第3話 耐性獲得者?

文字数 1,020文字

 明紋義塾(めいもんぎじゅく)では、ほとんどの部活が中高合同で活動を行っている。我がサイエンス部ももちろんそうだ。中山(なかやま)先輩と僕は、理科実験室の隣にある準備室の、その奥にある扉を開け、部室に戻った。外部からはエリートでなんでもきっちりこなしてしまうスマート男子の集団だと思われているらしいが、サイエンス部の部室を見ればそんなイメージは一瞬にして崩れ去るだろう。マンガ雑誌や食べかけのお菓子なども散らかっている。スマホや定期券を焦って探している部員が必ず一人はいる。ところが重要な資料の在り処だけは各自しっかり記憶していて、すぐに見つかるのだから面白い。そんな部室で、湯山(ゆやま)先輩と江刺(えさし)先輩が対戦ゲームをやっていた。古くさいブラウン管のモニターテレビに、ゲーム専用機をつなげている。貴重な史料として、我が部室に代々伝わる遊び道具だ。

 高校三年の湯山先輩が、僕らに気付き、右手を軽く挙げ挨拶をする。湯山先輩は(たくま)しい体つきで、無精髭(ぶしょうひげ)を生やしている。一方の江刺先輩は、こちらに気付いていないかの如くモニターに集中していた。この先輩は高校二年であるがまだ声が高い。ちょっと細身で、ツルツル肌の色白だ。身長も僕よりは高いが、百七十センチには届かないだろう。そう、子どもっぽいのである。

 湯山先輩がゲームを中断して、中学二年の中山先輩に声をかける。江刺先輩はチェッと声を出しながらも、大人しくコントローラーを手放した。そして中山先輩は、古沢先生への取材結果を、二人に報告した。簡潔にして明瞭なその報告に、僕は聞き惚れていた。やがて湯山先輩が口を開いた。
「感染者の若年化も確かに問題だけどな。いつまでも感染しないのもやばいよな」
 どうしても江刺先輩に目を向けてしまう。怒られるのはきっと僕だ。僕の心配を察した湯山先輩が続けてくれた。
「なあ、江刺? お前、新型オトナウイルスに感染したいだろ?」
 中山先輩が笑いをこらえている姿をみて、僕は吹き出してしまった。
「おい、棚上(たなかみ)! お前も俺のこと、ガキ扱いしているのか?」棚上というのが、僕の苗字である。

「いや、あの……。すみません」
 大人な湯山先輩がすぐに引き取ってくれる。「江刺、あながち間違ってないだろ。でも、お前が感染したくないならそれでいい。ただ、サイエンス部としては、だな。感染しないお前みたいな人間の仕組みを、ワクチンとかに応用したい訳だよ」

 湯山先輩は流石だ。中山先輩も一緒に深く頷き、ばつが悪そうに舌を出す江刺先輩を眺めた。
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