第10話 松坂大輔と私

文字数 2,054文字

たいそうなタイトルを付けたが、平成の怪物・松坂大輔投手と私に接点があるわけでなない。
もちろん一面識もない。
画面を通して一方的に私が松坂投手を知っているだけだ。

松坂投手の凄さを語るのは今さらだけれど、それでもやはり彼が高校三年生だったあの夏の甲子園での力投は、永遠に語り継がれるに値すると思う。
特に準々決勝戦。PL学園との一戦は素晴らしかった。
テレビ画面に釘付けになるほどの熱戦だった。朝一番の試合だったのに、お昼ごろまでかかった。
延長につぐ延長。
両校の選手たちの熱意が成しえた試合だが、やはり松坂投手の力投があったればこその結果だったと思う。
飄々とした佇まいなのに熱い投球をする松坂投手。
スピード・コントロール、どちらもずば抜けていた。
凄い投球だと思った。当時、私の知る限り歴代ナンバーワンの投手だった。
いや、いまでもそう思う。
松坂投手は間違いなく平成の怪物。
本当に素晴らしい投手だった。
努力では追いつけない、補えないものを彼は持っていた。
才能。
ずば抜けた才能が、松坂投手にはあった。

が、しかし。
松坂投手には、残念なオマケが付いていた。
『怠け者』というオマケ。
松坂投手は高校生のころ、チームメイトからこう呼ばれていたらしい。
「さぼりの松」
まさに松坂投手を象徴しているあだ名だ。
誰よりも恵まれた才能を持っているのに、いや、才能があるがゆえに、松坂投手は自分の怠け心に甘んじていた。
体型もどんどん変わり、球速も落ちた。
それに付随して世間からの、もちろん球団からの評価もどんどん落ちた。
それでも彼は変わらなかった。努力しなかった。
正しくは、非難されてこれではいけないと少しだけ努力すると、すぐまたそこそこの球が投げられるから、そこでまた努力を止めてしまうのだろう。
才能が、少しの努力だけで成果を出してしまうから。

今年、ついに松坂投手は引退を表明した。
記者会見を見ながら、
「ああ、本当にもったいない」
と、思った。
松坂投手自身にではなく、あれだけの才能がありながら努力をしなかったがために、才能そのものを使い切らずに終わってしまうことに対して、もったいないと思ったのだ。
松坂投手の引退について数日間、グズグズと感想を言っていたら、私自身の事をよく知る数人から言われてしまった。
「あなたも松坂投手と同じだよ」
と。
なんのことか、さっぱり分からなかった。
接点もなければ共通点もない。
そもそも性別も違うし野球をしたこともない。
首を傾げると、
「書く才能があるのに、書かない」
「書けばいいのに、書かないよね」
「松坂と同じで怠け者だよね」
と、言われてしまった。
才能?
私に才能があるのか?
書く才能があれば、とっくに作家としてデビューできているではないか!
掴みたかった夢。
どんなに手を伸ばしても届かなかった夢。
「才能なんか無いよ!」
と、反論してみたが、怠け者という言葉には反論できなかった。
確かに私は究極の怠け者なのだ。
そこは大いに自覚している。
書きたいことが浮かんでも、すぐには書かない。
「明日書こう」
「次の休みの日に書こう」
そんな風に考えて、時間がどんどん過ぎてゆく。
そのうち、書こうと思っていた熱意が冷めてしまって結局書かない。
書かないから、何の成果もない。
そうすると、ますますやる気が起こらない。
「ま、いっか」
という思いが、心の中で居座ってしまう。
そうしてかなりの時間が過ぎて、でも元来書くことは好きだから、気まぐれのように書いてみる。
時間があいていても『書く』ということに関して、全く苦労はない。
書かなかった日がどんなに長くても、書き出せば、書ける。
推敲すればある程度質が上がり、気を良くしてどこかに応募なり投稿すれば、8割は採用なり掲載になる。
するとまた油断する。
前に言われた言葉がある。
「簡単に書けること自体が才能。簡単に成果が出過ぎるのが問題」
だと。
確かにそうだと思う。
ちょっとやれば、できる。
「なんだ、やっぱりできるじゃん」
私はそう思ってしまう。
きっと、松坂投手もそうなのでは?と思う。
だから、と言うのはおこがましいが、松坂投手の怠け心が私にはよく分かる。
きっと、
「明日やる」
と、毎日思っていたに違いない。
そう、今日ではなく『明日』しようと思うのだ。真剣にそう思うのだ。決意のようにそう思うのだ。
「明日やろう。絶対やろう」
その『明日』が、いつの『明日』なのかは不明。
ただ、本当に翌日にやるのは、稀。
才能は、怠け心に包まれて顔を出さない。

松坂投手は引退した。
惜しい。本当に惜しいと思う。
彼の才能は、本当はどこまでのポテンシャルがあったのだろう?と思う。
才能の全てを全く発揮していないことが分かるだけに、実にもったいないと思う。
もう、彼の才能が発揮されることはない。
才能の頂点を見ることは、もうできない。

私はどうだろう?
私の中にあるかもしれない多少の才能。
とりあえず現状、それはほとんど発揮されていないのだろう事は分かる。
現にこのサイトの更新も数か月ぶりだし、他でも全く書いていない。
これもやはり、もったいないのだろうか?




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