第7話 図書カードと妄想

文字数 1,061文字

仕事から帰ってポストを覗いたら、封書が2通届いていた。
中にはどちらも、挨拶分とともに図書カードが入っていた。
合計1万円分。
先の川柳入選分とは別で、雑誌掲載分の謝礼だった。
数ヶ月前に掲載されていた分で、すっかり忘れていたから余計に嬉しい。
臨時収入として、1万円分はとても有難い。
図書カードを手に取りながら、凝りもせず、私の中でまた妄想がムクムクと広がる。
あと1つ0が多ければ、それが毎月手にできれば、などという夢想。
そもそも、掲載されなければ手にできないもので、掲載されるためには書くしかない。
打率9割と宣うくせに、私は定期的には書かない。
書けない、というより、書かない。
気分が乗らないのだ。
書こうという気持ちを、怠け心が邪魔をする。
特に締め切りがあるわけでもないから、余計に。
特にこの1年は、ほとんど書いていない。
賞金数万円から10万円クラスに応募していない。
なんだろう。
書きたい気持ちが沸き上がるタイミングが悪いとでも言おうか。
大体において、そういう気持ちが起こるのが、お風呂に入っている時。
シャワーを浴びている最中に、もの凄い名文が思い浮かぶ。
で、お風呂場から出ると、大半を忘れてしまう。
あとは、通勤電車の中。
座席に座って目を瞑っていると、素晴らしい文章が次々に浮かんでくる。
「おお、これは!」
と、心が躍る。
すぐさま電車を降りて部屋に引き返し、パソコンに向かいたい衝動に駆られたりする。
でも、そうできるわけもなく、渋々会社に行って仕事して帰ってくると、浮かんでいた文章は思考の彼方に消えてしまっている。
書きたいときに書けないもどかしさが、怠け心と手を繋いで私をパソコンから遠ざける。
浮かんでいた文章が勿体ないなと思う。
勢いで書くので、浮かんだ文章が頭の中に残っていない。
だから、定期的な収入を望むのなら、働くしかない。
書きたいなら、働きたくない。
乗せた天秤はいつも、書くことが負ける。
書くことと定期的な収入が結びつかない。
知ってる。
もうそれは、十分に知っている。
諦めていると言う方が正しいかもしれない。
いまは、このサイトがあるから、ここに徒然に書いていければ幸せだ。

本気でそう思っているのに、たまにこうして図書カードなり現金なりを手にできたときは、凝りもせず妄想がムクムクと心の中に広がってしまう。
もしかしたら。
いや、もしかしたら、なんて無いんだけれど。
無いことを想像するから、妄想。
分かっているけど、広がる妄想。

ま、今日、明日くらいは、この妄想に浸ってもいいかな。
自分の文章が得た臨時収入に、ホクホクしてもいいかな。


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