五幕 ルパートとの契約(2)
文字数 4,518文字
「噓……ラディ先輩が……?」
「ホントだって。アベルについてはどうだ?」
アベル? この流れでルパートが別の男性の名前を挙げたことに私は恐怖した。まさか彼も?
「……三年前に入って半年で辞めてしまった青年ですよね? 私と同い年で真面目な人だったと記憶しています」
「アイツはムッツリだ。洗濯干し場でおまえのタンクトップを盗ろうとしていた」
「ヒイイィッ!?」
アベルがギルドをすぐ辞めたのは、ハードな業務内容のせいだとばかり思っていた。下着ドロだったんかい。パンツとブラは自室で干してて良かったぁ!
あれ? マスターが新人が育たずにすぐ辞めると嘆いていたけれど、何人かは私が原因だったりする?
「な、何で私を狙ったの……? 二人とは仕事上の会話しかしてない気がします」
「ああ。おまえは同僚として接していただけだったな。アイツらが一方的におまえを気に入ったんだ」
「どうして?」
「おまえが美人だからだよ」
ルパートに断言されて私の時が止まった。3秒くらい。
「今何と?」
「おまえは美人だ」
「び……じん……? 私が……?」
言葉にして繰り返してみても実感が湧かない。
「やっぱり自覚無しか」
再びルパートに溜め息を吐かれたが納得できなかった。だって……。
「私は過去に二回ナンパされた経験が有りますけど、どちらも女性でしたよ!?」
ハハハ、とルパートは乾いた笑いを見せた。
「昔のおまえはまんま少年の外見だったからな。俺も最初は弟のように思っていた。でもな、三年も経つ頃にはすっかり垢抜 けて、絶世 の美女とまではいかないにしても綺麗な女になったんだよ。さっき食堂でマキアにも言われたろ?」
「あれはお世辞で……」
「じゃあエリアスさんがおまえを構うのはどうしてだと思う?」
「彼が行き倒れていたところを私が背負ったから? 恩に感じたんだと思います」
「それも有るだろう。でも恩だけならデートになんか誘おうとしない。エリアスさんはな、性的な意味でおまえに惹 かれているんだよ。助けてくれた相手が可憐な美人だったもんで、一瞬で恋に落ちたんだ」
「!!!!!!」
可憐。自分のことを言われているとは到底思えなかった。リリアナのような華の有る女の子にこそ相応しい形容詞だ。思考がルパートの発言に追い付かない。
「そんな訳ない……。だって、だって私に告白してくれる男性なんて居なかったもの……」
「告白しそうな男は沢山居たぞ? 誰一人として残らなかったけどな」
「え?」
「おまえに近付こうとする男はことごとく、この俺様が過去に潰してきたんだよ。時々セスの旦那も。あの人はおまえを娘のように思っているから」
得意げにとんでもないことを言いやがったぞ。
「潰すって何で? 何でそんなことしたんですか!?」
覗き魔ラディと下着ドロのアベルは論外として、まともな男性も居ただろうに。放っておいてくれたら、誰かと良い仲になっていたかもしれなかったのに。
「おまえのことが本当に好きなら、俺達にちょっと凄 まれたくらいで逃げ出したりしないだろ。あいつらはおまえの綺麗な顔面を気に入っただけの軽薄野郎だったんだ。いいかウィー、外見に釣られて近寄ってくる輩 に碌 な奴は居ないぞ。俺の実体験だ!」
胸を張ったルパートを張り倒したくなった。アンタはモテモテの聖騎士時代につらい目に遭ったようだが、それで私の恋の可能性まで潰すんじゃない。
「酷いです! 私に断りもなく!」
「何言ってんだ、護ってやったんじゃないか」
「頼んでないから! 私は普通に恋人が欲しいんです!」
「それは止めねぇよ。ただし俺とセスさんのお眼鏡にかなったヤツ限定な」
何様だこのウンコ。
「そんな悠長なことしていたらあっという間におばあちゃんですよ! 私の年齢解ってます? もう25なんですよ! 私は叶うなら結婚も出産もしてみたいんです。のんびりしていられないんです!!」
庶民女性の結婚平均年齢は二十代半ば。正に今だというのに、私には婚約者どころか交際している相手すらいない。貴族の令嬢に至っては十代で嫁ぐことも珍しくない。
「そんな焦らんでも、運命の相手はフラっと現れるもんさ。俺の余裕を見習え」
「先輩の馬鹿ぁぁぁぁ!!」
もう一つの男の急所を狙って今度は蹴りを繰り出した。
「危ねっ!」
流石に不能になりたくなかったのか、ルパートは必死の形相で避 けた。
「先輩は経験済みだから余裕なんですよ!」
「経験済みっておまえ……、えげつない表現はよせ」
「恋人が居たんだからヤルことはやってたんでしょ!?」
「ま、まぁ……」
「私の恋を妨害しておいて自分ばっかりズルい!! 私なんてキスすらまともにしたことないのに! エリアスさんが手の甲にしてくれたのが初キスなんだから!」
「そ、そうなのか……」
「抱きしめてくれた男性だって、お父さんとお祖父 ちゃん、転げた時に庇ってくれたエリアスさん、それにさっきの先輩を入れて四人しか居ないんです!」
「え、さっきの俺をカウントしても四人だけなの? しかも半分家族かよ」
「そうですよ、悲惨でしょう!?」
「それは悲惨かも……」
おまけに全部恋とは関係が無い抱擁 だったりする。こんちくしょう。
「あなたとセス先輩が邪魔さえしなければ……」
ファイティングポーズでにじり寄る私からルパートは後退 りした。逃がすものか。コイツがこの世に存在している限り、私の恋してキャッキャウフフ生活は永遠に訪れないのだ。セスも後で片づける。
私が放つ明確な殺気を感じ取ったルパートは命乞いをした。
「待てっ、落ち着け! 話せば解る! 復讐は何も生み出さないぞ!?」
問答無用で放った私の回し蹴りが逃げるルパートの腹部を掠 めた。続けて距離を詰めて足刀 蹴り。今度のはルパートの脇腹に突き刺さった。迷いが消えた私の体術は師範代クラスの強さを発揮した。
「いてっ! ……おまっ、腕を上げたな!?」
死ね。ただその感情のみが私を突き動かしていた。かわされたが、ムーンサルトキックを披露したところでルパートが白旗を掲げた。
「本当に悪かった、ごめんなさい! 俺にできることなら何でもしてやるから許してくれ!!」
「何でも……?」
私は殺戮舞踏 を一時止めた。
「あ、死ねとかそういうのは無しな。前向きなヤツで頼む」
ち。予防線を張られたか。
せっかくなので私は思案した。いつも人をこき使う側のルパートが、タダで何かをやってくれると言うのだ。乗らない手は無い。
「……では協力して下さい」
「協力? 何の?」
「もちろん私が恋人をつくる手助けですよ」
「ええ~?」
ルパートが嫌そうな顔をしたので、私は猫足立ちになって再び構えた。
「わ、解ったよ……協力する。具体的に何をしたらいいんだ?」
「合いそうだと思う男性を私に紹介して下さい。月一のペースで」
「ええ~? そんなに簡単にイイ男が見つかるかよ!」
「冒険者ギルドにはいろんな人が来るでしょう? その中からでいいので見つけて下さい」
「それならおまえにもできるじゃん」
私は雷を落とした。
「私がイイと思ってもあなたとセス先輩が邪魔するでしょう!? だったら最初っから先輩のお眼鏡にかなった男性を勧めて下さいよ!!」
「う……解ったよ、紹介する」
よし、契約完了だ。しおれたルパートは私に一つの質問をした。
「エリアスさんのことはいいのか? 別の男の紹介を望むってことは、エリアスさんとは付き合わないでいいんだな?」
「………………」
出会ってからずっと、エリアスは私を淑女 をとして大切に扱ってくれる。好印象しかない。だけど彼との間には高く頑丈な壁がそびえ立っている。
「私は貴族制度についてよく知りません……。先輩はエリアスさんがこのまま、自由な冒険者をやっていられると思いますか?」
「……まず無理だろうな。下級貴族ならともかく辺境伯の息子だ。本人が私人 でいたいと言っても国が許さんだろう」
「そんな凄い世界で生きている人と、私とでは到底身分がつり合いませんよ」
「そこなんだよな……」
ルパートは頭を掻いた。
「この際認めるけど、エリアスさんはイイ男だと思うよ。おまえに好意を示してもガツガツせず、一定の距離を保つ理性と礼儀を持っている。こそこそ覗きをしたり下着を盗ろうとする野郎達とは全然違う」
比較対象が酷過ぎる。
「何と言ってもおまえを護れる強さが有る。あの人が一般人であったなら、俺はおまえを任せていいと思ったかもしれない。でもさ、彼はモルガナンの姓を持つ男なんだ。だから邪魔をした。本気で恋をしたらおまえが傷付くだろうって」
ルパートは本気で私を心配してくれているようだ。これまでのウザイ行動は全て、彼なりの親愛の現れだったのだ。でもここからは見守る愛にシフトチェンジして欲しい。
「先輩が貴族の名前に詳しいのは元聖騎士だからですか?」
「まぁな。座学で国内外の有力貴族の名前は頭に叩き込んだ。パーティに招かれて実際に目通りもしたしな」
貴族と面識が有ったのか。考えてみるとルパートも凄い男なんだよね。こんなブラックな職場に居てはいけない人なのかもしれない。
「う~ん……、エリアスさんを除いて今現在イイと思う男は……、ルービックさんくらいかなぁ」
「ルービック……、どなたでしたっけ? お名前には聞き覚えが有るんですが」
「アンダー・ドラゴンの本拠地を制圧する師団の司令官だよ」
ああ、午前中の会議で挙がった名前だった。
「聖騎士の先輩でしたっけ?」
「そう。でっち上げられた俺の醜聞が広まった時、俺を信じて噂を打ち消そうと動いてくれた数少ない内の一人だ」
「良い先輩だったんですね」
「うん。縁談が持ち込まれて、若い頃に貴族の令嬢と結婚したんだけどな……」
「既婚者ですか!? 不倫はしたくないです!」
「最後まで聞け。結婚はしたけど四年で離婚したんだよ」
「あらら……。でももう別の方と再婚されてるんじゃないですか? 先輩が騎士団を抜けて八年経っているんでしょう?」
「俺が在籍中にもう結婚はしたくないとか言っていたから、今も独身なんじゃないかな?」
独身か……。ちょっと興味が湧いてきた。
「ちなみに……離婚理由は?」
「性格の不一致。ルービックさんは優秀で猛スピードで出世したけど、俺と同じ庶民の出なんだよ。それで貴族の奥方とは、生活様式や根本的な考え方とかが合わなかったみたいだ」
私なら同じ庶民同士、話は合うかもしれない。話はね……。
「子供ができる前に別れたからルービックさんは身一つだ。聖騎士で師団長。離婚歴を差し引いても超優良物件だと思うぞ?」
「相手に不満は有りません。素晴らしい方だと思います。でも私には隣に立つに相応しい地位もスキルも有りません。師団長の恋人の座を狙うなんてあまりにも図々しいのでは?」
「気さくな人だから気負わなくて大丈夫だぞ? 今度の任務で顔合わせするかもしれないから、まぁ、気負わず会うだけ会ってみたら?」
そうか。お見合いじゃないんだから気負わなくていいのか。
「そ、そうですね、会うだけなら……。あ、ルービックさんっておいくつなんですか?」
「確か今年43歳」
おい。私を子供のように思っている(らしい)二人の子持ちのセスと同い年じゃないか。
「ホントだって。アベルについてはどうだ?」
アベル? この流れでルパートが別の男性の名前を挙げたことに私は恐怖した。まさか彼も?
「……三年前に入って半年で辞めてしまった青年ですよね? 私と同い年で真面目な人だったと記憶しています」
「アイツはムッツリだ。洗濯干し場でおまえのタンクトップを盗ろうとしていた」
「ヒイイィッ!?」
アベルがギルドをすぐ辞めたのは、ハードな業務内容のせいだとばかり思っていた。下着ドロだったんかい。パンツとブラは自室で干してて良かったぁ!
あれ? マスターが新人が育たずにすぐ辞めると嘆いていたけれど、何人かは私が原因だったりする?
「な、何で私を狙ったの……? 二人とは仕事上の会話しかしてない気がします」
「ああ。おまえは同僚として接していただけだったな。アイツらが一方的におまえを気に入ったんだ」
「どうして?」
「おまえが美人だからだよ」
ルパートに断言されて私の時が止まった。3秒くらい。
「今何と?」
「おまえは美人だ」
「び……じん……? 私が……?」
言葉にして繰り返してみても実感が湧かない。
「やっぱり自覚無しか」
再びルパートに溜め息を吐かれたが納得できなかった。だって……。
「私は過去に二回ナンパされた経験が有りますけど、どちらも女性でしたよ!?」
ハハハ、とルパートは乾いた笑いを見せた。
「昔のおまえはまんま少年の外見だったからな。俺も最初は弟のように思っていた。でもな、三年も経つ頃にはすっかり
「あれはお世辞で……」
「じゃあエリアスさんがおまえを構うのはどうしてだと思う?」
「彼が行き倒れていたところを私が背負ったから? 恩に感じたんだと思います」
「それも有るだろう。でも恩だけならデートになんか誘おうとしない。エリアスさんはな、性的な意味でおまえに
「!!!!!!」
可憐。自分のことを言われているとは到底思えなかった。リリアナのような華の有る女の子にこそ相応しい形容詞だ。思考がルパートの発言に追い付かない。
「そんな訳ない……。だって、だって私に告白してくれる男性なんて居なかったもの……」
「告白しそうな男は沢山居たぞ? 誰一人として残らなかったけどな」
「え?」
「おまえに近付こうとする男はことごとく、この俺様が過去に潰してきたんだよ。時々セスの旦那も。あの人はおまえを娘のように思っているから」
得意げにとんでもないことを言いやがったぞ。
「潰すって何で? 何でそんなことしたんですか!?」
覗き魔ラディと下着ドロのアベルは論外として、まともな男性も居ただろうに。放っておいてくれたら、誰かと良い仲になっていたかもしれなかったのに。
「おまえのことが本当に好きなら、俺達にちょっと
胸を張ったルパートを張り倒したくなった。アンタはモテモテの聖騎士時代につらい目に遭ったようだが、それで私の恋の可能性まで潰すんじゃない。
「酷いです! 私に断りもなく!」
「何言ってんだ、護ってやったんじゃないか」
「頼んでないから! 私は普通に恋人が欲しいんです!」
「それは止めねぇよ。ただし俺とセスさんのお眼鏡にかなったヤツ限定な」
何様だこのウンコ。
「そんな悠長なことしていたらあっという間におばあちゃんですよ! 私の年齢解ってます? もう25なんですよ! 私は叶うなら結婚も出産もしてみたいんです。のんびりしていられないんです!!」
庶民女性の結婚平均年齢は二十代半ば。正に今だというのに、私には婚約者どころか交際している相手すらいない。貴族の令嬢に至っては十代で嫁ぐことも珍しくない。
「そんな焦らんでも、運命の相手はフラっと現れるもんさ。俺の余裕を見習え」
「先輩の馬鹿ぁぁぁぁ!!」
もう一つの男の急所を狙って今度は蹴りを繰り出した。
「危ねっ!」
流石に不能になりたくなかったのか、ルパートは必死の形相で
「先輩は経験済みだから余裕なんですよ!」
「経験済みっておまえ……、えげつない表現はよせ」
「恋人が居たんだからヤルことはやってたんでしょ!?」
「ま、まぁ……」
「私の恋を妨害しておいて自分ばっかりズルい!! 私なんてキスすらまともにしたことないのに! エリアスさんが手の甲にしてくれたのが初キスなんだから!」
「そ、そうなのか……」
「抱きしめてくれた男性だって、お父さんとお
「え、さっきの俺をカウントしても四人だけなの? しかも半分家族かよ」
「そうですよ、悲惨でしょう!?」
「それは悲惨かも……」
おまけに全部恋とは関係が無い
「あなたとセス先輩が邪魔さえしなければ……」
ファイティングポーズでにじり寄る私からルパートは
私が放つ明確な殺気を感じ取ったルパートは命乞いをした。
「待てっ、落ち着け! 話せば解る! 復讐は何も生み出さないぞ!?」
問答無用で放った私の回し蹴りが逃げるルパートの腹部を
「いてっ! ……おまっ、腕を上げたな!?」
死ね。ただその感情のみが私を突き動かしていた。かわされたが、ムーンサルトキックを披露したところでルパートが白旗を掲げた。
「本当に悪かった、ごめんなさい! 俺にできることなら何でもしてやるから許してくれ!!」
「何でも……?」
私は
「あ、死ねとかそういうのは無しな。前向きなヤツで頼む」
ち。予防線を張られたか。
せっかくなので私は思案した。いつも人をこき使う側のルパートが、タダで何かをやってくれると言うのだ。乗らない手は無い。
「……では協力して下さい」
「協力? 何の?」
「もちろん私が恋人をつくる手助けですよ」
「ええ~?」
ルパートが嫌そうな顔をしたので、私は猫足立ちになって再び構えた。
「わ、解ったよ……協力する。具体的に何をしたらいいんだ?」
「合いそうだと思う男性を私に紹介して下さい。月一のペースで」
「ええ~? そんなに簡単にイイ男が見つかるかよ!」
「冒険者ギルドにはいろんな人が来るでしょう? その中からでいいので見つけて下さい」
「それならおまえにもできるじゃん」
私は雷を落とした。
「私がイイと思ってもあなたとセス先輩が邪魔するでしょう!? だったら最初っから先輩のお眼鏡にかなった男性を勧めて下さいよ!!」
「う……解ったよ、紹介する」
よし、契約完了だ。しおれたルパートは私に一つの質問をした。
「エリアスさんのことはいいのか? 別の男の紹介を望むってことは、エリアスさんとは付き合わないでいいんだな?」
「………………」
出会ってからずっと、エリアスは私を
「私は貴族制度についてよく知りません……。先輩はエリアスさんがこのまま、自由な冒険者をやっていられると思いますか?」
「……まず無理だろうな。下級貴族ならともかく辺境伯の息子だ。本人が
「そんな凄い世界で生きている人と、私とでは到底身分がつり合いませんよ」
「そこなんだよな……」
ルパートは頭を掻いた。
「この際認めるけど、エリアスさんはイイ男だと思うよ。おまえに好意を示してもガツガツせず、一定の距離を保つ理性と礼儀を持っている。こそこそ覗きをしたり下着を盗ろうとする野郎達とは全然違う」
比較対象が酷過ぎる。
「何と言ってもおまえを護れる強さが有る。あの人が一般人であったなら、俺はおまえを任せていいと思ったかもしれない。でもさ、彼はモルガナンの姓を持つ男なんだ。だから邪魔をした。本気で恋をしたらおまえが傷付くだろうって」
ルパートは本気で私を心配してくれているようだ。これまでのウザイ行動は全て、彼なりの親愛の現れだったのだ。でもここからは見守る愛にシフトチェンジして欲しい。
「先輩が貴族の名前に詳しいのは元聖騎士だからですか?」
「まぁな。座学で国内外の有力貴族の名前は頭に叩き込んだ。パーティに招かれて実際に目通りもしたしな」
貴族と面識が有ったのか。考えてみるとルパートも凄い男なんだよね。こんなブラックな職場に居てはいけない人なのかもしれない。
「う~ん……、エリアスさんを除いて今現在イイと思う男は……、ルービックさんくらいかなぁ」
「ルービック……、どなたでしたっけ? お名前には聞き覚えが有るんですが」
「アンダー・ドラゴンの本拠地を制圧する師団の司令官だよ」
ああ、午前中の会議で挙がった名前だった。
「聖騎士の先輩でしたっけ?」
「そう。でっち上げられた俺の醜聞が広まった時、俺を信じて噂を打ち消そうと動いてくれた数少ない内の一人だ」
「良い先輩だったんですね」
「うん。縁談が持ち込まれて、若い頃に貴族の令嬢と結婚したんだけどな……」
「既婚者ですか!? 不倫はしたくないです!」
「最後まで聞け。結婚はしたけど四年で離婚したんだよ」
「あらら……。でももう別の方と再婚されてるんじゃないですか? 先輩が騎士団を抜けて八年経っているんでしょう?」
「俺が在籍中にもう結婚はしたくないとか言っていたから、今も独身なんじゃないかな?」
独身か……。ちょっと興味が湧いてきた。
「ちなみに……離婚理由は?」
「性格の不一致。ルービックさんは優秀で猛スピードで出世したけど、俺と同じ庶民の出なんだよ。それで貴族の奥方とは、生活様式や根本的な考え方とかが合わなかったみたいだ」
私なら同じ庶民同士、話は合うかもしれない。話はね……。
「子供ができる前に別れたからルービックさんは身一つだ。聖騎士で師団長。離婚歴を差し引いても超優良物件だと思うぞ?」
「相手に不満は有りません。素晴らしい方だと思います。でも私には隣に立つに相応しい地位もスキルも有りません。師団長の恋人の座を狙うなんてあまりにも図々しいのでは?」
「気さくな人だから気負わなくて大丈夫だぞ? 今度の任務で顔合わせするかもしれないから、まぁ、気負わず会うだけ会ってみたら?」
そうか。お見合いじゃないんだから気負わなくていいのか。
「そ、そうですね、会うだけなら……。あ、ルービックさんっておいくつなんですか?」
「確か今年43歳」
おい。私を子供のように思っている(らしい)二人の子持ちのセスと同い年じゃないか。