第26話 ミルカ・デ・メルロ
文字数 3,345文字
オリジナルの魂の棺桶を探しに森に来たアリス。
ミルカがアリスに隠れて全ての魔力を奪う結晶を作ろうとしていることは知っていた。
目から黒いモヤを漂わせるアリス。メルフェスの支配下に落ちている今、そこにアリスの魂はなかった。
森を探るアリスは結界に囲まれた空間を見つけ出す。
そのなかに入ると一人の少女と出会い、苦い思い出のあるアリスは一瞬顔を歪ませる。
「そう。あなたもここにいたのね」
「今はメルフェスの方ですね。私の前で演技は不要です」
クリフォアはアリスをにらみながら答える。
「ならば、我の目的もわかっているだろう」
そう問いかけるアリスにクリフォアは直にうなずき、完成したばかりの結晶を渡す。
「ほう。物わかりがいいな」
「今の私では勝てませんし、この戦いで私は足手まといにしかならないので」
クリフォアの正直な回答。しかし、それはアリスに対しても言っているようでもあった。
メルフェスは少し考えてからクリフォアの意見に乗ることにした。
「そうだな。この体もこれを回収した後、意味をなくす。この先の戦いは炎の魔女の力では太刀打ちできない。始まりの魔女、ミルカはそれほどの相手だ」
二人の始まりの魔女が背中を合わせる。
「まさか、こんな日が来るなんてね」
「ミルカ。私は」
ミルカの言葉にブルーはつばを飲み、言葉を続ける。
「……なんの説明もなく、ここまで、私の命を利用するのですね。この世界に本来いない私は、ここに来ても、いずれ消えて死ぬだけ」
「ええ。最低なのは知っているけど、勝つためなら手段を選ばないことを貴方が一番よく知っているでしょ」
ミルカの言葉にブルーは答えない。ただ、本心を誰にも聞こえない声で小さく漏らす。
「いいえ。そんな事はありません。任せてください」
結界を壊していた聖剣がミルカとブルーの周りを回り、新たな聖剣が10本降臨する。
20本の聖剣が激しく撃ち乱れ、メルフェスの分身体の魔力を削いでいく。アデリーナの眼光がミルカを襲うが、羽と入れ替わり当たることはなかった。
激しく入れ替わる戦場でメルフェスの叫びと同時に分身体が何体も生まれるが次々に聖剣が襲う。羽の入れ替わりでそれぞれがめぐりましく入り交じる。
一瞬でも意識が削がれれば、互いの攻撃が体を襲った。
「メルフェス!世界の法則を破って現れた始まりの魔女は世界の定着が薄れ始めています。それまでなんとか耐えれば……」
「舐めないで」
中央に立つこの世界にやってきた始まりの魔女。
空が白く塗り替わり黄金の輝きが彼女を照らした。彼女の周りを時計周りに回る十本の聖剣、その内側を羽は反対周りで回る。羽は次第に数を増やし、回転速度が上がっていく。
光の膜に包まれた彼女の周りの空間に電撃が響く。
まるで心臓が脈打つように鐘がなり、振動が直接みんなの体内に響く。
とんでもない魔力量からアデリーナは消えゆく彼女が最後にしようとしていることを理解する。
「メルフェス!彼女を止めてください!いくら貴方でも無傷では済まない!彼女は自爆しようとしています!」
「止めさせる無いでしょ」
飛び出すメルフェスを遮るようにミルカの聖剣が襲う。
「邪魔はさせません!」
アデリーナの腕から溢れ出す水がミルカを押し流す。地面に倒れるミルカを砂が固定し、更に木の根が砂の上に重なる。同時に地面が溶岩のように燃え上がった。
しかし、瞬時に羽と入れ替わるミルカ。
ミルカは体に流れる毒に蝕まれ白い血を吐血する。
「何もしてないわけではないですよ」
空中に舞う砂に黒い魔力を含ませていた。ミルカの体内の毒は始祖の力ですぐに浄化されるが、じわじわとミルカの力と動きを蝕んでいく。
しかし、それはメルフェスにも影響を与えていた。砂で実体を形成していたメルフェスの体が少しずつ砕けていく。
「アデリーナ、大丈夫だ。続けろ!」
「我慢比べといきましょうか」
メルフェスの言葉にミルカは微笑みながら賛同する。
「ブルー‼」
アデリーナは少しでも現状を打開させるためにミルカに攻撃を繰り返す。
あっという間に時間が過ぎ、鐘が止む。
皆がその光の玉を見たと同時に、世界が白く染まった。音が止まり、時が止まったかのように、真っ白な世界が広がる。
アデリーナの作っていた結界は一瞬で消え、大地が白く塗り替えられていく。
始祖の力が全てを原初へと変えていった。
音が帰らぬまま光が止むと、世界に色が戻る。しかし、大地は白く染まり空は黄色く染まったままだった。
胸から上だけを残し地面に倒れるメルフェス、それを守るように右腕と右足を失ったアデリーナ。ミルカも右手を失っていた。
直ぐに身を隠しその場から逃げた二人をミルカが追うことはなかった。
少しずつ世界に音が戻り始めるが、空と大地に残した傷跡は消えない。始まりの魔女が世界に残した傷は凄まじいものだった。
なんとか逃げおおせることのできたアデリーナとメルフェス。
「クソ!」
元の化身の姿にもどったメルフェスは体を擦りながら悪態をつく。その体はパッと見は無傷だが、大部分の魔力がごっそりと抉られていた。この世界への定着を強め、身につけていた力の殆どを失ったのだ。
「ブルーははじめからあの結界の意味を理解していました。突破できる手段を持って持っていながら、わざとその選択肢を捨てて罠にハマったように見せかけたのです」
欠損した部位を直しているアデリーナの前に一人の女性が現れる。
その姿を見たメルフェスは嬉しそうに笑みをこぼした。
「アデリーナ。この戦い勝ったぞ」
城に戻ったミルカは消えたアリスの存在を探したが見つからなかった。
その意味を察したミルカは急ぎ、全ての力を奪う結晶『エデン』のありかを確認し無くなっていることを理解した。
羽を渡したクリフォアの反応もない。
今のミルカにできることは、メルフェスが力を付ける前に取り返すこと、もしくは神域魔法まで生き延び過去に飛ぶことだ。
『エデン』を作るには魂の棺桶が必要だが、ミルカの手元にない。なら、今できる選択肢は取り返すことだけだが、いくら時がたっても見つかることはなかった。メルフェスがいる場所を探すためにミルカは神域魔法の準備を終えてから城を出た。
世界中を飛び回ったが、身を隠したアデリーナとメルフェスの痕跡を見つけることは叶わなかった。
歳月が過ぎ、何もできず時間だけが過ぎていく。
城に戻ったミルカは時が立つことにより力をつけるメルフェスの力を眼の前にし絶句した。
全ての国の者がミルカを敵と見なし攻撃してきたのだ。それは、人間にか切らず全ての生き物がメルフェスの支配の手に落ちようとしていた。
やはり神域魔法を待つ選択肢は絶望的だった。
帰る場所を失ったミルカは『エデン』を作った森の奥を行き、クリフォアを探した。
しかし、見つかることはなく孤独を過ごす。殺されている可能性が高かったが、今のミルカに頼るものはクリフォアしかいなかった。
全ての生き物に嫌われる今のミルカと状況は違うが、アデリーナも昔は同じように孤独に生きていた。そして、今回も同じ道を歩もうとしていることをミルカはしっている。
始終の魔女がそうだったように行きているものは真の孤独には耐えられないのだ。
数年が過ぎ、ミルカはついにクリフォアが住んでいたであろう村を見つけた。
しかし、そこにあるのは焼け焦げた村だった。人の姿はなく、とっくに滅んでいた。
ミルカの心の中にも確かに黒い影が落ち始める。ミルカが最後に人と話したのは何年前だろうか。
しかし、歩みは止まらない。勝たなければいけない。最後まで抗わなければいけない。
その思いにすがり孤独の道を進んだ。
それから100年あまりが過ぎた。
その時は来た、世界をしたメルフェスの前でミルカが身を隠すなど通用しない。
無理矢理に神域魔法を発動しようと城に向かったミルカは絶句した。城があった大地が消え、この世界に大穴が開いていた。
穴の先に広がる宇宙、ミルカの用意していたものは世界の果てにとっくに消えていたのだ。
しかし、メルフェスはそんなミルカに考える暇を与えない。
星歴2040年。
ミルカ・デ・メルロとしての最後の戦いの火蓋が切って落とされた。
ミルカがアリスに隠れて全ての魔力を奪う結晶を作ろうとしていることは知っていた。
目から黒いモヤを漂わせるアリス。メルフェスの支配下に落ちている今、そこにアリスの魂はなかった。
森を探るアリスは結界に囲まれた空間を見つけ出す。
そのなかに入ると一人の少女と出会い、苦い思い出のあるアリスは一瞬顔を歪ませる。
「そう。あなたもここにいたのね」
「今はメルフェスの方ですね。私の前で演技は不要です」
クリフォアはアリスをにらみながら答える。
「ならば、我の目的もわかっているだろう」
そう問いかけるアリスにクリフォアは直にうなずき、完成したばかりの結晶を渡す。
「ほう。物わかりがいいな」
「今の私では勝てませんし、この戦いで私は足手まといにしかならないので」
クリフォアの正直な回答。しかし、それはアリスに対しても言っているようでもあった。
メルフェスは少し考えてからクリフォアの意見に乗ることにした。
「そうだな。この体もこれを回収した後、意味をなくす。この先の戦いは炎の魔女の力では太刀打ちできない。始まりの魔女、ミルカはそれほどの相手だ」
二人の始まりの魔女が背中を合わせる。
「まさか、こんな日が来るなんてね」
「ミルカ。私は」
ミルカの言葉にブルーはつばを飲み、言葉を続ける。
「……なんの説明もなく、ここまで、私の命を利用するのですね。この世界に本来いない私は、ここに来ても、いずれ消えて死ぬだけ」
「ええ。最低なのは知っているけど、勝つためなら手段を選ばないことを貴方が一番よく知っているでしょ」
ミルカの言葉にブルーは答えない。ただ、本心を誰にも聞こえない声で小さく漏らす。
「いいえ。そんな事はありません。任せてください」
結界を壊していた聖剣がミルカとブルーの周りを回り、新たな聖剣が10本降臨する。
20本の聖剣が激しく撃ち乱れ、メルフェスの分身体の魔力を削いでいく。アデリーナの眼光がミルカを襲うが、羽と入れ替わり当たることはなかった。
激しく入れ替わる戦場でメルフェスの叫びと同時に分身体が何体も生まれるが次々に聖剣が襲う。羽の入れ替わりでそれぞれがめぐりましく入り交じる。
一瞬でも意識が削がれれば、互いの攻撃が体を襲った。
「メルフェス!世界の法則を破って現れた始まりの魔女は世界の定着が薄れ始めています。それまでなんとか耐えれば……」
「舐めないで」
中央に立つこの世界にやってきた始まりの魔女。
空が白く塗り替わり黄金の輝きが彼女を照らした。彼女の周りを時計周りに回る十本の聖剣、その内側を羽は反対周りで回る。羽は次第に数を増やし、回転速度が上がっていく。
光の膜に包まれた彼女の周りの空間に電撃が響く。
まるで心臓が脈打つように鐘がなり、振動が直接みんなの体内に響く。
とんでもない魔力量からアデリーナは消えゆく彼女が最後にしようとしていることを理解する。
「メルフェス!彼女を止めてください!いくら貴方でも無傷では済まない!彼女は自爆しようとしています!」
「止めさせる無いでしょ」
飛び出すメルフェスを遮るようにミルカの聖剣が襲う。
「邪魔はさせません!」
アデリーナの腕から溢れ出す水がミルカを押し流す。地面に倒れるミルカを砂が固定し、更に木の根が砂の上に重なる。同時に地面が溶岩のように燃え上がった。
しかし、瞬時に羽と入れ替わるミルカ。
ミルカは体に流れる毒に蝕まれ白い血を吐血する。
「何もしてないわけではないですよ」
空中に舞う砂に黒い魔力を含ませていた。ミルカの体内の毒は始祖の力ですぐに浄化されるが、じわじわとミルカの力と動きを蝕んでいく。
しかし、それはメルフェスにも影響を与えていた。砂で実体を形成していたメルフェスの体が少しずつ砕けていく。
「アデリーナ、大丈夫だ。続けろ!」
「我慢比べといきましょうか」
メルフェスの言葉にミルカは微笑みながら賛同する。
「ブルー‼」
アデリーナは少しでも現状を打開させるためにミルカに攻撃を繰り返す。
あっという間に時間が過ぎ、鐘が止む。
皆がその光の玉を見たと同時に、世界が白く染まった。音が止まり、時が止まったかのように、真っ白な世界が広がる。
アデリーナの作っていた結界は一瞬で消え、大地が白く塗り替えられていく。
始祖の力が全てを原初へと変えていった。
音が帰らぬまま光が止むと、世界に色が戻る。しかし、大地は白く染まり空は黄色く染まったままだった。
胸から上だけを残し地面に倒れるメルフェス、それを守るように右腕と右足を失ったアデリーナ。ミルカも右手を失っていた。
直ぐに身を隠しその場から逃げた二人をミルカが追うことはなかった。
少しずつ世界に音が戻り始めるが、空と大地に残した傷跡は消えない。始まりの魔女が世界に残した傷は凄まじいものだった。
なんとか逃げおおせることのできたアデリーナとメルフェス。
「クソ!」
元の化身の姿にもどったメルフェスは体を擦りながら悪態をつく。その体はパッと見は無傷だが、大部分の魔力がごっそりと抉られていた。この世界への定着を強め、身につけていた力の殆どを失ったのだ。
「ブルーははじめからあの結界の意味を理解していました。突破できる手段を持って持っていながら、わざとその選択肢を捨てて罠にハマったように見せかけたのです」
欠損した部位を直しているアデリーナの前に一人の女性が現れる。
その姿を見たメルフェスは嬉しそうに笑みをこぼした。
「アデリーナ。この戦い勝ったぞ」
城に戻ったミルカは消えたアリスの存在を探したが見つからなかった。
その意味を察したミルカは急ぎ、全ての力を奪う結晶『エデン』のありかを確認し無くなっていることを理解した。
羽を渡したクリフォアの反応もない。
今のミルカにできることは、メルフェスが力を付ける前に取り返すこと、もしくは神域魔法まで生き延び過去に飛ぶことだ。
『エデン』を作るには魂の棺桶が必要だが、ミルカの手元にない。なら、今できる選択肢は取り返すことだけだが、いくら時がたっても見つかることはなかった。メルフェスがいる場所を探すためにミルカは神域魔法の準備を終えてから城を出た。
世界中を飛び回ったが、身を隠したアデリーナとメルフェスの痕跡を見つけることは叶わなかった。
歳月が過ぎ、何もできず時間だけが過ぎていく。
城に戻ったミルカは時が立つことにより力をつけるメルフェスの力を眼の前にし絶句した。
全ての国の者がミルカを敵と見なし攻撃してきたのだ。それは、人間にか切らず全ての生き物がメルフェスの支配の手に落ちようとしていた。
やはり神域魔法を待つ選択肢は絶望的だった。
帰る場所を失ったミルカは『エデン』を作った森の奥を行き、クリフォアを探した。
しかし、見つかることはなく孤独を過ごす。殺されている可能性が高かったが、今のミルカに頼るものはクリフォアしかいなかった。
全ての生き物に嫌われる今のミルカと状況は違うが、アデリーナも昔は同じように孤独に生きていた。そして、今回も同じ道を歩もうとしていることをミルカはしっている。
始終の魔女がそうだったように行きているものは真の孤独には耐えられないのだ。
数年が過ぎ、ミルカはついにクリフォアが住んでいたであろう村を見つけた。
しかし、そこにあるのは焼け焦げた村だった。人の姿はなく、とっくに滅んでいた。
ミルカの心の中にも確かに黒い影が落ち始める。ミルカが最後に人と話したのは何年前だろうか。
しかし、歩みは止まらない。勝たなければいけない。最後まで抗わなければいけない。
その思いにすがり孤独の道を進んだ。
それから100年あまりが過ぎた。
その時は来た、世界をしたメルフェスの前でミルカが身を隠すなど通用しない。
無理矢理に神域魔法を発動しようと城に向かったミルカは絶句した。城があった大地が消え、この世界に大穴が開いていた。
穴の先に広がる宇宙、ミルカの用意していたものは世界の果てにとっくに消えていたのだ。
しかし、メルフェスはそんなミルカに考える暇を与えない。
星歴2040年。
ミルカ・デ・メルロとしての最後の戦いの火蓋が切って落とされた。