第8話 骨格

文字数 1,164文字

棚上(たなかみ)、それに中山(なかやま)曽根川(そねがわ)もいるな。あと、中学生は……。おっ、いた。頼野(よりの)永村(ながむら)、それに浜野(はまの)。お前ら、ちょっと集まれ」厳しい表情の湯山(ゆやま)先輩に名を呼ばれ、僕は恐怖心を覚えた。頼野先輩と永村先輩は中二、浜野は僕と同学年の中一だ。まだ何人か中学生の部員はいるのだが、あまり部活に顔を出していない。
「それと友中(ともなか)! お前は高二だけど、聞け!」更に語気を強めた湯山先輩の後ろには、高三の白髪(しらが)先輩と高二の江刺(えさし)先輩が立っていた。白髪先輩は天文台にいることが多く、部室には滅多に顔を出さないのだが。

「お前たち、実験の骨格をもう一度思い出せ」古いゲーム機の周りに座った僕たちに、湯山先輩が問いかける。
「まずは仮説を立てる。例えば」湯山先輩は友中先輩を見ながら話を続けた。
「『新型オトナウイルスは身体的成長も促進する』というようなものでも、まずは良い」
浜野が顔を赤らめた。まだまだガキだ。
「そこから実際の実験や計測の方法に持っていく。その説を検討するために適切なやり方は何か。できるだけシンプルな、スマートな形にしていく」
白髪先輩が話を継いだ。「そうだな、さっきの仮説なら、『身体的成長』とは何を表すのか。あるいは、何で示すことができるのか」

「それが女子の胸囲だって、良い訳だ」ボソッと友中先輩がつぶやく。狭い部室で、それが聞き逃されるはずはない。「友中。じゃあ真面目に考えてみるぞ?」今度は江刺先輩だ。友中先輩とは同学年だけど、こうしてみると江刺先輩が立派に思えて来た。
「『身体的成長』を女子の胸囲で代表させるというなら、仮説はもっと限定的なものになるはずだ。『新型オトナウイルスは女子の身体的成長も促進する』。いや、まだ広いな。『新型オトナウイルスは女子の胸囲を増大する』。このくらいの狭い仮説にしないといけないんだ」
「仮説を見直しながら、適切な方法を考え、組み立てる必要がある」湯山先輩の声が響く。「サンプルはどうするのか。何と比較するのか。この例で言えば、そうだな、新型オトナウイルスが確実に存在しなかったと言える時代の、同じ年ごろの女子のデータが必要になる」中二の三人はニヤニヤしながら話を聞いている。中一の僕が、実験の骨格というものを真剣に考えているというのに、とんでもない人たちだ。
「そしてデータというのは、客観性が必要だ。比較できるように、同じ方法、決められた手段で測定せねばならない。そしてそれはレポートや論文に明示しておく」
「おい、友中。自分の目で測定しました、なんて、公に出せるのか?」白髪先輩に指摘され、バツが悪そうに(うつむ)く友中先輩が、可哀想に思えて来た。
「それから、測定値だけで比較するのか、増加率で比較するのか。いや、成人の平均値との比較でもいいかもしれない。サンプルサイズの問題もある」江刺先輩が勝ち誇ったように付け加えた。
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