第4話 実験計画

文字数 903文字

 サイエンス部としても実は問題があった。日本の天才少年たちが発見した新型オトナウイルスだが、その構造や感染の仕組み、つまりは何が感染者の低年齢化をもたらしているのかが分からない。大人の研究者たちも懸命にそれを解析しようと日夜努力をしているのだが、疫学的な数字の積み上げばかりが進んで行く。
 培養細胞に新型オトナウイルスを感染させ、電子顕微鏡で観察をしても従来のオトナウイルスとの違いは目立たない。幼若な細胞を用いてみても結果は変わらない。湯山(ゆやま)先輩は今日も電子顕微鏡につないだモニターの前で頭を抱えていた。

 ウイルスが細胞に感染するためには、まずウイルスが細胞膜から細胞内に侵入する必要がある。ウイルスの侵入は、ウイルスのRNAが細胞膜を通過すると言い換えてよい。尚、オトナウイスルはDNAウイルスではなく、RNAウイルスなのでここではRNAとだけ書いておく。このRNAを細胞質中で翻訳し、小胞体という細胞内器官で増殖できる状態に細胞の性質が変えられてしまう。そして完全なウイルスが再生され、ゴルジ体やリソソームにつつまれた状態で細胞膜へ運ばれ、外に放出される。この各段階のどこかに、従来のオトナウイルスとの違いがあるはずだ。

 そしてもちろん、感染してしまう子どもの側の条件も考えなければいけない。年齢的な問題と、個人の性質のどちらも検討したい。これはウイルス側ではなく、宿主側の条件といえるだろう。
 江刺(えさし)先輩はおそらく、感染しない子どもが持っている何かを備えている個体なのだ。宿主側の比較検討をするにあたっては、欠くことのできないサンプルになるだろう。

 中学三年の曽根川(そねがわ)先輩は宿主側の違いに強い興味があるらしい。二学年も上の江刺先輩にも臆さず話しかけていく。
「江刺先輩、先輩の血液、ごっそりもらいますよ。対照は、湯山先輩。分かっていますよね? え、友中先輩? そうか、年齢も揃えた方がいいですね、確かに」
 湯山先輩は自分の血液は提供せず、江刺先輩と同学年の友中(ともなか)先輩を指名した。友中先輩はあまり部室に顔を出さない。が、湯山先輩がLASEN(ラセン)で連絡をしたら、わずか数分で登場した。普段はどこに隠れているのだろう?
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