第16話 万栄国
文字数 3,807文字
白い星と黒い星が激しくぶつかり合い、宇宙に衝撃を放つ。
戦いの中で白い仮面が砕けたミルカ。アデリーナの攻撃により白いドレスの一部が黒く朽ちていく。
アデリーナの黒いドレスの一部もミルカの白い刃にえぐられ傷だらけになっている。周囲に佇む聖剣と白い羽が彼女を包囲していた。
現状はミルカが優位に立てていたが、それは白い仮面が砕けた時にアデリーナの動きが一瞬遅れたからだ。
「ブルー?……何故あなたが始祖の力の半分を」
その言葉を問いかけるアデリーナからはいつの間にか殺意がなくなっていた。
「運命を変えるために未来から来たからです」
ミルカは相手の反応を伺うが、それは思ったよりもいい返答で返ってくる。
「そうだったのですか。ブルーであると言う事を否定しなかったということはそういうことなのですね」
なにか思うところがあるのかアデリーナの瞳が潤み、先ほどとは違い弱々しい姿を見せる。
彼女はミルカに飛びつき震えた声で続ける。
「よかった。会いたかった。本当に……会いたかった。長かった」
孤独に一人で戦ってきたアデリーナの心に最愛の人との温もりが染みていく。
戸惑っているミルカに気がついたアデリーナは慌てた様子で離れ頭を整理してから感情を抑え込む。
先程の終わりの魔女としての姿に戻ったアデリーナは続けた。
「すみません。恐らく何も知らないのですよね。私の時と同じように」
アデリーナが終わりの魔女となった経緯を知っているミルカは直に頷いた。
「ミルカ。運命を変えるために未来から来たあなたはそう名乗っているのですか」
「私がブルーとしてここに訪れたときも、ミルカと名乗る始まりの魔女がこの地を訪れたので」
ミルカのアデリーナの行為を信頼し一部の情報を提示する。
「貴方が過去に飛んできたということは、未来ではそれほどのことが起こるのでしょう。全てを言わないのは昔から変わっていませんね。ですが、目的のためなら手段を選ばず完遂して見せる貴方のことです。ここで全て伝えることはその計画に支障を可能性を秘めているんですね」
ミルカの真鍮を察し優しい言葉を投げかけてくるアデリーナ。その態度にどこか懐かしさを感じた。同時に『知識の泉』で死んだ、ジュリオとヴィットリアの姿を思い出した。しかし、今回はミルカはアデリーナとともにしていた時の記憶を思い出せない。
だからこそ少しでも受け取った気持ちを返そうとミルカは本心で伝える。
「ありがとう。ただ……、二人の時はブルーと呼ばせてください。私にとって、貴方は……」
出て来てしまいそうな思いを必死に堪えるようにその続きの言葉を押し殺す。
「わかった」
「よろしいんですね!……ありがとうございます。ブルーに協力できることは何でもします。私はブルーのために……。ごめんなさい、私が知っているこの世界の事を聞きたいのですよね」
「そう」
「ここの歴史は知っていますよね。私の親と貴方の親は『終焉の審判』で激しい戦いをしました。その戦いの余韻は世界を超え広がっていきました。私が終わりの魔女となってその戦いを終わらせましたが、とある一つの世界に我々の世界は目をつけられたのです。その世界は勇者と魔王により均衡を保っていましたが、勇者が敗れ魔王が支配しました。力を持て余した魔王はこの世界に『誓約』に目をつけたのです」
「その魔王が悪王オルデルト」
「そうです。この世界を戦場にしないようにあちらの世界に行き、世界の入口を閉ざしていました。しかし、あちらの世界の丸ごと閉ざしてしまうことは叶わない。彼らは先ほど生き物を使い常にコチラの世界を覗き観察している。そして、彼らが目をつけたのが先程言った『誓約』です。ブルーが現れ『魂の棺桶』が現れたこと、そして赤騎士が生まれたことでそれは革新に変わりました。『誓約』はこの世界の法則そのもの、世界はいずれ『誓約』によって滅ぼされます。なので、その運命を避けるためにも今は悪王オルデルトの世界で世界を救う方法を探っています。私の中にはまだ108人の魂が眠っていますから。彼女たちに見せても恥ずかしくないような、そんな生き様にしてみせます」
終わりの魔女は未来で『誓約』を自身の眷属に置いた。
その判断は正しく、悪王オルデルトの手からも『誓約』の手からも世界を救うことができる。だが、その代償として支払うものは全ての魔女の命だ。
彼女がその答えにたどり着くまでまだ600年近くある。
しかし、それも未来から現れた終わりの魔女の眷属が答えを出している。
「私以外にその話は?」
「いいえ、誰にも。これで貴方の聞きたいことは全て聞けましたか?」
最後に彼女を試すようにミルカは言葉を投げかける。
「最後に。私達はまたこうやって合って話し合うことはできる?」
アデリーナは驚いたように口を開くが言葉が出ることはない。心の内を、本心を隠しこむようにミルカに下唇を噛む。
「相変わらず、ずるいですね。……はい、きっと」
アデリーナは笑顔で別れを告げた。
二人は別れ、ミルカはクリフォアを殺させないためにブルーのもとに向かう。
しかし、意識がすぐに切り替わらなかった。
わかりやすアデリーナの態度がミルカの心に引っかかった。彼女の最後の無理やりの笑顔が、今起きているこの戦争がアデリーナとブルーによる過去と未来を挟んだ戦いであることを理解していることを伝えていた。
孤独に一人戦っていたアデリーナの元に現れるはずのない最愛の人が現れ、それは同時に殺し合わなければいけない事実を突き付けた。アデリーナにとってそれは奇跡の再会となり、最後の別れを意味する。
そんな事を考えている間にもクリフォアの下についたミルカは時間を静止させる。
ちょうどブルーがクリフォアと向き合っている所だった。二人は周囲の異変に気づき始め周囲を警戒する。
「これは。ミルカだ」
クリフォアに説明するブルー。
ミルカは二人の前に降り立つと、クリフォアを守るようにブルーが前に出る。
ここでクリフォアを助けることで運命が大きく変わる可能性を作ることになる。しかし、元々万栄国で始まりの魔女と終わりの魔女が何をしていたか知らないミルカにとって一緒のことだった。
「何しに来た」
ブルーの威嚇を無視しミルカは運命を告げる。
「ブルーその力を使いなさい。でないと、貴方が守りた者も死ぬことになる」
ブルーはハッとしたようにクリフォアを見つめた後、彼女の後ろに回りにいう。
「クリフォア。後ろに、赤騎士が来る」
すべてを察したブルーの迅速な行動にミルカの頬が思わず緩む。
だからこそ、ブルーの行動にミルカも応える。
クリフォアの死がブルーを動かす強力な劇薬となった。それを理解していからこそ、未来のミルカはわざと見殺しにした。ただ今回は違う、未来を知っている。だから彼女と同じ選択を取らない。そして、ブルーにはっきりと進むべき道を示すために、真実を見せる。
ここから運命は大きく変わることになる。これが始まりの一歩だ。
白い仮面を取ったミルカ。
クリフォアが声を上げる。
「貴方は」
その声につられブルーは振り向いた。仮面の先にあった自分と全く同じ顔。
同時にクリフォアの死を伝えた意味を理解するブルー
「ミルカ、そういう事。任せて、今回は私が守る。絶対に死なせたりしない」
全てに腑に落ちたブルーから迷いが消え、熱い炎が吹き荒れる。熱い炎がブルーの体を包み込み銀色の鎧が生成される。
同時に羽が消え時間が動き出す。
ブルーは圧倒的な力で敵をねじ伏せた。
とどめを刺すブルーを静止し、赤騎士の力を奪ってからその赤騎士を一緒につれていき真実を確認するように伝えるとブルーは直に頷いた。
「『知識の泉』は最北端のクルガ滝の中にある。そこで待ってる」
その言葉を残しミルカはブルーと分かれた。
ブルーは新たにクリフォアと赤騎士を船に乗せ、アリス、レイナー共に出港した。
ドーン国。
フレムドーン宮殿。
カルド王の報告にアリーチェは苛立ちを隠せずにいた。
「ブルーめ!慣れてもいない、相反する炎の魔法を使いこなすだと!……クソ!」
まだ順応できていない黒い魔力が全身から零れ落ちる。今のアリーチェはただの抜け殻に過ぎない。殻の崩壊を抑えるように怒りを飲み込んだ。
「……、あやつはじめから分かっていたのか。まぁいい、ここで殺せない場合も考えている。まだ事実を疑っているブルーは、力を手に入れた今、自分自身で真実を確かめるために『知識の泉』に行くはずだ。ミルカが赤騎士を殺さず力を奪うだけにとどめたのもそれが理由だろう。なら泉の力で赤騎士が力を取り戻せばブルーを殺せるはずだ。もし、失敗したとしても入口を塞いでしまえば、あの空間からでることはできまい。アデリーナがミルカと戦っている今、ミルカに邪魔されることもあるまい」
アリーチェらしからぬ言動にカルド王の声が震える。
「はい」
「ああ。この作戦も失敗すれば跡がない。やはり炎よりも氷の力のほうが良かったか。ミルカは、私の存在に始めから気づいている。それを確かめるためにも渡したものを返してもらおう。それから新たな器を要しなければな」
アリーチェは頭を抱えながらカルド王を見つめる。
「な、なにを」
「一部計画変更だ」
背を向け逃げ出すカルド王にアリーチェは右手を伸ばす。邪悪な黒い影が溢れ出しカルド王を飲み込んだ。
戦いの中で白い仮面が砕けたミルカ。アデリーナの攻撃により白いドレスの一部が黒く朽ちていく。
アデリーナの黒いドレスの一部もミルカの白い刃にえぐられ傷だらけになっている。周囲に佇む聖剣と白い羽が彼女を包囲していた。
現状はミルカが優位に立てていたが、それは白い仮面が砕けた時にアデリーナの動きが一瞬遅れたからだ。
「ブルー?……何故あなたが始祖の力の半分を」
その言葉を問いかけるアデリーナからはいつの間にか殺意がなくなっていた。
「運命を変えるために未来から来たからです」
ミルカは相手の反応を伺うが、それは思ったよりもいい返答で返ってくる。
「そうだったのですか。ブルーであると言う事を否定しなかったということはそういうことなのですね」
なにか思うところがあるのかアデリーナの瞳が潤み、先ほどとは違い弱々しい姿を見せる。
彼女はミルカに飛びつき震えた声で続ける。
「よかった。会いたかった。本当に……会いたかった。長かった」
孤独に一人で戦ってきたアデリーナの心に最愛の人との温もりが染みていく。
戸惑っているミルカに気がついたアデリーナは慌てた様子で離れ頭を整理してから感情を抑え込む。
先程の終わりの魔女としての姿に戻ったアデリーナは続けた。
「すみません。恐らく何も知らないのですよね。私の時と同じように」
アデリーナが終わりの魔女となった経緯を知っているミルカは直に頷いた。
「ミルカ。運命を変えるために未来から来たあなたはそう名乗っているのですか」
「私がブルーとしてここに訪れたときも、ミルカと名乗る始まりの魔女がこの地を訪れたので」
ミルカのアデリーナの行為を信頼し一部の情報を提示する。
「貴方が過去に飛んできたということは、未来ではそれほどのことが起こるのでしょう。全てを言わないのは昔から変わっていませんね。ですが、目的のためなら手段を選ばず完遂して見せる貴方のことです。ここで全て伝えることはその計画に支障を可能性を秘めているんですね」
ミルカの真鍮を察し優しい言葉を投げかけてくるアデリーナ。その態度にどこか懐かしさを感じた。同時に『知識の泉』で死んだ、ジュリオとヴィットリアの姿を思い出した。しかし、今回はミルカはアデリーナとともにしていた時の記憶を思い出せない。
だからこそ少しでも受け取った気持ちを返そうとミルカは本心で伝える。
「ありがとう。ただ……、二人の時はブルーと呼ばせてください。私にとって、貴方は……」
出て来てしまいそうな思いを必死に堪えるようにその続きの言葉を押し殺す。
「わかった」
「よろしいんですね!……ありがとうございます。ブルーに協力できることは何でもします。私はブルーのために……。ごめんなさい、私が知っているこの世界の事を聞きたいのですよね」
「そう」
「ここの歴史は知っていますよね。私の親と貴方の親は『終焉の審判』で激しい戦いをしました。その戦いの余韻は世界を超え広がっていきました。私が終わりの魔女となってその戦いを終わらせましたが、とある一つの世界に我々の世界は目をつけられたのです。その世界は勇者と魔王により均衡を保っていましたが、勇者が敗れ魔王が支配しました。力を持て余した魔王はこの世界に『誓約』に目をつけたのです」
「その魔王が悪王オルデルト」
「そうです。この世界を戦場にしないようにあちらの世界に行き、世界の入口を閉ざしていました。しかし、あちらの世界の丸ごと閉ざしてしまうことは叶わない。彼らは先ほど生き物を使い常にコチラの世界を覗き観察している。そして、彼らが目をつけたのが先程言った『誓約』です。ブルーが現れ『魂の棺桶』が現れたこと、そして赤騎士が生まれたことでそれは革新に変わりました。『誓約』はこの世界の法則そのもの、世界はいずれ『誓約』によって滅ぼされます。なので、その運命を避けるためにも今は悪王オルデルトの世界で世界を救う方法を探っています。私の中にはまだ108人の魂が眠っていますから。彼女たちに見せても恥ずかしくないような、そんな生き様にしてみせます」
終わりの魔女は未来で『誓約』を自身の眷属に置いた。
その判断は正しく、悪王オルデルトの手からも『誓約』の手からも世界を救うことができる。だが、その代償として支払うものは全ての魔女の命だ。
彼女がその答えにたどり着くまでまだ600年近くある。
しかし、それも未来から現れた終わりの魔女の眷属が答えを出している。
「私以外にその話は?」
「いいえ、誰にも。これで貴方の聞きたいことは全て聞けましたか?」
最後に彼女を試すようにミルカは言葉を投げかける。
「最後に。私達はまたこうやって合って話し合うことはできる?」
アデリーナは驚いたように口を開くが言葉が出ることはない。心の内を、本心を隠しこむようにミルカに下唇を噛む。
「相変わらず、ずるいですね。……はい、きっと」
アデリーナは笑顔で別れを告げた。
二人は別れ、ミルカはクリフォアを殺させないためにブルーのもとに向かう。
しかし、意識がすぐに切り替わらなかった。
わかりやすアデリーナの態度がミルカの心に引っかかった。彼女の最後の無理やりの笑顔が、今起きているこの戦争がアデリーナとブルーによる過去と未来を挟んだ戦いであることを理解していることを伝えていた。
孤独に一人戦っていたアデリーナの元に現れるはずのない最愛の人が現れ、それは同時に殺し合わなければいけない事実を突き付けた。アデリーナにとってそれは奇跡の再会となり、最後の別れを意味する。
そんな事を考えている間にもクリフォアの下についたミルカは時間を静止させる。
ちょうどブルーがクリフォアと向き合っている所だった。二人は周囲の異変に気づき始め周囲を警戒する。
「これは。ミルカだ」
クリフォアに説明するブルー。
ミルカは二人の前に降り立つと、クリフォアを守るようにブルーが前に出る。
ここでクリフォアを助けることで運命が大きく変わる可能性を作ることになる。しかし、元々万栄国で始まりの魔女と終わりの魔女が何をしていたか知らないミルカにとって一緒のことだった。
「何しに来た」
ブルーの威嚇を無視しミルカは運命を告げる。
「ブルーその力を使いなさい。でないと、貴方が守りた者も死ぬことになる」
ブルーはハッとしたようにクリフォアを見つめた後、彼女の後ろに回りにいう。
「クリフォア。後ろに、赤騎士が来る」
すべてを察したブルーの迅速な行動にミルカの頬が思わず緩む。
だからこそ、ブルーの行動にミルカも応える。
クリフォアの死がブルーを動かす強力な劇薬となった。それを理解していからこそ、未来のミルカはわざと見殺しにした。ただ今回は違う、未来を知っている。だから彼女と同じ選択を取らない。そして、ブルーにはっきりと進むべき道を示すために、真実を見せる。
ここから運命は大きく変わることになる。これが始まりの一歩だ。
白い仮面を取ったミルカ。
クリフォアが声を上げる。
「貴方は」
その声につられブルーは振り向いた。仮面の先にあった自分と全く同じ顔。
同時にクリフォアの死を伝えた意味を理解するブルー
「ミルカ、そういう事。任せて、今回は私が守る。絶対に死なせたりしない」
全てに腑に落ちたブルーから迷いが消え、熱い炎が吹き荒れる。熱い炎がブルーの体を包み込み銀色の鎧が生成される。
同時に羽が消え時間が動き出す。
ブルーは圧倒的な力で敵をねじ伏せた。
とどめを刺すブルーを静止し、赤騎士の力を奪ってからその赤騎士を一緒につれていき真実を確認するように伝えるとブルーは直に頷いた。
「『知識の泉』は最北端のクルガ滝の中にある。そこで待ってる」
その言葉を残しミルカはブルーと分かれた。
ブルーは新たにクリフォアと赤騎士を船に乗せ、アリス、レイナー共に出港した。
ドーン国。
フレムドーン宮殿。
カルド王の報告にアリーチェは苛立ちを隠せずにいた。
「ブルーめ!慣れてもいない、相反する炎の魔法を使いこなすだと!……クソ!」
まだ順応できていない黒い魔力が全身から零れ落ちる。今のアリーチェはただの抜け殻に過ぎない。殻の崩壊を抑えるように怒りを飲み込んだ。
「……、あやつはじめから分かっていたのか。まぁいい、ここで殺せない場合も考えている。まだ事実を疑っているブルーは、力を手に入れた今、自分自身で真実を確かめるために『知識の泉』に行くはずだ。ミルカが赤騎士を殺さず力を奪うだけにとどめたのもそれが理由だろう。なら泉の力で赤騎士が力を取り戻せばブルーを殺せるはずだ。もし、失敗したとしても入口を塞いでしまえば、あの空間からでることはできまい。アデリーナがミルカと戦っている今、ミルカに邪魔されることもあるまい」
アリーチェらしからぬ言動にカルド王の声が震える。
「はい」
「ああ。この作戦も失敗すれば跡がない。やはり炎よりも氷の力のほうが良かったか。ミルカは、私の存在に始めから気づいている。それを確かめるためにも渡したものを返してもらおう。それから新たな器を要しなければな」
アリーチェは頭を抱えながらカルド王を見つめる。
「な、なにを」
「一部計画変更だ」
背を向け逃げ出すカルド王にアリーチェは右手を伸ばす。邪悪な黒い影が溢れ出しカルド王を飲み込んだ。