第12話 ハイネの怒号
文字数 5,036文字
全ての魔人機を倒し終わったハイネとナディア。
二人は最後の魔法瓶を口にする。
体の中に不足した魔力量を無理やり補充する薬。ミルカが用意してくれた薬だが、副作用として効果が切れたのち体に力が入らなくなり、強烈な脱力感に襲われる。
「これで全部?」
日が昇る朝日を見つめながらナディアの言葉にハイネが答える。
「わからない」
二人は空に浮くブルーの戦いに目を向けた。魔女同士の戦いでは足手まといになるだけだと、考え待機していたのだ。
しかし、怪物に掴まれたと同時に体が燃えながら落ちていくブルーの姿を見て二人は急いで駆けつけた。
改めて、魔女の戦いの恐ろしさを宮殿の合った場所にできたクレーターをみて感じた。
地面に倒れるブルーの下に行くと、体から光の粒子が漂っている。二人はそれが体を修復している魔法だと理解し周囲の敵に対して警戒する。
同時に立ち上がる一人の青騎士。
ボロボロ姿の青騎士はブルーによって傷つけられたのだろう。明らかに殺意を向けてきていた。
しかし、周囲の他の物の姿は何もない。あると言ったら、なにかが砕けた瓦礫だけだ。
ハイネとナディアは同時に武器を構える。ブルーを守るために。
青騎士と剣を打ち合うたびに、力の差があらわになっていく。二人でなんとか時間かせぎをするので精一杯だった。もし一人でも賭けていたら、もし負傷していなかったら。そんな最悪の自体を考えたくもない。
人間は傷を受ければ受けるほど、動きが鈍くなっていく。その傷を修復するすべを持たない。
しかし、相手は青騎士だ。傷を受けても魔力で修復でき、鎧すらも魔力で修復する。
その先に見える結果は明らかだ。
私達は死ぬ。
青騎士は剣に今までとは比べ物にならないほどの魔力が籠もる。同時に背筋が凍るほどの冷気が辺り一帯を支配する。青く輝きはじめる剣に、二人は直感的やばいといっている。
「アルスメリナ」
青騎士はその言葉と同時に地面に突き刺すと、剣を中心に辺り一帯が氷付き地面から次々と凍っていき氷の刃が伸びて行く。
ナディアは両手の短剣に必死に魔力を込め、振り下ろすと炎が辺り一帯に溢れるが、魔力の限界を迎えた赤い指輪が砕けた。
ハイネの風がナディアの炎を絡め取り、激しい炎の竜巻を作り出す。アルスメリナの氷魔法をなんとか受け止めるがそれだけにとどまった。炎の竜巻は消え、同時にハイネの付けていた指輪も砕ける。
たったの一撃を受け止めるだけで限界だった。
剣をまっすぐに二人に向ける青騎士はこの戦いにすらならなかったの戦闘の結果を宣言する。
「アークレイン」
剣先から放たれる水線が全てを貫くレーザーのように伸ばされる。
「後は任せて」
そう言って音もなくカルネラ姉妹の前に立ったブルーが、その水砲を透明な壁で受け止める。
「ここまでありがとう。二人は逃げて」
二人はブルーの命令に直に従いこの場を後にした。
攻撃をやめた青騎士は言葉を返すことなく、違う構えに入る。
そして、口を開いた。
「烈氷」
バーブルという青騎士の攻撃はブルーには効かない。しかし、回復した魔力抑制力まだ少しだけ。これ以上長引けば、今のブルーにも勝機はない。
「グラスメリジューヌ、ライア、アークレイン」
バーブルの足元からは複数の氷の蛇が伸び、空中で生成された氷の槍が飛び出し、水線は剣先から放たれた。
バーブルの打ち出した3つ技に対しブルーの回答はただ一つ。魔女の領域の達した魔法を放つ。
「エデンの星」
ブルーの指先から溢れ出る炎の魔力が光の光線を放つ。
空間が悲鳴を上げるような高音が響き、一瞬にしてバーブルの技を消し飛ばしその体を襲う。
決着は一瞬だった。
魔女化が解除されたブルーは一呼吸おいてから背を向ける歩き出す。だが、なにかが動きだす物音が背後から聞こえた。
ブルーは急いで振り返ると、誓約に操られた青騎士が立ち上がっていた。鎧の隙間から黒いモヤが溢れ出すバーブル。
ブルーはこの光景を知っている。『知識の泉』でヴィットリアが炎の魔女となったときと同じ。
バーブルの鎧が崩れ落ち、あらわになる青いドレス。氷の魔女となったバーブルが右手を無造作に振り上げる。
同時に数センチの幅が氷付きそれは一直線に伸びていき、海ですら波の形を残したまま凍らせる。
ブルーの右足から上が地面と一緒に一直線に凍りつく。右足もその上のお腹も右目もシャーベットのように氷付き動かない。左足を変に動かそうとすると、体の内側から砕けていっているのを感じる。もし無理に動かせば体が真っ二つに避けるのは言うまでもない。
もうブルーに残された選択肢は一つしか無かった。限界をこえ、骨の髄まで燃やし尽くす。
赤い指輪が光り輝き、炎のドレスがブルーを焼く。
同時にブルーの全身から光の粒子が溢れ出す。全身が焼け落ちるたびに修復し、体を燃やし続ける。
ブルーは一歩、また一歩と地面を歩く。歩くたびに、焼きただれた皮膚が地面に落ち、大地を燃やしてく。
しかし、ブルーは止まらない。
無数の氷の弾丸がブルーに触れると同時に、蒸発し、消えていく。
炎の化身のように、その歩みを止めることは誰にもできない。炎の中から見せる白い瞳が、バーブルを捉えると烈火のごとく飛び出した。
ドーン国の大地を揺るがすように、衝撃が響く。古代の歴史を再現するように相反する二つの魔力、氷の魔女と炎の魔女が激しくぶつかりあった。
グエンモール大王国。
王都グエンモール。
グエンモールの城門で騒ぎが起こる。
兵士たちは戸惑いながらも武器を構え、対維持する。
城門は誰の許しも得ずに勝手に開かれ、招かれざる客が正面から堂々と入城する。
「ミルカ様」
声をかけてくる側近を片手で黙らせ、ミルカは同様に城の前で客人を出迎える。
「久しぶり、いやはじめましてと言うべきか?」
ドーン国、カルド国王がとかける。
「さあ、どうでしょう」
ミルカは冷たい目線でカルド国王を見下しながら続ける。
「わざわざ歩いてここまでここまでお越しに?」
「無駄な力を使わないようにな」
「そんな抜け殻では私に勝てないのを知っているのになぜここに?」
「だが、私が死ぬことはない。神域魔法を壊しに来たんだ」
「そう。ただそれを口にしてしまう時点で貴方は失敗している。そもそもブルーですら殺せなかった眷属の貴方が」
「それはどうだろうか。バーブルが相手をしている。貴様ならその意味を理解できるだろう」
「それでも問題はない。何故、私がこの時代に来たかわからない?ここでは貴方の『誓約』後からはまだ弱い。それに、ブルーが負けないことは知っている」
「なぜそう言い切れ……ああ。そういうことか」
「ええ。ブルーは私自身だから」
二人は会話をやめ、同時に途方もない魔力が溢れ出す。
ゆっくりと上空に上がっていく二人は、自分の神名を宣言する。
「我が名はカルド。またの名をメルフェス。終焉の魔女の眷属にして、《誓約》の誓いを立たす者」
「私は始生の魔女。全ての起源、事の始まりをつかさどる者。またの名をミルカ・デ・メルロ。このメリア神話に新たなる新生をもたらす」
「これに乗りましょう」
「うん」
ドーン国の兵士の服を借りたハイネとナディアは船に乗り込み島を出た。
生き残る事ができると思っていなかった2人はひとまずグエンモールを目指すことする。
海をでて少しするとドーン国に大きな衝撃が響く。沖に出たのにも関わらず船にまで届く衝撃波に姉妹は息を呑んだ。同時にブルーの戦いを見届けようと目を向ける。
しかし、そんな時、ナディアが倒れた。
魔力切れによる副作用だということはすぐに分かる。ハイネも時間の問題だ。
「お姉ちゃん、私」
「大丈夫。もう全て終わったから。落ち着いて呼吸して。もう休んでいいの」
ナディアは復讐のためだけのために今まで生きてきた。それを終えた今、ナディアは昔のようにハイネに少し甘えてくるようになった。本来の年相応の姿に戻ったのかも知れない。
安心しきった様子でハイネの膝枕で寝るナディアを部屋の中に入れ休ませるとハイネは船の舵を取りドーン国を離れる。
ハイネも一息つこうと腰を下ろそうとした時、それは唐突にやってきた。
氷の魔女の攻撃が船を直撃し、凍りついた。そして、船は傾き始める。
「お姉ちゃん!」
部屋からナディアの叫び声が聞こえ、急いで向かおうとするが薬の反動が沿いハイネの足をすくう。床に転びながら、必死に上半身を上げ叫ぶ。
「ナディア!」
「お姉ちゃん!どこ!何があったの!」
来たばかりの反動が大きく、息苦しくうまく声が出ない。傾く凍った船の上ではうまく立ち上がることもままならない。
「あ、あかない!どうしよう、お姉ちゃん。あかないよ、皮が破ける」
「ま……って。さわ、……ちゃ駄目」
必死になって絞り出したハイネの声は届かない。
「お姉ちゃん!水が入ってきた!どーしよう!」
その言葉に血の気が引く。なんとか立ち上がったハイネは部屋の前に移動し、扉をこじ開けようとするがびくともしない。
扉のすぐ向こうにはナディアの声が聞こえるのに手は届かない。ハイネは扉を叩きながら叫んだ。
「ナディア!ナディア!今助けるから、まってて!」
ナディアは両手に魔力を集めるが風で凍った壁を打ち破ることはできない。
「冷たい。お姉ちゃん逃げて!私はでれないから早く。小さな船ついてたでしょ!それに乗って」
涙ぐみながらも怒鳴り声を上げるナディア。
「だめよ!どんなときも一緒って言ったでしょ!絶対に助ける!助けるから!」
やっとあの頃のように戻った妹を、何もできないまま目の前で失いたくない。
ハイネは大声で叫びながらナディアの言葉を否定する。
「わ、わかった。そうだよね、信じる。……わたし、お姉ちゃん信じるから」
涙ぐむナディアを安心させるように優しい声で扉の先にいる妹に語りかける。
「ナディア。大丈夫だから。今助けるから少し待ってて」
ハイネは副作用の中、必死に魔力を込める槍は限界を迎えており魔力に一切反応を示さない。仕方なく、ただの槍として叩きつけるが、凍った扉は壊れることもなく少し歯が刺さるだけ。副作用のせいで待ったく力が入らない。無理矢理に左右に捻ると、限界を迎えたやりが砕けた。
今までの戦いで、ミルカから貰ったハイネのやりもとっくに限界を迎えていたのだ。
「くそくそくクソぉ!」
声にならない悔しさと怒りを必死に押し殺す。なんで部屋に入れてしまったのか、なんで一緒にいてあげなかったのか、なんで氷の魔女の攻撃がよりによって当たってしまうのか。
「お姉ちゃん?」
部屋の中からかすかに声が聞こえる。先程よりも声の一が高い半分以上浸水しているのだ。
「どうして!なんでよ!!」
「どうしたの?お姉ちゃん?大丈夫?私はまだ大丈夫だよ」
「な、ナディア」
声が震え、涙が止まらない。泣きたいのはナディアのはずなのに。
必死に声を押し殺し、涙を堪え、声の震えを抑える。
そんなハイネの息する場所をほとんど失ったナディアが泣き叫ぶ。
「死にたくない!いやだよ!会いたいよ、一人にしないで!ねぇ!やだ!やだよ!やだってば!死にたくないよ、怖いよ!助けてよ!怖いよ!お姉ちゃん助けて!怖いよ!会いたいよ!一緒にいたいよ!」
「一緒にいるよ!大丈夫だよ!一緒にいるから!そばにいる!今助けるから!待ってて!大丈夫!大丈夫だから!」
ハイネにできることはもう声をかけることしか無かった。
そして、水に口が入りナディアの声が途絶える音が聞こえる。
同時に敵の船がハイネを照らす。ハイネの服装を見て、完全に敵だとは思っていないようだった。
ハイネの足元も水に浸かっていた。冷たい水がハイネの体温を奪っていく。ナディアがどういう状態でしんでいったのか、冷たく暗い氷の中で水に浸かり溺れ死ぬ姿を嫌でも想像してしまう。目の前にいたのに助けられなかった。母に続き、妹も。
ハイネを照らす敵に、氷の魔女に、この世界に、自分自身に怒りがこみ上げてくる。
人生への激情が、生まれて初めて怒号が、抑え込まれていた激動がハイネの最後の体を動かした。
風魔法で体を浮き上がらせるハイネはこの人生に対し咆哮を上げる。
砕けた槍の先を握り締め、手から血がにじみ出る。敵の船の中にある燃料、そこに向かってハイネは飛び込み爆発が全身を包み込む。
周囲の船を巻き込むような大爆発がハイネの体を消し飛ばした。
二人は最後の魔法瓶を口にする。
体の中に不足した魔力量を無理やり補充する薬。ミルカが用意してくれた薬だが、副作用として効果が切れたのち体に力が入らなくなり、強烈な脱力感に襲われる。
「これで全部?」
日が昇る朝日を見つめながらナディアの言葉にハイネが答える。
「わからない」
二人は空に浮くブルーの戦いに目を向けた。魔女同士の戦いでは足手まといになるだけだと、考え待機していたのだ。
しかし、怪物に掴まれたと同時に体が燃えながら落ちていくブルーの姿を見て二人は急いで駆けつけた。
改めて、魔女の戦いの恐ろしさを宮殿の合った場所にできたクレーターをみて感じた。
地面に倒れるブルーの下に行くと、体から光の粒子が漂っている。二人はそれが体を修復している魔法だと理解し周囲の敵に対して警戒する。
同時に立ち上がる一人の青騎士。
ボロボロ姿の青騎士はブルーによって傷つけられたのだろう。明らかに殺意を向けてきていた。
しかし、周囲の他の物の姿は何もない。あると言ったら、なにかが砕けた瓦礫だけだ。
ハイネとナディアは同時に武器を構える。ブルーを守るために。
青騎士と剣を打ち合うたびに、力の差があらわになっていく。二人でなんとか時間かせぎをするので精一杯だった。もし一人でも賭けていたら、もし負傷していなかったら。そんな最悪の自体を考えたくもない。
人間は傷を受ければ受けるほど、動きが鈍くなっていく。その傷を修復するすべを持たない。
しかし、相手は青騎士だ。傷を受けても魔力で修復でき、鎧すらも魔力で修復する。
その先に見える結果は明らかだ。
私達は死ぬ。
青騎士は剣に今までとは比べ物にならないほどの魔力が籠もる。同時に背筋が凍るほどの冷気が辺り一帯を支配する。青く輝きはじめる剣に、二人は直感的やばいといっている。
「アルスメリナ」
青騎士はその言葉と同時に地面に突き刺すと、剣を中心に辺り一帯が氷付き地面から次々と凍っていき氷の刃が伸びて行く。
ナディアは両手の短剣に必死に魔力を込め、振り下ろすと炎が辺り一帯に溢れるが、魔力の限界を迎えた赤い指輪が砕けた。
ハイネの風がナディアの炎を絡め取り、激しい炎の竜巻を作り出す。アルスメリナの氷魔法をなんとか受け止めるがそれだけにとどまった。炎の竜巻は消え、同時にハイネの付けていた指輪も砕ける。
たったの一撃を受け止めるだけで限界だった。
剣をまっすぐに二人に向ける青騎士はこの戦いにすらならなかったの戦闘の結果を宣言する。
「アークレイン」
剣先から放たれる水線が全てを貫くレーザーのように伸ばされる。
「後は任せて」
そう言って音もなくカルネラ姉妹の前に立ったブルーが、その水砲を透明な壁で受け止める。
「ここまでありがとう。二人は逃げて」
二人はブルーの命令に直に従いこの場を後にした。
攻撃をやめた青騎士は言葉を返すことなく、違う構えに入る。
そして、口を開いた。
「烈氷」
バーブルという青騎士の攻撃はブルーには効かない。しかし、回復した魔力抑制力まだ少しだけ。これ以上長引けば、今のブルーにも勝機はない。
「グラスメリジューヌ、ライア、アークレイン」
バーブルの足元からは複数の氷の蛇が伸び、空中で生成された氷の槍が飛び出し、水線は剣先から放たれた。
バーブルの打ち出した3つ技に対しブルーの回答はただ一つ。魔女の領域の達した魔法を放つ。
「エデンの星」
ブルーの指先から溢れ出る炎の魔力が光の光線を放つ。
空間が悲鳴を上げるような高音が響き、一瞬にしてバーブルの技を消し飛ばしその体を襲う。
決着は一瞬だった。
魔女化が解除されたブルーは一呼吸おいてから背を向ける歩き出す。だが、なにかが動きだす物音が背後から聞こえた。
ブルーは急いで振り返ると、誓約に操られた青騎士が立ち上がっていた。鎧の隙間から黒いモヤが溢れ出すバーブル。
ブルーはこの光景を知っている。『知識の泉』でヴィットリアが炎の魔女となったときと同じ。
バーブルの鎧が崩れ落ち、あらわになる青いドレス。氷の魔女となったバーブルが右手を無造作に振り上げる。
同時に数センチの幅が氷付きそれは一直線に伸びていき、海ですら波の形を残したまま凍らせる。
ブルーの右足から上が地面と一緒に一直線に凍りつく。右足もその上のお腹も右目もシャーベットのように氷付き動かない。左足を変に動かそうとすると、体の内側から砕けていっているのを感じる。もし無理に動かせば体が真っ二つに避けるのは言うまでもない。
もうブルーに残された選択肢は一つしか無かった。限界をこえ、骨の髄まで燃やし尽くす。
赤い指輪が光り輝き、炎のドレスがブルーを焼く。
同時にブルーの全身から光の粒子が溢れ出す。全身が焼け落ちるたびに修復し、体を燃やし続ける。
ブルーは一歩、また一歩と地面を歩く。歩くたびに、焼きただれた皮膚が地面に落ち、大地を燃やしてく。
しかし、ブルーは止まらない。
無数の氷の弾丸がブルーに触れると同時に、蒸発し、消えていく。
炎の化身のように、その歩みを止めることは誰にもできない。炎の中から見せる白い瞳が、バーブルを捉えると烈火のごとく飛び出した。
ドーン国の大地を揺るがすように、衝撃が響く。古代の歴史を再現するように相反する二つの魔力、氷の魔女と炎の魔女が激しくぶつかりあった。
グエンモール大王国。
王都グエンモール。
グエンモールの城門で騒ぎが起こる。
兵士たちは戸惑いながらも武器を構え、対維持する。
城門は誰の許しも得ずに勝手に開かれ、招かれざる客が正面から堂々と入城する。
「ミルカ様」
声をかけてくる側近を片手で黙らせ、ミルカは同様に城の前で客人を出迎える。
「久しぶり、いやはじめましてと言うべきか?」
ドーン国、カルド国王がとかける。
「さあ、どうでしょう」
ミルカは冷たい目線でカルド国王を見下しながら続ける。
「わざわざ歩いてここまでここまでお越しに?」
「無駄な力を使わないようにな」
「そんな抜け殻では私に勝てないのを知っているのになぜここに?」
「だが、私が死ぬことはない。神域魔法を壊しに来たんだ」
「そう。ただそれを口にしてしまう時点で貴方は失敗している。そもそもブルーですら殺せなかった眷属の貴方が」
「それはどうだろうか。バーブルが相手をしている。貴様ならその意味を理解できるだろう」
「それでも問題はない。何故、私がこの時代に来たかわからない?ここでは貴方の『誓約』後からはまだ弱い。それに、ブルーが負けないことは知っている」
「なぜそう言い切れ……ああ。そういうことか」
「ええ。ブルーは私自身だから」
二人は会話をやめ、同時に途方もない魔力が溢れ出す。
ゆっくりと上空に上がっていく二人は、自分の神名を宣言する。
「我が名はカルド。またの名をメルフェス。終焉の魔女の眷属にして、《誓約》の誓いを立たす者」
「私は始生の魔女。全ての起源、事の始まりをつかさどる者。またの名をミルカ・デ・メルロ。このメリア神話に新たなる新生をもたらす」
「これに乗りましょう」
「うん」
ドーン国の兵士の服を借りたハイネとナディアは船に乗り込み島を出た。
生き残る事ができると思っていなかった2人はひとまずグエンモールを目指すことする。
海をでて少しするとドーン国に大きな衝撃が響く。沖に出たのにも関わらず船にまで届く衝撃波に姉妹は息を呑んだ。同時にブルーの戦いを見届けようと目を向ける。
しかし、そんな時、ナディアが倒れた。
魔力切れによる副作用だということはすぐに分かる。ハイネも時間の問題だ。
「お姉ちゃん、私」
「大丈夫。もう全て終わったから。落ち着いて呼吸して。もう休んでいいの」
ナディアは復讐のためだけのために今まで生きてきた。それを終えた今、ナディアは昔のようにハイネに少し甘えてくるようになった。本来の年相応の姿に戻ったのかも知れない。
安心しきった様子でハイネの膝枕で寝るナディアを部屋の中に入れ休ませるとハイネは船の舵を取りドーン国を離れる。
ハイネも一息つこうと腰を下ろそうとした時、それは唐突にやってきた。
氷の魔女の攻撃が船を直撃し、凍りついた。そして、船は傾き始める。
「お姉ちゃん!」
部屋からナディアの叫び声が聞こえ、急いで向かおうとするが薬の反動が沿いハイネの足をすくう。床に転びながら、必死に上半身を上げ叫ぶ。
「ナディア!」
「お姉ちゃん!どこ!何があったの!」
来たばかりの反動が大きく、息苦しくうまく声が出ない。傾く凍った船の上ではうまく立ち上がることもままならない。
「あ、あかない!どうしよう、お姉ちゃん。あかないよ、皮が破ける」
「ま……って。さわ、……ちゃ駄目」
必死になって絞り出したハイネの声は届かない。
「お姉ちゃん!水が入ってきた!どーしよう!」
その言葉に血の気が引く。なんとか立ち上がったハイネは部屋の前に移動し、扉をこじ開けようとするがびくともしない。
扉のすぐ向こうにはナディアの声が聞こえるのに手は届かない。ハイネは扉を叩きながら叫んだ。
「ナディア!ナディア!今助けるから、まってて!」
ナディアは両手に魔力を集めるが風で凍った壁を打ち破ることはできない。
「冷たい。お姉ちゃん逃げて!私はでれないから早く。小さな船ついてたでしょ!それに乗って」
涙ぐみながらも怒鳴り声を上げるナディア。
「だめよ!どんなときも一緒って言ったでしょ!絶対に助ける!助けるから!」
やっとあの頃のように戻った妹を、何もできないまま目の前で失いたくない。
ハイネは大声で叫びながらナディアの言葉を否定する。
「わ、わかった。そうだよね、信じる。……わたし、お姉ちゃん信じるから」
涙ぐむナディアを安心させるように優しい声で扉の先にいる妹に語りかける。
「ナディア。大丈夫だから。今助けるから少し待ってて」
ハイネは副作用の中、必死に魔力を込める槍は限界を迎えており魔力に一切反応を示さない。仕方なく、ただの槍として叩きつけるが、凍った扉は壊れることもなく少し歯が刺さるだけ。副作用のせいで待ったく力が入らない。無理矢理に左右に捻ると、限界を迎えたやりが砕けた。
今までの戦いで、ミルカから貰ったハイネのやりもとっくに限界を迎えていたのだ。
「くそくそくクソぉ!」
声にならない悔しさと怒りを必死に押し殺す。なんで部屋に入れてしまったのか、なんで一緒にいてあげなかったのか、なんで氷の魔女の攻撃がよりによって当たってしまうのか。
「お姉ちゃん?」
部屋の中からかすかに声が聞こえる。先程よりも声の一が高い半分以上浸水しているのだ。
「どうして!なんでよ!!」
「どうしたの?お姉ちゃん?大丈夫?私はまだ大丈夫だよ」
「な、ナディア」
声が震え、涙が止まらない。泣きたいのはナディアのはずなのに。
必死に声を押し殺し、涙を堪え、声の震えを抑える。
そんなハイネの息する場所をほとんど失ったナディアが泣き叫ぶ。
「死にたくない!いやだよ!会いたいよ、一人にしないで!ねぇ!やだ!やだよ!やだってば!死にたくないよ、怖いよ!助けてよ!怖いよ!お姉ちゃん助けて!怖いよ!会いたいよ!一緒にいたいよ!」
「一緒にいるよ!大丈夫だよ!一緒にいるから!そばにいる!今助けるから!待ってて!大丈夫!大丈夫だから!」
ハイネにできることはもう声をかけることしか無かった。
そして、水に口が入りナディアの声が途絶える音が聞こえる。
同時に敵の船がハイネを照らす。ハイネの服装を見て、完全に敵だとは思っていないようだった。
ハイネの足元も水に浸かっていた。冷たい水がハイネの体温を奪っていく。ナディアがどういう状態でしんでいったのか、冷たく暗い氷の中で水に浸かり溺れ死ぬ姿を嫌でも想像してしまう。目の前にいたのに助けられなかった。母に続き、妹も。
ハイネを照らす敵に、氷の魔女に、この世界に、自分自身に怒りがこみ上げてくる。
人生への激情が、生まれて初めて怒号が、抑え込まれていた激動がハイネの最後の体を動かした。
風魔法で体を浮き上がらせるハイネはこの人生に対し咆哮を上げる。
砕けた槍の先を握り締め、手から血がにじみ出る。敵の船の中にある燃料、そこに向かってハイネは飛び込み爆発が全身を包み込む。
周囲の船を巻き込むような大爆発がハイネの体を消し飛ばした。