第1話 はじまり

文字数 619文字

 生物の進化や成長にウイルス感染が重要な意味を持つことは以前から知られていた。それがヒトの発達にも当てはまることが証明されたのは、今から五年ほど前のことだった。当時小学生だった僕は、そのウイルスの存在に驚き、強い関心を抱いた。そして勉強して、明紋義塾(めいもんぎじゅく)中学校に入学した。

 明紋義塾の中学、高校は男子校で、大学まで入試なしで進むことができる。僕たちはこの六年間の自由を謳歌する。しかしその自由は、チャラチャラと遊び暮らす他の大学付属校生とは全く異なる。僕たちは自分の興味を深く追及するのだ。つまり中学生でも大学に出入りし、研究できる。いや、一学年五十人の秀才たちはほぼ全員、何らかの学問に打ち込んでいる。そして僕もそう。中学の部活であるサイエンス部の一員として、大学院のウイルス学研究室に入り浸っている。

 そのニュースが飛び込んできたのは、中学一年の冬だった。近年、夢を語れない子ども、自分の意見を言わない子ども、何でもおカネに換算する子どもなどが急増し、その勢いはとどまる気配がないという。僕はピンときた。これは例のウイルスが突然変異し、急速に広まっているのではないだろうか。そして、発見した。以前のそれとは比べ物にならないくらいの感染力をもち、子どもを重症化させてしまう。もはや以前のそれと同一視できない。それを僕たちは「新型オトナウイルス」と名付け、発表した。

 これはそのウイルスと僕たち明紋義塾中学サイエンス部員との戦いの記録である。
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