第2話 ドーン国

文字数 3,708文字

 大きなお店の中にズカズカとブルーの手を引いて入っていくアリス。
 お店の若いお兄さんが大きな声を上げる。
「アリスちゃん!おかえり、頼んだも……、誰だい?そのこ」
「ただいまー、レイナー。友達だよ〜、頼んだものは忘れた―」
 アリスは軽く返すと二階への階段を登っていく。
「お……おう」
「お着替えするから、興味あるからって入ってこないでよー」
「入いるか!」
「覗きもだめだぞ〜」
「するか!」 
 ブルーは挨拶をするタイミングを失ったまま部屋に押し込まれた。
 アリスはクローゼットから色々な服を取り出しては、鏡の前でブルーに合わせて見せる。
 ありでもないこれでもないとアリスは次から次に服を取り出し、部屋をぐちゃぐちゃにしていく。
 呆然とアリスを見つめていたブルーの視界に、とある一着の水色のワンピースが目に写った。
 そんなブルーの目線に気付いたアリスは、ニヤつきながら水色のワンピースを持ち見つめてくる。
「ほほ〜ん。コチラをご所望で」
「……べ、別に」
 アリスの発言と態度に恥ずかしさを感じたブルーは、思わずぎこちない返事をしてしまう。
 そんな自分のおかしな返答にブルーは口ごもった。
「うん。すっごい似合ってると思う。ブルーには青色が似合うよ!」
 そう言ってアリスがブルーに服を着せようとしてくる。
「何を……するんですか」
 戸惑うブルーにアリスは言う。
「服を着せてあげようと思って」
 一生懸命なアリスにブルーは呆れる。
「それぐらい自分でできます」
「え?え〜?だって、なんにも覚えてないから」
「バカにしないでください」

 着替え終えたブルーは、アリスと一緒にこの店のオーナーに挨拶に行く。
 階段を降りた先に、レイナーと呼ばれている男の顔があった。
「レイナー。改めて紹介するね?こちらはブルー。砂浜で拾ったの」
 事実ではあったためブルーはアリスに紹介されるがまま頭を下げる。
「拾った?」
 レイナーの口からポロッとこぼれる。
 しかし、アリスは気にもとめず笑顔で続けた。
「で、こちらがレイナー。この店のオーナーをしてもらってるの。私達のメインの仕事は輸送船。ものでもなんでもどこにでも!」
「っていうのを謳い文句に、実際のところ、ここドーン国と、海の向こうの王都グエンモールとの物や人の輸送業をメインにしている」
「ちょっと、ラドゥナークのもこの前行ったじゃん!」
「一回きりだろ?暑い!って言って、仕事を取り付けることもなく速攻で帰ってきたじゃないか」
「繭菜国(まゆなこく)は!」
「そっちは寒い!って言って、帰ったんだぞ」
「レネークは!」
「そこは旅行に行っただけで、仕事関係ないだろ」
「と、まあこんな感じでホワイト企業なの!ぜひ入社を」
 目を輝かせながらいうアリスにレイナーがため息を吐きながら続ける。
「まぁ、最後のはホントだ。こんなお調子者だが、やる時はやるし、時と場合はわきまえてる奴だから安心してくれ」
「コホンッ!えー、ブルーはこの世界の事まだ何にもわからないと思うから、ここの仕事体験しながら一緒にこの世界を知っていくのはどうかな?」
 アリスは体を前に倒しながら首を傾げて見せる。
 自分が可愛いとわかっていてやっているような、そんな大胆なポーズ。
 アリスの後ろでレイナーがおでこに手を当て、ため息を吐いていた。
 返答がないブルーに色仕掛けを仕掛けるように、急に胸を強調して見せるアリスに降参するように答える。
 ただもともと断る理由もブルーにはなかった。
「よろしくお願いします」
 ブルーは静かに頭を下げた。
 やった!成功したよ!とでもいいたげに、満足そうに目を輝かせながらレイナーに訴えていた。
 
 アリスとレイナーに教わりながら、色々な仕事をこなしていくうちにドーン国に付いて色々なことがわかってきた。
 数々の国の人が行き交うドーン国は貿易の中心と言っても過言ではない。
 ただ人が集まるということは悪いものも集まりやすい。
 来る者拒まずのこの国は裏での密会や殺人、人身売買も平然と行われている。
 少し前、グエンモールが突如漆黒の闇に包まれたという。その後、大地が光り輝き暗闇は消えたと。幸いなことに、その超常現象による大きな被害はなかった。
 しかし、グエンモールに住むものは不安を抱え、ここドーン国に人が流れ込んだ。
 グエンモールは貴族が多く住む、宗教国家のため、お金が一気に流れ込み大きな発展を遂げたと同時に裏社会もより大きさをましたのだとか。
 ブルーはいつものように依頼の品を受け取りに通りを歩いていると、いつもの嫌な目線を感じた。
 立ち止まり建物の屋根に目を向けると、グレーのフードに身を包んだ何者かが姿を隠しどこかへ消えていく。
 依頼を終えたブルーが、お店に戻ると大量の魔道具が運ばれていた。
「なんですか、これは」
「ああ、いいところに戻ってきた!貴族様からの依頼でこの魔道具を運んでくれって。お金がまた増えちゃうぞ〜。レイナー、ブルー戻ってきたー!」
 アリスが大声で張り上げると奥の方からレイナーが顔をのぞかせる。 
「おかえり。早速で悪いんだが、そこの木箱を持ってきてくれ。赤いやつだ」
「はい」
 ブルーは短く返事を済ませ、魔道具の入った箱を持ち上げると強烈なめまいが襲う。
 体が痺れ、そのまま地面に倒れ込んだ。
 二人が慌ててブルーに駆け寄る。
「おい、大丈夫か!」
「大丈夫?」
「……大丈夫です」
「魔力にやられたんだろうか?」
「そんなに魔力に触れる機会なんてないはずだけど、極端に弱い体質なのかな?」
 二人の話し合いを余所にブルーはもう一度、今度は魔道具本体に手を伸ばす。
 次の瞬間、ブルーの体を拒絶するようにバチバチと音を立てて、光の膜が現れた。
 手のひらに痛みを感じたブルーはすぐに手を引っ込め、それと同時に光の膜も、音も消えた。
「魔力を拒絶してる?」
 眼の前の現象にあっけにとられているなか、アリスはそう口にした。
「なんだそれ。魔力っていうのは一部の人にしか使えない扱えな特別な力だろ。俺達みたいな一般人はこういった魔道具を通してしか、魔力に干渉なんかできない」
 レイナーの言葉をアリスは肯定する。
「ええ。でも拒絶されているということは干渉はできている。……どういう事?」
 人指刺し指で口元を押さえ、首を傾げるアリス。
 そんなあざとい態度にレイナーはいつものように突っ込んだ。
「それはこっちも聞きたい。俺達は魔力に関してはさっぱりだからな。……でもどうしてだ?今まで魔道具は運べていたし、普通に触っていただろう」
「そうなの。そうなると、特定の魔力を拒絶している。これは炎を灯す道具だよね。なら、きっと炎の魔力を拒絶しているんだと思う」
「なるほどな。でも、他の魔力に触れても何も干渉できないのに、せっかく干渉できる魔力には拒絶されるなんて意味がわかんないな」
「よし!こういうのは専門家に聞こう!目指すは王都グエンモール!」
 元気よく声を上げるアリスに今回はレイナーも乗った。
「ちょうど、届け先だし、それに魔法に関してはグエンモールが一番発展してるもんな」
「それに、例のブルーをつきまとうストーカーからも離れられる。一石三鳥!ってことで、ブルーは一応休んでね!何かあったら危ないし」
「わかりました」
 二人に迷惑をかけられないブルーは素直に応じた。

 ドーン国。
 フレムドーン宮殿。
 王座に座る国王カルドの方に小さな真っ赤な鳥が止まる。
 鳥が何かをささやくと、カルドは重い腰を上げ宮殿の奥深くに進む。
 誰にも使われなくなった地下へ続く石の階段。
 その先に待つ大扉には二人の女性が向かい合うように描かれている。
 固く止まっていた時が再び動き出すように大扉が、ゆっくりと鈍い音を立てながら開かれる。
 部屋に入ると同時に部屋の灯火に光が灯る。
 中央の祭壇が最後に明るく灯された。
 カルドの肩に止まる鳥が祭壇に向かって飛び立つと体は次第に大きくなり、赤い炎に包まれる。
 一メートルほどに膨れ上がった炎の鳥は祭壇の中央で弾け飛び、炎の影から一人の女性が現れる。
「カルド。駄目じゃない、勝手にこんなことをしては」
 炎の魔女の力を持つ彼女の右手からこぼれ落ちる魔法石。
 高密度の魔力のこもった魔法具の心臓。
 それは魔人機、魔法によって作られた人形戦闘機の核。
 ブルーを追跡していた人形だった。
「すみません、アリーチェ様。ど、どうか命だけは……」
 アリーチェは石像のように表情を固め、全てを飲み込むような漆黒の瞳がカルドを見つめる。
 沈黙の中、唾を飲み込むと少ししてからアリーチェは笑顔を向けて答える。
「……襲ってはいけない。警戒させるようなことをしてはいけないの。わかった?ブルーに、彼女に関することに一切干渉してはいけない。深煎りなんてしたら命が幾つあっても足りないよ?」
「はい。今後同様な行為がおきないよう、充分に注意します」
 カルドは深々と頭を下げた。そんなカルドを余所にアリ―チェは続ける。
「しばらくこの国を離れることになる。グエンモールに行くことになったの。それと、おそらく起源の追跡が始まる。誓約のために準備を始めなさい。来る日のために」
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