六幕 アジトを探れ!(3)
文字数 4,515文字
はーやく来い来い連絡係。長い時間待ち続けたくないな。退屈なのもそうだけど、男性の中に女性一人だと用足しに行きづらいんだよね。これは切実な問題だ。
長時間の出動では途中でトイレ休憩が挟まれる。パートナーに周辺を警戒してもらう中で、交代で見えない所で用を足すことになるのだけど……。ちょっとでも戻るのに時間がかかると、ルパートの馬鹿は嬉しそうに「ウンコ? ウンコ?」と囃 し立ててくる。マジで死ねよ。
「……新しい奴が来た」
監視当番のエンが望遠鏡を覗きながら知らせた。
「まだ若い男。でも立ち振る舞いがチンピラとは違う」
「連絡係か?」
ルパートもエンから渡された望遠鏡で確認した。
「あーなるほど、あれは三下 のチンピラじゃねーわ、相当な使い手だな。連絡係かどうかは判らねーが、アンドラの組織でそれなりの地位にいる奴だろうな」
「多少の情報は持っていそうですね。どうしますか? このまま観察を続けますか?」
「いや、それだと動きが出るまで時間がかかりそうだ。夜になると地の利が無いこちらが不利になる」
「ではアジトにお邪魔してお話を伺いましょう」
キースの言い方は丁寧だが、要はアジトに突入して力技で相手をねじ伏せる、そういう意味である。
「私もそれがいいと思う。外に居る男達が四人。小屋の中にも誰か居るかもしれないが、あの広さで共同生活をしているのなら一人か二人だろう。これ以上人数が増える前に片づけた方がいい」
エリアスが上半身を前に倒して、背中に担いでいた大剣を抜いた。
「……凄い。アレを振るうのか」
扱いが難しそうな大剣をエンは感心したように眺めた。エリアスは凄いんだよ、重力無視であの重い剣をブンブン振り回すからね。銀色に輝く抜き身の刃が見る間に真っ赤に染まっちゃうんだから。
「ロックウィーナ、キミはここに残っていた方がいい」
「そうだな。おまえにはまだ無理だ」
立ち上がって戦闘準備をしようとした私は、エリアスとルパートの両方から止められた。
「え、でも……」
「相手はモンスターじゃねぇ、人間だ。場合によっては殺さなきゃならなくなる。悪党だろうが人殺しをおまえはできるのか?」
自信が無かった。モンスター相手の戦闘経験すら少ない私が、はたして先に鋼が付いた鞭を人間相手に打てるだろうか?
「エン、おまえは人を斬った経験が有るか?」
「有ります」
エン……まだ21歳なのに。落ち着いているルパートとエリアスも人を斬ったことが有るのか。
「よし。では俺とエリアスさん、エンの三人でアジトを奇襲する。残りの者はここで待機だ」
仕切るルパートにマキアが異を唱えた。
「俺も行けます! 奇襲組に加えて下さい!」
「場所が悪い。ここは林ん中で、あそこに在るのは丸太小屋だ。お得意の火魔法を使ったら一面大火事になるぞ?」
「あ」
マキアも残ることになった。
「んじゃ行ってくる。いい子で待ってろよ? キースさん、二人を頼むな」
「ええ。気をつけて」
襲撃組は身体を低くして、アジトの連中に気づかれないように接近を開始した。
「くそっ……! これじゃ一緒に来た意味が無いじゃんか!」
マキアが小声で感情を吐露した。そんな彼に私は声を掛けた。
「私も悔しいよ。訓練は欠かさないし七年間もギルドで働いているのに、実戦になるといつも後方に下げられるの」
マキアは私の方を振り返った。
「でも、待機組にだって役割は有るから。前衛がピンチになったらすぐに援護に出なくちゃ。その為に今は三人の動きをしっかり目で追うことにする」
マキアが頷いた。
「うん、そうだよね……」
そして彼はアジトの方角へ目を凝らした。
低姿勢でアジトに向かっていた襲撃組は、距離がだいぶ縮まったところで身体を起こしスビートを上げて、一気にアンダー・ドラゴン構成員の前に躍 り出た。
「うおっ!?」
驚いたチンピラくん達が武器を構える前に、エンが投げ付けた何かが彼らの肩に次々と刺さった。痛そうだ。
「……投げナイフ?」
呟いた私にマキアが解説した。
「あれはクナイと呼ばれる東方の武器だよ。エンは忍びと言う集団に属していたそうだ」
忍び? 知ってる、本で読んだ! 諜報活動も暗殺もできる戦闘のスペシャリストだって書いてあった。エンは忍者だったのか!! にんにん!
肩を押さえたチンピラ達の鳩尾 に、ルパートとエリアスが蹴りを叩き込んで沈めた。こっちも痛そう。
「畜生、冒険者ギルドの回し者か!?」
ただ一人、連絡係かもしれない男は投げられたクナイをかわして、腰の鞘 から自身の剣を二本抜いた。エンは投擲 をやめて残ったクナイをこちらも二本、両手にそれぞれ持った。
両者とも双剣使いらしいが、リーチの長さでは相手に分が有った。それが解っているのでエンは迂闊 に攻め込めず距離を測った。
「ふんっ」
二人の間に無粋に割り込んできたのは、強力助っ人エリアスの大剣だった。幅広な上に長くしかも一撃が重い。受け太刀をしたら確実に力負けするので、連絡係っぽい男は逃げ回るしかなかった。
暫定 連絡係はなかなかの身のこなしでエリアスの攻撃を避けていたが、そう長くはできないだろう。現にルパートが背後に回って退路を断とうとしていた。
「くっ……」
これは勝ったね、そう思った私の判断は甘かった。小屋の中に潜んでいたチンピラが飛び出してきて、あろうことかエリアスに向かって火炎瓶を投げたのだった。
ここ林の中ーーーー!!!!
ガシャン! …………ぼわん。
エリアスは難無くかわしたが、瓶は彼の背後の木に当たって割れた。瓶に入っていたアルコールのせいで、木は勢い良く炎に包まれた。
「あぁ!? やべッ!!」
投げた本人が一番アタフタしていた。だよね。早く消火しないと隣接するキミ達の家も燃えちゃうんだもんね。
襲撃組(この呼び名だとこっちが悪者みたいだ)が愚行を犯したチンピラを呆れた目で見ている間に、連絡係に見える男は私達の方へ向かって逃走した。アジトも仲間も捨てるつもりだ。
「そっちに行ったぞ、気を付けろウィー!!」
ルパートが叫びながら連絡係っぽい男の後を追ったが、男の脚は恐ろしく速かった。あっという間に私達の側まで来てしまったのだ。30歳ちょいの見た目をした男は嫌な笑みを浮かべて、見つけた私に近付いた。きっと人質にする気だ!
バァンッ!!
伸ばした男の手は見えない壁によって弾かれた。キースの障壁魔法だ。防御しかできないが相手を怯 ませるには充分だ。その隙に私の鞭がうなった。
バシュッ!
男の頬に赤い横線が引かれた。鞭の先が彼の皮膚を切り裂いたのだ。私を非戦闘員だと思って舐めていたでしょう? 出動時はお豆扱いだけど、訓練ではルパートにもセスにも時々マスターにもしごかれているんだぞ。
「このっ……小娘が!!」
激昂して私に双剣の切っ先を向けた男に、マキアが短く呪文を唱えて応戦した。
「炎の球 よ、彼 の者を撃て!」
二つの火球が空中で生まれて、連続で男を目掛けて飛んでいった。
「あちっ」
ファイヤーボールは男の肌を掠 めて大地に落ち、草木を燃やした。マキアとしたら我慢していたのにチンピラに火を放たれたので、もういいや俺もやっちゃえという心境になったのだろう。あちあちあち。火に触れていないのに熱い。至近距離の炎は凶器です。
男の背後を捉えたルパートが剣を振ったが、これもかわして男は再び逃走した。身のこなしはSランクだな。ルパートは私の元に留まり、エンが走って男を追跡した。エリアスは火炎瓶を投げたチンピラに当て身を入れて気絶させた後、小屋の中にまだ人が居ないか窺っていた。
「ウィー、斬られてないか!?」
引っ張って炎から遠ざけ、まず私の身を案じてくれたルパートにドギマギした。
「は、はい、無傷です。キース先輩が護ってくれて、マキアが追い払ってくれたので」
ふうっと安堵の息を吐いたルパートに、ありがとうを言うべきだろうか? 彼が私を妹のように慕ってくれているのは事実みたいだ。でも今までの経緯が有るから素直にお礼を言うのは照れ臭いんだよね。
あーだこーだ迷っているところに、肩を落としてエンが戻ってきた。
「すみません引き離されました。俺が走り負けるなんて……」
「それでいい、深追いは危険だ。奴 さんの脚は世界大会上位ランクだ。あの脚が有るからアンドラの連絡係に選ばれたんだろうから」
やっぱり連絡係で間違いなかったか。どう呼ぼうか苦労していたんだよね。奴を取り逃がしてしまったことは痛手になるな。
「おまえ達はエリアスさんに合流してくれ。キースさん、俺とアンタで火を何とか消そう」
「ですね。これ以上火が広がる前に魔法で何とかしましょう」
私達は指示通りエリアスの元へ行った。気を失っているチンピラ達の傷を止血した上で、後ろ手を縛って戦闘力を奪った。彼らは歩かせてフィースノーの街まで連れていき、駐留している王国兵に引き渡す。
ルパートは風魔法で、キースは障壁魔法で、炎の周囲の空気を遮断して消火活動に勤しんだ。可燃性の空気は温度を下げないと大きな爆発が起きるらしく、二人はとても慎重に作業していた。
「魔法はあんな風にも使えるんだな……」
「まぁな。補助系の魔法は攻撃力が低いけど、利便性は高いって魔法学校の先生が言ってた。まー賢さが無いと使いこなせないから、俺は単純な火魔法を選んだけど」
エンとマキアの会話を聞き流しながら、私は縛ったチンピラを見下ろして愚痴た。
「下っ端の構成員だけでは、また大した情報は手に入らないでしょうね」
あと少しだったのに。あそこで火炎瓶を投げる馬鹿さえ居なければ大物を捕まえられたのに。
嘆いた私にエリアスが優しく言った。
「そうとは限らないぞ? コイツらは本拠地の場所を知らないだろうが、知っているであろう連絡係と接触していた。奴の情報を引き出せれば一歩前進だ」
「ああ、そうですね!」
直結はしないかもしれないけれど、連絡係の素性を調べていくことで本拠地に近付ける可能性が有る。
「何はともあれ、今日もお互い無事で良かった」
グイっとエリアスは私を引き寄せた。完全に油断していた私はもちろん彼に抱きしめられた。今度は力加減をしてくれたらしく息苦しくなかった。でも気を遣うところはそこじゃない。
「おおぃ! 何してやがる!?」
十メートル先で消火活動をしていたルパートが怒鳴った。エリアスはしれっと答えた。
「友人同士の抱擁だ。気を散らせると魔法のコントロールを失って暴発するぞ」
「だったら俺の前でイチャつくんじゃねぇ!! いや、隠れてイチャつくのはもっと駄目だ!!」
「いやらしい表現はよせ。ただのフレンドリーシップだ」
ヤバイヤバイヤバイ。力加減が絶妙なので心地良い。このままエリアスに全てを委ねてしまいそうだ。足元がフワフワしてきた。
「フレンドリーシップ……。じゃあロックウィーナと友達になれた俺もやっていいのかな?」
「いい訳がないだろう」
便乗しようとしたマキアにエンが冷静に突っ込んだ。良かった、まともな感覚の人が居たよ!
四人のチンピラが倒れて火が燻 りルパートの怒号が響く林の中、エリアスはなかなか私を放してくれなかった。
長時間の出動では途中でトイレ休憩が挟まれる。パートナーに周辺を警戒してもらう中で、交代で見えない所で用を足すことになるのだけど……。ちょっとでも戻るのに時間がかかると、ルパートの馬鹿は嬉しそうに「ウンコ? ウンコ?」と
「……新しい奴が来た」
監視当番のエンが望遠鏡を覗きながら知らせた。
「まだ若い男。でも立ち振る舞いがチンピラとは違う」
「連絡係か?」
ルパートもエンから渡された望遠鏡で確認した。
「あーなるほど、あれは
「多少の情報は持っていそうですね。どうしますか? このまま観察を続けますか?」
「いや、それだと動きが出るまで時間がかかりそうだ。夜になると地の利が無いこちらが不利になる」
「ではアジトにお邪魔してお話を伺いましょう」
キースの言い方は丁寧だが、要はアジトに突入して力技で相手をねじ伏せる、そういう意味である。
「私もそれがいいと思う。外に居る男達が四人。小屋の中にも誰か居るかもしれないが、あの広さで共同生活をしているのなら一人か二人だろう。これ以上人数が増える前に片づけた方がいい」
エリアスが上半身を前に倒して、背中に担いでいた大剣を抜いた。
「……凄い。アレを振るうのか」
扱いが難しそうな大剣をエンは感心したように眺めた。エリアスは凄いんだよ、重力無視であの重い剣をブンブン振り回すからね。銀色に輝く抜き身の刃が見る間に真っ赤に染まっちゃうんだから。
「ロックウィーナ、キミはここに残っていた方がいい」
「そうだな。おまえにはまだ無理だ」
立ち上がって戦闘準備をしようとした私は、エリアスとルパートの両方から止められた。
「え、でも……」
「相手はモンスターじゃねぇ、人間だ。場合によっては殺さなきゃならなくなる。悪党だろうが人殺しをおまえはできるのか?」
自信が無かった。モンスター相手の戦闘経験すら少ない私が、はたして先に鋼が付いた鞭を人間相手に打てるだろうか?
「エン、おまえは人を斬った経験が有るか?」
「有ります」
エン……まだ21歳なのに。落ち着いているルパートとエリアスも人を斬ったことが有るのか。
「よし。では俺とエリアスさん、エンの三人でアジトを奇襲する。残りの者はここで待機だ」
仕切るルパートにマキアが異を唱えた。
「俺も行けます! 奇襲組に加えて下さい!」
「場所が悪い。ここは林ん中で、あそこに在るのは丸太小屋だ。お得意の火魔法を使ったら一面大火事になるぞ?」
「あ」
マキアも残ることになった。
「んじゃ行ってくる。いい子で待ってろよ? キースさん、二人を頼むな」
「ええ。気をつけて」
襲撃組は身体を低くして、アジトの連中に気づかれないように接近を開始した。
「くそっ……! これじゃ一緒に来た意味が無いじゃんか!」
マキアが小声で感情を吐露した。そんな彼に私は声を掛けた。
「私も悔しいよ。訓練は欠かさないし七年間もギルドで働いているのに、実戦になるといつも後方に下げられるの」
マキアは私の方を振り返った。
「でも、待機組にだって役割は有るから。前衛がピンチになったらすぐに援護に出なくちゃ。その為に今は三人の動きをしっかり目で追うことにする」
マキアが頷いた。
「うん、そうだよね……」
そして彼はアジトの方角へ目を凝らした。
低姿勢でアジトに向かっていた襲撃組は、距離がだいぶ縮まったところで身体を起こしスビートを上げて、一気にアンダー・ドラゴン構成員の前に
「うおっ!?」
驚いたチンピラくん達が武器を構える前に、エンが投げ付けた何かが彼らの肩に次々と刺さった。痛そうだ。
「……投げナイフ?」
呟いた私にマキアが解説した。
「あれはクナイと呼ばれる東方の武器だよ。エンは忍びと言う集団に属していたそうだ」
忍び? 知ってる、本で読んだ! 諜報活動も暗殺もできる戦闘のスペシャリストだって書いてあった。エンは忍者だったのか!! にんにん!
肩を押さえたチンピラ達の
「畜生、冒険者ギルドの回し者か!?」
ただ一人、連絡係かもしれない男は投げられたクナイをかわして、腰の
両者とも双剣使いらしいが、リーチの長さでは相手に分が有った。それが解っているのでエンは
「ふんっ」
二人の間に無粋に割り込んできたのは、強力助っ人エリアスの大剣だった。幅広な上に長くしかも一撃が重い。受け太刀をしたら確実に力負けするので、連絡係っぽい男は逃げ回るしかなかった。
「くっ……」
これは勝ったね、そう思った私の判断は甘かった。小屋の中に潜んでいたチンピラが飛び出してきて、あろうことかエリアスに向かって火炎瓶を投げたのだった。
ここ林の中ーーーー!!!!
ガシャン! …………ぼわん。
エリアスは難無くかわしたが、瓶は彼の背後の木に当たって割れた。瓶に入っていたアルコールのせいで、木は勢い良く炎に包まれた。
「あぁ!? やべッ!!」
投げた本人が一番アタフタしていた。だよね。早く消火しないと隣接するキミ達の家も燃えちゃうんだもんね。
襲撃組(この呼び名だとこっちが悪者みたいだ)が愚行を犯したチンピラを呆れた目で見ている間に、連絡係に見える男は私達の方へ向かって逃走した。アジトも仲間も捨てるつもりだ。
「そっちに行ったぞ、気を付けろウィー!!」
ルパートが叫びながら連絡係っぽい男の後を追ったが、男の脚は恐ろしく速かった。あっという間に私達の側まで来てしまったのだ。30歳ちょいの見た目をした男は嫌な笑みを浮かべて、見つけた私に近付いた。きっと人質にする気だ!
バァンッ!!
伸ばした男の手は見えない壁によって弾かれた。キースの障壁魔法だ。防御しかできないが相手を
バシュッ!
男の頬に赤い横線が引かれた。鞭の先が彼の皮膚を切り裂いたのだ。私を非戦闘員だと思って舐めていたでしょう? 出動時はお豆扱いだけど、訓練ではルパートにもセスにも時々マスターにもしごかれているんだぞ。
「このっ……小娘が!!」
激昂して私に双剣の切っ先を向けた男に、マキアが短く呪文を唱えて応戦した。
「炎の
二つの火球が空中で生まれて、連続で男を目掛けて飛んでいった。
「あちっ」
ファイヤーボールは男の肌を
男の背後を捉えたルパートが剣を振ったが、これもかわして男は再び逃走した。身のこなしはSランクだな。ルパートは私の元に留まり、エンが走って男を追跡した。エリアスは火炎瓶を投げたチンピラに当て身を入れて気絶させた後、小屋の中にまだ人が居ないか窺っていた。
「ウィー、斬られてないか!?」
引っ張って炎から遠ざけ、まず私の身を案じてくれたルパートにドギマギした。
「は、はい、無傷です。キース先輩が護ってくれて、マキアが追い払ってくれたので」
ふうっと安堵の息を吐いたルパートに、ありがとうを言うべきだろうか? 彼が私を妹のように慕ってくれているのは事実みたいだ。でも今までの経緯が有るから素直にお礼を言うのは照れ臭いんだよね。
あーだこーだ迷っているところに、肩を落としてエンが戻ってきた。
「すみません引き離されました。俺が走り負けるなんて……」
「それでいい、深追いは危険だ。
やっぱり連絡係で間違いなかったか。どう呼ぼうか苦労していたんだよね。奴を取り逃がしてしまったことは痛手になるな。
「おまえ達はエリアスさんに合流してくれ。キースさん、俺とアンタで火を何とか消そう」
「ですね。これ以上火が広がる前に魔法で何とかしましょう」
私達は指示通りエリアスの元へ行った。気を失っているチンピラ達の傷を止血した上で、後ろ手を縛って戦闘力を奪った。彼らは歩かせてフィースノーの街まで連れていき、駐留している王国兵に引き渡す。
ルパートは風魔法で、キースは障壁魔法で、炎の周囲の空気を遮断して消火活動に勤しんだ。可燃性の空気は温度を下げないと大きな爆発が起きるらしく、二人はとても慎重に作業していた。
「魔法はあんな風にも使えるんだな……」
「まぁな。補助系の魔法は攻撃力が低いけど、利便性は高いって魔法学校の先生が言ってた。まー賢さが無いと使いこなせないから、俺は単純な火魔法を選んだけど」
エンとマキアの会話を聞き流しながら、私は縛ったチンピラを見下ろして愚痴た。
「下っ端の構成員だけでは、また大した情報は手に入らないでしょうね」
あと少しだったのに。あそこで火炎瓶を投げる馬鹿さえ居なければ大物を捕まえられたのに。
嘆いた私にエリアスが優しく言った。
「そうとは限らないぞ? コイツらは本拠地の場所を知らないだろうが、知っているであろう連絡係と接触していた。奴の情報を引き出せれば一歩前進だ」
「ああ、そうですね!」
直結はしないかもしれないけれど、連絡係の素性を調べていくことで本拠地に近付ける可能性が有る。
「何はともあれ、今日もお互い無事で良かった」
グイっとエリアスは私を引き寄せた。完全に油断していた私はもちろん彼に抱きしめられた。今度は力加減をしてくれたらしく息苦しくなかった。でも気を遣うところはそこじゃない。
「おおぃ! 何してやがる!?」
十メートル先で消火活動をしていたルパートが怒鳴った。エリアスはしれっと答えた。
「友人同士の抱擁だ。気を散らせると魔法のコントロールを失って暴発するぞ」
「だったら俺の前でイチャつくんじゃねぇ!! いや、隠れてイチャつくのはもっと駄目だ!!」
「いやらしい表現はよせ。ただのフレンドリーシップだ」
ヤバイヤバイヤバイ。力加減が絶妙なので心地良い。このままエリアスに全てを委ねてしまいそうだ。足元がフワフワしてきた。
「フレンドリーシップ……。じゃあロックウィーナと友達になれた俺もやっていいのかな?」
「いい訳がないだろう」
便乗しようとしたマキアにエンが冷静に突っ込んだ。良かった、まともな感覚の人が居たよ!
四人のチンピラが倒れて火が