#31 - 傲慢②
文字数 2,118文字
年が明けて少したつと莉愛 から連絡が来て、KIYOTO が抜けたDOOMSMOON が昔馴染みのファンの為に、地元のライブハウスでの非公開の説明会を開くのでそこに招待された。
予定だったらもうメジャーデビューしている頃だった。
アタシは美雨 と一緒に参加した。美雨 にも莉愛 にも会うのは久しぶりだった。昔からのバンギャルやファンたちが久々に集合した。もちろんステージ上のDOOMSMOON を見るのも久しぶりだった。
いつものステージとは違って楽器はなく殺風景で、メンバーは私服と思われるような格好でパイプイスに座っていた。
「SHU は体調悪くて、欠席です。すみません」
マネージャーが伝えた。
彼は人前に出られない程落ち込んでいるのだと思うとやりきれなかった。
DOOMSMOON の活動休止について、それに至った経緯、今どんな状況なのかを主にリーダーが話した。どれも明るい話題ではなかった。
1ヶ月くらいたったが、アタシは結局まだこの事実を受け止めきれずにいる。溢れそうになる涙を必死でこらえたが、SHU を思うとこらえていた涙は少しづつ頬を伝った。静かにしくしくと泣く音があちこちから聞こえた。
ただでさえ黒い服装の多いバンギャルとファン達、まるでDOOMSMOON のお葬式のようだった。
その会合の帰り、アタシと美雨 は駅に続くコンコースにあるベンチで一息つくことにして横に並んで座った。
「アタシ、未だにショックで……」
アタシから話し出した。
「うん、そうだよね」
「まだDOOMS の曲聴く気にもなれないの。辛すぎて」
「私はだいぶマシになったよ」
いがいにも美雨 は落ち込んでいなかった。
「美雨 ちゃんは強いね、うらましいよ」
「強くなんかないよ、私……好きな人できたの」
予想外の答えでアタシは驚いて美雨 を見て聞き返した。
「嘉音 ちゃんも知ってる……あの……バンドの子と繋がったの……」
DOOMSMOON の後輩バンドでよく前座をしていたバンドのギタリストと関係を持ったと恥ずかしそうに彼女は答えた。
「まじで?」
「うん。結構幸せなの、今」
美雨 は彼らのライブにも何回か行っていたようで、これからも応援し続けるという。
アタシは言葉を失った。いつの間にかそんなことになっていたことにも驚いたが、彼女はDOOMSMOON のヴォーカル・U に夢中だったはずだ。なんでよりによってU が辛い時に美雨 は幸せなのだろうか。一緒に彼らを応援してきたはずなのに、裏切られたような気がした。
しばらく沈黙が続いた。やっぱりアタシは納得がいかない。
「美雨 ちゃんおかしいよ、U はいいの?U の事好きじゃなかったの?美雨 ちゃんの好きってそんな程度なの?!」
アタシはベンチから立ち上がって美雨 に向かって言った。涙が勝手にこぼれた。
「嘉音 ちゃん……」
美雨 はアタシを見ながら悲しい顔をした。
「美雨 ちゃんがそんな人だと思わなかった」
アタシはそう言ってその場を立ち去った。
矛盾している。アタシは解っている。アタシが美雨 に放った言葉はアタシ自身に向けた言葉だ。
SHU が辛い時、アタシも辛くて誠に甘えた。
『今幸せ』と言い切った美雨 の方がまともだ。ただ好きな人が変わっただけだ。
アタシはSHU のことを変わらず好きだし、誠のこともどうしたらいいか解らない。話題に出さないように逃げているだけで結論を先送りしてるだけだ。やはりSHU のことを考えてしまうし、すべてが中途半端で自分勝手なのだ。
結局、やり場のないモヤモヤを美雨 にぶつけてしまったのだ。
何度か美雨 に謝りのメールを送ろうとしたが、それも何故かできなかった。
美雨 から連絡は来なかった。
次の日の早朝、海まで行った。日曜日だったから学校では会えない誠に会うために。海から上がった誠はアタシを見つけてくれる。
ウエットスーツに身を包み右わきにサーフボードを抱え髪から水滴を垂らした誠がアタシの前に来ると「また何かあったのか」と言った。
「友達とケンカしちゃって……っていうか、アタシが一方的に悪いんだけど……」
込み上げてくる涙を抑えながら言うと
「そう」
と、誠の反応は意外と冷めていた。誠の変化に気づいたアタシの涙はピタリと止まった。
「おまえさ、なんかあった時以外オレのことどうでもいいじゃん」
核心を突かれたような気がした。誠のことをどう思ってるか自分でもよくわからないが、どうでもいいなんて思ってはいない。
「どうでもよくなんかないよ」
アタシは必至で誠に伝えた。
「オレはおまえを慰めるだけに存在してるんじゃねぇから」
「そんなふうに思ってないって」
「オレにはそう感じるの。もう寒 ぃから帰るわ、じゃぁな」
誠はアタシを置いて去って行った。
誠はアタシに優しくするのを辞めた。
アタシに絶対優しくしてくれると自信過剰だった。
アタシの中途半端や自分勝手な行動で彼を傷つけていたのかもしれない。
アタシはなんて最低で最悪な人間なのだ。
アタシは美雨 も誠も失った。
DOOMSMOON もいない。自分の器量に合わずいろいろ求めた結果、すべてを失ったのだ。アタシは求めすぎたのかもしれない。
こんな最低なアタシはやはり独りでひっそりと生きていくべきだったのだ。
北風の冷たい砂浜にただ立ち尽くした。
やはり海は嫌い。
予定だったらもうメジャーデビューしている頃だった。
アタシは
いつものステージとは違って楽器はなく殺風景で、メンバーは私服と思われるような格好でパイプイスに座っていた。
「
マネージャーが伝えた。
彼は人前に出られない程落ち込んでいるのだと思うとやりきれなかった。
1ヶ月くらいたったが、アタシは結局まだこの事実を受け止めきれずにいる。溢れそうになる涙を必死でこらえたが、
ただでさえ黒い服装の多いバンギャルとファン達、まるで
その会合の帰り、アタシと
「アタシ、未だにショックで……」
アタシから話し出した。
「うん、そうだよね」
「まだ
「私はだいぶマシになったよ」
いがいにも
「
「強くなんかないよ、私……好きな人できたの」
予想外の答えでアタシは驚いて
「
「まじで?」
「うん。結構幸せなの、今」
アタシは言葉を失った。いつの間にかそんなことになっていたことにも驚いたが、彼女は
しばらく沈黙が続いた。やっぱりアタシは納得がいかない。
「
アタシはベンチから立ち上がって
「
「
アタシはそう言ってその場を立ち去った。
矛盾している。アタシは解っている。アタシが
『今幸せ』と言い切った
アタシは
結局、やり場のないモヤモヤを
何度か
次の日の早朝、海まで行った。日曜日だったから学校では会えない誠に会うために。海から上がった誠はアタシを見つけてくれる。
ウエットスーツに身を包み右わきにサーフボードを抱え髪から水滴を垂らした誠がアタシの前に来ると「また何かあったのか」と言った。
「友達とケンカしちゃって……っていうか、アタシが一方的に悪いんだけど……」
込み上げてくる涙を抑えながら言うと
「そう」
と、誠の反応は意外と冷めていた。誠の変化に気づいたアタシの涙はピタリと止まった。
「おまえさ、なんかあった時以外オレのことどうでもいいじゃん」
核心を突かれたような気がした。誠のことをどう思ってるか自分でもよくわからないが、どうでもいいなんて思ってはいない。
「どうでもよくなんかないよ」
アタシは必至で誠に伝えた。
「オレはおまえを慰めるだけに存在してるんじゃねぇから」
「そんなふうに思ってないって」
「オレにはそう感じるの。もう
誠はアタシを置いて去って行った。
誠はアタシに優しくするのを辞めた。
アタシに絶対優しくしてくれると自信過剰だった。
アタシの中途半端や自分勝手な行動で彼を傷つけていたのかもしれない。
アタシはなんて最低で最悪な人間なのだ。
アタシは
こんな最低なアタシはやはり独りでひっそりと生きていくべきだったのだ。
北風の冷たい砂浜にただ立ち尽くした。
やはり海は嫌い。