトからアウラと同じ感覚がしたの。これをきっと魔力とかいうんだろうけど私には分かんないから」
「俺がきっかけか」
「魔王ヘルトは勇者だった時から不死身だったの?」
「いや、怪我はしていた。俺が治していたからな。だが、めちゃくちゃたふだったよ」
「んー。そっかー」
王通りを歩く二人に声をかけてくるものがいた。
「アウラさん!」
「ああ!レナード!」
アウラは英雄試練の時に来た商人レナードとの再会にテンションが上がる。
「元気でしたか!」
「ああ。俺はもちろん元気だよ」
アウラの前に出たユラが問いかける。
「誰ー?」
「ああ。彼はレナードこの町に来るとき一緒に来たんだ」
戸惑うレナードにアウラは見えないユラを紹介する。
「幽霊のユラだ。見えないし触れれないし、聞こえないと思うが確かにここにいるんだ」
笑顔で答えるアウラにレナードは言った。
「そうですか。死の国シェオールには行けたんですね!。以前よりもずいぶん明るくなられたみたいで良かったです」
満面の笑みでほほ笑むレナード。きっと死の国シェオールでユラとあったと思ったのだろう。少し勘違いしているようだが、アウラは訂正しなかった。
「そういえばアウラさんに見せたいものがあるんです!」
いわれるがままについていくと雑貨屋に着いた。
どうやら王都デネボラに自分の店を持ったようだった。
家に入りテーブルに案内される。
二人分の椅子を用意するレナードに甘え、席に座りしばらく待った。
すると重たそうな荷物を持ってくるレナード。
テーブルの上に置かれた黒いケースは断結晶と呼ばれる高価な結晶で作られたケースだった。断結晶は魔力を断つ性質を持つ結晶で、防具として用いられることが多い。
「凄いな。こんなものどこで」
アウラの言葉にレナードは嬉しそうに答えた。
「ええ。頑張りましたよ。問題は中身なんですよ」
魔力を断つ結晶で作られたのだから何か魔力の溢れるものが入っているのだろうが、そんなたいそうなものが入っているのだろうか。
いくら魔力を断つ結晶でもその効力はたかが知れていた。強大な魔力を持つものはこんなものでは隠せない。
自信満々のレナードにアウラは問いかける。
「空けても?」
「ぜひ、マタダムさん」
ケースを開けようと手を伸ばしたアウラは驚いた。だから先ほどの幽霊の話をすんなり信じたのだともう一度理解する。
中から出てきたのはマタダムの目録だった。
本を触り記憶を蘇らせる。ほとんどがくだらない、しかしどこか楽しそうな勇者一行の旅の話だった。そして、後半は勇者が生まれる前の覚えている範囲記録があった。日本に住んでいた時の事、それから転生を繰り返した先の記憶。死ねなくなっていく過程と記憶を失っていく過程。
自分勝手に生き、悪に手を染めていたマタダムが、興味本位で、些細な気分転換で、ただの気まぐれで一人の少年を救った話。
生まれたばかりの男の子はあざのせいで煙たがられ、いじめられていた。傷だらけの彼は明るく優しかった。
そんな少年にアウラはスキルを使った。肩代わり、それは受けたダメージの半分を肩代わりするもの。一人にしか発動できない技だったが、常に一人のアウラには関係がなかった。
そんな少年のことなど忘れ、数十年後に勇者となった彼と再会した。
子供の時に言っていた夢を叶えていた勇者と出会った。彼はマタダムのことを覚えており、冒険に誘った。断ろうと考えていたマタダムだったが、あの時と同じようにほんの気分転換で、暇つぶしのつもりで彼の冒険に同行した。
マタダムにとってそれは体験したこともない刺激的な冒険で、気が付かば彼の背中を追っていた。
彼はどこまでも優しく誠実でまっすぐだった。英雄となった後も彼は勇者としての責務を果たすため、人々を救うたびに出た。
アウラは理解した。
魔王ヘルトが不死なのは自分のスキルのせいだと。本来、半分を肩代わりするスキルは進化し、次第に全ての情報を肩代わりするようになっていたのだ。
永遠の寿命が彼をおかしくさせた。勇者を魔王へと変えてしまった。
普通の人間なら60年程度でその生涯の殆どを終える。勇者レペンスはどこまでもまっすぐな男だった。その真っ直ぐさは普通のものでは突き通すことができない。正義を掲げ貫き通すことなどできないのだ。
しかし、勇者レペンスは違った。だからこそ、勇者だったのかもしれない。
だが、それも一般的な寿命の範囲だ。200年もの月日は勇者レペンスの心を黒く染め上げるには十分過ぎたのだろう。アウラと違い勇者レペンスは真っすぐで休むことを知らない。人々が当たり前に出す、醜く傲慢な欲求をずっと抑え込んでいた。
そんな心に溜まった悪意が勇者レペンスを真っ黒に染め上げ、今の魔王ヘルトを生んだのだろう。
「アウラさん。今度は貴方が導く番です。この戦争を止められるとしたら貴方だけです。勇者レペンスを救ってあげて下さい」