第6話 辞めたい病

文字数 1,565文字

きた。
定期的にやってくるこの気持ち。
会社辞めたい病。
働きたくない病。
「みんなそうだよ」
と言われるときがあるけれど、私のこの病はレベルがかなり上だと思う。
心底、会社辞めたい、仕事辞めたい。
もっと言えば、部屋から出たくない。
私は、自分がニート・引きこもり体質なのを知っているので、いま心にはびこってきたこの病の対処に困っている。
なんとか律しないと、引きこもりの闇に引きずり込まれてしまいそうだ。
休日は存分に引きこもれる分、仕事の朝は本当に辛い。
週に5日も働くなんて、拷問だ。
週2日くらいの労働でどうだろうか?
週休5日なら最高だと思う。
完全に働かなくなると、私は多分、女でなくなる。いや、人でなくなりそうだから、週に2日だけ働きに出るというのがちょうどいい。
週に2日だけ、着替えて化粧して出社する。
週に2日だけ、頭を使う。
週に2日だけ、人と話をする。
夢のようだ。
いや、間違いなく、ただの夢。妄想。
実現不可能。
もしかしたら、そうできる人はいるかもしれないけれど、私には無理。
根本的な問題として、そうできるだけのお金がない。
絶望的に、お金がない。
まさに『働かざる者、食うべからず』だ。
頭では分かっているが、心がもの凄く働くことに拒否反応を示している。
定期的にやってくる、この病。
厄介だ。
思えば子供の頃から、この病が私の心の中に巣くっていた。
子供の頃は、とにかく学校に行きたくなかった。
今と同じように、部屋に引きこもっていたいと毎日思っていた。
思うだけではなく、実際にどれだけ学校をずる休みしたことだろう。
行かなければならない時に部屋に居る心地よさは、味わってしまうともう抜け出せない。
自覚はないが、親をはじめ私をよく知る人たちから、
「怠け者。面倒くさがり」
と、評される。
自分では治せない、どうしようもない生態。
だから、これは病なんだと思う。
この病には波があって、いま、ビッグウエーブがきてしまっている。
働くことが好きな人を、仕事が生きがいと言う人を尊敬してしまう。
私には生まれない思考。

でも、この病に効く薬があることも知っている。
5年前には、劇薬を味わった。
5年前、転職活動につまづいた。
あの時は、本当に焦って焦って、もがき苦しんだ。
仕事が決まらないことが、あんなに辛いとは思わなかった。
自分自身に市場価値がないことを突き付けられて、働けるならどこでもいいと思った。
働きたくない病など、どこかに吹っ飛んでいた。
今の会社に何とか転職できた時は、心底ホッとした。
どんな内容だろうと、仕事を頑張ろうと思った。
実際、この5年間そうしてきた。
慣れない仕事を続け、業務外の部署に応援にも行った。
理不尽な扱いにも耐えた。
ここを蹴ったら、後がないことを知っているから。
またあの地獄を味わうのは御免だから。
この5年間、ずっと劇薬が効いてくれていたが、ここにきて、その効力が切れてきた。
「もう、いいやん」
と、思う。
「もう、辞めていいやん」
と、病が私に囁く。
業務に飽きてきたから。
人間関係に疲れてきたから。
今なら、円満に辞められるだろう。
前の職場の時のように、追われるように辞めたくない。
惜しまれて辞めたい。
「ならば、今そうすべきだ」
と、病が私をそそのかす。

昨日、こんな私のために薬が届いた。
毎月届く特効薬が、今回は数日早く届いた。
給料明細。
働いた分の対価。
先月は特に勤務日数が多かったから、この5年間で一番多い金額だった。
嬉しいという思いが、病をギュッと抑え込んだ。
まさに、
「現金な奴」
だ。
会社を辞めない限り、毎月手にできるお金。
病を抑え込める、特効薬。
今月、こんなに早く届いた不思議。
私を止めているのか?
辞めてはいけないと、病に負けてはいけないということなのか?

どんな形でも、薬はやはり、にがいもの。
にがくて、でも確かなもの。
1か月間、効いてくれますように。



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