第18話 マリア・カラスの呪い カラヤン

文字数 2,700文字

オペラはいまだに興味がないのですが、カラヤンを調べていたら、ちょっと面白そう……

 イタリアミラノのスカラ座では、過去に多くの歌手や指揮者が、天井桟敷の熱狂的なオペラファン達によるブーイングの洗礼を受けてきた。


 スカラ座はイタリアオペラの殿堂ともいえるオペラハウスで、オペラハウスの中でも最高峰といわれる劇場。

 そのスカラ座には、天井桟敷と呼ばれる最も舞台から遠くて天井に近い位置にも席(席といっても半分お尻を凭れるくらいのちゃちな椅子の席ですが)があって、熱狂的なオペラファンが陣取っている。

 ブーイングのほとんどは主にこの天井桟敷から出てくる。


 彼らは足繁くスカラ座に通うので、料金の安い天井桟敷の席をとるのだが、耳が肥えていて特にイタリアオペラには厳しい。

 歌手が失敗したり、下手だと、容赦なくブーイングの嵐を浴びせる。

 豚のようなブーブーという音(声)を出す。

 中でもヴェルディの椿姫では『マリアカラスの呪い』から始まり悶着がいろいろとあった。

 イタリアの殿堂ミラノのスカラ座では、これまで何度となくジュゼッペ・ヴェルディのオペラ『椿姫』が上演されてきた。

 ところが約30年もの間にわたり全く椿姫が上演されなかった時期がある。

天才歌手マリア・カラスがスカラ座で椿姫を歌って絶賛されて以来、あまりにマリア・カラスのイメージが強かったので、しばらくの間椿姫をやる勇気のある歌手がいなかったし、スカラ座運営者も避けたのだろう。
アニメでわかる椿姫

それでも一度勇気をもって椿姫を上演した時が一度だけあった。

その時の指揮者がカラヤンで、ヴィオレッタを歌ったのがミレッラ・フレーニというソプラノ歌手。

ミレッラ・フレーニといえば、オペラ界では知らない人がいないような有名なソプラノ歌手だ。

最もその当時はまだ若かったが。

結果、オペラ『椿姫』でカラヤンとフレーニは、スカラ座の天井桟敷の人々からブーイングを浴びることになり、その後しばらく彼女はスカラ座の舞台に立つことはなかった。

それくらい怖い天井桟敷の人たち。

ただ、ミレッラ・フレーニもブーイングをする天井桟敷の人たちを睨みつけたとか、なかなか強い。
ラ・ボエーム プッチーニ

カラヤンとミレッラ・フレーニ

 そこから約30年間スカラ座から『椿姫』の上演はなくなり、マリア・カラスの呪いと言われた。


 そうはいってもマリア・カラス自身もブーイングを受けていた。

 ガラコンサートの時にヒューヒューという口笛を鳴らした観客がいたことに腹を立てて、

 こんな人たちの前で歌えない!

と舞台から出て行ってしまったことがあった。


 とはいえ、マリア・カラスはやはりずば抜けて上手だった。

 エキゾチックな容貌で低温から高温までの安定した声と、超絶技巧もこなすというパーフェクトな歌手で、演技も抜群。

 ただ、スカラ座には当時人気を二分していたレナータ・デバルディという歌手がいた。

 こちらはまた高貴で品のある美しいソプラノ歌手で、マリア・カラスとは対象的なタイプだったので、マリア・カラスといえどもブーイングを受けていたのかも。

椿姫【さようなら、過ぎ去った日々よ』レナータ・テバルディ

 さてそれから30年後の1992年頃にやっと椿姫がスカラ座で再開されることになったのだが、これだけ間をあけたのは、スカラ座の運営者がマリア・カラスの記憶が消えるのを待っていたとしか思えない。


 30年後のスカラ座の椿姫の上演の指揮者はリッカルド・ムーティで、ヴィオレッタを歌ったのはファブリッチーニという若いソプラノ歌手だ。


 スカラ座の運営側は、どんなことがあっても絶対に失敗できないとして、ブーイングを避けるために当日天井桟敷の席を封鎖しようとした。

 ところがそれがわかると、またしてもものすごいバッシングの嵐になった。

 最終的には天井桟敷の席も開けることにしたが、実はそこの観客は劇場側が用意したさくらだったんじゃないかと言われている。


 一応30年ぶりの椿姫は成功ということになっていますが、実はブーイングもあったよう。


 ファブリッチーニという歌手はデバルディ(マリア・カラスと人気を二分してきた)のような美しい容姿で、この頃かなり有名になったが、そのあとはちょっとしぼんでしまった感が……

La traviata(ラ・トラヴィアータ)原題は『堕落した女(直訳は「道を踏み外した女」)』

椿姫1992年

 30年ぶりのスカラ座の椿姫で恋人役をやったのは当時新進気鋭のロベルト・アラーニャというテノール歌手。

 その後、彼は世界的なトップ歌手になるのだが、2006年、スカラ座でヴェルディのアイーダを歌った時に大ブーイングを浴びていた。

 アイーダの恋人役ラダメスのアリアを歌った後に起きた、ものすごいブーイングに、アラーニャは怒って舞台から降りてしまった。

 そもそも、スカラ座の天井桟敷の観客たちがいくら耳が肥えているとはいえ、アラーニャほどの大物歌手にブーイングを浴びせるとは。

 彼が怒って舞台から降りてしまったので、慌てた控えの歌手(オペラの役には必ず控えの人がいます)は着替える暇もなくジーパンのまま出てきて歌ったので、前代未聞の事件になってしまった。

 世界的に有名になっていたアラーニャの歌のアイーダでの出来がそれほど悪かったのか? と不思議だが、事前のインタビューか何かで、彼は、

「スカラ座で歌うのは闘牛場に入れさせられるのと同じだ」

というようなことを言い、ブーイングはその報復ではないかとも。

 いずれにしてもスカラ座で歌うということは、歌手にとって至難の業だ。

 スカラ座からブーイングを浴びて、二度と出なくなった歌手や、長い間遠ざかってしまう、という話はよく聞く。

 天井桟敷の人たちは、

「ここをどこだと思ってるんだ! ここはスカラ座だぞ!」 

といった怒号までかけるらしい。ファンといえどもそこまで行くとどうなのかなとも思うが、イタリアのオペラは自分たちのオペラ、オペラといえばイタリアという気持ちが強く、妥協を許さないのかも。

 日本ではそこまで厳しいオペラファンはおらず、ちょっといまいちかな?と思うような人にも拍手を送っている……

 だから日本で歌うのが好き、という歌手が多い?

https://opera-diva.com/scala-boo/

乾杯の歌 以前YouTubeでみつけた、ソプラノとテノールの声を歌い分ける両声ボイスのマリア・セレンさん。

天井桟敷の人が観たらどうするだろうか?

ゴッドタレントが日本でも行われ初代チャンピオンになったマリア・セレンさん
ベルディ『椿姫』第1幕全曲 マリア・カラス
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