第15話 みんな元気かな

文字数 804文字

今の部署で、私は孤独だ。
打ち解けようとしていないから、当然の結果だけれど、最近特に、前部署が恋しくなる。
最下層部署で、給料面や色々と不満があったからここに来たのに、情けないことだ。
立上げ部署で、五年もいたし、みんなとは仲が良かった。
同じ会社だからというものあるし、前部署を退職してまだ二か月というのもあるし、今の部署でハブられていて、強い孤独感を感じているからというのもある。
いや、後者が一番大きいな。
ひっそりを心掛けて、そのように振舞っているが、そもそも『私』という人間は本来、ひっそりとは対極なのだ。
いつも中心にいて注目を浴びてきた。
良くも悪くも。
それでたくさん傷ついてきたから、いまは鳴りを潜めているだけ。
今の部署に少し慣れて、だから逆に少しも楽しくなくて、最近毎日のように前部署のことを、みんなのことを思う。
「ああ、この時間は電話が鳴るな」
とか、
「あの人とあの人は、こんな会話をしているのかな」
とか。
そして思いにふける。
みんなが私を呼ぶ声を思い出す。
毎日、笑い合っていた。
文句や不満を言い合いながら、それがまた楽しかった。
午後二時くらいに、はたまた午後四時くらいに、ふと思う。
「みんな元気かな?」
「どうしてるかな?」
耳に馴染んだ会話を、懐かしく思い出す。

同時に思う。
こんな風にほろ苦くノスタルジックに思い出しているのは私の方だけだ、と。
みんなにとって私は、一抜けした裏切り者。
最下層部署から花形部署に抜け出したズルい奴。
これが現実。
これが結果。

最近、よく思う。
伸ばしてくれた手を有難く掴んだ代償の大きさを。
その手を掴んで、果たしてよかったのか、と。
泥船に乗ってしまったのかもしれない、と。
掴んだその手は、実はあまりにも頼りなかった。
選択ミス。
そう思わざるを得ない状況。
だから余計に、みんなが恋しい。

みんなが恋しくなるほどに、みんなからの声が聞こえる。
「ざまあみろ」
そう言う、みんなの声が聞こえてくる。
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