＃２８ － 受難②
文字数 1,917文字
被害者の女性は、バンギャルの中では密かに知られていたKIYOTO の彼女だ。別のバンドの女性ヴォーカルでアタシも何度か観たことがある。
ヴォーカルとギターなんてかっこいいカップルだと思っていたが、事情はわからないがこんなことになってしまうなんて残念だった。これも“恋愛”のもつれだろうか。“恋愛”という怪物はどこにでも諍 いを作り出して手に負えない。
アタシはますますそれから遠ざかった気がした。
学校が終わる時間になっても新しい情報は出てこなかった。いろいろな事が気になってしかたないが、情報を待っていても今日はらちが明かない気がしてマンガ喫茶から出て塾へ向かった。父が塾へ迎えに来てしまうので塾はサボれなかった。歩いている途中で学校を終えた美雨 から電話が来たが、今度は逆にアタシの塾の時間が迫っていて、あまりゆっくり話せなかった。
『多分、デビューなくなるよね……』
美雨 が小さな声で言った言葉が何度も頭の中で繰り返した。
それはあまりにも辛すぎる。アタシにとっても、バンギャルにとっても、何よりDOOMSMOON のメンバーにとっても。
『がんばろうね』
電話を切る間際に言った美雨 の言葉が心を打った。
塾を終え迎えに来た父の車に乗り、早速メールをチェックした。美雨 からのメッセージだった。
＜公式サイト更新されてるよ。長文だから、メールでは送れないけど塾終わったら見て。ショックが強すぎてメールに書ききれない＞
携帯ではサイトにアクセスできなかった。公式サイトは重くて開かない。
＜わざわざありがとう。もうすぐ家だから、着いたら見るね＞
と、美雨 に返信するとすぐ返事が来た。
＜今日眠れそうにないから、さっき眠剤飲んで、私先に寝ちゃうと思う。明日も学校ハードでさ＞
＜飲みすぎちゃだめだよ。それなら明日また放課後だね＞
＜敵量しか飲んでないから心配しないで。また明日ね＞
何度かメールを往復して美雨 からの連絡は途絶えた。
美雨 はなんとかがんばっていた。
バンギャル仲間からのメールに紛れて誠からメールが来ていた。
１通目を無視してしまったので、２通目には
＜また避けてんの？＞
と、書かれていた。
＜避けてないよ。ちょっと具合悪かった＞
念のために返信しておいた。
ウチに戻りラップトップで何度も公式サイトにアクセスし、やっと開いたそこには美雨 が言った通り長文の文章が掲載してあった。
KIYOTO は容疑を認めているためレコード会社から解雇。
メンバーの合議の末、デビューの話は撤回。
それに連なって予定されたライブやイベント、番組出演、CDリリースなどはすべて中止。
と、いうレコード会社からの発表だった。
その下にリーダーからのメッセージも出ていた。
この報を受けて、僕らは何時間も話し合いました。
まずは、被害者の方の１日も早い回復を祈っております。
結論から申し上げると、まだ何も決まっていない、未確定です。
KIYOTO は大切な仲間ですが、罪を犯したことを見過ごすわけにはいきません。
現段階ではレコード会社の判断を支持します。
長年一緒にやってきたバンドメンバーが急に脱退することに至り、あまりにも想定外だった事が起き、僕らはこのままバンドを続けるべきなのかさえわかりません。
もう少しお時間をいただいて残されたメンバーで話し合いを続けたいと思います。
何かお伝えできるその時まで、DOOMSMOON は活動休止させていただきます。
何かの間違いであってほしいとアタシはニュースサイトで確認した。
活動休止がニュースになっていた。やはり本当にバンドは活動休止してしまうのだ。
それと新事実として、現場のマンションの家宅捜査で薬物が発見され、KIYOTO は尿検査を経て使用を認め、別件でも逮捕となった。
KIYOTO を含めたバンドの復活はもうないだろうと思った。
アタシはあまりにも悲しい文章と出来事に涙が止まらなかった。
ボトボトと音を立てて机に涙が落ちる。
もうライブを観られない、SHU のベースをプレイする姿は観られない、彼らの音楽を聴けない、絶望しかなかった。
今SHU はどんな気持ちだろう。どんな風に過ごしているのだろう。
想像も及ばなかったが、アタシ以上に悲しい気持ちであることは間違いないだろう。それを思うとアタシは切なくて、涙が止まらなかった。
生きる気力を失ったアタシはお風呂にも入らず、服を脱ぎ散らかしスウェットに着替えそのまま布団をかぶって泣き続けた。いつも聴いていたDOOMSMOON の曲を聴く気にもなれず、寝る前につけるラジオもつけず、ひたすら泣いた。
アタシを救ってくれたDOOMSMOON が今度はアタシを奈落に突き落とした。
アタシはこれからどうやって生きて行けばいいのだろう。
ヴォーカルとギターなんてかっこいいカップルだと思っていたが、事情はわからないがこんなことになってしまうなんて残念だった。これも“恋愛”のもつれだろうか。“恋愛”という怪物はどこにでも
アタシはますますそれから遠ざかった気がした。
学校が終わる時間になっても新しい情報は出てこなかった。いろいろな事が気になってしかたないが、情報を待っていても今日はらちが明かない気がしてマンガ喫茶から出て塾へ向かった。父が塾へ迎えに来てしまうので塾はサボれなかった。歩いている途中で学校を終えた
『多分、デビューなくなるよね……』
それはあまりにも辛すぎる。アタシにとっても、バンギャルにとっても、何より
『がんばろうね』
電話を切る間際に言った
塾を終え迎えに来た父の車に乗り、早速メールをチェックした。
＜公式サイト更新されてるよ。長文だから、メールでは送れないけど塾終わったら見て。ショックが強すぎてメールに書ききれない＞
携帯ではサイトにアクセスできなかった。公式サイトは重くて開かない。
＜わざわざありがとう。もうすぐ家だから、着いたら見るね＞
と、
＜今日眠れそうにないから、さっき眠剤飲んで、私先に寝ちゃうと思う。明日も学校ハードでさ＞
＜飲みすぎちゃだめだよ。それなら明日また放課後だね＞
＜敵量しか飲んでないから心配しないで。また明日ね＞
何度かメールを往復して
バンギャル仲間からのメールに紛れて誠からメールが来ていた。
１通目を無視してしまったので、２通目には
＜また避けてんの？＞
と、書かれていた。
＜避けてないよ。ちょっと具合悪かった＞
念のために返信しておいた。
ウチに戻りラップトップで何度も公式サイトにアクセスし、やっと開いたそこには
メンバーの合議の末、デビューの話は撤回。
それに連なって予定されたライブやイベント、番組出演、CDリリースなどはすべて中止。
と、いうレコード会社からの発表だった。
その下にリーダーからのメッセージも出ていた。
この報を受けて、僕らは何時間も話し合いました。
まずは、被害者の方の１日も早い回復を祈っております。
結論から申し上げると、まだ何も決まっていない、未確定です。
現段階ではレコード会社の判断を支持します。
長年一緒にやってきたバンドメンバーが急に脱退することに至り、あまりにも想定外だった事が起き、僕らはこのままバンドを続けるべきなのかさえわかりません。
もう少しお時間をいただいて残されたメンバーで話し合いを続けたいと思います。
何かお伝えできるその時まで、
何かの間違いであってほしいとアタシはニュースサイトで確認した。
活動休止がニュースになっていた。やはり本当にバンドは活動休止してしまうのだ。
それと新事実として、現場のマンションの家宅捜査で薬物が発見され、
アタシはあまりにも悲しい文章と出来事に涙が止まらなかった。
ボトボトと音を立てて机に涙が落ちる。
もうライブを観られない、
今
想像も及ばなかったが、アタシ以上に悲しい気持ちであることは間違いないだろう。それを思うとアタシは切なくて、涙が止まらなかった。
生きる気力を失ったアタシはお風呂にも入らず、服を脱ぎ散らかしスウェットに着替えそのまま布団をかぶって泣き続けた。いつも聴いていた
アタシを救ってくれた
アタシはこれからどうやって生きて行けばいいのだろう。
