第4話 赤騎士

文字数 4,297文字

「ブルー・デ・メルロ。あなたの名前は知っています。改めて自己紹介をしましょう。私はここグエンモール大王国の管理者、グエンモール教皇、尚の名をミルカ・デ・メルロ。この国の女王です」
 ブルーの疑問にミルカはすぐに答えてくれた。
「名前を知ってるのは少し調べさせて貰ったから。貴方を襲った敵は終わりの魔女の眷属たちです。近い未来彼らが総力を上げて襲ってきます。目的は貴方の特別な力」
「……特別な力」
 自分の特異体質に覚えの有るブルーはつぶやいた。
「そう。その力はいずれ敵にとって最大の脅威となる。だから救って欲しいの。私と一緒にこの世界を、過去を。そのためにはまず貴方に強くなって貰わなければいけない。来る終焉までに」
 ミルカは一つの白い羽を渡してきた。
「……これは?」
「『魂の棺桶』持つものによって形を変えるそれは、名前の通り魂が刻まれている。そこに棺に込められているのは炎の魔女。それを使えば貴方は炎の魔力を使えるようになる」
「これを使って戦って欲しいということ?」
 ブルーの問いかけにミルカは静かに頷いた。
 この街に来て魔法店を訪れた時に言われた、適性度が高ければ高いほど国に引き取られるという言葉を思い出す。
「簡潔に言えば、そういうことです」
「私には帰るべきところがある」
 アリスやレイナーの顔を思い出しながら答える。
「そうですか。……彼女はホテル待っています」
 止められないことにブルーは驚いた。
「止めないの」
「ええ」
 簡潔な短い返事。
 何を考えているのか、その意図を汲み取ることができない。
 ブルーは渡された白い羽を返す。
「これは返す」
 ミルカは羽を受け取らなかった。
「持っていきなさい。貴方は命を狙われている身。それはきっと貴方の力になる」

 城を出たブルーは警備兵に案内されるがままホテルに付いた。
「おかえり〜。待ってたよー。びっくりした。大丈夫だった?」
 ブルーがどこにいて、何があったのか、もうアリスは知っているようだった。
「はい。ベットが……」
 ブルーは城での出来事に思いふける。
「ベットが?」
 うっとりとした顔でブルーは続ける。
「ふかふかでした」
 アリスは目をパチクリさせながら心ここにあらずブルーを見つめていた。
 一緒に買い物に出たブルーはアリスの案内のもと、服屋や美味しいお菓子屋さんを回り、それから観光地を巡る。
 ドーン国とは違いどこまでも綺麗に整えられ計画的に作られている事がよくわかった。アリスとの楽しい日々、新しい発見を見つけるたびに、赤騎士の不安が大きくなっていく。
 ある日唐突に現れた赤騎士。終焉の魔女の眷属だという赤騎士の狙いはブルーだった。ただ一緒にいればアリスを巻き込んでしまうのではないか。そんな不安がブルーに押し寄せる。なにも知らない世界で、特異体質なブルーを何も言わず匿い育ててくれた。今もたくさんのことを教えてくれる。この生活が楽しくて、手放したくなかったからあの時、女王ミルカの誘いを断った。
 ホテルのバルコニー。
 夜風に吹かれながら赤ワインを飲むアリス。
 ミルカの手配によって更に豪華になったホテルでお酒を嗜んでいた。
 アリスに誘われたブルーは、正面の椅子に座り同様にワインを飲む。
「なんかあったんでしょ?」
 少し頬の赤くなったアリスがブルーに問いかける。
 ランジェリー姿でいつもの破天荒なアリスと違い、どこか落ち着いていて色気があった。
「いつまでもアリスさんの元でお世話になれないと思って」
「別にいつまでもここにいていいのに。ブルーが嫌じゃなければね。って言ってもブルーのことだから、なにするか決めてるの?」 
「冒険者や傭兵などです」
「戦える力を身につけたいってことね。それはこの前の件の事を考えてってこと?」
「はい。次はアリスさんやレイナーさんが巻き込まれてしまうかも知れない」 
「けど、ブルーは保護されることを望まなかった。私の元に戻ってきたということは、本心は私と一緒にいたいんでしょ」
 顔を上げると嬉しそうに微笑むアリスと目があった。
 アリスの手がブルーの頬をなで、そして耳に触れる。
 少し擽ったい感覚にブルーは目を細めた。
「明日の朝、答えが決まったらエイルナ広場に来て。待ってるから」
 アリスは残ったワインを一気に流し込むとベットへ移動した。
 そんな彼女の背を負いながら、ブルーはもう少し夜風に吹かれながら赤ワインを楽しんだ。
 次の日の朝、目を覚ますとそこにアリスはいなかった。
 約束の時間まで余裕のあるブルーは部屋を出た。
 冒険者ギルドの求人に目を通し、武具店や魔法店にも足を運んだ。
 道具を見ていると店の外が騒がしいことに気づく。
「近づかないで!皆さん離れて」
 店の外に出ると人混みの中からそんな声が聞こえる。
 どうやら警備兵のようだった。
「なんだ!こっちに来るぞ」
 そんな言葉が聞こえる。
 人混みの隙間から赤い鎧が見えた。
 嫌な予感がしたブルーは急いでその場を離れる。
「おい、走るな!止まれ!どこのものだ!」
 そんな声が後ろから聞こえる。
 見つかった。
 ブルーは走りながら分析する。
 店の中にいた時に見つからなかったということは索敵範囲はそんなに高くない。おそらく、はっきりと人の判別ができない。視力によるものではなく魔力探知で探しているがその精度も高くないのだと思う。ブルーがさっきまでいたのは魔法店だ。
 人混みの多いところを移動しながら距離を取る。少しずつ距離を離し、なんとかまくことができた。
 ふと時間を見れば約束の時間がせまってきていた事に気がついた。
 今回の件で決意を固めたブルーはエイルナ広場に向かった。
 予定の時間を少し遅れてしまったブルー。
 エイルナ広場にアリスの姿はなかった。
 しばらく待ってみても現れる様子はない。広場を見て回ったがやはりどこにも姿がない。
 意味もなくブルーはその広場に残った。
 とっくに過ぎた約束の時間。
 最後の別れの言葉を言えなかったことに後悔が押し寄せる。
 同時に見覚えのある赤い鎧が地面から浮き出てきた。
 どうしようもない虚しさ、怒りを込めて地面から出てきたばかりの赤騎士の兜を股ではさみ捻り倒した。
 しかし、そんなもので傷を負うことはない。
 赤騎士が剣を引き抜くとブルーに向かって飛び出した。
「ブルー!手!」
 突然聞こえた声。
 コドルトという四足歩行の獣に乗ったアリスがブルーの手を取った。
 アリスの後ろで手を回すブルーは問いかける。
「どうして」
「私がこうしたかったから」
 しかし、後ろから迫る赤騎士は速かった。
 まるで人の動きをしていない。
「飛ばすよ、ちゃんと捕まって‼」
 コドルトは競獣、よくレースなどで使われ軽い荷物の運搬にも使われる。素早く走ることが特徴だが、その分体の動きが激しく乗獣用には向いてない。
 予想通り激しく揺れる。
「あ〜あ〜あ〜」
 そんな情けない声を上げるアリス。
 そしてすぐに笑いながら続けた。
「めっちゃ揺れる〜〜〜。おちるぅ〜〜〜」
「落ちないでください!」
 しかし、おかげさまで赤騎士とは少しずつ距離を置くことができた。
 門を警備する兵がアリスたちに止まるようにと鐘を鳴らす。
「手続きを済ませないと」
 ブルーの言葉にアリスが言う。
「でもどうやって止めるの」
 その言葉に驚いた。
「乗ってみて、それっぽくやったら走りだしたから。いいのいいの。手続きなんてめんどくさい。追われてる身なんだから、そのまま突っ切っちゃおう!いっけぇ〜‼」
「そんな」
 門を飛び出し二人は更にかけて行く。 
 警備兵が慌てて二人を追いかけようと準備するが間に合わない。
「ほら、楽しいでしょ!これからもっと楽しいことが待ってるよ!」
 命を狙われた。死んでいたかも知れないのにアリスは恐れることもなく笑っていた。
 そんなアリスの強さに救われる。
 休むことなく走り続けたアリスとブルーは港町でレイナーと合流した。
 すでに昨夜アリスから伝達鳥で連絡があったようで出立の準備は万端のようだ。夜の出港は危険だったが、赤騎士に追いかけられている可能性があるため直ぐに出港することとなった。
 出港したと同時に港で軽い騒動が起こる。
「命を狙ってくる赤騎士ってのはアイツのことか?」
 レイナーが指差す方に目を向けてみればそこに赤騎士がいた。
 あの赤騎士の存在が騒動の原因だろう。
「うん。でも、流石に海の上は追ってこれないみたいだね」
 アリスが言葉を返す。
 さすがに沖に出ていたため赤騎士はやってこれないようだ。
 背を向け安堵するブルー。
 しかし、強力な魔力を感じ取りすぐに振り返った。
 夜の港で一際強い輝きを放つ赤い光が見える。それは赤騎士の剣から放たれていた。
 空高く剣を掲げる赤騎士。赤い輝きが空に伸び大地をを輝かせる。
「急いで離れてください。もっとはやく!」
 ブルーの言葉にアリスは慌てて船の舵を取り走らせる。
 どんどん小さくなっていく赤騎士が剣を振り下ろす。
 同時に溢れ出す炎が烈火の如く海を滑り、ブルーに向かって真っすぐ飛んできた。
 ギリギリで炎は飛散し船に届くことはなかったが、周りの船に炎が引火し港町が火の海になる。
「まじかよ……たった一人の力でこれだけの」
 レイナーの言葉にブルーは同意する。
「これが赤騎士の力」
「でも、逃げ切れたでしょ」
 アリスの言葉に皆が頷いた。
 船長を担うアリスはリーダー的な役割もになっているため、レイナーが問いかける。
「どこに行くんだ?ドーン国に今行くのは危ないだろう」
「ん〜。なら南よ‼」
「南ってことは、万栄国か」
「そう。あそこは自然豊かで、おおらかな人も多いからね」
 聞いたことない国の名前にブルーは問いかける。
「万栄国ですか?」
「あ〜。地図には載ってないもんね、私が行った時はできたばかりの小さな国だったよ。だいぶ昔に訪れたんだ〜」
「俺も行ったことはないんだ。昔アリスから話を聞いた程度で。……でも、それにしても万栄国の話は聞いたことないな。外部と交流を絶っているのか?」
「う〜ん。そんなことないはずだけどなー。まぁ、追いかけられてる身としては身を隠すには最適な場所なんじゃないかな」
 目的地が決まったブルーたちは思い思いの事をする。
 ブルーはレイナーに剣の使い方を教わった。レイナーはアリスの仕事の護衛役も兼ねているらしく、ブルー同様にアリスに拾われた身らしい。
 ブルーの体質的にも2日でレイナーの強さを越してしまい自主練になった。レイナーは落ち込んで2日は口を開かなかった。アリスは必死にレイナーを励ましていた。
 そんな事をしている間に万栄国が見えてくる。
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