第27話 再臨
文字数 4,400文字
星歴2040年。
ミルカの最後の戦いの火蓋が切って落とされた。
メルフェスの眼光から放たれる黒い光線。ギリギリで回避するが、空間から姿を表した複数のメルフェス同時に黒い光線を放つ。反転魔法で弾くと爆発で視界が染まるなか、黒い槍がミルカの腹部を貫いた。
メルフェスの投げた黒い槍。ミルカの予想通りそれは黒い魔力により生成されたものだった。既に、アデリーナの力までもコピーできていることを伝えている。
「終わりだ、ブルー」
アデリーナのようにミルカのことをブルーというメルフェス。彼女がまだ姿を表していない事実に警戒しながらミルカも全力を出す。
「ええ。でも、負けるわけにはいかないの!」
ミルカの体が一瞬きらめくと周囲に白い羽根が舞う。
メルフェスの分身体はミルカの白い魔力により次々に消されていった。そして、最後に残る本体。
しかし、メルフェス本人にミルカの攻撃は効かなかった。分厚い黒い魔力の結界に阻まれ、攻撃を通さない。
メルフェスから距離を取るミルカは相手のでかたを伺っていると、突如体の中に激痛が走り思わず吐血する。
黒く染まった血を見て、この空気中に黒い魔力の毒が漂っていることに気がついたが、もう一つの刺客には気づかなかった。
「以前のような強さはもうありませんね」
後ろに現れたアデリーナの反応が遅れる。
咄嗟に振り返ったミルカのお腹をアデリーナの腕が貫いた。黒い魔力が全身に流れ込み、内部から腐敗していく。
魔法障壁の反転でアデリーナを吹き飛ばしたミルカ。魔法障壁で失った左腕を直ぐに再生させるアデリーナと違い、ミルカは激痛に耐えながらアデリーナの腕をお腹から引き抜き治療する。
終わりの魔女の力がミルカの治癒を阻害していた。一度、黒い魔力を浄化してから体を治療しなければいけない手間が、ミルカの魔力と集中力を大きく削いでいく。
アデリーナと向き合うミルカ。
しかし、ミルカの前に降り立つアデリーナの召喚した終焉の眷属、メルフェス。20メートルを超える真っ黒な肌の巨人、頭には黒い角が二本短く生えている。
それが完全体のメルフェスの姿だった。『誓約』、世界の法則が実体となり現世に降り立った姿。
ミルカが両手を広げると上空に黄金色のオーロラが現れ10本の巨大な聖剣が降りてくる。
審判を下す始まりの魔女の10本の武器。裁き対象は神も例外ではない。ミルカの聖剣は瞬く間に眼の前のメルフェスを突き刺し天へと召されていった。
始まりの魔女と終わりの魔女の最後の戦い。
白い星と黒い星がぶつかった。新たなる事象がこの世界に誕生し、同時に終演を迎える。
語り継がれることのない現象が大きな爪痕を世界に残す。
新生の膜と終焉の膜が激しい衝撃波を放ち鍔迫り合う。
「ブルー。最後のあがきも、コレで終わりです」
聖剣で天に召されていくメルフェスは嫌な笑みを浮かべると同時に、その聖剣は消失する。
ブルーはもう一度聖剣を生成しようとするが復活することはない。聖剣そのものが消失したのだ。
ミルカはメルフェスを見た。
メルフェスの右手に生み出された白い正方体の結晶が、当たりの光を奪うようにミルカの生み出した魔力を飲み込んでいく。空を覆うオーロラも、結晶に吸い取られていく。
ミルカの最後の光は喪われ、世界が暗く染まり世界の終焉が訪れる。
現実世界へと姿を表したメルフェスが理不尽な力を使う。
新たに生成されていた聖剣は姿を消し、同時に眷属の複製体が次々に姿を表しミルカを囲んだ。
生成された聖剣は姿を消し、もう一度生成しようとしてもすぐに飛散して生成できない。そこで魔法を発動しようとするが、何も使えないことに気がついた。
魔法を失った事を伝えるように白いドレスが、身にまとっていた服が全て消失し、自由落下を始める。
下にあるのは世界の果て、永遠の奈落が底には広がっている。大地が抉れてできた、宇宙にまでつながる大穴。
その穴の上で一人の少女と成り下がったミルカをメルフェスの大きな手のひらが掴む。
「ブルー・デ・メルロ。貴様はもう終わりだ。今の貴様に力は残っていない。《魂の棺桶》が魂を記録し、一度だけ死した者を蘇らせることができる。魂を保管する棺は世界との繋がりを隔絶し、その影響を内部に一切伝えない。世界の理を、一切の誓約の影響を受けない。だが、一度記録した魂は再度、その魂を記録することは叶わない。世界の規則を愚弄した貴様は命を世界に刻み散らした。貴様は過去ですでにその生命を一度失っている。貴様にもう未来はないのだ。我は世界に刻まれた全ての魔法を扱うことができる。貴様の作った全ての魔力を奪う器、『エデン』今使わせてもらおう」
もう片方の巨人の手のひらの上で小さく回る、光り輝く白い宝石。
彼女の魔女としての力が全てその宝石にしまわれていた。
今の彼女に魔力を回収するすべも取り込むすべもない。
この状況を打開するすべなどなかった。
ただの人間に成り下がったミルカ。
握りつぶされても、そのままこの奈落に落とされても死ぬ。
「ここまでよくやったがこれが貴様の現実だ。我、メルフェスの前で儚い海の塵と化すのだ。世界の法則は絶対だ。誰にも止められはしない、これは宇宙の定めなのだから」
ミルカの眼の前でメルフェスという巨人が白い宝石を握りつぶす。
それはもう彼女に救いがないことを伝える。
ミルカに残った微かな力が失われるように、小さな魔力が意識と共に引っ張られた。
暗闇の視界の中、消えゆく意識の中で、メルフェスの言葉だけが最後に聞こえる。
「終わりの時は来た。魔女の時代は終りを迎え、神話は終演を迎える。世界の裁定は終焉の魔女アデリーナによって定められていたのだ」
メルフェスの握られただの少女と成り果てたミルカの骨が軋み、鈍い音を立てて砕ける。
あまりの激痛に意識は蘇り、声を荒げたミルカ。
ミルカは最後の力を振り絞るように軽い笑いを浮かべ力なく言葉を吐く。
「ええ、そうね。……これでやっと終わる」
「なんだ」
すべての行動に裏があり、どんな作戦にも対抗手段を用意してきたミルカ。それを知っているメルフェスだからこそ、戸惑った。100年前の彼女もわざと追い詰められたふりをして、メルフェスたちを追い込んだ。
だからこそ、この状態でもメルフェスは警戒を怠ってはいない。
しかし、今の彼女は違った。完全にただの人間となっており、死を受け入れていた。
彼女は誰よりも強く最強だったアデリーナから聞いている。そして、この世界で生き残るために今まで抗ってきたのだと。
メルフェスも目の前の少女が、他人を信用せず、味方ですら騙し、過去の自分自身ですら生贄にし生きながらえてきた姿を見てきたのだ。
その疑問を感じ取ったのが少女は静かに言った。
「ブルーが未来からきた時、誓約が彼女を氷の魔女にした。誓約が長い間叶えられなかった事により、誓約はより強固となり炎の魔女を生み出した。そして、氷の魔女の意識を簡単に歪め、また戦争を引き起こした。誓約から逃れるために氷の魔女は誓約に打ち勝ち、新たな魔女への新生を遂げた。それが始まりの魔女」
世界には法則がある。誓約、それは絶対で、その法則を変えることはできない。しかし、その法則から逃れる手段はあった。それは記憶を消し、新たな魔女へと昇華すること。
始まりの魔女と終わりの魔女の持ちに現れた魂の棺桶。それは二人に世界の終焉を見せ、もう一つの可能性を見せた。このままでは世界は終演を迎える事がわかったミルカは一つの計画を練った。
それは世界の終焉よりも早く『誓約の化身』メルフェスをこの世界に現界させ倒すること。
その計画をするさい、アデリーナにブルーの記憶を記録した魂の棺桶を白い指輪にして渡し、メルフェスには切り札としてわかりやすい『エデン』を用意した。
エデンに生みこまれた魔力は白い魔力。扱うには始まりの魔女の力を完全に使いこなす必要がある。
そのためにも力を身につけたメルフェスは、『エデン』を使うためにこの世界に実体を表すことになる。
メルフェスは考えを否定するように声を荒げる。
「だからどうした。既に我には終わりの魔女の力、そして、始まりの魔女の力が扱える!」
「始まりの魔女を支配し手その能力を扱うのではなく、はじめに能力を扱えるようになるために実体化してしまった」
「それでより早く貴様を追い詰めることができた!」
ミルカの言葉にメルフェスは動揺を隠せない。何故なら、それははじめから全てミルカの手のひらで踊らされていたことを意味するかrだ。
「そう。メルフェスがアリスを使ったように、私はこの計画のためにアデリーナにメルフェスを眷属として召喚させた」
その真実を否定したくとも今のメルフェスにそれを否定するだけのものはなにもない。
「何を……言っている。自分の命を……」
今まで必死に生きようとしてきたミルカがそんな計画を立てるはずがない。そんなメルフェスの思いは口から出ることはなかった。気づいてしまったのだ、彼女の命こそ最後の切り札なのだと。だからこそ、必死にこのときまで生き延びてきたのだ。
戦いは先の先を読む。相手の行動を予測し、対応する。敵の一歩先を常に歩み続ける。先に切り札を使わせ、そのうえでこちらが答えを提示する
「魂の棺桶ははじめからアデリーナが持っていた。そして、私が力を失った今、新たな始まりの魔女が完全に蘇る」
「……アデリーナ」
最後の思いにすがるようにアデリーナに振り返るメルフェス。
「はい。はじめからです。あれは魂の棺桶で蘇ったのではなく、約束の日から神域魔法で彼女がやってきたのです」
アデリーナはいい終えると同時に右手を空に上げる。
白い指輪が光り輝くと同時に天空に白いオーロラが浮かび上がる。
生まれゆく新生にミルカは最後の言葉をかける。
「誓約は終焉を迎え、新たな物語の起源が始まる。さぁ、舞台は整えた。ブルー、貴方の物語を始める時間よ」
メルフェスは怒りのままミルカを握りつぶすと、世界の奈落へと遺体を捨て新生する新たな魔女を睨みつける。
白い羽根の繭から解き放たれた白いドレスと綺麗な白髪の少女。
この世界に再び始まりの魔女が再臨する。
「我が名は始生の魔女、ブルー・デ・メルロ。全ての起源、事の始まりをつかさどる者。このメリア神話に新たなる新生をもたらす者なり」
天空から再び降りてくる10本の巨大な聖剣。
アデリーナもミルカの隣に並ぶ。
二人は知っている。ここからが本番だということを。
今のメルフェスは、二人を支配できないとしても、全ての魔女の力を扱うことができるのだから。
「さぁ、いきましょう、ブルー。お互いの神器はもうないけど、彼女のためにも私達がここで」
「そんな物はもういらない。今の私にはアデリーナ、貴方がいるから」
ミルカの最後の戦いの火蓋が切って落とされた。
メルフェスの眼光から放たれる黒い光線。ギリギリで回避するが、空間から姿を表した複数のメルフェス同時に黒い光線を放つ。反転魔法で弾くと爆発で視界が染まるなか、黒い槍がミルカの腹部を貫いた。
メルフェスの投げた黒い槍。ミルカの予想通りそれは黒い魔力により生成されたものだった。既に、アデリーナの力までもコピーできていることを伝えている。
「終わりだ、ブルー」
アデリーナのようにミルカのことをブルーというメルフェス。彼女がまだ姿を表していない事実に警戒しながらミルカも全力を出す。
「ええ。でも、負けるわけにはいかないの!」
ミルカの体が一瞬きらめくと周囲に白い羽根が舞う。
メルフェスの分身体はミルカの白い魔力により次々に消されていった。そして、最後に残る本体。
しかし、メルフェス本人にミルカの攻撃は効かなかった。分厚い黒い魔力の結界に阻まれ、攻撃を通さない。
メルフェスから距離を取るミルカは相手のでかたを伺っていると、突如体の中に激痛が走り思わず吐血する。
黒く染まった血を見て、この空気中に黒い魔力の毒が漂っていることに気がついたが、もう一つの刺客には気づかなかった。
「以前のような強さはもうありませんね」
後ろに現れたアデリーナの反応が遅れる。
咄嗟に振り返ったミルカのお腹をアデリーナの腕が貫いた。黒い魔力が全身に流れ込み、内部から腐敗していく。
魔法障壁の反転でアデリーナを吹き飛ばしたミルカ。魔法障壁で失った左腕を直ぐに再生させるアデリーナと違い、ミルカは激痛に耐えながらアデリーナの腕をお腹から引き抜き治療する。
終わりの魔女の力がミルカの治癒を阻害していた。一度、黒い魔力を浄化してから体を治療しなければいけない手間が、ミルカの魔力と集中力を大きく削いでいく。
アデリーナと向き合うミルカ。
しかし、ミルカの前に降り立つアデリーナの召喚した終焉の眷属、メルフェス。20メートルを超える真っ黒な肌の巨人、頭には黒い角が二本短く生えている。
それが完全体のメルフェスの姿だった。『誓約』、世界の法則が実体となり現世に降り立った姿。
ミルカが両手を広げると上空に黄金色のオーロラが現れ10本の巨大な聖剣が降りてくる。
審判を下す始まりの魔女の10本の武器。裁き対象は神も例外ではない。ミルカの聖剣は瞬く間に眼の前のメルフェスを突き刺し天へと召されていった。
始まりの魔女と終わりの魔女の最後の戦い。
白い星と黒い星がぶつかった。新たなる事象がこの世界に誕生し、同時に終演を迎える。
語り継がれることのない現象が大きな爪痕を世界に残す。
新生の膜と終焉の膜が激しい衝撃波を放ち鍔迫り合う。
「ブルー。最後のあがきも、コレで終わりです」
聖剣で天に召されていくメルフェスは嫌な笑みを浮かべると同時に、その聖剣は消失する。
ブルーはもう一度聖剣を生成しようとするが復活することはない。聖剣そのものが消失したのだ。
ミルカはメルフェスを見た。
メルフェスの右手に生み出された白い正方体の結晶が、当たりの光を奪うようにミルカの生み出した魔力を飲み込んでいく。空を覆うオーロラも、結晶に吸い取られていく。
ミルカの最後の光は喪われ、世界が暗く染まり世界の終焉が訪れる。
現実世界へと姿を表したメルフェスが理不尽な力を使う。
新たに生成されていた聖剣は姿を消し、同時に眷属の複製体が次々に姿を表しミルカを囲んだ。
生成された聖剣は姿を消し、もう一度生成しようとしてもすぐに飛散して生成できない。そこで魔法を発動しようとするが、何も使えないことに気がついた。
魔法を失った事を伝えるように白いドレスが、身にまとっていた服が全て消失し、自由落下を始める。
下にあるのは世界の果て、永遠の奈落が底には広がっている。大地が抉れてできた、宇宙にまでつながる大穴。
その穴の上で一人の少女と成り下がったミルカをメルフェスの大きな手のひらが掴む。
「ブルー・デ・メルロ。貴様はもう終わりだ。今の貴様に力は残っていない。《魂の棺桶》が魂を記録し、一度だけ死した者を蘇らせることができる。魂を保管する棺は世界との繋がりを隔絶し、その影響を内部に一切伝えない。世界の理を、一切の誓約の影響を受けない。だが、一度記録した魂は再度、その魂を記録することは叶わない。世界の規則を愚弄した貴様は命を世界に刻み散らした。貴様は過去ですでにその生命を一度失っている。貴様にもう未来はないのだ。我は世界に刻まれた全ての魔法を扱うことができる。貴様の作った全ての魔力を奪う器、『エデン』今使わせてもらおう」
もう片方の巨人の手のひらの上で小さく回る、光り輝く白い宝石。
彼女の魔女としての力が全てその宝石にしまわれていた。
今の彼女に魔力を回収するすべも取り込むすべもない。
この状況を打開するすべなどなかった。
ただの人間に成り下がったミルカ。
握りつぶされても、そのままこの奈落に落とされても死ぬ。
「ここまでよくやったがこれが貴様の現実だ。我、メルフェスの前で儚い海の塵と化すのだ。世界の法則は絶対だ。誰にも止められはしない、これは宇宙の定めなのだから」
ミルカの眼の前でメルフェスという巨人が白い宝石を握りつぶす。
それはもう彼女に救いがないことを伝える。
ミルカに残った微かな力が失われるように、小さな魔力が意識と共に引っ張られた。
暗闇の視界の中、消えゆく意識の中で、メルフェスの言葉だけが最後に聞こえる。
「終わりの時は来た。魔女の時代は終りを迎え、神話は終演を迎える。世界の裁定は終焉の魔女アデリーナによって定められていたのだ」
メルフェスの握られただの少女と成り果てたミルカの骨が軋み、鈍い音を立てて砕ける。
あまりの激痛に意識は蘇り、声を荒げたミルカ。
ミルカは最後の力を振り絞るように軽い笑いを浮かべ力なく言葉を吐く。
「ええ、そうね。……これでやっと終わる」
「なんだ」
すべての行動に裏があり、どんな作戦にも対抗手段を用意してきたミルカ。それを知っているメルフェスだからこそ、戸惑った。100年前の彼女もわざと追い詰められたふりをして、メルフェスたちを追い込んだ。
だからこそ、この状態でもメルフェスは警戒を怠ってはいない。
しかし、今の彼女は違った。完全にただの人間となっており、死を受け入れていた。
彼女は誰よりも強く最強だったアデリーナから聞いている。そして、この世界で生き残るために今まで抗ってきたのだと。
メルフェスも目の前の少女が、他人を信用せず、味方ですら騙し、過去の自分自身ですら生贄にし生きながらえてきた姿を見てきたのだ。
その疑問を感じ取ったのが少女は静かに言った。
「ブルーが未来からきた時、誓約が彼女を氷の魔女にした。誓約が長い間叶えられなかった事により、誓約はより強固となり炎の魔女を生み出した。そして、氷の魔女の意識を簡単に歪め、また戦争を引き起こした。誓約から逃れるために氷の魔女は誓約に打ち勝ち、新たな魔女への新生を遂げた。それが始まりの魔女」
世界には法則がある。誓約、それは絶対で、その法則を変えることはできない。しかし、その法則から逃れる手段はあった。それは記憶を消し、新たな魔女へと昇華すること。
始まりの魔女と終わりの魔女の持ちに現れた魂の棺桶。それは二人に世界の終焉を見せ、もう一つの可能性を見せた。このままでは世界は終演を迎える事がわかったミルカは一つの計画を練った。
それは世界の終焉よりも早く『誓約の化身』メルフェスをこの世界に現界させ倒すること。
その計画をするさい、アデリーナにブルーの記憶を記録した魂の棺桶を白い指輪にして渡し、メルフェスには切り札としてわかりやすい『エデン』を用意した。
エデンに生みこまれた魔力は白い魔力。扱うには始まりの魔女の力を完全に使いこなす必要がある。
そのためにも力を身につけたメルフェスは、『エデン』を使うためにこの世界に実体を表すことになる。
メルフェスは考えを否定するように声を荒げる。
「だからどうした。既に我には終わりの魔女の力、そして、始まりの魔女の力が扱える!」
「始まりの魔女を支配し手その能力を扱うのではなく、はじめに能力を扱えるようになるために実体化してしまった」
「それでより早く貴様を追い詰めることができた!」
ミルカの言葉にメルフェスは動揺を隠せない。何故なら、それははじめから全てミルカの手のひらで踊らされていたことを意味するかrだ。
「そう。メルフェスがアリスを使ったように、私はこの計画のためにアデリーナにメルフェスを眷属として召喚させた」
その真実を否定したくとも今のメルフェスにそれを否定するだけのものはなにもない。
「何を……言っている。自分の命を……」
今まで必死に生きようとしてきたミルカがそんな計画を立てるはずがない。そんなメルフェスの思いは口から出ることはなかった。気づいてしまったのだ、彼女の命こそ最後の切り札なのだと。だからこそ、必死にこのときまで生き延びてきたのだ。
戦いは先の先を読む。相手の行動を予測し、対応する。敵の一歩先を常に歩み続ける。先に切り札を使わせ、そのうえでこちらが答えを提示する
「魂の棺桶ははじめからアデリーナが持っていた。そして、私が力を失った今、新たな始まりの魔女が完全に蘇る」
「……アデリーナ」
最後の思いにすがるようにアデリーナに振り返るメルフェス。
「はい。はじめからです。あれは魂の棺桶で蘇ったのではなく、約束の日から神域魔法で彼女がやってきたのです」
アデリーナはいい終えると同時に右手を空に上げる。
白い指輪が光り輝くと同時に天空に白いオーロラが浮かび上がる。
生まれゆく新生にミルカは最後の言葉をかける。
「誓約は終焉を迎え、新たな物語の起源が始まる。さぁ、舞台は整えた。ブルー、貴方の物語を始める時間よ」
メルフェスは怒りのままミルカを握りつぶすと、世界の奈落へと遺体を捨て新生する新たな魔女を睨みつける。
白い羽根の繭から解き放たれた白いドレスと綺麗な白髪の少女。
この世界に再び始まりの魔女が再臨する。
「我が名は始生の魔女、ブルー・デ・メルロ。全ての起源、事の始まりをつかさどる者。このメリア神話に新たなる新生をもたらす者なり」
天空から再び降りてくる10本の巨大な聖剣。
アデリーナもミルカの隣に並ぶ。
二人は知っている。ここからが本番だということを。
今のメルフェスは、二人を支配できないとしても、全ての魔女の力を扱うことができるのだから。
「さぁ、いきましょう、ブルー。お互いの神器はもうないけど、彼女のためにも私達がここで」
「そんな物はもういらない。今の私にはアデリーナ、貴方がいるから」