第22話 奇跡の騎士
文字数 3,924文字
「レイナー行くわよ!」
その叫び声に応えるようにドラゴンが大きな咆哮を上げ飛び出した。
素早く切り出されたヴィットリアの剣がバーブルの剣と交錯する。炎と氷がぶつかり、拒絶反応による爆発があたりを包んだ。立ち込める砂煙の中、ドラゴンの火炎がすべてを燃やし尽くす。
炎から抜け出すバーブルを追尾するように飛び出したヴィットリアは後方の炎を剣で絡め取りながら、技の生みの親として得意技を放つ。
「火炎龍破!」
数十メートを巻き込むほの巨大な炎の竜巻がバーブルに向かい横に伸びていく。
「グラスメリジューヌ」
感情なく囁かれる技名と同時に無数の氷のヘビが炎の竜巻とぶつかった。
再び立ち込める砂煙の中、お互いの声が響く。
「真轊!」
「烈氷」
互いの大技ぶつかり赤と青の光が交互に照りつける。
上空で激しくぶつかり合うブルーとカルド王。
「『知識の泉』か。先祖の血の力を利用して、本来では不可能な力を手に入れたな」
「知らない。何も知らされてないから」
「ああ。アヤツならそうするか」
カルド王はどこまで計画が知られているのか警戒し口を閉じた。
代わりに杖の上に付いていた黄色い水晶をもぎ取り、自分の胸の中に内に押し込んだ。
同時に体が膨張していき、巨大な怪物の姿へと変えた。
「メルフェス。それが本来の姿」
ブルーの独白と同時に怪物の手に握られていた。
メキメキッ…メキメキッ…、ゴキッ……‼
ブルーの全身の骨がメルフェスの手のひらの中で軋み、最後に鈍い音が全身に響く。
大きく目を見開いたブルーは口をから血を吐き、握りつぶされた。
グエンモール大王国、港。
黒騎士とクリフォアがいくつもの巨大船を股にかけ激しい戦闘を繰り広げていた。
黒騎士の斬撃は短剣で防がれ、クリフォアの圧倒的な暴力でねじ伏せられていた。
「クソッ!……あの二人を狙え!」
瓦礫の中から立ち上がる黒騎士の命令が全ての魔人機に伝わり、一斉にカルネラ姉妹に飛びかかる。
「そうはさせません」
可愛い声で言うクリフォアはカルネラ姉妹の前に立ち次々に迫りくる魔人機を弾き飛ばしていく。
「それならコレで」
その姿を見つめる黒騎士は、低く腰を落とし剣を兜の下で固定し、矛先をクリフォアに向けありったけの魔力を込める。
強力な魔力の波動を感じたクリフォアは急いで迫り来る魔人機を払いのけ、カルネラ姉妹を空に放り投げながらお願いをする。
「ドラゴンさん、二人を安全な場所にお願いします!」
そう言って振り返った頃には懐に黒騎士がいた。
悍ましいほどの魔力の籠もった剣をクリフォアはギリギリで短剣で受け止める。今まで、受け流していたクリフォアは初めて黒騎士の剣を正面から受け止めた。
「狙いは短剣だ!」
抗い互い力で押され、鍔迫り合いにならず後方にそのまま押されていく。
壁に背中を強打するクリフォア。押される漆黒の剣を断罪の短剣が受け止めていた。しかし、遠い昔に、まだ赤騎士だったアリーナによって作られた短剣が限界を迎える。
短剣は砕けまっすぐクリフォアの体に黒騎士の剣が伸びていく。
いくらクリフォアでも無傷ではいられない。黒騎士の死の毒は充分に致命傷になるものだ。周囲からは、クリフォアに追撃するように魔人機も迫っている。
今のクリフォアでは、避けることも、手や足で止めることも間に合わない。
「終わりだ」
黒騎士の言葉と同時に審判を下す剣がクリフォアに突き刺された。
「……なぁっ!」
黒騎士は思わず声を漏らす。
両手も両足も間に合わないのなら!と、腰を落とし顔を前に突き出したクリフォアは突き出された剣を歯で加え受け止めた。
「んんんんん、ん―‼」
クリフォアの掛け声とともに振り回された黒騎士はまるで道具のように魔人機を払う道具にされ、何隻もの船を貫き吹き飛ばされた。
止まらずに襲ってくる魔人機を棍棒のように振り回し他の魔神機を弾いていく。
「もう短剣は失った。次わないぞ!」
怒りに満ちた黒騎士は黒い剣から溢れる雫を上空に振り上げる。空中でとどまる水滴は無数の黒いやりを作り、クリフォアのいる船に向かい雨のように降り注いだ。
クリフォアは急いで別の船に映るが攻撃が止むことはない。端の船にまで追い込まれたクリフォア。
「コレで終わりだ!逃げることまできまい!」
黒騎士は意気揚々に黒い雨を一斉に降らせた。
その時、火炎が黒騎士を包み込む。それはドラゴンの息吹だ。
しかし、黒騎士には火力が足りず大したダメージは受けない。
「は?何がしたい」
「ありがとう」
吐き捨てるように言う黒騎士とは違いクリフォアがドラゴンにお礼をいう。
黒騎士がクリフォアのほうを振り向くと大きな影が視界を覆っていた。
「は?」
迫りくる船に押しつぶされ、燃料に引火し大爆発が起きる。
瓦礫から飛び出した黒騎士は直ぐにクリフォアを確認すると、小さな少女が巨大な船の先を両手で持ち、棍棒かなにかのように持ち上げ武器のように振リ回していた。
あまりに常識離れした怪力に黒騎士も絶句するしかなかった。
「終わりよ」
地面に倒れるバーブルに剣を向ける赤騎士。
しかし、地面に横たわるバーブルは炎に包まれながら立ち上がった。
「アルスメリナ」
同時に一瞬で大地は氷付き、ヴィットリアの両足をこうらせる。
炎でたがれた鎧が消え、新たに青いドレスが生成されるバーブル。
「やっぱり、そうなるわよね」
引きつった笑みを浮かべることしかできなヴィットリアの前で、氷の魔女が誕生する。
今のヴィットリアには魔女なるすべなどない。
炎の魔女はブルーがなっており、氷の魔女は今目の前で誕生した。
せめてレイナーでも救おうと、ヴィットリアは叫ぶ。
「レイナー!逃げて!ここまでです」
ドラゴンは咆哮を上げヴィットリアから離れていく。
「ここまでね。……私は恩を返せたかしら」
数年前。
知識の泉。
ヴィットリアとレイナーはミルカと話していた。
「充分楽しい夫婦の生活は遅れたよ。やっぱり俺もヴィットリアも事情を知ってしまったからにはじっとできない性格でな」
「ええ。アデリーナと一緒にいたから二人の性格は嫌と言うほど知ってる」
ミルカはアデリーナとのタルデュークでの旅で知っていた。
「そっか。なら良かった。俺は既にクリフォアに頼んで断罪の短剣の試練を終えている。ここで鍛錬したから俺もヴィットリアも約束の日まで十分に生きれるはずだ」
レイナーに続きヴィットリアがミルカに問いかける。
「ミルカの話によれば、私が本来の赤騎士の力を手に入れられたとしてもそれは一時的なものに過ぎないのよね」
「ええ。いずれ限界を迎え体が保てなくなる。ブル―と同じように」
ブルーの言葉にヴィットリアは続ける。
「ならその前にバーブルを倒しきらないといけない」
ミルカは頷くと確認するように今度はヴィットリアに問いかける。
「できる?」
「舐めないで、私を誰だと思ってるの?最古の騎士を」
自信満々に応えるヴィットリアにミルカは警告をする。
「相手は、私の神器。私の戦い方を熟知していて、その動きを模倣して動くはず」
その言葉を聞いて思い出したようにヴィットリアは口にした。
「でも、バーブルを倒したとしても氷の魔女となって一度だけ復活するのよね。それはどうするの」
「そう。だから提案するために来た。貴方の存在は奇跡、それでもこの提案を受け入れるの?」
氷の魔女が誕生した目の前でヴィットリアは右手に掴んだ白い羽を握りしめ、誰にも聞かれることのない想いを口にした。
「そう。代償はこの命。そんなもの今の私には安すぎるわよ。既に死んだ身。泉の奇跡で蘇ったに過ぎない死にかけの体。レイナーとの人生、叶えられなかった夫婦生活を叶えられたのだから」
例え新たの力を手に入れたとしてもただの騎士に優ない。魔女には遠く及ばない。けれど、ミルカは私に力を与え可能性にかけてくれた。
目を閉じたヴィットリアはその運命を受け入れるように命の中に白い羽を浸透させる。
白羽がヴィットリアを侵食し、力を失ったように赤い髪が灰色になっていく。赤い鎧も魔力を失ったように崩れ落ち、世界から消滅していく。
衣服の全てを失ったヴィットリアの体を足元の氷がじわじわと蝕んでいく。
戦場で裸となったヴィットリアの体の血も色を失い、白くなっていく。白い血液が体から落ち、そこだけ氷が世界から消える。
全ての魔力を失ったヴィットリアは力強く目を開く。失われた赤髪とは対象的に真っ赤な瞳を見せ、同時に新生した魔力がヴィットリアを包み込む。
色を失った灰色の髪は綺麗は白髪へと変わり、白いドレスの上に真っ白の鎧が生成されていく。
一生で一度の騎士。決して誕生することない、新たな騎士が過去と未来の間で誕生する。この時空でだけ許された奇跡の騎士。
――無に帰る。始祖の宿命。運命の眷属として、この身を神名に捧げましょう。
「私の名はヴィットリア・ディ・レオーネ。始まりの魔女の眷属にして、始生の騎士」
ヴィットリアは右手に生成された白い大剣を氷の魔女バーブルに向けた。
メルフェスの腕の中で一つの魂が大きく脈打った。
その瞬間、強烈な熱を放ち燃え始める。
あまりの熱さに手を離したメルフェス。炎に包まれた肉の塊は地面に落ちた。
ブルーは全身を燃やしながら崩れた体を修復し立ち上がる。
「ここで……死ななない。……死ねない」
炎に体を焼かれながら、無理矢理に体を動かすブルー。
「お前を殺す」
炎の中から目を光らせるブルーと目があったメルフェスは唾を飲んだ。
『彼女の力を侮ってはいけない。』
眷属として召喚した終わりの魔女が言っていたあの時の言葉をメルフェスはもう一度思い出した。
その叫び声に応えるようにドラゴンが大きな咆哮を上げ飛び出した。
素早く切り出されたヴィットリアの剣がバーブルの剣と交錯する。炎と氷がぶつかり、拒絶反応による爆発があたりを包んだ。立ち込める砂煙の中、ドラゴンの火炎がすべてを燃やし尽くす。
炎から抜け出すバーブルを追尾するように飛び出したヴィットリアは後方の炎を剣で絡め取りながら、技の生みの親として得意技を放つ。
「火炎龍破!」
数十メートを巻き込むほの巨大な炎の竜巻がバーブルに向かい横に伸びていく。
「グラスメリジューヌ」
感情なく囁かれる技名と同時に無数の氷のヘビが炎の竜巻とぶつかった。
再び立ち込める砂煙の中、お互いの声が響く。
「真轊!」
「烈氷」
互いの大技ぶつかり赤と青の光が交互に照りつける。
上空で激しくぶつかり合うブルーとカルド王。
「『知識の泉』か。先祖の血の力を利用して、本来では不可能な力を手に入れたな」
「知らない。何も知らされてないから」
「ああ。アヤツならそうするか」
カルド王はどこまで計画が知られているのか警戒し口を閉じた。
代わりに杖の上に付いていた黄色い水晶をもぎ取り、自分の胸の中に内に押し込んだ。
同時に体が膨張していき、巨大な怪物の姿へと変えた。
「メルフェス。それが本来の姿」
ブルーの独白と同時に怪物の手に握られていた。
メキメキッ…メキメキッ…、ゴキッ……‼
ブルーの全身の骨がメルフェスの手のひらの中で軋み、最後に鈍い音が全身に響く。
大きく目を見開いたブルーは口をから血を吐き、握りつぶされた。
グエンモール大王国、港。
黒騎士とクリフォアがいくつもの巨大船を股にかけ激しい戦闘を繰り広げていた。
黒騎士の斬撃は短剣で防がれ、クリフォアの圧倒的な暴力でねじ伏せられていた。
「クソッ!……あの二人を狙え!」
瓦礫の中から立ち上がる黒騎士の命令が全ての魔人機に伝わり、一斉にカルネラ姉妹に飛びかかる。
「そうはさせません」
可愛い声で言うクリフォアはカルネラ姉妹の前に立ち次々に迫りくる魔人機を弾き飛ばしていく。
「それならコレで」
その姿を見つめる黒騎士は、低く腰を落とし剣を兜の下で固定し、矛先をクリフォアに向けありったけの魔力を込める。
強力な魔力の波動を感じたクリフォアは急いで迫り来る魔人機を払いのけ、カルネラ姉妹を空に放り投げながらお願いをする。
「ドラゴンさん、二人を安全な場所にお願いします!」
そう言って振り返った頃には懐に黒騎士がいた。
悍ましいほどの魔力の籠もった剣をクリフォアはギリギリで短剣で受け止める。今まで、受け流していたクリフォアは初めて黒騎士の剣を正面から受け止めた。
「狙いは短剣だ!」
抗い互い力で押され、鍔迫り合いにならず後方にそのまま押されていく。
壁に背中を強打するクリフォア。押される漆黒の剣を断罪の短剣が受け止めていた。しかし、遠い昔に、まだ赤騎士だったアリーナによって作られた短剣が限界を迎える。
短剣は砕けまっすぐクリフォアの体に黒騎士の剣が伸びていく。
いくらクリフォアでも無傷ではいられない。黒騎士の死の毒は充分に致命傷になるものだ。周囲からは、クリフォアに追撃するように魔人機も迫っている。
今のクリフォアでは、避けることも、手や足で止めることも間に合わない。
「終わりだ」
黒騎士の言葉と同時に審判を下す剣がクリフォアに突き刺された。
「……なぁっ!」
黒騎士は思わず声を漏らす。
両手も両足も間に合わないのなら!と、腰を落とし顔を前に突き出したクリフォアは突き出された剣を歯で加え受け止めた。
「んんんんん、ん―‼」
クリフォアの掛け声とともに振り回された黒騎士はまるで道具のように魔人機を払う道具にされ、何隻もの船を貫き吹き飛ばされた。
止まらずに襲ってくる魔人機を棍棒のように振り回し他の魔神機を弾いていく。
「もう短剣は失った。次わないぞ!」
怒りに満ちた黒騎士は黒い剣から溢れる雫を上空に振り上げる。空中でとどまる水滴は無数の黒いやりを作り、クリフォアのいる船に向かい雨のように降り注いだ。
クリフォアは急いで別の船に映るが攻撃が止むことはない。端の船にまで追い込まれたクリフォア。
「コレで終わりだ!逃げることまできまい!」
黒騎士は意気揚々に黒い雨を一斉に降らせた。
その時、火炎が黒騎士を包み込む。それはドラゴンの息吹だ。
しかし、黒騎士には火力が足りず大したダメージは受けない。
「は?何がしたい」
「ありがとう」
吐き捨てるように言う黒騎士とは違いクリフォアがドラゴンにお礼をいう。
黒騎士がクリフォアのほうを振り向くと大きな影が視界を覆っていた。
「は?」
迫りくる船に押しつぶされ、燃料に引火し大爆発が起きる。
瓦礫から飛び出した黒騎士は直ぐにクリフォアを確認すると、小さな少女が巨大な船の先を両手で持ち、棍棒かなにかのように持ち上げ武器のように振リ回していた。
あまりに常識離れした怪力に黒騎士も絶句するしかなかった。
「終わりよ」
地面に倒れるバーブルに剣を向ける赤騎士。
しかし、地面に横たわるバーブルは炎に包まれながら立ち上がった。
「アルスメリナ」
同時に一瞬で大地は氷付き、ヴィットリアの両足をこうらせる。
炎でたがれた鎧が消え、新たに青いドレスが生成されるバーブル。
「やっぱり、そうなるわよね」
引きつった笑みを浮かべることしかできなヴィットリアの前で、氷の魔女が誕生する。
今のヴィットリアには魔女なるすべなどない。
炎の魔女はブルーがなっており、氷の魔女は今目の前で誕生した。
せめてレイナーでも救おうと、ヴィットリアは叫ぶ。
「レイナー!逃げて!ここまでです」
ドラゴンは咆哮を上げヴィットリアから離れていく。
「ここまでね。……私は恩を返せたかしら」
数年前。
知識の泉。
ヴィットリアとレイナーはミルカと話していた。
「充分楽しい夫婦の生活は遅れたよ。やっぱり俺もヴィットリアも事情を知ってしまったからにはじっとできない性格でな」
「ええ。アデリーナと一緒にいたから二人の性格は嫌と言うほど知ってる」
ミルカはアデリーナとのタルデュークでの旅で知っていた。
「そっか。なら良かった。俺は既にクリフォアに頼んで断罪の短剣の試練を終えている。ここで鍛錬したから俺もヴィットリアも約束の日まで十分に生きれるはずだ」
レイナーに続きヴィットリアがミルカに問いかける。
「ミルカの話によれば、私が本来の赤騎士の力を手に入れられたとしてもそれは一時的なものに過ぎないのよね」
「ええ。いずれ限界を迎え体が保てなくなる。ブル―と同じように」
ブルーの言葉にヴィットリアは続ける。
「ならその前にバーブルを倒しきらないといけない」
ミルカは頷くと確認するように今度はヴィットリアに問いかける。
「できる?」
「舐めないで、私を誰だと思ってるの?最古の騎士を」
自信満々に応えるヴィットリアにミルカは警告をする。
「相手は、私の神器。私の戦い方を熟知していて、その動きを模倣して動くはず」
その言葉を聞いて思い出したようにヴィットリアは口にした。
「でも、バーブルを倒したとしても氷の魔女となって一度だけ復活するのよね。それはどうするの」
「そう。だから提案するために来た。貴方の存在は奇跡、それでもこの提案を受け入れるの?」
氷の魔女が誕生した目の前でヴィットリアは右手に掴んだ白い羽を握りしめ、誰にも聞かれることのない想いを口にした。
「そう。代償はこの命。そんなもの今の私には安すぎるわよ。既に死んだ身。泉の奇跡で蘇ったに過ぎない死にかけの体。レイナーとの人生、叶えられなかった夫婦生活を叶えられたのだから」
例え新たの力を手に入れたとしてもただの騎士に優ない。魔女には遠く及ばない。けれど、ミルカは私に力を与え可能性にかけてくれた。
目を閉じたヴィットリアはその運命を受け入れるように命の中に白い羽を浸透させる。
白羽がヴィットリアを侵食し、力を失ったように赤い髪が灰色になっていく。赤い鎧も魔力を失ったように崩れ落ち、世界から消滅していく。
衣服の全てを失ったヴィットリアの体を足元の氷がじわじわと蝕んでいく。
戦場で裸となったヴィットリアの体の血も色を失い、白くなっていく。白い血液が体から落ち、そこだけ氷が世界から消える。
全ての魔力を失ったヴィットリアは力強く目を開く。失われた赤髪とは対象的に真っ赤な瞳を見せ、同時に新生した魔力がヴィットリアを包み込む。
色を失った灰色の髪は綺麗は白髪へと変わり、白いドレスの上に真っ白の鎧が生成されていく。
一生で一度の騎士。決して誕生することない、新たな騎士が過去と未来の間で誕生する。この時空でだけ許された奇跡の騎士。
――無に帰る。始祖の宿命。運命の眷属として、この身を神名に捧げましょう。
「私の名はヴィットリア・ディ・レオーネ。始まりの魔女の眷属にして、始生の騎士」
ヴィットリアは右手に生成された白い大剣を氷の魔女バーブルに向けた。
メルフェスの腕の中で一つの魂が大きく脈打った。
その瞬間、強烈な熱を放ち燃え始める。
あまりの熱さに手を離したメルフェス。炎に包まれた肉の塊は地面に落ちた。
ブルーは全身を燃やしながら崩れた体を修復し立ち上がる。
「ここで……死ななない。……死ねない」
炎に体を焼かれながら、無理矢理に体を動かすブルー。
「お前を殺す」
炎の中から目を光らせるブルーと目があったメルフェスは唾を飲んだ。
『彼女の力を侮ってはいけない。』
眷属として召喚した終わりの魔女が言っていたあの時の言葉をメルフェスはもう一度思い出した。