第28話 ベートーヴェンの恋
文字数 3,433文字
音楽史上、最も偉大な作曲家の一人、ベートーヴェン。
バッハは神へその才能を捧げ、モーツァルトはパトロンに捧げたが、ベートーヴェンは人生を捧げたといわれている。
あらゆる権力を嫌い自由に生きる芸術家であり、おしゃれには無頓着。頑固者で、潔癖症、尊大な性格であったといわれているが、なぜか多彩な女性関係が。
鋭い目力と類まれなる才能で数々の女性を虜にしていった?
また、難聴という問題を抱えていた天才を、女性たちは母性的なまなざしで見ていた?
女性は、少々無骨でも才気溢れる自由な芸術家に惹かれる……?
ベートーヴェンは恋多き男だった。しかも、かなり年下のピアノの教え子だったことがほとんどだった。
たとえば自分が40歳のときに17歳の教え子に恋をする。そして、たとえ失恋し玉砕しても「はい、次!」というタイプの人だったらしく、文献を見るとやたら女性の名前が多い。
しかも、全員が全員年の離れた美しい女性。
ベートーヴェンの肖像画や作風からすると、「常に恋をしていた」とはいい難い印象。でも、彼の身近な友人によると、
「彼の人生において、恋人がいなかった時期がなく、たいがい高貴な身分の女性に熱をあげていた」
というくらいに情熱的に恋をしていた男性だった。
ピアノ曲で最も有名な曲のひとつ。ベートーヴェンと懇意にしていた医者のヨハン・マルファッティにはテレーゼという美しい姪がおり、ベートーヴェンはそのテレーゼとすぐに恋に落ちた。
しかし、身分が違うテレーゼとは結婚をすることは勿論、オープンな恋仲になることも許されることはなかった。
この曲は、前半明るく楽しい雰囲気で始まり、途中から物悲しくも激しい曲調に変化していく。
これは、テレーゼとの関係を表現しているとも言われている。
「エリーゼ」になったのは、ベートーヴェンの字が悪筆なため、秘書が読み間違えてしまったから。
1801年に作曲されたピアノソナタ第14番「月光」は、ベートーヴェンの恋愛遍歴でも有名な曲。
当時、ベートーヴェンがピアノを教えていた伯爵令嬢のジュリエッタ・グイチャルディに捧げるために作曲したものの、失恋してしまったというエピソードが伝えられている。
「月光」の題名は、ロマン派の詩人ルートヴィヒ・レルシュタープによって後に付けられたもので、ベートーヴェンは「幻想曲風ソナタ」として発表している。
ベートーヴェンが亡くなった直後、部屋の整理をしていた友人たちは意外な物を発見した。秘密の引出に、彼が書いた恋文が、2枚の女性の細密画と共に秘蔵されていた。
文中で「わが不滅の恋人よ」と呼びかけられている相手は、名前が明らかにされていない。さらに日付はあるが年が書かれていないなど、様々な謎に包まれている。
《ピアノソナタ第30番ホ長調作品109/ピアノソナタ第31番変イ長調作品110/ピアノソナタ第32番ハ短調作品111~アントニア》
ベートーヴェンの死後発見された”不滅の恋人“にあてた恋文。
最も有力な説はアントニア・ブレンターノという子持ちの既婚女性に宛てた手紙だったのではないかという。
アントニアに出会う前は、ベッティーナという若く美しい女性と恋仲だったが、ベッティーナのお兄さん夫妻をベートーヴェンに紹介したところ、このお兄さんの奥さんであるアントニアに惹かれはじめたといわれている。
アントニアと夫の夫婦関係は冷め切っていたという……
ベートーヴェンが作曲した後期のピアノソナタの傑作は、“ブレンターノという主題の下においても良いだろう”と評されるほど、その時のベートーヴェンの内面告白の色が強い作品だといわれている。
7月6日、朝
私の天使、私のすべて、私自身よ。今日はほんの一筆だけ、しかも鉛筆で(あなたの鉛筆で)……
私たちの愛は、犠牲によってしか、すべてを求めないことでしか、成り立たないのでしょうか。あなたが完全に私のものでなく、私が完全にあなたのものでないことを、あなたは変えられるのですか……
ああ神よ、美しい自然を眺め、あなたの気持ちをしずめてください、どうしようもないことはともかくとして……
愛とは、すべてを当然のこととして要求するものです。だから、私にはあなたが、あなたには私がそうなるのです。でもあなたは、私が私のためとあなたのために生きなければならないことを、とかくお忘れです。もし私たちが完全に結ばれていれば、あなたも私もこうした苦しみをそれほど感じなくてすんだでしょう。
あなたは、ひどく苦しんでおられる、最愛の人よ……ああ、私がいるところにはあなたもいっしょにいる、私は自分とあなたとに話しています。いっしょに暮らすことができたら、どんな生活!
そう!
あなたなしには……
あなたがどんなに私を愛していようと……
でも私はそれ以上にあなたを愛している……私からけっして逃げないで……
おやすみ……私も湯治客らしく寝に行かねばなりません……
ああ神よ……こんなにも近く!
こんなにも遠い!
私たちの愛こそは、天の殿堂そのものではないだろうか、そしてまた、天の砦のように堅固ではないだろうか。
7月7日、
おはよう……
ベッドの中からすでにあなたへの思いがつのる、わが不滅の恋人よ、運命が私たちの願いをかなえてくれるのを待ちながら、心は喜びにみたされたり、また悲しみに沈んだりしています……
完全にあなたといっしょか、あるいはまったくそうでないか、いずれかでしか私は生きられない……
他の女性が私の心を占めることなどけっしてありません。けっしてけっして……
おお神よ、これほど愛しているのに、なぜ離れていなければならないのでしょう……
いっしょに暮らすという私たちの目的は、私たちの現状をよく考えることによってしかとげられないのです……
心をしずめてください……愛してほしい……今日も昨日も……
どんなにあなたへの憧れに涙したことか、あなたを、あなたを、私のいのち、私のすべて……
お元気で、おお、私を愛し続けてください。
あなたの恋人の忠実な心を、けっして誤解しないで。
L.
永遠にあなたの
永遠に私の
永遠に私たちの
https://blog.goo.ne.jp/pianist-gensegawa/e/b97c8986e181b52314e8a8873bd3d39f
不滅の恋人には、他に候補としてヨゼフィーネという女性もいて、この女性との間にベートーヴェンの隠し子説もある……
ベートーベンはピアノの名手であり、デビュー前の若き頃貴族の家にピアノ家庭教師としての仕事もした。
ヨゼフィーネは生徒のひとり。
ふたりは両想いになったが、経済的な理由からヨゼフィーネが結婚したのはヨーゼフ・ダイム伯爵だった。
この結婚はうまくいかず離婚となり、ヨゼフィーネは息子の家庭教師として雇ったクリストフ・フォン・シュタッケルベルク男爵と再婚した。
しかし、この夫も事業に失敗し失踪、再び家族と暮らすことはなかった。
ベートーベンはヨゼフィーネがに亡くなる前まで送金を続けていたという。
実は、このヨゼフィーネとアントニアは同時期に身ごもっており、どちらもベートヴェンが父親かもしれない!?
という噂もあったとかなかったとか。
アントニアにしてもヨゼフィーネにしても、若く美しい女性に恋をしていた頃のベートーヴェンは、彼には珍しく明るくて楽しげな交響曲第8番へ長調を生み出した。
これも恋のなせる業なのか?
アントニア・ブレンターノとの恋の後は、彼女の甥を養子にしてその子を溺愛したという。
そんな晩年に出来たのが第九!
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