第三話 「戦闘種族たち」02
文字数 2,071文字
街を歩いていると、知っている二人の子供の後ろ姿を見て取った。
シュンもこの年頃には田舎の街で剣を持ち、森に入って弱いベヒモスを狩っていた。
現実的にはその女子たちにベヒモスを狩るなどまだ無理な相談で、男子二人が近場の森で弱いベヒモスを相手にしていた。
リスティとジェリルは頭を下げた。
シュンは御馳走すると言い、リスティたちの住んでいる東門の近くの店にしようと提案した。
女の子のキャニアとスレーラは東門近くの酒場や宿屋で働いている。
彼ら四人は首都の孤児院での幼馴染だった。
シュンは以前、彼らをチームに誘い、二人の女の子たちもスカーレッドで働けると言ったが、断られていた。
四人で頑張ってやって行くとの誓いがあるらしい。
シュンはそんな考えを尊重して無理強いはしなかった。
これくらいの子供ができるクエストは薬草やお茶の採取ぐらいで、比較的安全な森の中を一日歩いて低レベルのベヒモスを探しつつ、薬草などを集めるのだ。
時々は小型のベヒモスを狩っているらしい。
「じゃあ二人を呼んで来るよ」
ジェリルはそう言って駆けて行く。
「近くに僕らの部屋があるんです。入ってましょう」
「おおっ」
まだ店は閑散としていた。仕事を終えた人たちが来店するのはもう少し後だ。
ジェリルキがキャニアとスレーラを伴ってやった来た。
「シュンさん、最強、おめでとうございます」
「凄いです。知っている人が最強だなんて」
「まあ、運もあったなあ……」
子供たちの純粋な瞳に見つめられ、そう言われるとシュンも照れてしまう。
シュンは壁に掛かっているメニューの表から適当に料理を何品か注文した。
「皆で取り分けて食べよう」
続いて自分用のビールと水差しとコップを店員の女性に頼んだ。
「リスティ、ジェリル、今日もダメだったのね~~」
「獲物を仕留める日もあるよ」
キャニアの言葉にリスティが反論気味に言う。
毎日が戦果なしは、さすがにないのであろう。
シュンもこの頃はいつも腹を空かせ、山に入り山菜や木の実を採って飢えを凌いでいた。
山で小動物や小鳥を仕留めて、獣を狩り、小さな弱いベヒモスを倒すようになった。
この子供たちは、今までいた街ではスラムの孤児院に住み、ゴミを漁って寄り添いながら生きてきたそうだ。
生きる為に、未来を切り開く為にこの街へやって来た。
シュンも田舎の街にいる、マヤたちが育てている孤児の子供たちの未来の為に、この街にやって来た。
料理が運ばれ皆で取り分けながら食べる。
ベーコンの入ったパスタに生ハムの乗った新鮮な野菜、フカフカの白パン。
アクアコッタと呼ばれる野菜や豆、肉の欠片など残り物を使ったスープは、それぞれの店の味がある。昔レイキュアがよく作って食べさせてくれたスカーレッド特製スープより旨い。
バターを使い焼いて溶き卵を絡ませた、大ぶりのチキンピカタが二枚乗った皿が運ばれ、キャニアとスレーラが嬉々としてナイフとフォークを使い取り分ける。
リスティとジェリルが自分の更に盛られたそれにかぶりついた。
シュンはそんな子供たちを、自分が彼らくらいの時もそうだったと目を細めて眺める。
デザートはシュンには分からないので女の子たちに任せた。
パネットーネと呼ばれる菓子は、刻んだドライフルーツが入った甘く柔らかなスポンジに、甘い生クリームがかかっている。
お茶も五人分頼んでシュンもビールから切り替えた。
シュンがいつも利用している店は街の中心部なので値段が高いのは仕方なかった。
厨房からこの店の主人とおぼしき年配の男が、包みを持ってやって来た。
「リスティ、いいスポンサーを見つけたようだな」
主人はそう言って、シュンを見てウィンクする。
「ええ、俺は戦闘種としての彼らの将来を買っているんですよ」
「そうかい、よろしくな。リスティ、これ残り物で悪いが持ってけ」
主人は包みをテーブルの上に置いた。リスティは中身を覗く。
「パンですね。いつもすいません」
「いや、もう店には出せない品だ。気にするな」
リスティたちの周りは、良い人ばかりのようなのでシュンはホッとした。