第五話 「ベヒモス狩り」01
文字数 2,705文字
四カ国の国境線が接するこの一帯には、過去に大量の生物兵器、ベヒモスが放たれ、協定で近代兵器の使用は禁止されていた。
そのベヒモスを狩り、戦後を清算出来るのは唯一、大戦時にゲノム編集された、スキルと呼ばれる力を使い常人を超える戦闘力を発揮する者たち。
戦闘種族(ウォーリアズ)だった。
大戦時に実験体としてゲノム編集された戦闘兵士の力。
シュンは従軍していた父親から編集遺伝子を受け継ぎこの力を得たと聞いていた。
朝、メンバー全員で一階の詰め所で戦いの準備をする。
剣を抜いて刃を眺めて鞘に納め、金具とベルトの連結に負荷をかけて強度を確認する。
革のブーツの紐が痛んではいないか見つつきつく結び、簡易な革製の鎧を身に付ける。
ランツィアが戦う時の標準の姿だ。
もう上の上と戦っても遅れは取らない。
ブレイソンが強いベヒモスと会敵できる場所に行きたいと、毎日思っているのはシュンも感じていた。
ランツィアでは一人での討伐は御法度だった。
単独行動をして帰って来ない戦闘種は多い。
アルバーは馬を借りて広範囲にメンバー全員の様子をみる。
四人は馬を駆り、間道の入り口へと向かった。
シュンとブレイソンが先頭に並びグンソンとロッドの二人が後続で馬を走らせ、いつもの森を駆け抜けて更に奥へと進む。
グンソンの【探査】はなかなかだ。
下馬してシュンが先頭になり森を進むと黒い影が見えた。
ブラウニーがいるようだ。集団行動をする種なので全てそうなのだろう
ブレイソンは一体を切り捨てた後、返す剣でもう一体を切り捨てた。
間道を更に奥に進みながら、同じように中程度のベヒモスを狩っていく。
道は魔境に差し掛かっていた。シュンは馬を停止させる。
スケラーノとの戦いはもっとずっと奥の魔境の深部から始まった。
そこから一昼夜かけて奴をデス・ベイスンに追い込んだのだ。
大型のベヒモスが移動している証拠だ。
彼が指し示す獣道へ馬を進めると、シュンもベヒモスの気配を感じて全員が下馬する。
更に先に進むとあのスケラーノと同じ種のフェルテが現れた。
体長は三メートルほどで上の下程度の力がある個体だ。
シュンも剣を抜いていざという時に備え、【探査】を使い周辺を警戒する。
ランツィアの戦いは常に一人か複数が戦いに参加しないで他のベヒモスに備えるのだ。
正面にはブレイソンが立ち、後方にはグンソン。ロッドは側面に就いた。
二足で立ち上り前足の攻撃を繰り出すフェルテをブレイソンが軽くいなし、グンソンは蛇のような長い尾に剣を突き出し、振り向きざまに繰り出す尾の攻撃を牽制する。
焦れたフェルテが前に出ると、側面のロッドが【移動】と【衝撃】のスキルで突きを仕掛け、フェルテが腕を振ると傷は浅いがすぐさま引く。
ブレイソンたちは突きの攻撃を徹底していた。
おそらく普段から小物を相手に、様々な大型ベヒモスに対する方法を試しているに違いなかった。
長い小競り合いに耐えかねたフェルテが本能のままに、全方位に向けて凶悪さを剥き出しに暴れ始めた。
攻撃を受けた者は引き、後方、側面が次々に剣を突く。
振り向いたフェルテに対して一瞬の隙をついて、ブレイソンが放った突きが弱点の喉に深々と突き刺さった。
同時にグンソンとロッドも剣を突き、ブレイソンは引いた。
悲鳴を上げて立ち尽くしたフェルテは動きを止めた後、バタリと地面に倒れる。
少しの間を置いてブレイソンが念の為に止めの剣を喉に深く突き刺す。フェルテは微動だにしない。
フェルテの頭部を割り、取り出したレアクリスタルをブレイソンがボロ布で拭く。
それは少し小振りであるが青く光っていた。
シュンがスケラーノの力を取り込めたのは、それが未知のスキルで、取り込む未知のコンテナが備わっていたからだ。
そのスキルが何なのか? シュンにも未だにそれは分からないままだった。
危なげなく安定感があり、敵の一瞬の隙も見逃さない。
そして、それぞれの実力に見合った配置と作戦。
この街に来て食えない戦闘種になって、浮浪児のように街を彷徨って、夜は路地裏で寝、昼は森に出で小物を狩る。
うだつの上がらない暮らしを続けながら、故郷に帰る事もできない。
そんな暮らしをしていた少年たちが、腕を上げていくのを見るのは嬉しいものだ、とシュンは思った。