第十一話 「西への大進行」01

文字数 1,723文字

 休日のある午後、シュンは特にやる事もないので、自室で一人書類を読み返していた。
 ドアがノックされ、返事をすると私服のアルバーがとカノーアが仲良く顔を出す。
2017/12/05 14:52
「どうした、二人そろって? ここはデートコースか?」
2017/12/05 14:52
 シュンのジョークにも二人は真剣な表情を崩さない。
2017/12/05 14:52
「西で大進行が始まったみたいです。街の連中が話しています」
2017/12/05 14:53
「なんだって?」
2017/12/05 14:53
 どこかの地域でベヒモスの大量進行が始まった場合、その城塞だけでは対応できなくなり、他の城塞でもクエストが発動される場合があった。
2017/12/05 14:53
「……情報を仕入れに行ってみるか」
2017/12/05 14:58
 シュンとアルバー、カノーアはギルドに向かった。街の中はザワついている。
2017/12/05 14:58
「カノーア、せっかくの休日なのに悪いな……」
2017/12/05 14:58
「いえ、スカーレッドも明日には対応に動くと思うので……」
2017/12/05 14:59
 レイキュアの事だから張り切って、ウチも参加するなどと言うはずだ。
 
 
 西城塞ラヌゼルダにベヒモスの大進行が始まっていた
 。ギルドの掲示板にはいくつもの地図や書類などが貼られて、戦闘種の人垣ができている。
 大進行の理由は解明されていないが、興奮したベヒモスの集団が時々城塞を囲むのだ。
 
 シュンがこの街に来たばかりの時に東城塞であった以来で、まだ正式な援護クエストは発動されていなかった。
 この場合は西城塞ラヌゼルダに入り共同で戦うチームを派遣するか、北城塞グロッセナから西に向けて援護のクエストを発動するかのどちらかだ。
 両方同時に行う場合もあった。
2017/12/05 14:59
「ウチはどうします?」
2017/12/05 14:59
 アルバーが掲示板を見ながら難しい顔をして言う。稼ぎ時でもあった。
 状況が記載された地図と書類によれば、西城塞ラヌゼルダは完全にベヒモスの集団に取り囲まれていて、その数は数百と書かれている。
 
2017/12/05 15:00
「そうだな……」
2017/12/05 15:00
「シュン、来てると思ったわ」
2017/12/05 15:01
 振り向くとレイキュアがいた。今日は落ち着いた普通の私服だ。
2017/12/05 15:01
「私たちはどうするの?」
2017/12/05 15:01
 レイキュアにとっては、これは既にランツィアとの合同クエストになっているようだ。
 シュンは苦笑いする。
2017/12/05 15:01
「まずは情報の収集だな」
2017/12/05 15:01
 翌日、シュンとブレイソン、レイキュアは馬を借りて西城塞ラヌゼルダに向かった。
 シュンたちと同じ思惑なのか、同じように馬で走る数人の戦闘種の姿が遠くに見える。
 荒野の先の水平線に蠢いている数十のベヒモスの帯が見えた。
 それは西城塞に向かっていて、ラヌゼルダの城壁には大量のベヒモスが取り付いているようだ。
 
 
 軍の重火器を使えば容易に掃討できるのかもしれないが、近代兵器の使用は四カ国で結ばれた協定で、休戦地帯での使用は禁止となっていた。
 また、発する電磁波が更なるベヒモスを呼び寄せる恐れがあった。
 
 
 前方には騎乗したまま馬の手綱を握り、三名の戦闘種がその光景を見ていた。
 ジェンヌと副官の二人だ。
2017/12/05 15:02
「ジェンヌ!」
2017/12/05 15:02
「ふん、スカーレッドとお揃いで偵察か?」
2017/12/05 15:02
「まあね」
2017/12/05 15:03
 シュンたちも同じように馬を止める。
 これ以上ベヒモスの群れに近づくのは危険だった。
 気が付けば五体のベヒモスが群れを離れてこちらに接近して来る。
 ジェンヌは手綱を隣の副官、元企業の私兵団だったと言われているパトリツィオに渡し下馬する。もう一人、軍人あがりのランベルトも馬から降りて同じように手綱を預ける。
 二人は剣を抜いて進み、【移動】のスキルを使い一瞬でベヒモスに肉薄。瞬く間にその五体を切り捨てた。
2017/12/05 15:03
「へえ……、さすがチームランク二位の二人よねえ……」
2017/12/05 15:03
「まあな、バウザーナの実力は本物だよ」
2017/12/05 15:03
 レイキュアとシュンの会話に、一人残った副官のパトリツィオは眉一動かさない。
2017/12/05 15:04
「獲物がウヨウヨいやがるぜ」
2017/12/05 15:04
 剣を納めつつジェンヌとランベルトが戻って来る。
 ジェンヌの目はギラついていた。
2017/12/05 15:04
「もっと狩ってくれば?」
2017/12/05 15:04
「アホウ、この人数で突っ込めるかよ! 付き合うか?」
2017/12/05 15:05
「御免だね、全員討ち死にしちまう」
2017/12/05 15:05
 シュンは肩をすくめる。ジェンヌは冷静だ。
2017/12/05 15:05
「俺たちは引き上げるぜ、クエストの準備だ。今度こそ最強を取り戻してやるからな。帰るぞっ!」
2017/12/05 15:05
 バウザーナの三人は手綱を引いてグロッセナへと取って返す。
 ジェンヌたちもデス・キャニオンではハズレを引いたと噂で聞いた事がある。
 今のランキング順位がそれを証明していた。
2017/12/05 15:06
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登場人物紹介

シュン/主人公の若者。チーム・ランツィアのリーダー。北城塞グロッセナでランキングトップ、最強の称号を手に入れた。

マヤ/シュンの恋人。同じ孤児院で幼い頃からシュンと共に過ごしていた。

アルバー/ランツィアのサブリーダー。商家の出で戦うが経理、総務的な仕事もこなす。

ブレイソン/ランツィアのサブリーダー。天才肌、軍人の家系に反発して家を出た。スキルと強さを求めている。

レイキュア/チーム・スカーレッドの隊長。女ばかりのチームを率いる女傑。シュンが街に来た頃からの知り合い。

カノーア/スカーレッドの副隊長。雷撃の才能がある。涙もろい。

ジェンヌ/チーム・バウザーナでリーダー格の将軍を自称。父親は大企業の経営者。最強称号への執念を見せる。シュンをライバル視しているが……。

リスティ/子供ばかりの四人でチームを作っている。

セバスティ/チーム・エスプロジオーネの頭(ヘッド)。

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