第13話 コネや推しも実力のうち

文字数 1,274文字

『花形部署』に勤め始めて二か月が過ぎた。
誰でもそうであるように、初めての場所で初めての業務ゆえ、毎日が必死でこの二か月はあっという間だった。
月の途中入社で、だから最初の給料は十一日分だったが、それが前部署の一か月分とほぼ同額だったことに驚いた。
同じ会社なのに、部署によってこんなに給料が違うなんて。
もうすぐ二回目の給料が出る。
今回から規定日数勤務した分が支給される。
おそらく前部署の倍近い金額になりそうだ。
改めて、手を差し伸べてくれた管理者に感謝したい。
実のところ、こういった反則的な入社はまず潰されるそうだ。
まあ、それはそうだろう。
再入社の場合、前部署に採用担当チームから打診があるそうだ。
どんな人物なのか、仕事ぶりはどうだったか、なぜいったん辞めたのか。
色々と聞き取り調査される。
そこで前部署の管理者が少しでも悪く言えば、再入社の芽は摘まれる。
過去、九割の人は駄目になっているそうだ。
前部署の管理者に良く言われる人は本当に稀、とのこと。
私は無事、採用された。
前部署の仲良しさんから聞いたのだが、採用担当チームからの打診に良い返事をしてくれていたそうだ。
有難い、本当に有難い。


その仲良しさんから追加で聞いた話だが、私がこの花形部署に再入社したこと、しかも退職手続きをした三日後に応募してすぐに採用されたことに対して、かなりのブーイングが起きたらしい。
「ずるい!」
と。
「やり方が汚い」
と。
多少言われるだろうなとは思っていたが、そんなに言われるとは思わなかった。
正直、傷ついた。
そのブーイングに対して、私を送り出してくれた前部署の管理者が言ってくれたそうだ。
「羨ましかったら、あなた達も日ごろから管理者とコミュニケーションを取って、良好な関係を築いたらどうですか?」
と。
そうだ。本当にそう思う。
確かに前部署の管理者は良い人ではない。
でも、全員に酷い態度や仕打ちをするわけでもない。
最初に酷い態度で接したのはみんなの方だ。
気に入らない、と。管理者のくせに好き放題し過ぎだ、と。
昼休みは毎日管理者の悪口大会だった。
しかも聞こえるように言っていた。
そこまで酷く言うのはどうかと思い、たしなめたら、
「あなたは騙されている」
「いいように使われている」
と、言われた。
確かにそこは否定できない。
私はお世辞やオダテ言葉に弱い。
すぐその気になってしまう。
そしていつもいいようにこき使われる。
それで嫌気がさして辞めたりしてきた。
花形部署に行きたかったのも、割に合わないと思っていたからなのは本当だ。
あとは、みんなの止めどない悪口を聞きたくなかったから。
みんなは不平不満を管理者の悪口を言う事で発散していた。
それはそれで仕方がないことだし、ガス抜きは大事だ。
ただ、あからさますぎた。
止める私は異端児扱いだった。
でも、結果はどうだ?
私はいま、無事に花形部署に再入社できた。
何と言われようが、これは事実だ。
酷いと言われる管理者とも、手を差し伸べてくれた管理者とも、この五年間ずっと良好な関係を築いてきたからだ。

ブーイングをするみんなに言いたい。
「コネや推しも実力のうち」
だと。
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