第8話 ジュリオとヴィットリア
文字数 5,129文字
「まずは俺の出生の話からするか。俺の名はレイナーって言ったよな。これはアリスにも言ったことがないが、俺には姓がないわけじゃないんだ。俺の正しい名前はレイナー・ルイド・アドルフ」
レイナーは忌み子として生まれた。
掟を破り島を出た母は盗賊に捕まり、奴隷として売られた。その珍しい一族の血は、グエンモールに住む富豪の手により汚された。
母の血が遺伝することはなく、レイナーは汚い富豪の子として生まれた。生まれてすぐに捨てられ、孤児としてグエンモール協会に拾われた。
レイナーは物心付くまでグエンモール協会で育ち、自由に空を飛ぶ夢をよく見た。その夢の影響で、毎晩のように空を見上げ、この狭い鳥カゴから出ることを願った。
外の世界に出るためにレイナーは警備軍の教育施設に志願した。一度しか見ていない母にもう一度合うため、母の顔をわすれないために夢のために教養を身に着けたが、それから少しして、母親の訃報が知らされた。
母の安否の調査結果は当時にのレイナーにはとても受け入れられ難いものだった。真実を自分の手で探すために、レイナーは必死に学業に打ち込むようになった。その過程で、魔法具に触れると時より変な記憶をときより見るようになった。そして、その記憶は教育の一環として魔法具を扱う用になってから、比例してよく見るようになった。
それは一人の赤髪の女性と話をする記憶。それは大地を飛び、火を拭き、人と戦う記憶。その記憶の中にも決まって赤髪の女性が現れ、レイナーに話しかけていた。その女性の名がヴィットリア。
10歳を超える位ようになる頃には、それが前世の記憶であると理解するようになり、時折見る町並みを過去の記憶と照らし合わせることも珍しくなくなっていった。ヴィットリアと歩いた町並みと照らし合わせ、孤独な胸を満たしていた。そして、気がつけばヴィットリアを母と重ねるようになっていた。
15歳になり大人と認められたレイナーは、警備軍には入らず旅人となった。本当の自分を探し求めるように過去の自分を探し始めた。無意識にヴィットリアの影を追っていた。
そして、ドーン国でヴィットリアにそっくりな赤髪の女性に出会った。それが、アリスと共に仕事をする明確なきっかけとなった。そして、ヴィットリアとの想い出を思い出すきっかけとなった。
炎の魔女が率いる旧ドーン国、『炎の暁』に所属していたジュリオは、眷属のヴィットリアととても親密な関係で密かに恋心をいだいていた。ドラゴンになる力をもっていたジュリオはヴィットリアとともに圧倒的な不利な状況でも、信念を胸に最後まで立ち向かった。
「そういうことだったの。教えてくれてありがとう、レイナー」
「ああ、いいよ。だから、これからの彼女の面倒は俺に任せて欲しい」
レイナーの目はどこか淋しく、以前のような輝きはない。本当に彼女といることがレイナーにとって良いことなのか疑問に思ったブルーは口を開く。
「彼女はあくまでも終焉の魔女の眷属、ヴィットリアではない。命令されたことしか聞かない、魂のない、ただの玩具だ」
「わかってる。それでも……」
レイナーは力なく否定するが、その続きの言葉は出なかった。
ブルーが部屋を出た後、レイナーは自分の部屋に連れ込んだ赤騎士に前世のジュリオとしての儚い想い出を語りかける。
商店街通りでジュリオは隣を歩くヴィットリアに謝った。
「すまない、付き合ってもらって」
「いいわよ、気分転換になるし。そんなことよりも、こういうお菓子をおいてもいいじゃないかしら」
甘い匂いにつられたヴィットリアが一つの店を指す。
「いいね。そうしよう」
ヴィットリアの笑顔にジュリオはつられる。
草原で向かい合うジュリオとヴィットリア。
「ヴィットリア!行くよ」
「ジュリオ、いつでも来なさい」
ジュリオの体は瞬く間に膨張し、ドラゴンへと姿を変える。彼女の右手にある真っ赤な剣をドラゴンとなったジュリオのブレスを受け止めた。
草原の一部がえぐれ、一部が焦げ、一本の赤い剣が地面に剣を突き刺さっていた。その草原で大の字で寝転がるジュリオ。
「ははは。ボロボロだ」
ジュリオはの隣で座るヴィットリアはいつもの優しい言葉をかける。
「上出来よ」
「ありがとう」
ジュリオはそう言ってボロボロの手を空に伸ばした。
「もう囚われることなく、この空へ自由に飛び立てるのか」
大きな壁に包まれた監視された社会で生きてきたジュリオは、初めて経験する本当の自由にまだ心の何処かで実感を持てずにいた。そんなジュリオの背中を押すように優しい言葉をくれる。
「ええ。その時は私も連れてってね」
ヴィットリアはそう言って微笑んだ。
ジュリオが暁の宮殿に着くとヴィットリアに出迎えてくれる。
「ヴィットリア!」
「待ってたわ」
久しぶりの再開にジュリオはヴィットリアに抱き着き、彼女も笑顔で受け止めた。
しばらくしてお互いの気持ちを落ち着かせてから、ヴィットリアは改めて挨拶をする。
「久しぶりね。改めて、いらっしゃい。そして、ようこそ『炎の暁』へ」
激しい戦場の中、はっきりと彼女の声が聞こえる。
「ジュリオ!」
ドラゴンは空を飛び声の方に飛んでいくと赤い鎧に身を包むヴィットリアが戦っていた。
咆哮を上げ、ヴィットリアに自分のそんざいをつたえると、敵を倒したヴィットリアはドラゴンの背中に飛び乗った。
「ありがとうジュリオ。一緒にこの戦いを乗り切りましょう」
言葉を話すことができないジュリオは代わりに大きな咆哮を上げた。
ドラゴンの姿となったジュリオは体に突き刺さった槍から血を流していた。周囲には仲間のドラゴンの死体と敵兵士の死体が転がっている。翼が切られ飛び立てないジュリオも死を待つだけだった。
最後の咆哮を力に変え炎のブレスを吐くと同時に大きな地響きを立てて地面に倒れ込んだ。
「女王様の御加護があらんことを」
兵士の宣言と同時に、槍がジュリオの喉に伸びて行く。
「真轊(シンウン)」
聞き慣れた声と同時に視界が白く染まった。爆発が終わると同時に光の中からヴィットリアが現れる。
「迎えに来たよ」
焼け落ちたたくさんの死体と建物。とても激しい戦場の跡地をジュリオは空から見つめていた。
微かなうめき声が聞こえ、近くに降り立つが少ししてうめき声を上げたドラゴンは力尽きた。
もう一度空を飛び生存者を探す中、大きな爆破音が耳を刺す。急いで音の方に向かえば、ボロボロな赤騎士が未だに戦っていた。鎧は砕け、兜もなく頭から血を流しているヴィットリア。
ジュリオは急いで飛び立ち彼女を咥え空に飛び立った。
「ありがとう、ジュリオ」
ヴィットリアは小さな声でジュリオに礼をいうと意識を失った。
その言葉に応えるようにジュリオはより一層翼に力を込める。
最強の青騎士との戦い。
ヴィットリアは皆を逃がすため一人戦っていた。
勝てないとわかっていてもいても立ってもいられなかったジュリオはヴィットリアに加勢するために飛び出した。
「ジュリオ!逃げて!」
その叫び声を無視するように青騎士に向かって一直線に飛んでいく。青騎士の青く輝き、振り下ろされると同時にジュリオは人の姿へと体を変えた。
巨大な体は突如小さくなり、青騎士の空を斬る。生身の体で地面に打ち付けられるジュリオの体を受け止めるように、ヴィットリアは跳躍した。ヴィットリアが受け止めると同時にドラゴンに代わり、彼女を背に乗せ空に飛び立った。
「もうむちゃしないの」
ヴィットリアの声には安堵が合った。二人の間にはもう喋らなくても伝わる絆が芽生えていた。
砂浜で水着姿のヴィットリア。その完璧なスタイルにビキニがよく似合っているが、少し目のやり場に悩んでいるジュリオ。
「ここ最近、激しい戦闘で疲れたでしょ。鍛錬も大切だけど、たまには休憩も必要よ。ほら、せっかく来たんだから、今日は遊びましょ」
ヴィットリアはそういうとジュリオの手を引っ張って行く。
「どっちが先にあの沖までいけるか競争しましょう」
そういうとヴィットリアはクラウチングスタートの姿勢に入る。
ジュリオも急いで海パン姿になるとヴィットリアは耳元で小さく囁いた。
「お先に」
その言葉にドキッとしたジュリオだったが、眼の前の光景にそのトキメキは一瞬で燃え尽きた。
ものすごい勢いで水を蹴りながらヴィットリアは海の上を走っている。
「泳げよ!」
ジュリオも負けたくなため、ドラゴンになり勢いよく飛び立った。
「気持ちいいわね、ジュリオ。今日はピックニック日よりよ」
明るい薄手のワンピースに身を包んだヴィットリアはお弁当箱を持ちながらジュリオの上で気持ちよさそうに風に吹かれる。
ジュリオも鳴き声を上げ返事を返した。
普段は立たない厨房に立つヴィットリア。
「今日は新メニューに挑戦しましょう」
ジュリオの持つ店の新メニュー考案にヴィットリアが一役買って出た。一番の常連であるヴィットリア、初めての料理に挑戦する。
「ああ。説明道理にやってくれよ。まずはこれ準備する」
「これを焼けばいいのよね」
「おい!待て!」
ヴィットリアの高すぎる火力により食材が焼け朽ちた。
暗闇の森の中で焚き火を囲うヴィットリアとジュリオ。
ジュリオは切った肉を棒に刺しヴィットリアに渡すと手を一瞬被せるといった。
「ほら、焼けたわよ」
「おお。だいぶうまくなったんだな」
感心するジュリオにヴィットリアは嬉しそうに微笑むと、口を開けて何かを訴えてくる。
ジュリオに伝わらない事を理解したヴィットリアが言葉を付け加える。
「両手塞がってるでしょ。ほら、あーん」
言われた通り口を開き、お肉を口に頬張ると肉汁が溢れ肉の甘味が口全体に広がった。
「めちゃくちゃ美味い!」
「良かった」
そう言ってヴィットリアは嬉しそうに微笑んだ。
街の大きな酒場。
皆がごった返し酔っ払い騒がしく賑わっれいた。
「俺はお前に会えて幸せだよ。これからもよろしくな」
ジュリオは顔を赤くしながら独り言のように想いの節をつぶやいた。
「ちょっと何って言ってるの?」
周りと同様に酔っ払うヴィットリアは上機嫌に笑いながら聞き返す。
「なんでもねーよ!」
周りの音が大きいため、ジュリオも同様に大きな声で笑いながら言う。
酔っ払っているのはジュリオも一緒だった。
宮殿の上から見る夜空に花。その花は大きな音に暗闇に咲き、一瞬にして火の粉として消える。
「綺麗ね。ついに明日、私達また一緒にこの光景を見れるかしら」
珍しいヴィットリアの言葉にジュリオは呆気にとられる。
慌てたようにジュリオは言葉を返した。
「珍しいなヴィットリアがそんなような言葉を言うなんて」
「そうね」
どこか他人行儀なヴィットリアは変わらず夜空に描かれる花火を見つめる。
「大丈夫だよ、そしてまた見よう」
ジュリオはそう言ってヴィットリアの手を力強く握る。
ヴィットリアはジュリオを見ることなく、その手を優しく握り返した。
レイナーの思いを聞いたブルーは自分の部屋で問いかけた。
「炎の魔女」
――レイナーのこと?
「そう。あの赤騎士はヴィットリアで間違いないの」
――元になっているのはね。中身は私にもわからない
「なら、ジュリオとヴィットリアはどうだったの」
――よく一緒にいたし、その絆は本物だった。ただ二人に恋心があったかどうかは今まで知らなかった。それにヴィットリアはイヴァンという男性と結婚したの。
「それは万栄国に書かれてた『黒煙の蛇』の初代統率者イヴァン・ルイジ・アドルフのこと?」
――うん。ジュリオはイヴァンの旧友だったの。イヴァンとヴィットリアの二人の子供がリノ・ルイジ・アドルフ、万栄国の建国者。
「なら、ジュリオの恋は実らない」
――過去の運命はそうだった。でも、もし順序が逆だったら、あの時ジュリオが思いを伝えていたら変わっていたかも知れない。もしかしたら、そう後悔しているのかも。あの時のヴィットリアには余裕がなかったからイヴァンと出会ってからの結婚も速かった。結婚生活もうまく行ってはいなかったから。
「ヴィットリアの意思はわからないけど、運命のいたずらのように二人は再会を果たした。けど、今回もその想いは伝わることがないのかな」
――私達にはどうしようもない。その出生は決して幸福だったとは言えないけど、生まれ変わってもなお愛する人の記憶を思い出した彼は特別な運命だと言える。けど、果たして前世の記憶持って生まれてきたことは幸福なことだったのか、そんな彼女とのこの再会は幸運だったのかな。
「それは誰にも、きっと彼にもわからない。これは人の人生を超えた片思いだから」
――そうだね。
レイナーは忌み子として生まれた。
掟を破り島を出た母は盗賊に捕まり、奴隷として売られた。その珍しい一族の血は、グエンモールに住む富豪の手により汚された。
母の血が遺伝することはなく、レイナーは汚い富豪の子として生まれた。生まれてすぐに捨てられ、孤児としてグエンモール協会に拾われた。
レイナーは物心付くまでグエンモール協会で育ち、自由に空を飛ぶ夢をよく見た。その夢の影響で、毎晩のように空を見上げ、この狭い鳥カゴから出ることを願った。
外の世界に出るためにレイナーは警備軍の教育施設に志願した。一度しか見ていない母にもう一度合うため、母の顔をわすれないために夢のために教養を身に着けたが、それから少しして、母親の訃報が知らされた。
母の安否の調査結果は当時にのレイナーにはとても受け入れられ難いものだった。真実を自分の手で探すために、レイナーは必死に学業に打ち込むようになった。その過程で、魔法具に触れると時より変な記憶をときより見るようになった。そして、その記憶は教育の一環として魔法具を扱う用になってから、比例してよく見るようになった。
それは一人の赤髪の女性と話をする記憶。それは大地を飛び、火を拭き、人と戦う記憶。その記憶の中にも決まって赤髪の女性が現れ、レイナーに話しかけていた。その女性の名がヴィットリア。
10歳を超える位ようになる頃には、それが前世の記憶であると理解するようになり、時折見る町並みを過去の記憶と照らし合わせることも珍しくなくなっていった。ヴィットリアと歩いた町並みと照らし合わせ、孤独な胸を満たしていた。そして、気がつけばヴィットリアを母と重ねるようになっていた。
15歳になり大人と認められたレイナーは、警備軍には入らず旅人となった。本当の自分を探し求めるように過去の自分を探し始めた。無意識にヴィットリアの影を追っていた。
そして、ドーン国でヴィットリアにそっくりな赤髪の女性に出会った。それが、アリスと共に仕事をする明確なきっかけとなった。そして、ヴィットリアとの想い出を思い出すきっかけとなった。
炎の魔女が率いる旧ドーン国、『炎の暁』に所属していたジュリオは、眷属のヴィットリアととても親密な関係で密かに恋心をいだいていた。ドラゴンになる力をもっていたジュリオはヴィットリアとともに圧倒的な不利な状況でも、信念を胸に最後まで立ち向かった。
「そういうことだったの。教えてくれてありがとう、レイナー」
「ああ、いいよ。だから、これからの彼女の面倒は俺に任せて欲しい」
レイナーの目はどこか淋しく、以前のような輝きはない。本当に彼女といることがレイナーにとって良いことなのか疑問に思ったブルーは口を開く。
「彼女はあくまでも終焉の魔女の眷属、ヴィットリアではない。命令されたことしか聞かない、魂のない、ただの玩具だ」
「わかってる。それでも……」
レイナーは力なく否定するが、その続きの言葉は出なかった。
ブルーが部屋を出た後、レイナーは自分の部屋に連れ込んだ赤騎士に前世のジュリオとしての儚い想い出を語りかける。
商店街通りでジュリオは隣を歩くヴィットリアに謝った。
「すまない、付き合ってもらって」
「いいわよ、気分転換になるし。そんなことよりも、こういうお菓子をおいてもいいじゃないかしら」
甘い匂いにつられたヴィットリアが一つの店を指す。
「いいね。そうしよう」
ヴィットリアの笑顔にジュリオはつられる。
草原で向かい合うジュリオとヴィットリア。
「ヴィットリア!行くよ」
「ジュリオ、いつでも来なさい」
ジュリオの体は瞬く間に膨張し、ドラゴンへと姿を変える。彼女の右手にある真っ赤な剣をドラゴンとなったジュリオのブレスを受け止めた。
草原の一部がえぐれ、一部が焦げ、一本の赤い剣が地面に剣を突き刺さっていた。その草原で大の字で寝転がるジュリオ。
「ははは。ボロボロだ」
ジュリオはの隣で座るヴィットリアはいつもの優しい言葉をかける。
「上出来よ」
「ありがとう」
ジュリオはそう言ってボロボロの手を空に伸ばした。
「もう囚われることなく、この空へ自由に飛び立てるのか」
大きな壁に包まれた監視された社会で生きてきたジュリオは、初めて経験する本当の自由にまだ心の何処かで実感を持てずにいた。そんなジュリオの背中を押すように優しい言葉をくれる。
「ええ。その時は私も連れてってね」
ヴィットリアはそう言って微笑んだ。
ジュリオが暁の宮殿に着くとヴィットリアに出迎えてくれる。
「ヴィットリア!」
「待ってたわ」
久しぶりの再開にジュリオはヴィットリアに抱き着き、彼女も笑顔で受け止めた。
しばらくしてお互いの気持ちを落ち着かせてから、ヴィットリアは改めて挨拶をする。
「久しぶりね。改めて、いらっしゃい。そして、ようこそ『炎の暁』へ」
激しい戦場の中、はっきりと彼女の声が聞こえる。
「ジュリオ!」
ドラゴンは空を飛び声の方に飛んでいくと赤い鎧に身を包むヴィットリアが戦っていた。
咆哮を上げ、ヴィットリアに自分のそんざいをつたえると、敵を倒したヴィットリアはドラゴンの背中に飛び乗った。
「ありがとうジュリオ。一緒にこの戦いを乗り切りましょう」
言葉を話すことができないジュリオは代わりに大きな咆哮を上げた。
ドラゴンの姿となったジュリオは体に突き刺さった槍から血を流していた。周囲には仲間のドラゴンの死体と敵兵士の死体が転がっている。翼が切られ飛び立てないジュリオも死を待つだけだった。
最後の咆哮を力に変え炎のブレスを吐くと同時に大きな地響きを立てて地面に倒れ込んだ。
「女王様の御加護があらんことを」
兵士の宣言と同時に、槍がジュリオの喉に伸びて行く。
「真轊(シンウン)」
聞き慣れた声と同時に視界が白く染まった。爆発が終わると同時に光の中からヴィットリアが現れる。
「迎えに来たよ」
焼け落ちたたくさんの死体と建物。とても激しい戦場の跡地をジュリオは空から見つめていた。
微かなうめき声が聞こえ、近くに降り立つが少ししてうめき声を上げたドラゴンは力尽きた。
もう一度空を飛び生存者を探す中、大きな爆破音が耳を刺す。急いで音の方に向かえば、ボロボロな赤騎士が未だに戦っていた。鎧は砕け、兜もなく頭から血を流しているヴィットリア。
ジュリオは急いで飛び立ち彼女を咥え空に飛び立った。
「ありがとう、ジュリオ」
ヴィットリアは小さな声でジュリオに礼をいうと意識を失った。
その言葉に応えるようにジュリオはより一層翼に力を込める。
最強の青騎士との戦い。
ヴィットリアは皆を逃がすため一人戦っていた。
勝てないとわかっていてもいても立ってもいられなかったジュリオはヴィットリアに加勢するために飛び出した。
「ジュリオ!逃げて!」
その叫び声を無視するように青騎士に向かって一直線に飛んでいく。青騎士の青く輝き、振り下ろされると同時にジュリオは人の姿へと体を変えた。
巨大な体は突如小さくなり、青騎士の空を斬る。生身の体で地面に打ち付けられるジュリオの体を受け止めるように、ヴィットリアは跳躍した。ヴィットリアが受け止めると同時にドラゴンに代わり、彼女を背に乗せ空に飛び立った。
「もうむちゃしないの」
ヴィットリアの声には安堵が合った。二人の間にはもう喋らなくても伝わる絆が芽生えていた。
砂浜で水着姿のヴィットリア。その完璧なスタイルにビキニがよく似合っているが、少し目のやり場に悩んでいるジュリオ。
「ここ最近、激しい戦闘で疲れたでしょ。鍛錬も大切だけど、たまには休憩も必要よ。ほら、せっかく来たんだから、今日は遊びましょ」
ヴィットリアはそういうとジュリオの手を引っ張って行く。
「どっちが先にあの沖までいけるか競争しましょう」
そういうとヴィットリアはクラウチングスタートの姿勢に入る。
ジュリオも急いで海パン姿になるとヴィットリアは耳元で小さく囁いた。
「お先に」
その言葉にドキッとしたジュリオだったが、眼の前の光景にそのトキメキは一瞬で燃え尽きた。
ものすごい勢いで水を蹴りながらヴィットリアは海の上を走っている。
「泳げよ!」
ジュリオも負けたくなため、ドラゴンになり勢いよく飛び立った。
「気持ちいいわね、ジュリオ。今日はピックニック日よりよ」
明るい薄手のワンピースに身を包んだヴィットリアはお弁当箱を持ちながらジュリオの上で気持ちよさそうに風に吹かれる。
ジュリオも鳴き声を上げ返事を返した。
普段は立たない厨房に立つヴィットリア。
「今日は新メニューに挑戦しましょう」
ジュリオの持つ店の新メニュー考案にヴィットリアが一役買って出た。一番の常連であるヴィットリア、初めての料理に挑戦する。
「ああ。説明道理にやってくれよ。まずはこれ準備する」
「これを焼けばいいのよね」
「おい!待て!」
ヴィットリアの高すぎる火力により食材が焼け朽ちた。
暗闇の森の中で焚き火を囲うヴィットリアとジュリオ。
ジュリオは切った肉を棒に刺しヴィットリアに渡すと手を一瞬被せるといった。
「ほら、焼けたわよ」
「おお。だいぶうまくなったんだな」
感心するジュリオにヴィットリアは嬉しそうに微笑むと、口を開けて何かを訴えてくる。
ジュリオに伝わらない事を理解したヴィットリアが言葉を付け加える。
「両手塞がってるでしょ。ほら、あーん」
言われた通り口を開き、お肉を口に頬張ると肉汁が溢れ肉の甘味が口全体に広がった。
「めちゃくちゃ美味い!」
「良かった」
そう言ってヴィットリアは嬉しそうに微笑んだ。
街の大きな酒場。
皆がごった返し酔っ払い騒がしく賑わっれいた。
「俺はお前に会えて幸せだよ。これからもよろしくな」
ジュリオは顔を赤くしながら独り言のように想いの節をつぶやいた。
「ちょっと何って言ってるの?」
周りと同様に酔っ払うヴィットリアは上機嫌に笑いながら聞き返す。
「なんでもねーよ!」
周りの音が大きいため、ジュリオも同様に大きな声で笑いながら言う。
酔っ払っているのはジュリオも一緒だった。
宮殿の上から見る夜空に花。その花は大きな音に暗闇に咲き、一瞬にして火の粉として消える。
「綺麗ね。ついに明日、私達また一緒にこの光景を見れるかしら」
珍しいヴィットリアの言葉にジュリオは呆気にとられる。
慌てたようにジュリオは言葉を返した。
「珍しいなヴィットリアがそんなような言葉を言うなんて」
「そうね」
どこか他人行儀なヴィットリアは変わらず夜空に描かれる花火を見つめる。
「大丈夫だよ、そしてまた見よう」
ジュリオはそう言ってヴィットリアの手を力強く握る。
ヴィットリアはジュリオを見ることなく、その手を優しく握り返した。
レイナーの思いを聞いたブルーは自分の部屋で問いかけた。
「炎の魔女」
――レイナーのこと?
「そう。あの赤騎士はヴィットリアで間違いないの」
――元になっているのはね。中身は私にもわからない
「なら、ジュリオとヴィットリアはどうだったの」
――よく一緒にいたし、その絆は本物だった。ただ二人に恋心があったかどうかは今まで知らなかった。それにヴィットリアはイヴァンという男性と結婚したの。
「それは万栄国に書かれてた『黒煙の蛇』の初代統率者イヴァン・ルイジ・アドルフのこと?」
――うん。ジュリオはイヴァンの旧友だったの。イヴァンとヴィットリアの二人の子供がリノ・ルイジ・アドルフ、万栄国の建国者。
「なら、ジュリオの恋は実らない」
――過去の運命はそうだった。でも、もし順序が逆だったら、あの時ジュリオが思いを伝えていたら変わっていたかも知れない。もしかしたら、そう後悔しているのかも。あの時のヴィットリアには余裕がなかったからイヴァンと出会ってからの結婚も速かった。結婚生活もうまく行ってはいなかったから。
「ヴィットリアの意思はわからないけど、運命のいたずらのように二人は再会を果たした。けど、今回もその想いは伝わることがないのかな」
――私達にはどうしようもない。その出生は決して幸福だったとは言えないけど、生まれ変わってもなお愛する人の記憶を思い出した彼は特別な運命だと言える。けど、果たして前世の記憶持って生まれてきたことは幸福なことだったのか、そんな彼女とのこの再会は幸運だったのかな。
「それは誰にも、きっと彼にもわからない。これは人の人生を超えた片思いだから」
――そうだね。