第20話 真実
文字数 3,300文字
タルデュートの世界に来たミルカとアデリーナ。
そこにあった『知識の泉』でアデリーナは死にかけていた。
彼女にとどめを刺すべく飛び出したミルカは聖剣を振り下ろす。
胴体から切断された頭が地面を転がった。
「ブルー」
アデリーナを襲う魔物の頭を切断したブルー。
彼女を殺す目的で振り落とされた聖剣は彼女ではなく隣の魔物の頭を切り落とした。
自身の行動に戸惑うミルカに魔物が群がっていく。ミルカはすぐに羽で飛び、自分の行いを振り返り、同時に体に刻まれた、本心を理解した。
記憶を失っても体が勝手に動いた時と同じように、体は記憶している。そして、それは確信に変わる。
私、ミルカ・デ・メルロは……いや、ブルー・デ・メルロはアデリーナに死んでほしくない、アデリーナには生きて欲しいんだ。彼女が私に恋心を抱いていたように、私も同じ思いを抱いていたのだ。
胸が張り裂けそうになり、目頭が熱くなるのを感じる。
かつて、氷の魔女シルビアと炎の魔女アデリーナが深く愛し合っていたように、アデリーナもブルーもその運命に引っ張られていたのだ。
「そう。これが運命なの」
ミルカは迷いを捨て聖剣でアデリーナに群がる魔物を倒すと、彼女の体を抱きかかえ急いで建物の外に飛び出した。
しかし、それを待ち構えるように無限に増殖する魔物が突っ込んでくる。
「ブルー。……あそこに彼らの生命を蘇らせている……祭壇がある。私は置いていって……貴方だけでも生き延びて。メルフェスを、世界を……どうか」
力なくささやくアデリーナ。
「いいえ。一緒に帰ります。貴方のいない世界に興味はない」
ブルーの言葉にアデリーナは優しく微笑むと、白い光に包まれる。
白い星と魔物がぶつかった。死を恐れない魔物たちは体ごとブルーに押し当てていく。
アデリーナを守りながら、魔物たちの攻撃を守り続けるには無理があった。ましてや、アデリーナの示した祭壇を壊すなど言語道断。
しかし、ブルーは引けなかった。引きたくはなかった。
「ここで諦めたら何も残らない。諦めるにはまだ早い!」
ブルーを覆い隠す魔物の軍勢の隙間から白い輝きが溢れる。白い星はより強い輝きを放ち流星となり、世界を裂いていく。
アデリーナの気持ちに答えるようにその名を口にする。
「私は!ブルー・デ・メルロ!始まりの魔女にして、この世界最強の魔女」
紫色の空が黄金色に塗り替わっていき大地に白い光が差し込んだ。
世界の一部が始まりの魔女の力により塗り替えられていく。
オーロラがブルーを賛歌し、起源の新生を謳歌する。
白い輝きは輝きを増し世界を飲み込んだ。
ブルーの全力は祭壇を墓石、魔物の群れを半壊させた。
時空を超えなんとか元の世界、メリアに帰ってきたミルカとアデリーナ。
ミルカとアデリーナは、何が合ったのか一通り共有した後に問いかける。
「アデリーナ。『知識の泉』に触れた時、イヴァンと言っていた。何を見たの」
アデリーナはわかりやすく顔を曇らせると一呼吸置いて口を開く。
「あの泉は心の奥の方にある感情を思い出させ、本来の目的を忘れさせようとします。私は夢の世界の中にいるように、その世界をイヴァンに導かれ、ミヤやサラ、ジゼルやレインなどの失った赤騎士たちと合っていました。おそらく、今この世界で生きている人物には出会わないのでしょう。彼女たちからは始祖の力を感じました。これは泉の特徴で見たいものから目を背けられていると気づいた私は、皆を殺しタルデュークの魔物を生み出している祭壇の場所を見つけました。そして、タルデュークの悪王オルデルトのこと、純血の魔亜人の子、悪王妃ユリア・ロス・モルンの存在を知りました」
ブルーは少し考えを巡らせてから口を開く。
「そう。でも最後のゲートを破壊した今、しばらくの間はタルデュークはメリアに干渉してこれない。それまでに、こちらは今できることをする」
「そうですね。今回は私達の手で決まった運命を変えてみせましょう」
万栄国を出たミルカは、グエンモール大王国にいるブルーに事情を伝えた後、『知識の泉』に行くためにクルガ滝へ向かった。
そして、約束の日は訪れた。
ブルーはカルネア姉妹と共にドーン国に向かい、そこでそれぞれの敵と対面した。
怒りに任せ、罪のないものにも攻撃を振るうナディアをハイネが落ち着かせる。
ハイネはナディアの心の中の復讐心を理解できないわけではなかった、欲を言えばそんな姿を見たくなかった。何故なら、ハイネはナディアの復讐の半分は嘘だということを知っているからだ。
奴隷商人のフェリッドが用意した男と結婚した母親。
魔力適性の高い者同士を合わせた計画された結婚。そんな偽物な出会いだったが、二人の間に育まれた愛は本物だった。
その結果、父親は殺されしまい、ハイネとナディアはなんとか生き残り、幸せな家庭を築くことができた。なくなった父親の願いを叶えるためにも幸せであろうとした。
そんな時、まだ小さくて幼かったナディアが炎の魔力を使えるようになった。
ナディアは家に火をかけてしまった。火を消そうとハイネも風の魔法を使ったが、それは火の手を強めるだけだった。まだ幼いナディアは何が起こっているのかよくわかってないようで、火を付けて遊んでいた。
ハイネもパニック状態になってしまい、ナディアに火を止めるように注意することがず、逃げ道を確保するように風の魔法を使った。
しかし、ハイネの力はまだ弱く逃げ道を確保するほど力はなく、火の手を強めるだけだけに終わった。
そんな中、仕事をしていた母親が騒動を聞きつけ帰ってきた。
火の手の中、娘のために家の中に飛び込み必死に二人の娘を救ったが、母親は帰らぬ人となった。
両親を失ったハイネとナディアは奇しくも、奴隷商人のフェリッドの元に戻てくることとなった。
火事の原因はナディアで、母親を殺したのはハイネとナディアだった。
でも、その事実を知っているのはハイネだけで、当時幼かったナディアは母親が死んだのはフェリッドのせいだと勘違いしていた。フェリッドの復讐を胸にその後の過酷な生活もナディアはずっと耐えていた。
そんなナディアにハイネは真実を伝えることなんてできなかった。
ナディア長年の夢を叶えるように、奴隷商人のフェリッドを見つけ残虐の限りを尽くした。
ハイネの夢はナディアが笑って自由に過ごしてくれること、まだ小さくて無邪気に笑っていた時のように。そんな、ナディアは母親の死をきっかけに復讐心に魂を焼かれここまでやってきた。
夢を叶えて泣き出すナディアをハイネは力強く抱きしめる。
真実というのは時にあまりにも残酷だ。知らないほうがいいこともあるのだと、ナディアを抱きしめながらハイネは心の中にその真実をしまった。
フレムドーン宮殿。
最奥の祭壇に着いたブルーは絶句した。
ミルカの経験した話によればゲートは未完成のままカルド王がゲートの作成を急いでおり神器を元にして作った青騎士バーブルがいたと言っていた。
しかし、目の前にあるのは既に完成されたゲートとカルド王、そのとなりには青騎士バーブルがいた。
神器である零剣バーブルはアリスが持っているはずだ。
何故、ここに青騎士がいるのか。
その答えは簡単だ。
シルヴィア海。
グエンモール大王国に攻撃を行うドーン国の無数の船。
一際大きな船に立つ無数の魔人機。
そして、船の先頭に立つ、真っ赤な髪を風にたなびかせるこの軍全体の司令者がいた。
「さぁ、準備はできました。全ては計画通り」
航海士をしていたアリスの瞳から黒いモヤが溢れる。
最北端の秘境の地。
巨大な滝の流れる前に立つ白いドレスを着た白髪の女性。
彼女の前に立つ黒い長髪を風にたなびかせる黒のドレスを着た女性。
白髪の女性は中性的な声で投げかける。
「いつから。アデリーナ」
黒いドレス着たアデリーナは真剣な眼差しで応える。
「始めからです、ブルー。未来からやってくるよりも、ずっと前」
グエンモール大王国の女王ミルカはブルーと呼ぶアデリーナの前でかすかな感情を漏らした。
「そう。結局こうなるの」
そこにあった『知識の泉』でアデリーナは死にかけていた。
彼女にとどめを刺すべく飛び出したミルカは聖剣を振り下ろす。
胴体から切断された頭が地面を転がった。
「ブルー」
アデリーナを襲う魔物の頭を切断したブルー。
彼女を殺す目的で振り落とされた聖剣は彼女ではなく隣の魔物の頭を切り落とした。
自身の行動に戸惑うミルカに魔物が群がっていく。ミルカはすぐに羽で飛び、自分の行いを振り返り、同時に体に刻まれた、本心を理解した。
記憶を失っても体が勝手に動いた時と同じように、体は記憶している。そして、それは確信に変わる。
私、ミルカ・デ・メルロは……いや、ブルー・デ・メルロはアデリーナに死んでほしくない、アデリーナには生きて欲しいんだ。彼女が私に恋心を抱いていたように、私も同じ思いを抱いていたのだ。
胸が張り裂けそうになり、目頭が熱くなるのを感じる。
かつて、氷の魔女シルビアと炎の魔女アデリーナが深く愛し合っていたように、アデリーナもブルーもその運命に引っ張られていたのだ。
「そう。これが運命なの」
ミルカは迷いを捨て聖剣でアデリーナに群がる魔物を倒すと、彼女の体を抱きかかえ急いで建物の外に飛び出した。
しかし、それを待ち構えるように無限に増殖する魔物が突っ込んでくる。
「ブルー。……あそこに彼らの生命を蘇らせている……祭壇がある。私は置いていって……貴方だけでも生き延びて。メルフェスを、世界を……どうか」
力なくささやくアデリーナ。
「いいえ。一緒に帰ります。貴方のいない世界に興味はない」
ブルーの言葉にアデリーナは優しく微笑むと、白い光に包まれる。
白い星と魔物がぶつかった。死を恐れない魔物たちは体ごとブルーに押し当てていく。
アデリーナを守りながら、魔物たちの攻撃を守り続けるには無理があった。ましてや、アデリーナの示した祭壇を壊すなど言語道断。
しかし、ブルーは引けなかった。引きたくはなかった。
「ここで諦めたら何も残らない。諦めるにはまだ早い!」
ブルーを覆い隠す魔物の軍勢の隙間から白い輝きが溢れる。白い星はより強い輝きを放ち流星となり、世界を裂いていく。
アデリーナの気持ちに答えるようにその名を口にする。
「私は!ブルー・デ・メルロ!始まりの魔女にして、この世界最強の魔女」
紫色の空が黄金色に塗り替わっていき大地に白い光が差し込んだ。
世界の一部が始まりの魔女の力により塗り替えられていく。
オーロラがブルーを賛歌し、起源の新生を謳歌する。
白い輝きは輝きを増し世界を飲み込んだ。
ブルーの全力は祭壇を墓石、魔物の群れを半壊させた。
時空を超えなんとか元の世界、メリアに帰ってきたミルカとアデリーナ。
ミルカとアデリーナは、何が合ったのか一通り共有した後に問いかける。
「アデリーナ。『知識の泉』に触れた時、イヴァンと言っていた。何を見たの」
アデリーナはわかりやすく顔を曇らせると一呼吸置いて口を開く。
「あの泉は心の奥の方にある感情を思い出させ、本来の目的を忘れさせようとします。私は夢の世界の中にいるように、その世界をイヴァンに導かれ、ミヤやサラ、ジゼルやレインなどの失った赤騎士たちと合っていました。おそらく、今この世界で生きている人物には出会わないのでしょう。彼女たちからは始祖の力を感じました。これは泉の特徴で見たいものから目を背けられていると気づいた私は、皆を殺しタルデュークの魔物を生み出している祭壇の場所を見つけました。そして、タルデュークの悪王オルデルトのこと、純血の魔亜人の子、悪王妃ユリア・ロス・モルンの存在を知りました」
ブルーは少し考えを巡らせてから口を開く。
「そう。でも最後のゲートを破壊した今、しばらくの間はタルデュークはメリアに干渉してこれない。それまでに、こちらは今できることをする」
「そうですね。今回は私達の手で決まった運命を変えてみせましょう」
万栄国を出たミルカは、グエンモール大王国にいるブルーに事情を伝えた後、『知識の泉』に行くためにクルガ滝へ向かった。
そして、約束の日は訪れた。
ブルーはカルネア姉妹と共にドーン国に向かい、そこでそれぞれの敵と対面した。
怒りに任せ、罪のないものにも攻撃を振るうナディアをハイネが落ち着かせる。
ハイネはナディアの心の中の復讐心を理解できないわけではなかった、欲を言えばそんな姿を見たくなかった。何故なら、ハイネはナディアの復讐の半分は嘘だということを知っているからだ。
奴隷商人のフェリッドが用意した男と結婚した母親。
魔力適性の高い者同士を合わせた計画された結婚。そんな偽物な出会いだったが、二人の間に育まれた愛は本物だった。
その結果、父親は殺されしまい、ハイネとナディアはなんとか生き残り、幸せな家庭を築くことができた。なくなった父親の願いを叶えるためにも幸せであろうとした。
そんな時、まだ小さくて幼かったナディアが炎の魔力を使えるようになった。
ナディアは家に火をかけてしまった。火を消そうとハイネも風の魔法を使ったが、それは火の手を強めるだけだった。まだ幼いナディアは何が起こっているのかよくわかってないようで、火を付けて遊んでいた。
ハイネもパニック状態になってしまい、ナディアに火を止めるように注意することがず、逃げ道を確保するように風の魔法を使った。
しかし、ハイネの力はまだ弱く逃げ道を確保するほど力はなく、火の手を強めるだけだけに終わった。
そんな中、仕事をしていた母親が騒動を聞きつけ帰ってきた。
火の手の中、娘のために家の中に飛び込み必死に二人の娘を救ったが、母親は帰らぬ人となった。
両親を失ったハイネとナディアは奇しくも、奴隷商人のフェリッドの元に戻てくることとなった。
火事の原因はナディアで、母親を殺したのはハイネとナディアだった。
でも、その事実を知っているのはハイネだけで、当時幼かったナディアは母親が死んだのはフェリッドのせいだと勘違いしていた。フェリッドの復讐を胸にその後の過酷な生活もナディアはずっと耐えていた。
そんなナディアにハイネは真実を伝えることなんてできなかった。
ナディア長年の夢を叶えるように、奴隷商人のフェリッドを見つけ残虐の限りを尽くした。
ハイネの夢はナディアが笑って自由に過ごしてくれること、まだ小さくて無邪気に笑っていた時のように。そんな、ナディアは母親の死をきっかけに復讐心に魂を焼かれここまでやってきた。
夢を叶えて泣き出すナディアをハイネは力強く抱きしめる。
真実というのは時にあまりにも残酷だ。知らないほうがいいこともあるのだと、ナディアを抱きしめながらハイネは心の中にその真実をしまった。
フレムドーン宮殿。
最奥の祭壇に着いたブルーは絶句した。
ミルカの経験した話によればゲートは未完成のままカルド王がゲートの作成を急いでおり神器を元にして作った青騎士バーブルがいたと言っていた。
しかし、目の前にあるのは既に完成されたゲートとカルド王、そのとなりには青騎士バーブルがいた。
神器である零剣バーブルはアリスが持っているはずだ。
何故、ここに青騎士がいるのか。
その答えは簡単だ。
シルヴィア海。
グエンモール大王国に攻撃を行うドーン国の無数の船。
一際大きな船に立つ無数の魔人機。
そして、船の先頭に立つ、真っ赤な髪を風にたなびかせるこの軍全体の司令者がいた。
「さぁ、準備はできました。全ては計画通り」
航海士をしていたアリスの瞳から黒いモヤが溢れる。
最北端の秘境の地。
巨大な滝の流れる前に立つ白いドレスを着た白髪の女性。
彼女の前に立つ黒い長髪を風にたなびかせる黒のドレスを着た女性。
白髪の女性は中性的な声で投げかける。
「いつから。アデリーナ」
黒いドレス着たアデリーナは真剣な眼差しで応える。
「始めからです、ブルー。未来からやってくるよりも、ずっと前」
グエンモール大王国の女王ミルカはブルーと呼ぶアデリーナの前でかすかな感情を漏らした。
「そう。結局こうなるの」