新七幕 魔王の瞳に映る世界(4)
文字数 4,057文字
「ウィーのスリーサイズ知ってるってことは、本当にあなたは魔王様なんですね?」
ようやくチャラいルパートが認めた横で、白ことキースが長い前髪から覗く目尻をキッと上げた。
「どうして魔王様が、ロックウィーナのデリケートな情報をご存知なんでしょうかねぇ……?」
この男は小娘の兄的存在らしい。怒る気持ちは理解できるが、周り見えているか? 魔物軍団がジリジリと包囲網を狭めてきているぞ? セクハラした俺を咎めている場合じゃないからな?
ついにはその中から一団が飛び出した。グレムリンと呼ばれる小鬼達だ。
ヒュンッ。
誰よりも早く小娘が反応し、リーチの長い鞭をグレムリン達へ振るった。しかし鞭は威力が弱い。俺が魔法で追撃しようと構えたら、小鬼達が炎に包まれた。
おお。どうやら鞭に火魔法を付加していたらしい。火魔法が得意なマキアと組んだか。
「……ち、全員腕利きの集団か!」
ソルが悔しそうに呟いた。その顔は髪の色に負けないくらい赤くなっている。
グレムリンを倒した小娘はソルへ向き直った。心なしかソルが怯 んだ気がした。
「お願い、兵を引いてちょうだい。アルクナイトの元部下だったんでしょう? 彼を本気で殺したいんですか?」
軍団の指揮者であるソルへ直談判とは。常々思っていたが小娘、おまえ度胸に関してはレベルMAXだよな。
「私達はあなた方と戦いたい訳じゃないんです」
「噓を吐け! では何だこの死屍累々の光景は!!」
赤ら顔なソルが魔物の死体を指し示して言い返した。屍の山を築いたエリアス、ルパート、エンが目を泳がせた。
「あの……それについては謝ります。でもアルクナイトの元へ行きたかっただけなのに、この人達? 魔物さん達が通してくれず、襲い掛かってきたから仕方無く……」
小娘が一歩近寄るとソルは一歩退いた。どうした? 強さでは完全にソルの方が上だというのに。
「あの……話し合いたいんです」
「寄るな84・59・88!!!!」
小娘の接近を止めようと、ソルは禁断の数値を大声で叫んだ。小娘は顔と身体をガチっと強張 らせた。
「ぎゃーー!! なっ、何言ってんのよ!?」
殊勝な態度を取り払い、小娘はタメ口 でソルを非難した。
「女性に対してそんなこと言うなんておかしいんじゃない!? 流石はセクハラ魔王の部下ね!」
「貴様の名前を知らんから、仕方無くだ!」
「だからってソレ言う!? あんまりじゃない!? みんなの前で秘密を暴露されて、私がどれだけ恥ずかしい思いをしてるか解ってんの!?」
「恥ずかしいのはこっちだ! どうして初対面の女のスリーサイズを聞かされなければならないんだ!!」
あ、ソルが顔を赤くしているのは怒りではなく照れだったのか。糞真面目で奥手な男だからなぁ。
「ちゃっかりサイズ記憶してんじゃん! このムッツリ!」
「貴様に私の何が解る!」
「一ミリも解らんわ! さっき会ったばっかりでしょ!!」
「口の減らない……」
「まぁまぁまぁ」
『落チ着イテ』
小娘はキースに、ソルは配下の人語を話せるSランクモンスターによって押し戻された。引き離された二人はフンっとお互いにそっぽを向いた。ガキか。
ここは俺が収めよう。
「ソルよ、おまえの軍団は足並みが乱れた。このまま戦っても望む結果にはならんぞ? 退くが最善の策だ」
すっかりキャラが変わってしまった元部下へ俺は撤退を勧めた。小娘との口喧嘩で精神を摩耗させたソルだが、現状を判断する理性は残っていた。
「……そのようですな。今日のところは退 かせて頂きます」
「今日のところは、か。いずれまた俺に挑む気か?」
「貴方が我々の脅威となる限りは」
ソルは背中を向けて配下の魔物を引き連れて去っていった。退くと決めたら一度も後ろを振り返らない。潔い奴だ。
撤退に不満そうな好戦的な魔物も居たが、エリアスが無言で大剣を振り回して威圧したら慌ててソルの後を追った。
「ふぅ…………」
退却する魔物軍団を見送りながら、エリアスは肩や首の関節をコキコキ鳴らした。コイツでもあの兵数の前では緊張したようだ。他の者もホッとした表情を浮かべた。
……どうやら俺は命を拾ったようだ。駆け付けてくれたコイツらのおかげでな。
ガラではないが、迷惑を掛けた詫びはしておこうか。
「皆の者、今日は……」
挨拶の途中で小娘の右ストレートが飛んできた。よけきれず、拳が俺の左頬にめり込んだ。
「ぼめはぁっ」
しまった。身体を護るバリアが切れていたんだった。俺は至高の存在らしからぬ間抜けな声を漏らして横へ吹っ飛んだ。
「わあぁっ、魔王様!?」
「…………死んだ?」
生きてるわ。マキアとエンが俺の傍へ寄り怪我の具合を確認してくれたが、年長グループは冷たい視線をこちらへ向けていた。え、何? 加勢に来てくれたんじゃないのか?
「……アンタ、ふざけんじゃないわよ」
ドスの効いた声とは裏腹に、小娘は泣いていた。
「何で、独りで出ていったりしたのよ……!」
ああそうか。俺が思っていた以上に心配させてしまったんだな。さめざめと泣く小娘を見て胸が苦しくなった。
「アル、私達はそんなに頼りにならないのか?」
剣を鞘に戻したエリアスも哀しい目をしていた。
「ホントだよ。何の為に上位のミッション選んで鍛えてきたと思ってんですか」
「水臭いです」
ルパートとキースも俺を責めた。でもそれは心配の裏返しだった。
みんな素の感情を出してくれている。……俺も素直にならなくてはな。
「すまなかった……。正直に言う、戦いに巻き込めばおまえ達の内の誰かが死ぬと思ったんだ」
そしてきっと、犠牲になるのはロックウィーナかマキアだと思った。彼らはまだ魔物の軍団と戦えるレベルの戦闘能力ではない。
「ループを壊せば先へ進めるが、その代わりに過去へ戻ってやり直すことができなくなる。死んだ者は生き返らないんだ」
だから俺独りで終わらせようと思った。
「アンタだって死んだらそこで終わりじゃない」
「俺はもう充分に生きた。……そう思っていた」
「……過去形なの?」
「ああ。もう死ぬ気は無い」
「本当に?」
「二言は無い。おまえと結婚する」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
これが小説なら、全員分の三点リーダーが羅列されているところだな。
「……………アル、今何と言った?」
いち早く自分を取り戻したのはエリアスだった。他の者はまだポカンと馬鹿面を晒している。
「俺はロックウィーナと結婚する」
「どうしてそうなる。唐突だろう」
「小娘から聞いていないのか? 俺とあやつは二周前に夫婦になった仲だ」
「なっ……。そ、そうなのか? しかしそれはループを壊す為にいろいろ試した結果だろう!?」
エリアスは察しがいいな。長い説明をしなくていいのは助かる。
「そうだ。しかし過程はどうでもいい。俺はロックウィーナに本気で恋をした」
「!!!」
「わっ、私は、人前でおっぱい出してる人なんて御免よ!」
参戦してきた小娘に俺は身体を見せつけた。
「ちゃんと見ろ、ギリ出ていない。そういう風に布の長さを調節している。そもそも少年の姿だった時もこの格好だったろうが」
「いやー! こっち来ないで!!」
小娘はまたキースの背中に隠れた。さっきから白に頼り過ぎだろ。ムカつく。
「子供と大人とじゃ違うのよ! 子供はおへそ出してても可愛いけど、大人になると一気にえっちになるの! だいたいなんでアンタ大人になってるのよ!?」
「これが俺の本来の姿だ」
「えっ、そうだったのか? アル」
「魔王様……何気にイイ身体してる……」
マキアが自分の貧相な身体と俺を比べて落ち込んでいた。当然だ。「魔術師系は頭でっかちなモヤシっ子」と言われるのが嫌で、俺は隠れて毎日筋肉トレーニングをしている。少年の身体には筋肉が付きにくいが、成長させてみたらあら素敵。
俺は素晴らしい肉体を見せる為に小娘の周りをうろついた。
「いや―ーーーッ、あっち行って!」
俺は天然ではない。これがセクシャルハラスメントに該当すると解ってやっている。訴えられたら裁判で確実に負けるだろう。
しかし照れる小娘は非常に可愛いのだ。夫婦になった十五周目でも散々からかったもんだ。
「いいかげんにして下さい!」
バチッ。
痛っ。キースの防御障壁に弾かれた。野郎。
俺は弾かれた尻を擦りながら疑問を呈した。
「……聞きたいのだが、おまえ達はどうしてここが判ったんだ? 俺は戦う場所を誰にも告げていないぞ」
答えたのは普段無口なエンだった。
「早朝稽古でギルドの中庭を走っている時に、窓から出て空を飛んでいく魔王様を見つけたんです」
見られていたのか。あの時は朝5時ちょい過ぎだったので油断していた。おまえもたいがい早起きだな。おじいちゃんか。
「取り敢えずみんなを起こしてそれを伝えました。ロックウィーナは何故か魔王様の部屋で寝ていたけど……」
「そう、ソレ! アンタのせいでいらぬ誤解をされたんだからね!!」
「それからが大変でした。あなたを追って馬車を二台走らせて追い掛けたんですが、飛んでいった方角しかヒントが無かったので、地図を見て戦いに適した開けた場所を片っ端から当たったんです。こっちだって言ってるのに何度もエリアスさんが操縦する馬車が違う方角へ行こうとするし、マキアは酷い乗り物酔いでダウンするし」
「だって五時間くらい乗りっ放しだったんだもん……」
ここまで到達するのに苦労させたようだな。ただ二度と方向音痴に御者はさせるな。
俺は改めて、慣れない謝罪の言葉を口にした。
「皆、悪かった。今回世話になった分はいつか返そう」
「謝罪は聞かない」
ちゃんと謝ったのに小娘が口を尖らせた。ブス顔になっているぞ。
「どう詫びたらいい?」
「だから謝罪は要らないって。他に言うこと有るでしょ?」
「他に……」
考えて、思いついた。そうだな、言わなきゃならない大切なことがあったな。
「来てくれて……ありがとう」
ロックウィーナはようやく笑った。他の者達も。
ようやくチャラいルパートが認めた横で、白ことキースが長い前髪から覗く目尻をキッと上げた。
「どうして魔王様が、ロックウィーナのデリケートな情報をご存知なんでしょうかねぇ……?」
この男は小娘の兄的存在らしい。怒る気持ちは理解できるが、周り見えているか? 魔物軍団がジリジリと包囲網を狭めてきているぞ? セクハラした俺を咎めている場合じゃないからな?
ついにはその中から一団が飛び出した。グレムリンと呼ばれる小鬼達だ。
ヒュンッ。
誰よりも早く小娘が反応し、リーチの長い鞭をグレムリン達へ振るった。しかし鞭は威力が弱い。俺が魔法で追撃しようと構えたら、小鬼達が炎に包まれた。
おお。どうやら鞭に火魔法を付加していたらしい。火魔法が得意なマキアと組んだか。
「……ち、全員腕利きの集団か!」
ソルが悔しそうに呟いた。その顔は髪の色に負けないくらい赤くなっている。
グレムリンを倒した小娘はソルへ向き直った。心なしかソルが
「お願い、兵を引いてちょうだい。アルクナイトの元部下だったんでしょう? 彼を本気で殺したいんですか?」
軍団の指揮者であるソルへ直談判とは。常々思っていたが小娘、おまえ度胸に関してはレベルMAXだよな。
「私達はあなた方と戦いたい訳じゃないんです」
「噓を吐け! では何だこの死屍累々の光景は!!」
赤ら顔なソルが魔物の死体を指し示して言い返した。屍の山を築いたエリアス、ルパート、エンが目を泳がせた。
「あの……それについては謝ります。でもアルクナイトの元へ行きたかっただけなのに、この人達? 魔物さん達が通してくれず、襲い掛かってきたから仕方無く……」
小娘が一歩近寄るとソルは一歩退いた。どうした? 強さでは完全にソルの方が上だというのに。
「あの……話し合いたいんです」
「寄るな84・59・88!!!!」
小娘の接近を止めようと、ソルは禁断の数値を大声で叫んだ。小娘は顔と身体をガチっと
「ぎゃーー!! なっ、何言ってんのよ!?」
殊勝な態度を取り払い、小娘はタメ
「女性に対してそんなこと言うなんておかしいんじゃない!? 流石はセクハラ魔王の部下ね!」
「貴様の名前を知らんから、仕方無くだ!」
「だからってソレ言う!? あんまりじゃない!? みんなの前で秘密を暴露されて、私がどれだけ恥ずかしい思いをしてるか解ってんの!?」
「恥ずかしいのはこっちだ! どうして初対面の女のスリーサイズを聞かされなければならないんだ!!」
あ、ソルが顔を赤くしているのは怒りではなく照れだったのか。糞真面目で奥手な男だからなぁ。
「ちゃっかりサイズ記憶してんじゃん! このムッツリ!」
「貴様に私の何が解る!」
「一ミリも解らんわ! さっき会ったばっかりでしょ!!」
「口の減らない……」
「まぁまぁまぁ」
『落チ着イテ』
小娘はキースに、ソルは配下の人語を話せるSランクモンスターによって押し戻された。引き離された二人はフンっとお互いにそっぽを向いた。ガキか。
ここは俺が収めよう。
「ソルよ、おまえの軍団は足並みが乱れた。このまま戦っても望む結果にはならんぞ? 退くが最善の策だ」
すっかりキャラが変わってしまった元部下へ俺は撤退を勧めた。小娘との口喧嘩で精神を摩耗させたソルだが、現状を判断する理性は残っていた。
「……そのようですな。今日のところは
「今日のところは、か。いずれまた俺に挑む気か?」
「貴方が我々の脅威となる限りは」
ソルは背中を向けて配下の魔物を引き連れて去っていった。退くと決めたら一度も後ろを振り返らない。潔い奴だ。
撤退に不満そうな好戦的な魔物も居たが、エリアスが無言で大剣を振り回して威圧したら慌ててソルの後を追った。
「ふぅ…………」
退却する魔物軍団を見送りながら、エリアスは肩や首の関節をコキコキ鳴らした。コイツでもあの兵数の前では緊張したようだ。他の者もホッとした表情を浮かべた。
……どうやら俺は命を拾ったようだ。駆け付けてくれたコイツらのおかげでな。
ガラではないが、迷惑を掛けた詫びはしておこうか。
「皆の者、今日は……」
挨拶の途中で小娘の右ストレートが飛んできた。よけきれず、拳が俺の左頬にめり込んだ。
「ぼめはぁっ」
しまった。身体を護るバリアが切れていたんだった。俺は至高の存在らしからぬ間抜けな声を漏らして横へ吹っ飛んだ。
「わあぁっ、魔王様!?」
「…………死んだ?」
生きてるわ。マキアとエンが俺の傍へ寄り怪我の具合を確認してくれたが、年長グループは冷たい視線をこちらへ向けていた。え、何? 加勢に来てくれたんじゃないのか?
「……アンタ、ふざけんじゃないわよ」
ドスの効いた声とは裏腹に、小娘は泣いていた。
「何で、独りで出ていったりしたのよ……!」
ああそうか。俺が思っていた以上に心配させてしまったんだな。さめざめと泣く小娘を見て胸が苦しくなった。
「アル、私達はそんなに頼りにならないのか?」
剣を鞘に戻したエリアスも哀しい目をしていた。
「ホントだよ。何の為に上位のミッション選んで鍛えてきたと思ってんですか」
「水臭いです」
ルパートとキースも俺を責めた。でもそれは心配の裏返しだった。
みんな素の感情を出してくれている。……俺も素直にならなくてはな。
「すまなかった……。正直に言う、戦いに巻き込めばおまえ達の内の誰かが死ぬと思ったんだ」
そしてきっと、犠牲になるのはロックウィーナかマキアだと思った。彼らはまだ魔物の軍団と戦えるレベルの戦闘能力ではない。
「ループを壊せば先へ進めるが、その代わりに過去へ戻ってやり直すことができなくなる。死んだ者は生き返らないんだ」
だから俺独りで終わらせようと思った。
「アンタだって死んだらそこで終わりじゃない」
「俺はもう充分に生きた。……そう思っていた」
「……過去形なの?」
「ああ。もう死ぬ気は無い」
「本当に?」
「二言は無い。おまえと結婚する」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
これが小説なら、全員分の三点リーダーが羅列されているところだな。
「……………アル、今何と言った?」
いち早く自分を取り戻したのはエリアスだった。他の者はまだポカンと馬鹿面を晒している。
「俺はロックウィーナと結婚する」
「どうしてそうなる。唐突だろう」
「小娘から聞いていないのか? 俺とあやつは二周前に夫婦になった仲だ」
「なっ……。そ、そうなのか? しかしそれはループを壊す為にいろいろ試した結果だろう!?」
エリアスは察しがいいな。長い説明をしなくていいのは助かる。
「そうだ。しかし過程はどうでもいい。俺はロックウィーナに本気で恋をした」
「!!!」
「わっ、私は、人前でおっぱい出してる人なんて御免よ!」
参戦してきた小娘に俺は身体を見せつけた。
「ちゃんと見ろ、ギリ出ていない。そういう風に布の長さを調節している。そもそも少年の姿だった時もこの格好だったろうが」
「いやー! こっち来ないで!!」
小娘はまたキースの背中に隠れた。さっきから白に頼り過ぎだろ。ムカつく。
「子供と大人とじゃ違うのよ! 子供はおへそ出してても可愛いけど、大人になると一気にえっちになるの! だいたいなんでアンタ大人になってるのよ!?」
「これが俺の本来の姿だ」
「えっ、そうだったのか? アル」
「魔王様……何気にイイ身体してる……」
マキアが自分の貧相な身体と俺を比べて落ち込んでいた。当然だ。「魔術師系は頭でっかちなモヤシっ子」と言われるのが嫌で、俺は隠れて毎日筋肉トレーニングをしている。少年の身体には筋肉が付きにくいが、成長させてみたらあら素敵。
俺は素晴らしい肉体を見せる為に小娘の周りをうろついた。
「いや―ーーーッ、あっち行って!」
俺は天然ではない。これがセクシャルハラスメントに該当すると解ってやっている。訴えられたら裁判で確実に負けるだろう。
しかし照れる小娘は非常に可愛いのだ。夫婦になった十五周目でも散々からかったもんだ。
「いいかげんにして下さい!」
バチッ。
痛っ。キースの防御障壁に弾かれた。野郎。
俺は弾かれた尻を擦りながら疑問を呈した。
「……聞きたいのだが、おまえ達はどうしてここが判ったんだ? 俺は戦う場所を誰にも告げていないぞ」
答えたのは普段無口なエンだった。
「早朝稽古でギルドの中庭を走っている時に、窓から出て空を飛んでいく魔王様を見つけたんです」
見られていたのか。あの時は朝5時ちょい過ぎだったので油断していた。おまえもたいがい早起きだな。おじいちゃんか。
「取り敢えずみんなを起こしてそれを伝えました。ロックウィーナは何故か魔王様の部屋で寝ていたけど……」
「そう、ソレ! アンタのせいでいらぬ誤解をされたんだからね!!」
「それからが大変でした。あなたを追って馬車を二台走らせて追い掛けたんですが、飛んでいった方角しかヒントが無かったので、地図を見て戦いに適した開けた場所を片っ端から当たったんです。こっちだって言ってるのに何度もエリアスさんが操縦する馬車が違う方角へ行こうとするし、マキアは酷い乗り物酔いでダウンするし」
「だって五時間くらい乗りっ放しだったんだもん……」
ここまで到達するのに苦労させたようだな。ただ二度と方向音痴に御者はさせるな。
俺は改めて、慣れない謝罪の言葉を口にした。
「皆、悪かった。今回世話になった分はいつか返そう」
「謝罪は聞かない」
ちゃんと謝ったのに小娘が口を尖らせた。ブス顔になっているぞ。
「どう詫びたらいい?」
「だから謝罪は要らないって。他に言うこと有るでしょ?」
「他に……」
考えて、思いついた。そうだな、言わなきゃならない大切なことがあったな。
「来てくれて……ありがとう」
ロックウィーナはようやく笑った。他の者達も。