第9話 『かまってちゃん』の悪循環

文字数 1,913文字

今日もまた、執務室に彼女の声が響きわたる。
「あ~、それは、ですね~!」
はあ。
「あ、それは私が~!」
あ~、うるさい。
毎日毎日、存在感たっぷり。
何かにつけて、首を突っ込んでくる。
なんにでも、知ったかぶりを発揮する。
先輩相手にも上から物を言い、後輩相手だと何様?なくらいに高圧的。
どこかの部署で問題が起これば、聞き付けてすぐさま駆けつける。
そして、
「これはですね~ 」
と、うんちくをたれながら、上から目線で説明を始める。
その説明が合っていればまだ一万歩譲ってやれるが、まあまあの割合で間違っているから始末に悪い。
彼女の声はデカくてよく通るので、離れた座席に居る私の耳に届いてしまう。
できる限り、本当にできる限り無視を心がけているものの、明らかに間違った説明を堂々と披露されると、ムカつき気分がマックスになり、
「それ、違うから」
と、言わざるをえない。
彼女の知ったかぶりが間違っていることが多いのは周知の事実なので、大半の人は私や他の管理者に問うのだけれど、そもそもそれが、彼女には面白くない。
「もっと自分を見てほしい」
「もっと自分を称賛してほしい」
彼女の飢えた心が、さらに態度と声を大きくする。
そう、彼女は承認欲求の塊。
見本のような『かまってちゃん』なのだ。
おそらくこれまでの彼女の人生において、彼女は望むようには注目されてこなかったのだろう。
どちらかと言えば、疎まれる、もしくは距離をおかれてきたのだと思う。
実際私は日々、彼女と関わりを持たぬよう、話かけて来られないようにしている。
面倒くさいから。
とりあえず、彼女と話をするのが面倒くさいのだ。
「私、私」
で、話が終始するし、ちょっとでも油断すると、すぐにマウントを取ってくる。
実績があるわけでもないのに。
一体何を根拠に?と思うくらい、彼女はすぐにマウントを取ってくる。
全くもって腹立たしい。
それは、他の人もみな同じ。
だから彼女を遠ざけようとする。
そして、そうすればするほど、彼女はみなの周りを徘徊し、関わろうとする。
彼女の承認欲求が満たされないからだ。
私は彼女の空回りしている振る舞いを見ながら、思わずにはいられない。
自分が人から注目されるに値するだけの容姿や能力がない事を、なぜ彼女は理解できないのだろう?と。
毒を承知で言わせてもらうが、女性と言えど低身長な上に、体重90キロあると自ら公言している体格。
この一点だけでも、周りから称賛の目は得られないと思うのだが、加えて眼鏡に化粧なし。
美容室は苦手だそうで、前髪は自分でカットし、他は伸ばしてゴムで束ねている。
体重90キロもあるから、服装にオシャレさはなく、着られるサイズのものを着ている。
基本はデロンとした、マタニティドレスのようなワンピース。
太っているから、ご多分に漏れず汗っかきで、だから常に前髪が濡れて額に張り付いている。
これでも彼女いわく、
「ダイエット頑張ったんです~。20キロ痩せたんですよ~」
だそうだ。
で、
「ダイエット方法、お教えしましょうか?」
と、のたまう。
あ~、しばきたい。
姿見ないのかな?
こう思うのは私だけはないはずだ。
みんな、
「はあ?」
と、思うだろう。
だからこそ、これまで彼女は誰からも注目されず、むしろ疎まれてきたのだろう。
ゆえに、彼女の中でどんどん承認欲求が膨れあがってしまって、今に至るのだろう。
彼女の心が飢えれば飢える分だけ、彼女の行動や態度は空回る。
彼女の、
「私を見て!」
という思いが溢れれば溢れるほど、彼女は周りから、
「かまわれない」
のだ。
まさに、悪循環。
黙っていればいいのに。
控えめにしてればいいのに。
満たされない思いが、今日も彼女を突き動かし、ますますかまってもらえない。
たまに、そんな彼女を憐れに思って相手をしてあげている同僚たちもいる。
私は心の中で、
「やめておけばいいのに」
と思いながら、その輪から意識的に距離を取る。
せっかく相手してもらっているのだから、少しは謙虚に振る舞えばいいのに、彼女はやっぱりマウントを取ろうとするから、結果、同僚たちから反感を買って離れられてしまう。
彼女の態度に怒った同僚たちが、私に愚痴りに来たりする。
「そういえば、あなたの所には彼女は来ないわね」
と、先日問われた。
当然である。
来ても、私は相手にしない。
ひと睨みするだけだ。
『かまってちゃん』への撃退法は、そもそも相手にしないこと。
これに尽きる。
『かまってちゃん』をかまわないことが、一番の防衛だ。
さらに言えば、人にかまってほしければ、そもそも『かまってちゃん』にならないことだ。
『かまってちゃん』になればなるほど、かまわれなくなる。
疎まれる。
それが分からない彼女は今日もまた、悪循環から抜け出せずに空回る。


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