第21話 約束の日

文字数 4,328文字

 フレムドーン宮殿。
 ブルーの攻撃で宮殿が消える。
 しかし、カルド王の力で祭壇は守られ砂煙の中から青騎士が飛び出してくる。
 魔法障壁でバーブルの攻撃を受け止め、反転ではじいてから炎の槍をカルド王に投げる。
 しかし、カルド王の持つ杖が炎の槍を消滅させた。
 ブルーはその見覚えのある技に絶句する。ミルカとの鍛錬で嫌になるほど目にしてきた技だ。魔力を原初に戻す力、あの杖には始まりの魔女の力が宿っている。
 カルド王の主な力は力は支配とコピー。まだ眷属を支配できる力を持っていないが、コピーは違った。あのゲートから本来の眷属の力を借り、コピーの能力を手に入れていた。
 無数の炎の槍が空中に生成される。
 両手に剣を生成したブルーはカルド王を止めるべく一直線に飛び出した。
「烈氷」
 そんなブルーを待ち構えていたようにバーブルが奥義を使う。
「じゃま」
 もう一度魔法障壁の反転で跳ね返し、黄色く輝く二つの剣をカルド王に押し当てる。
 カルド王の魔法障壁に阻まれるが、技の押し合いが始まり上空に生成されていた赤い槍の輝きが薄れ始める。
「そんなに魔力を使っていいのか、ブルー」
 カルド王の言葉の通りあっという間に魔力の限界を迎えようとしていた。
 致命的な一撃を与えられるわけでもこの押し合いにこれ以上力を使ってしまうのは惜しい。
 そう思い力を緩めた隙をカルド王は見逃さない。
 カルド王の魔法障壁の反転がブルーを襲う。地面を滑るブルーの炎のドレスは破け、体中に擦り傷ができる。傷から魔力が漏れ出ていく。
 瞬時に修復するブルーは飛び上がるが炎の槍が逃さない。ギリギリで数本を交わすが残りは魔法城壁で耐えるしかなかった。
 しかし、カルド王の杖の光がブルーの魔法障壁を奪い、あらわになった体に次々飛んでいく。炎の魔女は炎に対し耐性がある。しかし、爆風を防ぐことはできない。カルド王の始めから爆風で動きを抑制することだった。
 無数の槍が次々にブルー襲い、地面に体を押し付けられても爆発が止むことはない。ゲートから無際限に魔力を得ているカルド王は、止めることなく炎の槍を生成していた。
 いくら耐性があるとは永遠に受け続けることができるわけではない。爆発の衝撃にで動けないブルーの魔力をじわじわと削っていき、同時に使える炎の魔力にカルド王の炎の魔法が反応し限界を迎えようとしていた。
 内側と外側からブルーの体が焼けていく。

「どーしたのですか、ブルー」
 アデリーナの黒い魔力が眼光から放たれ大地に深い崖を刻む。黒い魔力で剥がれ落ちていく側面は、この世界に死の谷を作り上げた。
「べつに、問題ない」
 白い羽でアデリーナの後ろに移動したブルーが彼女の首に聖剣を振り下ろす。
 アデリーナは振り返り、両目から溢れる黒い光線で聖剣ごと後ろにいるブルーを撃ち抜く。聖剣が壊れる事は決してない。しかし、聖剣で避けた黒い二つのレーザーがブルーを襲う。
 羽で瞬時に移動するブルー。
 光線に巻き込まれた無数の羽は一瞬に朽ち、世界から消えるが聖剣が止まることはない。
 ブルーの手から離れた聖剣は、アデリーナの攻撃を切り裂きながらと飛んでいく。
 回避する術しか持たないアデリーナはギリギリで聖剣を回避すると同時に、両手から氷と炎の魔力を出す。爆発に巻き込まれただけで無事では済まないことを知っているブルーは白羽でアデリーナを囲い、中の時空を停止させる。
 白い羽によってくるられた結界が悲鳴を上げてから一瞬だった。ガラスが割れた時のような白い筋から炎が漏れ、殻が凍ると同時に無数の黒い光線が瞬く間に漏れ出し、大爆発が起こる。
 殻から無傷ででてきたアデリーナは言う。
「やはり、あちらのブルーは限界を迎えたのですね。炎の魔力を使うための拒絶反応の一部を貴女が肩代わりしている」
「これぐらい、貴女相手なら問題ない」
「それは昔のことです!」
 アデリーナの攻撃を受け止めながら、改めてこの大きなハンデキャップ理解する。
 アデリーナの言う通り、今の彼女は赤騎士だった頃とは違い全ての攻撃も技も洗礼されていた。
 ――まだなの。早く、じゃなきゃこちらが先に持たなくなるかもしれない。
 ブルーは奇しくも心の声を漏らした。

 シルヴィア海。
 アリス率いるドーン国は圧倒的に優勢だった。
 港の占領も目前に迫っている。
 グエンモール教皇、ミルカ女王の力によって発動する魔道具の出力の低下も相まって、グエンモール大王国の兵たちは押され始めていた。
 特に数千にも及ぶドーン国の魔人機が脅威で、兵士たちの力では破壊するほどの力を持ち合わせてはいなかった。
「上陸しだい、海岸沿いにある祭壇を探して。もう一つの時空をこの世界にこじあける」
 アリスの命令は瞬時に魔人機を伝わり、ドーン国の兵全体に伝わった。
「アリス!」
「どうしてですか!」
 いつの間にか船に降り立つ二人のカルネラ姉妹。
 ドーン国でことの深刻さを理解したハイネがミルカから貰った武器で無理をして、すべてを掛け飛んできたのだ。
 ナディアはまだ動けるがハイネの体を迎えており、ミルカから貰った武器も使える状況ではなくなっていた。
「何故ここに?でも、片方は満身創痍」
 瞳から黒いモヤを漏らすアリスにナディアがいう。
「カルド王。これが『誓約の化身』の力。はやくアリスを開放しろ」
 ナディアが両手の短剣を構えるとアリスは笑う。
「はははは。その程度の力で挑むというのか!いいだろう、力の差を思い知るがいい」
 アリスらしからぬ声で笑うと、体から黒モヤが溢れ出し全身を包み込む。
 黒いモヤは次第に塊、黒い光沢となり本来の姿を表した。
 邪悪な魔力を漂わせる黒騎士は、世界につながったゲートからふんだんに魔力を受けその力を維持していた。
「やはり、不完全とはいえ終わりの魔女の親であるこの体は、より適合するな。どうせならさっさと蘇った完全体の体を使いたがったが、まあいいだろう。判断は間違ってなかった」
 黒騎士の力は圧倒的でナディアに勝ち目はなかった。
 戦いにすらならずナディアは地に落ちた。ハイネの悲鳴に反応することもできずに。
 黒騎士は何かを感じ取ったのか不気味な笑みを浮かべる。
「死ぬ前にいい報告をしてやろう。以前のアリス。いや、アリーチェ・ディ・レオーネが作った祭壇がもう見つかった。あとはゲートを開くだけ、コレで私の力は時間に縛られず、本来に近い力を身につけることができる」
 コレが全力ではない事実、更に力が増すがそれが限界ではないということを二人に伝える。
 二人が絶望するには充分だった。
「だからって、どうしてアリス様にそこまで……」
「ほう、知らないか。このアリスこそ、『魂の棺桶』のオリジナルだ。始まりの魔女の持っていた『魂の棺桶』はアリスをもとに作った複製品に過ぎん。そして、その性能も機能も可能性も、全てにおいてオリジナルに劣っている。だから彼女を手にれるのだ」
 黒騎士は右腕を空に伸ばすと、黒いモヤと同時に剣が生成され邪悪に黒く輝いた。
「終わりだ」
 ナディアの首に振り下ろされる漆黒の剣。
 終わりの魔女の力を含んだ剣は、ただの人間に過ぎない彼女の命を問答無用で失わせると言っている。

ドォォォォン!!!

 物凄い轟音が目の前で響く。
 船が大きく揺らぐほどの衝撃波と一緒に黒騎士は蹴り飛ばされ船を二つを貫通し、3つの目の船のかべに大きく打ち付けられる。
 同時に暗くなっていた空からドラゴンの咆哮が聞こえ、ドラゴンのブレスがドーン国の兵士たちを襲った。
 空から現れ黒騎士を蹴り飛ばした小さなン少女がナディアとハイネに一礼をする。
「はじめまして。私はクリフォア、ブルーから話は聞いています。遅れてしまってすみません。」
 可愛らしい声と見た目に相反する彼女の怪力に驚いているとクリフォアは空に手を振った。
「リノさん。みんなを連れてきてくれてありがとうございます。皆さん祭壇に敵を近づけないでください!」
 クリフォアの目線を追うように暗くなった空を見つめると、無数のドラゴンが次々にドーン国の兵を襲っていく。
 ナディアとハイネはドラゴンを使役する彼女の存在に言葉が出ない。魔物を使役するなど神話の世界の話だからだ。
 しかし、クリフォアの耳の後ろにある角を見て、彼女がドラゴンの血を受け継ぐ新たな種族だと理解する。
「ほう、万栄国の少女か。馬鹿げた怪力だな、人の姿のままドラゴンの遺伝を受け継いだか。しかし、我の攻撃の生身で受け続けるのは少々酷ではないか」
 黒騎士はそう言って船を蹴る。巨大な船にもかかわらず大きく傾くと、弾丸のごとくクリフォアに向かい一直線に飛んでいく。
「武器はあります」
 クリフォアは懐から禍々しい短剣を取り出すと大きく屈み、漆黒の剣を受け止める。
「それは断罪の短剣」
 黒騎士の独白と同時に、クリフォアの開いた手で懐に大きなパンチを食らいもう一度船を突き破り吹き飛ばされる。
 悪態をつきながら立ち上がる黒騎士の鎧は砕けていた。
「アリスさんを返してもらいます」
 可愛い声でいうクリフォア。予想外の彼女の存在に黒騎士は叫んだ。
「ただの小娘がぁぁぁぁああああ!!!!」

 ドーン国。
 ブルーを追い詰めるカルド王は静かに戦いの決着を宣言する。
「もう終わりだな、バーブルとどめをさせ」
 爆発でブルーを拘束するカルド王の代わりにバーブルが前に出る。
 青く輝く剣がブルーに死刑を宣告するように振り下ろされる。
 すべてを貫く水砲、アークレイン。
 突如、バーブルの技を見届けていたカルド王の視界が真っ赤に染まる。それは炎だったが魔法障壁で阻まれカルド王に届くことはない。
 突然襲われたカルド王を気にすることなくバーブルは技を口にする。
「アーク……」
「真轊(シンウン)」
 バーブルの言葉を遮るように懐から現れた赤髪の騎士が低い声ではっきりという言葉が聞こえる。
 次の瞬間、視界が白く染まり音が消える。
 そして、遅れてやってくる爆音が響く時、バーブルは地面に転がっていた。
「なぜ、貴様が!その力はどういうことだ!」
 同時にドラゴンの咆哮が響き、炎のブレスがカルド王を襲う。
 取り乱したカルド王を隙を見逃さないブルーは、爆発の束縛から抜け出しカルド王を遠くに弾き飛ばす。
 ブルーは助けに現れた赤騎士と背を合わせ礼を言う。
「ありがとう。ヴィットリア」
「貴女ともあろうものがボロボロではありませんか」
「うるさい。バーブルの方は貴女に任せた」
「ええ」
 ヴィットリアは小さく返事を返すと、烈火のごとく魔力を燃やし空を飛ぶ一匹のドラゴンに叫ぶ。
「レイナー!行くわよ!」
 その叫び声に応えるようにドラゴンが大きな咆哮を上げ飛び出した。

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